柚瑠「どうも、主人公の乙野柚瑠です。この作品は同じ原作で書いてる二次創作作品である『転生者の幽雅な日常』の外伝的作品なんだっけ?」
政実「そうだね。だから、時々向こうのオリ主達とも交流する事もあるけど、向こうの主人公的には柚瑠は普通の少年的に感じてるから、あっちでは本当に必要なタイミングくらいしか出てこない予定かな」
柚瑠「そっか。さてと、それじゃあそろそろ始めていこうか」
政実「うん」
政実・柚瑠「それでは、プロローグをどうぞ」
プロローグ 半魂の転生者
「ん……」
背中にふかふかとした柔らかさを感じながら僕は目を覚ました。そして、ゆっくりと目を開けてみると、まず目に入ってきたのは純白の天井だった。
「……ここ、は……?」
不思議に思いながら体をゆっくりと起こし、辺りを見回してみると、僕がいるのはどうやらどこかの部屋らしく白を基調とした家具などが置かれている以外は特に何も無く、僕以外には誰もいなかった。
そして、何か手がかりが無いかと思い、続けて自分を調べてみた。その結果、僕の体はとても小さく、年齢的にはおよそ4歳くらいだと推定出来たが、着ていた白い衣服からは何も情報は得られなかった。
「うーん……ここは一体どこなんだろう……? まったくここについての記憶が無い辺り、少なくともここは僕の家とかじゃ無いんだろうけど……」
そんな事を考えながら首を傾げていたその時、目の前のドアからコンコンと誰かがノックする音が聞こえ、それに続いてドアが静かに開いていくと、そこには白い服を着たクリーム色寄りの金色の長い髪の男の人が立っていた。
男の人は僕が自分をじっと見ているのに気付くと、少しホッとしたような表情を浮かべた後、優しい笑みを浮かべながらゆっくりと近付いてきた。
「お目覚めになっていたようですね。お気分はどうですか?」
「あ、はい……特に悪いとかは無いです……」
「それならばよかったです。中々お目覚めにならなかったので、少し心配をしていたのですが、そのご様子なら心配はいらないようですね」
「中々起きなかったって……僕をここに連れてきたのはあなたなんですか?」
「はい。私の名前はシフル。天上にて生命の生き死にについての管理をしている神です。よろしくお願いしますね」
「シフルさん……えっと、僕は──」
その時、僕はある事に気付いた。
「……僕って、“誰”なんだろう……?」
そう、自分の名前などの自分に関する記憶がまったく無かったのだ。そして、それらについてどうにか思い出そうと必死になっていると、シフルさんは僕の肩にポンと手を置き、優しい声で話しかけてきた。
「わからないのも無理はありませんよ。今のあなたの中には、あなたやあなたが仲良くしてきた方についての記憶は全て無いのですから」
「記憶が無いって……どうしてですか?」
「……あなたは生まれながらに
「呪い……」
「はい。その呪いというのは、呪いにかかった者の魂を徐々に
そこで、私はまだ穢れが侵食していない方の魂を切り離し、先にそちらを転生させ、残った方、つまりあなたの穢れを
ですが、仕方なかったとはいえ、魂を二つに分けた事で、そのショックであなたともう半分の魂を持つ方は以前の記憶を失うという事になってしまいました……」
「だからだったんですね……」
「はい。あなたがたを救うためとはいえ、勝手な真似をした事、本当に申し訳ありませんでした……」
「シフルさん……」
シフルさんが心から申し訳なさそうに謝る姿を見ながら、僕は自分の今の状況などについて考え始めた。そして一つの結論を出した後、僕はシフルさんに話しかけた。
「謝らないで下さい、シフルさん。僕は別にその事を怒りはしませんよ。結果的に以前の記憶は失いましたけど、その代わりにこうしてまた生きられるわけですから、感謝こそすれど怒るわけはありません」
「…………」
「それに、僕の魂の片割れや以前の僕も同じような事を言う気がするのに、僕だけが怒るのはやっぱり違いますしね。だから、もう謝らないで下さい。何度も言うように僕は怒っていませんから」
「……ふふ、わかりました。ありがとうございます」
「いえいえ。それで……僕の魂の片割れは、無事に転生出来たんですよね?」
「はい。同じように以前の記憶を失ってはいますが、しっかりと転生は出来ましたよ」
「そうですか……」
良かった。この先、僕が出会う事はたぶん無いだろうけど、もう半分の僕が幸せな人生を送れるように心から祈ろう。
