「あのHUGEが……俺を…………」
思い出す、あの夜を。悠斗のことを、まるで女神のような笑顔で看取ってくれた川添美鈴のことを。
思い出す、あの話を。天葉と依奈から聞いた、あの夜にその人は死んだということを。
────ドクンッ!!
「グッ……あぁ……っ!」
「! 悠斗さん!」
地面へと倒れ、片膝を着く悠斗のことを心配して近づく神琳だったが、その途端に、悠斗の背中から複数の触手────あのHUGEと
「っ! 悠斗さん! ダメです!」
「なんじゃなんじゃ! こっちでもあっちでも大変なことがおこっとるのう!」
向こうでは、夢結がルナティックトランサーを発動させ、HUGE相手に無謀な突貫を行っている。
「あいつが……あの人を……俺を……っ!」
「悠斗さん! ダメです! それ以上HUGEに近づいては────!」
「────殺す」
その瞬間、悠斗の髪が黒色から赤色に変化し、瞳がHUGEの目と同じ不気味な青色に変化した。
レアスキル『ルナティックレッドアイズ』が発動された瞬間である。
「悠斗さん! ダメっ!」
「!」
神琳の悲痛な叫び声も聞かずにあのHUGEにへと突貫して行った悠斗。それを見た神琳が泣きそうな顔でそのまま悠斗を見つめた。
「しぇ、神琳さん……あれは……」
梅に救出された梨璃が、事情を知っているであろう神琳へと目を向けた。
「あれは、悠斗さんのレアスキル……『ルナティックレッドアイズ』でず」
「それって、前に悠斗くんが言ってた……」
ルナティックレッドアイズ。それは、悠斗だけが持っている狂気のレアスキルである。ルナティックトランサーと同じく、精神は正常なまま「バーサーク」状態に陥るのだが、いつも悠斗が設定している枷が完全になくなると共に、対象に対して強い殺意を持ち、己の全ての力を使ってその対象を破壊するレアスキルである。しかし、その過程には周りがどうなろうと関係なしに破壊し続けるため、まだこのレアスキルをコントロールできてない無かった時期に、周りのリリィを傷つけさせてしまった。
「レアスキルと呼ぶのも烏滸がましいレアスキルじゃの。儂も噂には聞いておったが、あぁなるとはのう……」
「……っ!」
そして、梨璃が立ち上がり、夢結と悠斗の元へ行こうと二歩下がった瞬間、声が聞こえた。
「あらら、悠斗ったらあんなの使っちゃって」
「ほんと、しょうのない子よね」
「! 天葉! それに依奈も!」
それは、先程撤退したはずのアールヴヘイムだった。
「アールヴヘイム!」
「撤退したはずじゃ……」
「あの子があんななってて、見捨てられるわけないでしょ」
「それに、ああなった悠斗を戻せるのは私達しか知らないからね。妥当でしょ?」
二人が悠斗を見つめる目は、困った子供を見るような優しい目だった。
「私達が悠斗を救うから、一柳隊の皆さんは夢結をお願い」
「それじゃ、先いくわね」
と、手を振ってから飛び上がった。
「ところで、ソラはCHARM持ってないけど大丈夫?」
「大丈夫大丈夫。私ほら、これでも身体能力は高いから」
「そうだったわね」
クスリ、と天葉の言葉に笑う依奈。二人の間に緊張なんてものはなく、まるでピクニックのようだった。
「殺す!」
「悠斗!」
「迎えに来たわよ!」
そして、いよいよ二人が悠斗に接近。半壊しているが、CHARMがまだギリギリ使える依奈が前に出た。
しかし、悠斗は一瞬だけ二人を見たが、対象としてカウントしなかったためすぐさまそっぽを向き、背中から生えている触手を、HUGEの腕とぶつけた。
「ほら! こっちを向きなさい! このバカ悠斗!」
ガンッ! と依奈が悠斗にCHARMを振るうと、それに反応した悠斗が自身のCHARMを盾代わりに使い受け止める。そして、ようやく悠斗が依奈を姿を移した。
「……っ、依奈、様……」
