百合ケ丘のカフェテラスにて、とある三人の生徒が各々時間を楽しんでいた。
ズズっと綺麗な所作で紅茶を飲んでいるのが、百合ケ丘のエースとも孤高のリリィとも言われる白井夢結。そして、イレギュラーであり、HUGEに寄生されながらも生き長らえている男のリリィ、浅野悠斗。
そして、だらしなく顔を緩め、机に到底乙女のするような行動では無いことをしている一柳梨璃である。
「えへへ~」
そんな梨璃は幸せ有頂天と言った感じである。憧れの夢結とシュッツエンゲルの関係にもなり、昔から探していた悠斗とも再会できた。気持ちはまぁ分からんでもない。
たがしかし、気を抜きすぎではなかろうか?
「梨璃、あなた講義でしょ? 予習は?」
「分かってはいるんですけど、今こうしてお姉様のお顔を見られるのと、悠斗くんと一緒に居られるのが幸せで幸せで……」
「……だからといって、その体勢はないと思うが……」
(……ダメだわこの子。完全にたるみ切ってる。まさか、シュッツエンゲルになった途端にここまで緩むとは……迂闊だったわ)
と、その時背後にいた三年生である、
「あら、ごきげんよう悠斗さん」
「ごきげんよう、ユリさん。それに悠斗さん」
「ごきげんよう那岐様、それにロザリンデ様」
「あ、あはは……ごきげんよう」
当然、色んな意味で仲の良い悠斗は二人に対し手を振って挨拶を返すと、二人も嬉しそうに手を振る。それに対し、梨璃は照れくさそうに挨拶を返した。
それに対し、夢結は首を傾げる。
「はて、ユリさん……? 誰かと間違えたのかしら」
「あ、それカップルネームです」
「「カップルネーム?」」
夢結と悠斗の声が重なり、わかってないもの同士で顔を合わせた。こちらです! と案内する梨璃の後ろを着いて行った二人だが、梨璃が指さした先には一つの新聞が張り出されていた。
「これは…………」
「これです。週刊リリィ新聞の号外です」
そこには、目立つように夢結の写真と梨璃の写真があり、目出しには『異色のシュッツエンゲル誕生! 夢結×梨璃』とでかでかとあった。
それを見た悠斗は若干引いた。そこには何故か楓のコメントも書かれてあった。内容にも引いた。
「ほら、横に並べると『ゆ』『り』って読めるんですよ」
そして、今時の人である夢結と梨璃がいることにより、カフェテラス内が仄かに騒がしくなる。
「ほら、ユリさんよ」
「まぁ、このお二人が?」
「ユリ様ですわね!」
「ユリ様ね」
「ユリ様ですね」
ちなみに、悠斗は既に全学年に存在は知られているため、特にこういった騒ぎは起こらないため、この時だけは高みの見物を決めることが出来た。
そして、この事態に我慢できなくなった生徒が一人。
当然、夢結であった。
「お、お姉様~!?」
「夢結様!?」
何があったのかは、そこにいた人しか知らない。
「ねぇねぇ悠斗。聞いた?」
「何が?」
突然の主語のない壱の言葉に首を傾げる悠斗。あれから夢結達と別れていた悠斗だが、ずっと工廠科の方にいたため、噂なんて微塵も知らない。
「梨璃さん、レギオンを作るらしいよ?」
「梨璃さんがレギオン?」
一体何がどうしたら梨璃がレギオンを作ることになるのか想像がつかない悠斗。考える様子を見て樟美がクスクスと笑う。
「……噂をすれば影、ねぇ」
何かに気づいた様子の亜羅椰が、樟美の後ろに隠れる。悠斗が亜羅耶の向けた視線の先を見ると、そこには梨璃と二水がいた。
「あなたたち、レギオンのメンバーを集めてるんですってね」
