翌日、朝早くから夢結に校門前で待ち合わせを半ば強制的に告げられた祐樹は、集合時間30分前…………つまり、3時30分から待機をしていた。
外出届も既に提出しているが、格好はいつも通り、百合ケ丘の制服を男用に改造した制服に、サイフとカメラを持ってきた。カメラは、梨璃の故郷の写真を撮ってペンダントにはめれば、故郷を思い出せるかなという思いからである。
「ごきげんよう、悠斗」
「ごきげんよう夢結様」
四時ぴったりに現れた夢結に対して頭を下げる悠斗。夢結の格好も、ほとんど悠斗と同じだが、ショルダーバッグと日傘を持ってきていた。
「ルートの方は大丈夫ですか?」
「えぇ、事前に調べたから大丈夫よ」
「なるほど、それなら安心ですね。荷物、持ちますよ」
「いえ、軽いから大丈夫よ」
「夢結様、古来より男は荷物持ちとして扱うべしという風習があるのです。ここは、遠慮しないで大丈夫ですよ」
と言って、夢結の日傘を持った悠斗。流石にショルダーバッグまでは持つということは出来なかったが。
「それでは、参りましょうか。エスコートさせていただきますね」
「……えぇ、その……お願いするわね」
そして、二人の外出が始まる。
改札を通る際、夢結が勝手が分からなくてオロオロしてたのを見て少し可愛いと思った悠斗だった。
そこからは、二人は特に会話も無しに電車を乗り継いで移動する。悠斗は電車の移動が初めてだったから興味深げに車窓から見える景色に「ほー」と言いながら見ていたが、夢結はずっと姿勢よく前を見つめているだけだった。
三回の乗り継ぎを経てから、悠斗達が降り立った駅は、ブドウ畑が沢山ある駅、『山梨県勝沼ぶどう郷駅』にやってきた。
「……熱いですね」
「もう六月の下旬だもの。仕方ないわ」
悠斗が持っていた夢結の日傘を広げ、そのまま夢結の頭上へと持っていく。
「……何をしているのかしら?」
「女性にとって肌は大事ですから。それに、焼けたくないから夢結様も日傘を持ってきたのでしょう?」
「いえ、私が言っているのは、それだとあなたが────」
「俺は気にしないでも大丈夫です。日焼けしませんから」
あれから、夢結は流石に悪いから自分で持つというが、悠斗は全くもってうんともすんとも言わないで、結果的に夢結が折れる形となり、歩き出す。
あるけどあるけどブドウ畑のみが広がる道。二人の間に会話はないが、別に気まずいとは思わないし、むしろこの沈黙が心地いいさえ思っている。
「……あら?」
「夢結様?」
「いえ、この道を通るはずなのだけれど……」
しかし、そこの道路は封鎖されており、看板には『この先HUGE活動区域。立ち入り禁止』というのがあり、断念することに。
「……山を回っていくしかないですね」
「そうね」
「大丈夫ですか? 夢結様。疲れたりとかしてませんか?」
「えぇ、特に問題は無いわ……行きましょう」
そして、山を遠回りすること数時間、いよいよ目的地に近づいてきた。
「……この辺りが、梨璃の故郷の人達が避難した地域のはずだけど……」
「……ここが、ですか?」
やはり、避難地域なので人は少なく、寂れた雰囲気を感じる悠斗。しかし、ここにかつて梨璃が住んでいたという事実は変わらないので、悠斗はカメラを取りだし、パシャリと1枚撮った。
「ごめんください、この辺りでラムネを扱っているお店を探しているのですが?」
避難地域に辿り着き、一番最初に目に付いたお店、日原商店へと足を踏み入れた。
「ラムネけぇ……お嬢さん達の隣にあるのがそうじゃけぇ」
「隣?」
夢結と悠斗が揃って隣を向くと、そこにはキンッキンの氷水の中に入っている、ガラス瓶にビー玉で蓋をした炭酸入り清涼飲料水の姿が……。
「「………………」」
ごくり、とここまで暑さに耐えていた二人の喉から、音が鳴った。
「毎度」
