アサルトリリィーPARASITEー   作:沼りぴょい

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七話

 バチン! 

 

 夕暮れの百合ケ丘。天葉達のCHARMのメンテナンスを終えた悠斗は一人、散歩がてら廊下を歩いていたら、どこからか誰かがビンタをした音が響いてきた。

 

 ────なんだ、喧嘩か? 

 

 もしそうであるなら止めねばならない、という思いから足音を消して音の発生源へ向かっていく悠斗。間髪入れずにもう一度、先程よりも強いビンタ音が聞こえたので少し足を早めた。

 

 ────ここか? 

 

 そろーっと廊下の角がからこっそり見ていると、またもや見覚えのある顔が悠斗の目に入る。

 

 ────あれは、白井様と楓さん……に、さっき訓練場にいた二人か。

 

 見れば、どうやら楓が手を振り抜いているのを見て、夢結のことを思いっきりビンタしたに違いない。しかし、楓の頬も片方赤くなっているので、先に手を出したのは夢結の方であると推測できた。

 

「シュッツエンゲルとは、そういうものではないはずですわ!」

 

 楓の声が響く。

 

「互いを愛し慈しむ心を、世代を超えて伝えるもの! 単純な目先の利益を求めるものでは無いと聞いていましたが、違いますか! あなたのようなすっとこどっこいには、むしろ梨璃さんのような純粋なお方が必要ですわ!」

 

 悠斗は、目を見開かせて楓を見る。あの白井夢結に、そこまで言いのけた人を初めて見たからだ。

 

 それを聞いた夢結は、一瞬何を悩んだか拳を握ろうとしたがすぐに辞める。

 

「そうね、分かったわ」

 

 ポソりと呟く夢結。

 

「……分かったとは?」

 

「申し出を受け入れます」

 

「え?」

 

 なんの事か分からない梨璃は声を上げる。

 

「私が梨璃さんの守護天使、シュッツエンゲルになることを受け入れましょう」

-

 

「夢結さま…………」

 

 それを聞いた悠斗はさらに目を見開からせた。

 

「少しスッキリしたわ、ありがと」

 

 予想外の返事を受けて固まる楓。

 

「楓がさんって、案外いい人だったんですね! 私、見直しました!」

 

 何やら余計なものが混じっていた気がしたが、二水は純粋に楓のことを褒めた。

 

「あぁー!! わたくしってばなんてことを~~!!」

 

 まぁ、本人はそれどころではなさそうなのだが。

 

「……梨璃さん」

 

「は、はい!」

 

 なにやらまだ騒いでいる二人を放っておいて、梨璃の方向へ目を向けた夢結。

 

「後悔のないようにね」

 

「……! はい! 絶対しません!」

 

 と、喜ぶ梨璃だったが、夢結の目は、未だどこか悲しそうにしていた。

 

 しかし、それを表したのも一瞬のこと。夢結は一度ふぅと息を吐くと後ろに────正確には、悠斗が隠れている廊下の角を見た。

 

「それで、そこに隠れている人はいつまで居るつもりかしら」

 

 ────んげ。

 

 バレテーラ、と思いながら悠斗はスっと諦めて身を出した。

 

「あ、あはは……ご、ごきげんよう白井様……その、お久しぶりです……ね」

 

「男の人ぉ!?」

 

「あら、悠斗さん見てたんですか?」

 

「覗きとは、随分と悪趣味ね」

 

「いやいや、あそこで俺は身を出せるほど勇気は持ち合わせていませんし、ここに俺がいたのもビンタの音が聞こえたからです」

 

 結構響くんですよ、と悠斗が言うと楓が気まずそうに目を逸らした。

 

 さて、もう一度言うが、悠斗は夢結のことが苦手である。原因はあの日、悠斗がヒュージになってしまった甲州撤退戦のせいである。

 

 あの日、悠斗が殺されてしまった日、夢結がいた事も当然覚えており、百合ケ丘に保護された時は夢結にお礼を言おうと探していたこともあった。

 

 だがしかし、既に夢結は感情を無くしており、当の記憶も勿論覚えていないの一点張りで、更には近づくんじゃないわよのオーラで木っ端微塵に心が打ち砕かれた思い出がある。

 

 だから、悠斗は夢結に対して一種のトラウマを持っており、無意識の内に、夢結のことを恐れているのである。

 

 だがしかし、顔を合わせれば挨拶はするぐらいの仲にはなってはいるのだが。

 

「そう、ところで、どうしてあなたは私からジリジリと遠ざかろうとしているのかしら」

 

「え、そんなことはないは────ー」

 

 いや、ガッツリと下がっていたのだが、その悠斗の手をパシンと掴む手が一つ。悠斗がゆっくりと目を向けると、そこにはいつの間に近くに来ていた梨璃の顔が。

 

 至近距離で目と目が合う。そのことに楓が何やらまた暴れだしそうだが、パチクリと二度ほど瞬きをした瞬間、悠斗の記憶が刺激された。

 

「────ーあ」

 

「みつけ、ました」

 

 悠斗がその少女のことを思い出したことと、梨璃の呟きは同時。

 

 そう、なんと目の前に居た少女は、あの日、悠斗が命懸けで守ったあの少女だったからだ。そう考えれば、リリィ新聞を見た時に一瞬引っ掛かったのは充分に説明できた、

 

 その事を思い出した悠斗は、クスリと自然に梨璃へと笑いかけた。

 

「良かった。どうやら無事だったよ──────」

 

「無事で良かったですぅぅぅぅ!!!」

 

「──うだってええええ!?」

 

 感動の再会と言えるだろう。あの日、命を懸けて守った少年と、命を守られた少女の邂逅。本来ならばお涙頂戴な雰囲気なのだろうが、悠斗はなぜ、この少女に泣かれながら抱きつかれているかの訳が分からなかった。

 

「……これどういう状況ですの?」

 

「分かりません」

 

「私……っ! 私ぃ!! ずっと、あなたを……守ってくれたあなたを探していたのに見つからなくてぇ……!! 死んだんじゃないかと思ってぇ!!」

 

 えぐえぐと悠斗の胸で大号泣をする梨璃。どうやら、悠斗がザックリとヒュージに胸を突き刺された場面を見ていなかったようだ。思いっきり突き飛ばしていて良かったと……ついでに、梨璃が夢結に助けられていた際に、悠斗に背中を向けていたことも言わばラッキーだったのだろう。

 

「うぇぇぇ!! どうしてここに居るかは分からないですけど良かったですぅぅぅぅ!!」

 

「あぁ……うん、まぁ、無事じゃなかったけど……うん……ちゃんと生きてるよ」

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