「やっほー。梨璃さん、二水さん」
樟美が悠斗の背後に移動し、肩に両手を置いた。
「うぇ……? は、はい! 壱さん、樟美さん、それに悠斗くん、ごきげんよう」
「ごきげんよう」
「ごきげんよう梨璃!」
「うわぁっ!」
そして、樟美の背後から亜羅椰登場。挨拶をした初日の光景が過ぎり、冷や汗をかく。
「あ、亜羅椰さん……アールヴヘイムでしたよね……? たしか……」
距離が近くて思わず視線を外した梨璃。
「私の樟美と悠斗に手を出すつもり? いい度胸だわね?」
「だれがお前のか」
「樟美と悠斗をあなたに差し上げたつもりはありませんけどぉ?」
「天葉姉様…………!」
いつの間にか現れた二年生、天野天葉に感激したように声を出した樟美。
「梨璃さんからそのいやらしい手をお離しになってぇ?」
「楓さん……!」
そして反対側の方でもいつの間にか楓が現れていた。
「……楓?」
その名前に、壱が意味深っぽく呟く。
「ていっ」
「あいたっ!」
そして、その間に悠斗が亜羅椰に接近し、後頭部をペシンと叩く。それに気を取られている間に、片方の足を引っ掛け体制を崩すとすぐさまその下に回り込み、肩に担ぐようにして亜羅椰を持ち上げた。
「ちょ!? 悠斗ぉ!」
「おぉ……! 流れるような一撃ですぅ!」
「悪いな、ウチの亜羅椰が迷惑かけた」
「う、ううん……別に」
「ちょっと悠斗! 触れ合えるのは嬉しいけれど、もっと別の格好が────わひゃぁ!」
余計なことを言い出す亜羅椰の脇腹をつまみ、黙らせる。その所業に梨璃、楓、二水は軽く引いた。アールヴヘイムに至っては日常風景なので見慣れている。
「誰かに声はかけたか?」
「その……六角さんに……」
「六角さん……? 汐里は既に水夕会────レギンレイヴにいるだろ? なんでまた」
「あはは……その。気づくのが遅れまして……」
「……まぁいいか。頑張れよ梨璃さん。いい出会いがあることを祈っている」
「うん! ……その、一応聞くけど、悠斗くんは────」
と、梨璃が言った瞬間、後ろから樟美が抱きつき、右側からは壱が抱きつき、樟美のさらに後ろから天葉が抱きついた。ちゃっかり亜羅椰も逃がすものかと米俵みたいに持ち上げられている状態から抱きついている。
「────うん! ダメだよね!」
「愛されてますわね」
「まぁ、嬉しいことにな……ごめんな」
「ううん。大丈夫! 私、悠斗くん達みたいな人達が集まるレギオンのメンバーを集めるね!」
「あぁ、その意気だ」
「そうですわ梨璃さん! 私も、同じレギオンの仲間として協力いたしますわ!」
と、楓が梨璃の腕に抱きついた。目の前の光景に触発されたのだろうか?
「それじゃ悠斗くん! ごきげんよう!」
「おう、ごきげんよう」
「…………どうして、楓・ヌーベルみたいな凄腕が、あんなど素人と?」
三人が完全に去った後、抱きついたまま壱が呟いた。
「所詮下心だけの繋がりでしょ?」
「お前がそれ言うか?」
「亜羅椰ちゃんがそれ言う……?」
忘れてはならないが、この問題児、壱と樟美の事が(性的な意味で)好きだから壱盤隊に入ったヤベー奴である。
「喰うぞ樟美!」
「ひゃん!」
「くーわなーいで」
悠斗に抱えあげられたまま、樟美へと顔を伸ばした亜羅椰だが、樟美はさらに強く悠斗へ抱きつき、天葉が亜羅椰の顔を押しとどめる為に手で亜羅椰を抑えた。
「……とりあえずみんな、離れてくれるか?」
亜羅耶……ほんと、いい性格してるわ……