二人揃ってラムネを買い、シュワァァァ……という音を響かせるラムネを、悠斗は急いで喉を通した。
「……うまぁ」
いくらHUGEに寄生されていようが、やはり体は人間か。ついついそう呟いてしまった。その時、悠斗の記憶に、とある歳上の二人の昔なじみのお祭りに行った時の光景を思い出した。
──―元気に、してるだろうか。
「お嬢さんリリィけぇ……ここら辺じゃ見ん制服だけんど、またえらい暑そうじゃ」
「見た目ほどでは、ないのですが……」
「おまんとぉのおかげで、ウチもなんとか続けているけんど、この道の向こん集は、もう皆避難して嫌になっちゃったじゃねぇ。昔はそのラムネが好きでいつも買いに来てた子供もいたもんだけぇど」
その後も、おじいさんの話を聞きながらラムネを飲んだ夢結と悠斗。
「ごちそうさま、美味しかったです。持って帰りたいので、もう一本いただきます」
「リリィ……ならなんぼでも持ってけしぃ」
「おいおいじぃちゃん。それは流石にダメだよ」
「えぇ。きちんとお代は納めさせてくださいませ」
そして、夢結の中にひとつの光景が脳裏によぎる。それは、梨璃と夢結が笑顔で二つのラムネを飲んでいる光景である。
「……もう一本、頂けますか?」
「あー……じいちゃん。出来ればあと二本ほど」
ラムネも買い終わり、帰りの電車に乗った夢結と悠斗。しかし、夢結の太ももの上には、日原商店のじいちゃんから貰ったクーラーボックスが乗っていた。
『これは?』
『クーラーボックスです、夢結様』
『こうしておけば、帰って直ぐに冷たいのが飲めるじゃねぇ』
『……! ありがとうございます』
という経緯で貰ったもので、クーラーボックスの中には梨璃と夢結が後々飲む用のラムネと、悠斗が買った天葉と依奈のお土産分が入っている。
電車の乗り継ぎのために、少しばかり駅のホームで待つことにした二人。しかし、そこにちょっとしたアクシデントと遭遇した。
「喉乾いたぁ~なんか飲みたーい」
「電車降りたらなにか飲もうね?」
アクシデントその一。駄々をこねる子供である。地団駄を踏み、母親へ駄々を捏ね始めた五歳くらいの男の子。それを見て、夢結がクーラーボックスの中からラムネを取り出そうとしたが、悠斗がその手を握って止めた。
「それは梨璃さんのだから、ここは俺ので」
と言って、悠斗はクーラーボックスからラムネを一本取りだし、子供の元へ。
「これ、どうぞ」
「そ、そんな! 申し訳ないです!」
「大丈夫ですよ、あんまりお母さんに迷惑かけたらダメだぞ」
ラムネを手渡し、男の子の頭を撫でる悠斗。これにて一件落着かと思ったが次の瞬間────
「いいなぁ……私も飲みたい飲みたい!」
アクシデントその二。それを見て欲しがる子供である。耳に届いた時は、流石に動きが固まった。
「はい、どうぞ」
「…………その、ごめんなさい。あなたに任せてしまって……」
「気にしないで下さい夢結様。天葉様と依奈様に対してだったらなんとでも言い訳なりますし」
お詫びとして少しの間だけ二人のすきにさせれば少し機嫌が悪くなろうとも、直ぐに上機嫌になってくれる。二人の気持ちを知っている上で利用しているのは心苦しくなるが、やむを得ないというやつである。
百合ケ丘最寄りの駅にたどり着き、夜の廃墟となった街を歩く二人。後ろになにかの気配を感じた2人が振り返るも、そこには一匹の黒猫が通り過ぎただけである。
そして、今度は目の前からガサガサと音がするので立ち止まったらそこからは色んなところに葉っぱを乗せていた梅と鶴紗であった。
「あ、夢結……と悠斗?」
「ども」
「梅様? それに鶴紗まで……」
「ここは学園の敷地ではないでしょう? 何をしているの」
普通なら、学園の敷地から出る際には外出届けというものを出さないといけない。出していないことは、梅の「うっ……」という声から明らかである。
