もうすぐ、戦技競技会がやってくる。簡単に言うと、運動会みたいなもので、個人部門、クラス部門、レギオン部門で競い合い、最優秀リリィに選ばれたリリィには、とんでもない豪華な物が贈られる。
だがしかし、男である悠斗は全力で情報を漏らすのを止めているので、普通の手段であれば出ることが出来ない。
そう、
コツ、コツと一柳隊の隊室に近づいていく一つの人影。その人影は、黒髪を腰ほどまで伸ばし、身長は女子と言う割には高く、とてもスタイルがいい。
「ごきげんよう」
「…………誰?」
ガチャり、と一柳隊の隊室のドアを開けて挨拶をした少女。しかし、梨璃はその姿を見たことがないので首を傾げた。
「お、そういえばもうそんな時期だったナ」
「そういえばそうでしたね。とても良くお似合いですよ」
「ありがとう、神琳さん。嬉しいわ」
そして、その少女を見て納得が言ったかのように反応したのは梅と神琳。しかし、神琳のセリフはどこかおかしく、それに気づいた雨嘉が「似合ってる……?」と呟いた。
「えと……お姉様……?」
「その格好、随分と気合が入ってるのね」
「えぇ夢結様。当日ではボロが出る可能性がありますから、一週間前からこうやって心身ともに慣らしておかないと」
髪をファサァ! と手で払った少女。そして、普通に会話している自身のシュッツエンゲルのを見て「ふぇぇ……」と声を漏らした梨璃。
「もうええじゃろ。その御仁が悠斗だということを、早く教えてやれい」
「…………ぇぇぇぇぇぇぇ!!!」
そう。この少女は浅野悠斗、16歳。毎年、戦技競技会には、
「悠斗くん!? 本当に悠斗くんなんですか!?」
「? ゆうとー?」
「おう。きちんと俺だぞー。よっこいせ」
ウィッグを外すと、一気に梨璃の記憶の中にいる悠斗と、目の前にいる悠斗がやっと繋がった。
「お、驚きですぅ……! 今私、すごい体験をしましたっ!」
「信じられない……」
「ま、普通はそうだろうけどメイクとかはアールヴヘイムのみんなに教えてもらったし、女声も出るように練習したし、女子の仕草も研究したし……よいせっ。これで、私の事が学院外に漏れることはありえないですわ」
ウィッグを嵌め直した瞬間に、また先程の謎の美少女(?)に戻る。この姿を知っている梅と神琳は、驚いている梨璃たちの様子を見てクスクスと笑っていた。
「名前の方はどうなってるんですの?」
「あ、確かにそうですね。悠斗が名前はちょっと女の子らしくない感じですし」
「名前? 私のことは────」
悠斗は、梨璃に近づき、指で顎をクイッとした。何故。
「────
「…………ぴえっ!?」
梨璃の顔が赤く染った。
「そういえば閑さん! 聞いてください! 今日悠斗くんが女の子の姿で現れたんですよ!」
「あら。そういえばそろそろ悠夏さんの時期ね。綺麗だったでしょう?」
「知ってるんですか!?」
「えぇ。みんな知ってるわよ」
「みんなっ!?」
二日後、結梨のマギが完全に指輪に馴染んだので、ミリアムが持ってきたCHARM、グングニルとの契約をした。
「おぉ~」
「フンっ、北欧の田舎メーカーじゃなく、グランギニョルでしたら社割でワンランク上の物が手に入りますのに」
「このグングニルは中古じゃが、わしら工廠科が丹精込めて、全ての部品を一から組み直してある。新品よりかは扱いやすいぞい」
「あら、そう」
相変わらずの言い方だが、楓なりの気遣いなのだろうか。
「ねぇりり、ゆうと。リリィってなんでたたかうの?」
「え?」
「結梨、私は、今は悠夏よ。ゆうな」
梨璃と夢結の間にいる悠斗改め、悠夏の膝に座っている結梨だが、悠夏の頼みは無視された。
「えと……それは、HUGEから……皆を守るため……」
「誰だって、怯えながら暮らしたくない。それだけよ」
「クンクン。ゆゆ、悲しそう」
何を思ったのか、結梨が夢結に近づき匂いを嗅ぎ出した。
「そう? 表情が読めないとはよく言われるけど」
「なんだ? 匂いで分かるのか?」
そして、結梨は全員の匂いを「クンクン」と言いながら確認していく。そして、もう一度悠夏の膝の上に落ち着いた。
「皆も、悲しい匂いがする」
「誰だって、何かを背負って戦っているわ。そういうものかもね」