「ほら! こっち戻ってきなさい! 今のあなたも素敵だけれど、普通の悠斗の方がもっと素敵よ!」
青色の瞳が揺れ、一瞬だけ元の色に戻りかけたが、HUGEが腕を依奈に伸ばしてきたため、依奈を吹っ飛ばしてから背中の触手をぶつける。
「っ、今よ! ソラ!」
「悠斗!」
そして、機会を待ってた天葉が、悠斗の背中の触手がHUGEに向いたタイミングで、天葉が悠斗に抱きついた。
「確保! 依奈!」
「OK! 二人なら、流石に持ち運べる!」
そして、後ろから依奈が抱きつき、二人のタイミングを合わせてジャンプをして戦線を離脱。ちらりと後ろをむくと、丁度向こうも夢結の救出が出来たみたいだ。
「……ごめ、なさい……天葉、様……依奈、様……」
「謝罪なんていいから」
「そうそう。後でしっかりとデートしてくれれば私的には何も問題ないわ」
HUGEから離れた位置で悠斗のことを下ろした天葉と依奈。しかし、離しておくとまたHUGEに突貫する恐れがあるため、二人がかりで押さえつけ、悠斗を元に戻す方法を話し合った。
「それで……今回はどっちがする? 私でもいいけど」
「ソラはマギ的に不安でしょ? 私がするわ」
「…………本当はここでそんなことないって言いたいけど、前回は私だったから、今回は譲るね」
と、めちゃくちゃ悔しそうに言った天葉は、悠斗の体を全力で押さえつける方向へシフトする。
「……ごめんなさいね、本当は素面の状態であなたとやりたかったけど……」
依奈は自身の髪をかきあげたあとに、悠斗の頬へ手を持っていく。そして、強引にこちらへ顔を寄せると────その唇に、自身の唇を持っていった。
「んっ……」
「────―」
マギ交感と呼ばれる体内に溜まっている負のマギを解消させる手段であり、本当は手を繋ぐだけでも効果はあるが、この状態の悠斗には外部からの強い影響を与えなければ、悠斗の意思は戻ってこない。
だから、この手段となった。二人の名誉のために行っておくが、決して下心あっての事ではない。
多分。
「依、奈……」
「静かにしてなさい。すぐに終わるから────んっ」
悪いものが溜まってるなら、悪いものと一緒にマギを解消させればいいじゃない。とかなんとも適当な横暴で行っている接吻式マギ交感だが、以外にも効果があるらしく、徐々に悠斗の目が黒に戻っていき、髪の色も黒くなった。
そして、完全に悠斗から狂気が抜けたことを確認すると、依奈はゆっくりと口を離した。
「どう? 気分は?」
「……すみません、俺……また」
「気にしないで、後輩を助けるのも先輩の役目よ。それに、少しは嬉しいし……」
「ほらそこー。あんま私の前でいちゃつかないでねー」
そして、向こうでも決着寸前であり、一柳隊の全員がゼロ距離でノインヴェルト戦術のマギスフィアの受け渡しをしていた。
「うっそ、なにあれ……」
「あんなやり方……見たことないわ」
そのことに天葉と依奈が驚き、夢結と梨璃が直接HUGEに叩き込んだことで戦闘は終了した。
その後。
「ごめんねぇ百由! 色々忙しい時にCHARM壊しちゃって……あーん」
「あむっ! CHARMを操ってノインヴェルトを無効化するなんて、とんだHUGEもいたもんだわ!」
「ほんとすみません! これもどうぞ!」
急な百由に対してのCHARM修復依頼について申し訳ないと言う気持ちから、百由のラボに入り浸り、百由の世話を焼くアールヴヘイム。
「ほらほら、1番面倒な私のグラムの修復は悠斗がやるんだから急いでね」
「……これが今日言ってた凄いことか……色んな意味で凄いなほんと」
「兄さま、手が止まってます。もっと撫でて下さい」
「ちょっと待って樟美! 今手が離せないから!」
ということで、悠斗君のレアスキルでした。ちゃんと説明になっているか少し不安。