「この先に猫の集会所があるから、後輩に案内してたんだヨ」
「おかげで、仲間に入れてもらえたかもしれない……」
「中が宜しくて、結構ね」
「あれ、校則違反とか言わないのカ?」
思っていた反応と違って、ついつい言ってしまった。
「私の役割ではないでしょう? …………というか、今はそんな気力が……」
「寂しがってたぞ、梨璃」
「え?」
「誕生日なのに、朝から夢結と悠斗がずっといなかったもんナ。オマケに今日もレギオンの欠員埋まらなかったみたいだし。あ、でもあれだろ? 夢結達はラムネ探しにいってたんだろ?」
「なぜ、それを」
「だってよりによって誕生日にシルトを放っておいてまで、他にやることあんのか?」
「…………ま、ないでしょうね」
その言葉に、夢結が少し落ち込んだ。
「そっかぁ……天葉達のお土産を……災難な目にあったな」
そして、四人仲良く百合ケ丘へ帰ることに。悠斗から今日のことを聞いた梅な朗らかに笑った。
「ま、別に後悔はしていないので大丈夫ですよ。結果的に、梨璃さんのプレゼントは残りましたし」
「…………ん?」
その時、鶴紗が月明かりに反射して光る何かを見つけ、隣にいた悠斗の袖を握って立ち止まった。
「鶴紗?」
「これ……」
「どうした?」
鶴紗達が止まったのをきっかけに夢結と梅も少し戻り、光源の場所を見るが、暗くてよく分からない。
「……? んん……?」
そして、なにかに気づいた梅がお金を取りだし、入れる。その瞬間、あかりが着いた。
「あ、節電モードか」
そして、蓋を開け、中から出てきたのは────
「ラムネ…………」
「え……」
────ガラス瓶に、ビー玉で蓋をした炭酸入り清涼飲料水だった。
それを見て、夢結の顔が今まで見た事もないほどに落ち込んでいき──―地面に座り込────
「夢結様っ!」
「夢結!」
────む前に、咄嗟に悠斗が夢結の脇腹と腕の間に手を突っ込んで支える。あまりの脱力の仕方に、鶴紗と梅は顔を合わせるのであった。
そして、梨璃達が仮に与えられている隊室に、プレゼントを持った夢結が現れると、それに酷く感動して両手を胸の前で合わせた。
「お姉様……! わざわざ私のために! 甲州まで行ってラムネを買ってきてくださったんですか! それに、このラムネも、正門のそばにある自動販売機のラムネですよね!」
「やっぱり知っていたか……」
「えぇ……そうねっ」
その言葉に、夢結の体が徐々に斜めになる。
「お休みの日には、よく買いにていっていたんですけど、やっぱりお姉様も知っていたのですね!」
「そうは思えませんが……」
夢結の状態を見てポソりと楓が呟いた。
「所詮、私は梨璃が思うほど大した人間ではないということよ」
「ええっ! そんな! 夢結様は私にとっては大したお姉様です!」
「なんか日本語違くね……?」
「悠斗さん、しーですよ」
神琳が注意した。
「断じてノーだわ。あなたがそこまで喜ぶようなことを、私ができているとは思えないもの……」
「そんなの出来ます! 出来てますよ! ……じゃあ、もう一個だけいいですか?」
「……えぇ」
「…………お」
そして、梨璃は両手を広げた。
「お姉様を私に下さい!」
「はぁ!?」
「梨璃さん過激ですぅ!」
そして、とんでも発言をした。
「……どうぞ」
「はい!」
何をすればいいか分からずに、とりあえず状態を少し前に倒した梨璃。そして梨璃は、夢結へと近づくと抱きついた。
「おおおおお……」
そして、それを見てザワつく一柳隊の皆さん。ミリアムのアホ毛がハート型になっており、楓はそんな二人を睨み、神琳は両手で口を塞ぎ、雨嘉は両目を手で隠すようにしているが、しっかりと隙間から二人を見ている。
「……私、汗かいているわよ」
どことなく、照れている夢結。梨璃が一瞬だけ鼻で息を吸うと「ブドウ畑の匂いがします……」と呟いた。
