なんだかんだ亜羅椰のことを背負いながら学園へ戻ってきた六人。途中なんどか亜羅椰が悠斗の耳に息をふきかけて三回ぐらい本気で振り落とそうとするのを依奈が呆れながら止めるということを繰り返し、工廠科の方にCHARMを預けた後に、念の為医務室でメディカルチェックを受けた。
しかも、悠斗は更に受けなければならない事項があるので、こうした戦闘の後はどのリリィよりも綿密に検査を行う。
ピピーッという検査終了の音が聞こえたので、寝そべっていた機械から降りて、検査を担当してくれた女子に声を掛けた。
「どうだった?」
「バッチリよ。どこも異常はないから安心しても大丈夫」
彼女も、悠斗と同じ訳ありで、強化リリィである。悠斗は強化リリィという訳では無いのだが、彼女が強化リリィの副作用で苦しんでいた時に、彼女のルームメイトの亜羅椰と、同じアーセナルであり、同レギオンに所属している
「そっか、それなら良かった」
「私としても安心よ。悠斗が乗っ取られていく様なんて見たくないから…………」
「大丈夫。今の今までこうして御することが出来ているんだ。絶対にそんな悲しい未来にはさせない」
さて、そろそろ彼の秘密を教えておくが、まず最初にもう一度ヒュージのことについて振り返ろう。
「それでも、私は心配だよ……悠斗も、私の大事なひ──ー友達なんだから」
ヒュージ細胞と呼ばれる巨大化細胞の暴走が生んだ生命体。捕食、寄生、成長を繰り返すことで多様な形状を獲得し、多くの種類が確認されている。
そう、捕食、寄生、成長を繰り返しているのだ。
ここまで言えば分かるだろう。彼はあの日──ー後に、甲州撤退戦と呼ばれたあの日、ヒュージに捕食、そして寄生されて成長をしている唯一の人間なのだ。
「ありがとう、そう言ってくれるだけで俺は頑張れるし、ここに居る奴にも目を背けずに向き合える。いつも感謝してるよ、辰姫」
と、悠斗は俯いている辰姫の頭を優しく撫でる。触れただけで壊れそうなその儚さに、ゆっくりと……まるでお姫様を相手しているように優しく撫でる。
「……もう、恥ずかしいよ」
「日頃の感謝だ。甘んじて受け入れとけ」
「……そう」
辰姫は更に顔をふせ、顔をどんどん赤くしていくが、リボンでまとめている髪がぴくぴくと跳ねているため、喜んでいることには変わりない。
「さて、そろそろ体育館に行こうか。理事長の計らいで入学式の時間帯もズレてるし、皆も待っているだろう」
「そう、ね。それじゃあさっさと行きましょうか」
そして、辰姫はプルプルと顔から熱を追い出すように横に振る。悠斗も着ていた検査服を脱ぎ始め、百合ケ丘の男子用の制服に着替え終えると、部屋の外で待っていてくれた辰姫と合流して体育館へ向かった。
「そういえば、辰姫達は別働隊だったけど怪我とかしてないか?」
「えぇ、そもそも私達は戦闘してないから。怪我ひとつも無いよ……触ってみる?」
と、自身の恥ずかしいと思う気持ちに蓋をして、頑張って服の裾を掴んでチラリと服をめくる。そこから、やや白いお腹が顔をのぞかせた。
「…………バカ。俺は男だぞ。そんなことするなよ……どうなるか知らんぞ」
しかし、悠斗はゆっくりと辰姫の手を掴むとやんわりとその服から手を離させた。
「……別に、悠斗にだったらいいのに」
「……………………」
実を言うと、バッチリ聞こえているので、亜羅耶とは違ったアプローチにドキリとする悠斗。
──ーったく、どうしてこうもリリィというのは……。
可愛い人が多いんだ。本当に心臓に悪いと思い、赤い顔のままため息を吐くのだった。
「や」
「お疲れ様、悠斗。辰姫も、手伝ってくれてありがとうね」
「天葉様、依奈様、ごきげんようです」
色々と時間がかかり、終わった頃には既に夕方。夕日をバックに天葉と依奈が廊下で待機していた。
「何してるんですか?」
「私達だって気になるのよ。悠斗の状況」
「あの三人も聞きたがってたけど、今から入学式だからね、先輩として、ここはきちんと大丈夫なのか聞いておいて、メールで送らないと」
勿論、あの三人のことは、樟美、壱、亜羅耶のことである。
「大丈夫です。私もちゃんも三回くらい検査しましたけど、悠斗の状態はオールグリーンです」
「そっか、それなら安心だね」
辰姫が言うと、天葉が笑顔で頷いた。
「それじゃ、私達は入学式には出れないからね」
「また明日ね悠斗。今度こそ私のCHARM、治してね」
「勿論です依奈様。また明日」
じゃね~と、手を振って去って行く二人の背中を見送った後、入学式会場へ移動した二人だった。
その途中────
「……なにこれ、リリィ新聞?」
「ん?」
今まで見ることがなかった異変に辰姫が目を止め、不思議に思った悠斗も辰姫の後ろから覗き込む。
────この顔。
そこに写っていた顔写真に、悠斗はなんとなく見覚えがあるような気がして、脳がチクリと刺激された。
辰姫ちゃん、アニメで喋ってるシーンって「倒しちゃったらごめんなさいですー!」しかなくて……。口調は全ての想像です。