アサルトリリィーPARASITEー   作:沼りぴょい

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幕間―――江川樟美との邂逅―――

 少女──ー江川樟美と浅野悠斗との出会いは偶然であった。

 

 当時、中学三年生だった江川樟美は、とある事件のせいで周囲の信頼を失い、ルームメイトである田中壱と絶縁状態にあり、いじめにあっており、一時的な処置として、少し訳ありなリリィが寝泊まりをしている特別寮にいた。

 

 とある夜の日。同じ特別寮におり、一時的なルームメイトである上級生、天野天葉を目を盗んで彼女は特別寮を歩いていた。

 

 ──―眠れない。

 

 それは、不安からか。はたまた恐怖からか。天葉が献身的に樟美の心を癒しているのでだいぶマシになったのだが、樟美は久しぶりに虐められている夢を見てしまった。当然、眠れる訳もなく、ぐっすり眠っている天葉にも頼ることは出来ない。

 

 だから、樟美は歩く。眠れない夜を過ごすために、宛もなく、ただただ一人で。

 

「……あ」

 

「ん?」

 

 そんな時、樟美は見かけてしまった。特別寮の中庭にあるベンチで一人、月を見上げている少年の姿を。

 

「……こんな時間に何してるの? 江川さん」

 

 浅野悠斗。当然、樟美もその名前を知っている。甲州撤退戦にて命を落とし、ヒュージに寄生されてしまった少年。

 

 同じクラスだし、人が少ないという理由でまだまだ一時的に特別寮に住んでいるという噂は知っていたが、まさかこんな所で会うとは思わなかった。

 

「……ふーん、恐怖と不安……何やら面倒なことを抱え込んでいるようだ」

 

 ドキリとした。同じクラスではあるが、殆ど教室に居ない彼が、なぜ私の状況を知っているのだろうと。

 

「おいで。溜め込むより、誰か知らない人にぶちまける方がよっぽどいい……最近、ハーブティーにハマってるんだ。もし良ければご馳走をしよう」

 

 ほとんど初対面と言ってもいい少年。別に、樟美には話す義理なんてどこにもないんだが…………。

 

『ほら、樟美。安心して私にぶちまけていいからね』

 

 どこか、雰囲気が天葉に似ていることもあり、樟美の足は自然と優斗の元に向かっていた。

 

 とんとん、と自身の隣に座るように促された樟美は、ちょこんと座ると、いい匂いが樟美の鼻腔をくすぐる。不思議に思ってそちらを見ると、何故か準備してあったティーカップに、悠斗がハーブティーを入れていたからだ。

 

「カモミールが入っている。心の緊張や不安を鎮めさせる効果があるそうだ」

 

 どうぞ、と言われ恐る恐る受け取り、ゆっくりとそのハーブティーを口に持っていく。

 

「……美味しい」

 

「そっか。他人に淹れるのは初めてだったから、少し嬉しいよ」

 

 と、悠斗は樟美に向かって優しく笑った。一般的に見れば、現時点の悠斗はイケメンと言っても差し支えない。月明かりも相まって、何やら余計に神秘的に移り、樟美はプイッと顔を逸らした。

 

「…………さて、さっきはぶちまけてもいいなんていったが、別に今、無理してぶちまけなくていいぞ」

 

「……え?」

 

 少し呆け、樟美の頭になにやらポンッと優しく重さが乗る。

 

「少しずつ、江川さんのペースでいい。言えると思ったら、俺に好き放題、全部ぶち負ければいい。汚いのも、醜いものも、全部含めて受け止めてやる」

 

「…………~~~っ!」

 

 撫でられていること気づいた樟美が、慌てて悠斗から距離を取った。

 

「……っ、も、もう戻ります!」

 

「うん、おやすみ。江川さん……もし良ければ明日もおいで。美味しいハーブティーをご馳走するよ」

 

 慌てて部屋へ戻った樟美は、天葉を起こさないようにゆっくりとベッドに潜る。すると、先程まで冴えていたのに今はゆっくりと眠気が襲ってきた。

 

 その日は、悪夢は見なかった。

 

「いらっしゃい、江川さん。今日は何がいい?」

 

 翌日。樟美は今日も眠れず、気づいたら悠斗の元へ向かっていて、隣にちょこんと座る。

 

 ハーブティーを飲んで、少しお話して、頭を撫でられて、恥ずかしくなった樟美が部屋に帰る。それも数日も続けば、それも心地よくなってきて、樟美の中で知らない感情が育っていくのも感じる。

 

 天葉に思う、敬愛とも違う感情。その想いに気付かないふりをしながら、ついに樟美は現在の自分の状況をぽつりぽつりと話し始める。

 

 ぐちゃぐちゃで、酷いことを沢山言ったような気がする。もしかすると、こんなことを言った悠斗に絶望されでもしたら、悲しい。そんなことを思いながら全て吐き出した。

 

 そんな、悠斗の反応は──────

 

「……大変だったね」

 

「っ!」

 

 拒絶でも、肯定でもなく、受け入れるだった。

 

「わた……わたっ、私……」

 

「今は何も考えなくていい」

 

 樟美の体が悠斗に包まれる。ゆっくりと頭を押さえつけられ、顔が胸にあたる。

 

「安心して、全部吐き出して…………泣いていいよ。()()

 

「! ……うっ……あぁ……!!」

 

 その日、一人の少女の鳴き声が中庭に静かに響いた。それを隠れてみていたどこぞのお姉様がフッと笑った後に、欠伸をしながらその場を後にした。

 

「落ち着いた?」

 

「……うん、ありがとう兄さま」

 

「…………ん? 兄さま?」

 

「…………ダメ?」

 

「全然ダメじゃない」

 

「…………えへへ」

 

 首を傾げる樟美の前には、流石の悠斗も断りきれなかった。

 

 もちろん、樟美が教室で悠斗を見つけて突貫し、悠斗のことを『兄さま』と呼んだ日は、クラスの全員があんぐりとしていたそうな。




後方腕組御姉様の天葉様。

結局、樟美が起こした周りの信頼を無くすような事件ってなんなのよって話。調べても見つかんないんだなも。
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