ジャランという音が聞こえる度に、天葉と樟美の警戒意識レベルは最大にまで引き上げられ、かつてギガント級のヒュージと戦った時以上に2人の集中力は上げられており、ガキン! と火花を散らす。
もちろん、相手を務めているのは蛇腹剣をまるで自身の手のように自由自在に操る悠斗。彼が一度腕を振るえば、一つ一つに分かれた刀身がまるで意識を持ったように四方八方から二人に襲いかかる。
なぜ彼が、こんなにも扱いがムズい蛇腹剣を平気な顔をして扱っているのかと言うと、それは彼がヒュージに寄生されているからだ。
ヒュージは、機械の触手みたいな腕を変幻自在に操ることが出来、悠斗自身も普通のCHARMは扱いきれなかったため、悠斗がこれなら行けるんじゃねー? 的なインスピレーションだけで適当にCHARMを作ったら出来た奴である。
天葉と樟美は、悠斗の半径5m以内に近づくことは出来ず、防戦一方。それは唐突に終わりを告げた。
「あっ……!」
「樟美────っ!!」
樟美の声に一瞬気取られた一瞬のうちに、悠斗は腕を振って刀身を回避すらもするさない目の前に置いた。
「チェックメイト、ですね」
「…………はぁー、負けた負けた。ほんとどういう性能してるのよ、そのCHARMは」
張り詰めた空気を流すように天葉が長く息を吐く。天葉の降参の声を聞いたので、悠斗もアロンダイトを一つに戻すと、CHARMをぶっ飛ばされ、尻もちを着いた樟美の元へ向かう。
「ほら、立てるか? 樟美」
「うん……けど疲れた」
樟美に手を伸ばすと、それを掴んできたのでゆっくりと樟美を立ち上がらせる。
「流石兄さま」
「お見事。勝者の権利として、私と樟美を好きにしてもいいわよ?」
「しませんから」
樟美の肩を抱き寄せて笑う天葉に、溜息を吐く悠斗。仮に手を出したとしても、悠斗のその後の人生は一生牢屋の中である。
「ま、冗談半分は程々にしておいて」
(半分本気だったんだ、天葉姉さま)
「あなた達ー。念の為に聞くけど怪我とかしなかったー?」
くるん、と天葉は首を回すと、後ろに居た四人を見つめた。
「…………あ、はい! 大丈夫ですぅ!」
返事をしたのは二水だった。他の3人は圧倒されており、現実に戻って来るのが少し遅れた。
「そっか、それなら良かった」
と、天葉はニコリと笑うと樟美と悠斗を促し始める。
「さて、一応私と樟美のCHARMの方診てもらっていい? さっきの訓練でかなり消耗してる気がするから」
「そうですね、かなり本気でしたから見る必要があるかもですね」
「それなら私、今から料理作ってきますね兄さま、天葉姉さま」
一度火がつくと止まらないし、CHARMのメンテには時間がかかることを知っていたので、お昼も近いこともあったので樟美はそう提案した。
「あ、じゃあお願いしていい? 代わりにCHARM持ってってあげる。悠斗が」
「俺? まぁいいけど」
「ありがとうございます、兄さま」
敬愛+大好きな人に手料理を振る舞えるという嬉しさから、ピコピコと髪の毛が動いた。
「それでは、直ぐに作ってきますので、兄さまの工房で待っててくださいね」
「はーい、行ってらっしゃーい」
と、ニコニコと天葉が手を振り、姿が見えなくなった瞬間、天葉は悠斗との腕に腕を絡めた。
「天葉様?」
「いいでしょ? 最近、悠斗に甘えられなくて私も色々と限界だったのよ?」
片手はCHARMでふさがっているが、片手でだけでもできるだけ近くに居たいと、触れ合いたいと体を密着させる。
ふわり、とフローラルな香りが悠斗の鼻腔をくすぐり、少しだけ心臓が早鐘を打つがただそれだけ。想いを寄せてくれているのは嬉しいが、それに応えられないことに悠斗は罪悪感を覚えていた。
「……ごめんなさい、天葉様」
「ん? どうして悠斗が謝るの?」
「だって、俺はこんなだから……天葉様達の気持ちは分かっているのに応えられない…………それがとても嫌なんです」
「ふーん……ま、別にいいよ? 今はまだそれでも」
「え?」
「だって、悠斗がそこまで悩んでくれるのって、私達のことを大切に思っているからでしょ? 違うの?」
「……いえ、違わないです。俺は、天葉様達のことがとても大切です」
「だったら、今はそれでいーの。大切に思われてるって分かっただけでも、私は充分だしねー」
えへへ、と言ってすりすりと悠斗の腕に頬を擦り付ける天葉。
「あー…………すっごい今悠斗成分が補給されているわ。最近不足気味だったから」
「ふふっ、なんですかそれ」
「知らないの? アールヴヘイムの原動力になっている悠斗から漏れ出る成分のことなんだ。これがあれば、毎日樟美のフェアリーステップが見れるよ」
「それこそなんなんですか」
と、二人は身を寄せ会いながら学園の地下へと向かった。
(…………昨日のお礼を言いたかったが、何やら邪魔できる雰囲気じゃなかったな…………羨ましい)
それを、柱の影から覗く眞由理の殺気が悠斗を貫いて、悠斗がびっくりしたのはまた別の話である。