「……やっぱり、私の方が貰ってばかりね」
そしてなんと、夢結も梨璃のことを抱きしめ返す。それに気づいた梨璃の顔が、一気に嬉しそうになった。
「お、お姉様……」
「……梨璃、誕生日おめでとう」
「……! はわっ……!」
声にもならないような感動の声を上げる梨璃。それを見ている一柳隊の面々は完全に野次馬だった。
「は! ハレンチですお二人ともぉ!」
「号外ですぅ!」
「…………!」
しかし、ここで異変が現る。夢結が梨璃を抱きしめている力が、段々強くなっているのだ。
「お、お姉様……その、嬉しいんですけど……っ! あの……苦しいですぅ……っ!」
「なんて熱い抱擁ですぅ!?」
「お姉様……っ! 私……っ! どうすれば……っ!」
「わしが聞きたいのじゃ」
「夢結様がハグひとつするのも不慣れなのは分かりましたから! 梨璃さんも少しは抵抗なさい!」
そして、ついにキャパを超えた梨璃がショートし、目をぐるぐるに回し脱力した。
「梨璃!?」
「あっはっはははは!!」
そして、その光景を見て腹を抱えて笑いだした梅。
「楽しそうですね、梅様」
「こんな楽しいもの見せられたら、楽しいに決まってるだろ!」
そして、なあも笑い続ける梅。余りにも笑いすぎて涙が出てきたのを拭ってから、今度は梅が爆弾発言をした。
ぴょこん、と鶴紗のアホ毛が揺れた。
「さっき鶴紗と決めた。今更だけど、梅と鶴紗も梨璃のレギオンに入れてくれ!」
「生憎個性派だが」
「……あの、だから私じゃなくてお姉様のレギオン────ええっ!?」
「そ、それじゃあ! これで9人揃っちゃいますよ! レギオン完成です!?」
「あらあら、これは嬉しいですね」
「あらま、このタイミング……」
「おめでとう梨璃」
「なんじゃ騒々しい日じゃの」
「梅は誰のことも大好きだけど、梨璃のために一生懸命な夢結のことはもっと好きになったぞ……梨璃!」
「は、はい!」
急に呼ばれた梨璃が慌てて返事をする。
「ま、今日のあたしらは夢結から梨璃へのプレゼントみたいなもんだ!」
「遠慮するな。受け取れ」
「梅様……鶴紗さん……っ! こちらこそ、よろしくお願いします!」
「これは……汗をかいた甲斐もあったものね」
「それはそうと! お二人いつまでくっついていますの!」
「その……梨璃さん夢結様の後だったらしょぼくて申し訳ないくらいだが……これ」
そして、今度は悠斗が梨璃へ誕生日へプレゼントを渡すばん。眞悠里に選んでもらったペンダントの中には、既に梨璃の故郷の写真が入っている。
「これは……?」
「梨璃さんの故郷の写真が入ってるペンダント。梨璃さんがいつでも故郷を思い出せるように……かな」
「わぁ……! ありがとうございます! 悠斗くん!」
「ほほう、お主も中々粋なものを渡すのう」
「これも充分素敵だと思いますよ」
と、ミリアムと神琳が梨璃の後ろから覗き込み、素直な感想を言う。
「それともう一つある────というか、さっき決まったんだけど……梨璃さん」
「はい、なんですか?」
「俺も誕生日プレゼントだ。遠慮なく受け取れ」
「……? えっと、それどういう────!?」
悠斗の言葉が、鶴紗と同じに気づいた梨璃が目を輝かせる。
「も、もしかして! 悠斗くんも!」
「おう。元々は梨璃さんのレギオンに九人集まった後に入れてもらおうと考えていたからな。決まったことだし、これでようやく俺も勧誘を断わることが出来────」
「嬉しいですっ!」
「おっと……」
そしてこの日。新たに10人のギルドが結成された。
NGシーン。
「そうそう、梨璃さんのレギオンに10人揃ったってことは知ってるわよ」
「耳が早いのね――――?あの、祀さん?」
「そう、悠斗くんも梨璃さんのレギオンに……羨ましい」
「あの……祀さん?肩が痛いのだけど………」