「くんくん、りりはあんまり匂わないのに」
「お気楽なのかな、私……あはは……」
「いいんでのよっ! 梨璃さんはいつまでもそのままで! 純新無垢さが、梨璃さんの取り柄ですものー!」
「ないものねだり」
「じゃなじゃな」
「クンクン……あ、でも今のゆゆは、りりがいるから喜んでる。りりがいないといつも寂しがってるのに」
「そ、そうかしら……」
夢結が分かりやすく動揺した。
「夢結様が動揺してます!」
「匂いはごまかせんようじゃな」
「…………分かった! ゆりもHUGEと戦うよ!」
「無理しなくていいのよ結梨。まだ記憶も戻ってないのだから」
悠夏が結梨の頭を慈愛に満ちた手で撫でた。
「ん……ちっとも分からない。だから沢山知りたいんだ」
「結梨ちゃん…………」
「あはは、そんなこと言われたら断れないナ」
「さてぇ。結梨さんのことも一段落したところで、次は雨嘉さんね」
「はぁ?」
「これと……これ」
「ふぇ?」
神琳が取り出したものは、何故か巫女服とフリフリの付いた可愛らしいエプロンだった。
「この日のために用意したの」
「こんなのものあるぞい? にひひ」
「~~っ! 猫耳は外せない!」
ミリアムが取り出したのはメイド服。鶴紗は猫耳カチューシャを取り出した。君達、一体どこから出した?
「……! やわっ、やめてっ……!」
「……神琳さんたち、何してるのかな?」
「雨嘉さんをコスプレ部門に出場させるって」
部屋の隅で、鶴紗、神琳、ミリアムに囲まれて無理やり着替えさせられる雨嘉。一応この部屋には女装をして、完全モードに入っている悠夏もいるが、元は男。しっかり夢結が悠夏の目を後ろから塞いでいた。
「雨嘉さんを? ちょっと地味じゃありません?」
「まだ何にも染っていないのがいいそうです!」
「そういうものですか」
「お前、本当に梨璃にしか興味ないのナ」
「そりゃそうですわー! …………なっ!?」
「……にゃっ」
そこに居たのは、猫耳巫女メイドといった、属性もりもり衣装に身を纏った雨嘉の姿だった。
「やりましたわ!」
「やりきったのう!」
「はぁ~可愛い!」
「おぉ! わんわん可愛いな!」
「…………え"っ」
そして、いよいよ今日が戦技競技会の日になった。しかし、どこにでもやはり余計なものはいるのか、楽しそうな雰囲気のあるグラウンドとは対照的に、理事長代行がいるテントでは、重めな緊張感があった。
「さぁて。本日の客人は」
「十五名が敷地内に侵入しています。また、ドローンが三機ほど」
「素性は?」
「偽装していますが、大半は国内外の政府系組織です。中にはCHARMメーカー、反政府組織や、自然保護団体と思われるものも。まだ分析中ですが、興味の対象は浅野結梨で間違いないようです」
「こちらは何を探ります?」
「情報のルートを徹底的に、通信の量とその行先じゃ」
「挑発行為があった場合は」
「出歯亀が分を超えた場合の対処は、諸君らに頼む」
「はい。結梨さんには指一本触れさせんません」
キリッ! と決めた史房。そのまま前を見つめたのだが、心中では────
(……出歯亀って何?)
────ジェネレーションギャップが発生していた。
「……ところで理事長代行」
「どうかしたかね?」
「いえ……その、なぜあいつはあそこまで自然と溶け込めているか気になるんですが……」
眞悠理につられ、史房、祀、理事長代行がその方向を見る。そこには、悠斗────ではなく、悠夏が女子の中に自然と溶け込み、同じ椿組である六角汐里と、ルイセ・インゲルスと談笑している姿があった。
「それが、彼の魅力ということじゃろう」
「まぁ、慣れも含まれてると思いますけど…………」
めたもるふぉ~ぜ!ゆうなちゃん!
・概要
戦技競技会に出たすぎた悠斗が駄々を捏ねまくった結果、男だから無理なら女装すればいいじゃない!という謎思考の元、至った極地。無駄に美少女。
メイクを壱と樟美、仕草を亜羅椰を見て研究したらなんかやべぇのになって、落とされるリリィが続出。それを男の状態でやれと思うリリィは何人もいる。
身長:172cm
スリーサイズ:B92(百由特性シリコン) W68 H86
黒髪ロングのウィッグを被っているため、どことなく夢結に似ており、白ニーソである。