そんな事を考えた後、僕は微笑ましそうに僕の事を見つめるシフルさんに話しかけた。
「それで、この後はどうすれば良いんですか? もし、シフルさんのお手伝いをすれば良いのなら喜んでお手伝いしますけど……?」
「そうですね……そのお気持ちはありがたいですが、今のところは大丈夫です。さて、これからについてですが、あなたにはまず“ある方々”に会って頂きます」
「ある人達に会う……」
「ふふ、心配はいりませんよ。お二人ともとても良い方ですから。そして、その後は……まあ、それについてはその時になってからでも大丈夫ですね。という事で、とりあえずついてきて頂けますか?」
「あ、はい」
返事をした後、僕はベッドからゆっくりと出て、傍に置かれていた靴を履いた。そして、シフルさんの後に続いて部屋を出て、長い廊下を歩いていくと、その途中で僕と同じ人間の他、背中から白い翼を生やした人や二足歩行の獣など様々なモノ達とすれ違った。
「……ここには色々な人がいるんですね」
「はい。この部署だけでも様々な方がいらっしゃいますが、天上には他にも多くの部署があり、そこにも様々な方がいらっしゃいますよ。元々、この天上で生まれた方や現世で生まれて亡くなった後に天上に来た方、天上の存在の紹介で現世からいらっしゃった方など本当に様々です」
「そうなんですね。ところで、僕達がこれから会う人達はどんな人達なんですか?」
「そうですね……一言で言うなら、とても聡明で優しい方々です。元は現世の方なのですが、先日事故で亡くなられてしまったのです。それで、厳正な審査を経てこの天上に来られた後、今はお二人とも天上にある私の別宅に住んでもらっています」
「もしかして……その人達は夫婦なんですか?」
「そうです。そして、旦那さんの方は私の実の弟なんです」
「シフルさんの弟……それじゃあその人も神様ですか?」
「いえ、普通の人間です。実はちょっとした事情があって、私はこの天上での職務の傍ら、現世で人間としても生きているんです」
「神様と人間の二重生活、か……大変なんですね……」
すると、シフルさんはにこりと笑いながら首を横に振った。
「そんな事はありませんよ。その生活を選んだのも私ですし、天上と現世の両方で新しい方とも知り合えますから、私個人としてはとても楽しませてもらっています」
「そうなんですね。そういえば、天上にも現世のような街はあるんですか?」
「ええ、幾つもありますよ。天上もとても広いですから、観光スポットのような場所もありますし、現世のように働いている人や学校に通っている人もいます」
「なるほど……因みに、地獄っていうのも本当にあるんですか?」
「はい。その国ならではの厳正な審査を通った方はこの天上に来たり、次の命として転生が出来ますが、弾かれてしまった方は
そして、永い年月を経て、もう充分に現世での行いを反省し、二度と悪事に手を染めないと判断された方は天上へと来る事が出来ます。なので、天上では犯罪は基本的に起こりませんし、罪を犯そうとする方もまったくいません」
「つまり、ここはとても平和な場所なんですね」
「ええ。病気になる事も無いですし、たとえ傷を負ってもすぐに完治します。そういう理由もあってか転生よりも天上でずっと暮らす事を選ぶ人が多いようです」
「なるほど……」
そんなに良い場所ならたしかにずっといたくなるかもしれない。ん、という事は……。
「僕達のようなのって、やっぱり特例だったりしますか?」
「はい。現世で数多くの善行をした方や裁きを受けられない程のやむを得ない事情がある方、後は天上側や地獄側のミスで誤って亡くなってしまった方などは裁きは免除され、その魂は私達が保護します。
その後、事情を説明した上で天上に住むか転生をするかについて聞き、希望をされた方を叶える事にしています。ただ、今回のようにその限りでも無い時はありますけどね」
「なるほど……そうなると、僕達の場合はその内の裁きを受けられない程のやむを得ない事情があったから、という事になりますか?」
「ええ。裁きが終わるまであのまま放置していたら、魂が完全に侵食され、そのまま消滅してしまいますし、他の方々にも呪いが移ってしまう可能性がありましたから。
尚、たとえやむを得ない事情があって私達が保護した方でもその裁きで地獄行きを宣告される程現世で悪行を為していた場合は、責任を持って私達が地獄へとお連れします。そして、その場合でも地獄での刑の執行期間等が変化する事はありません」
「ただ、裁きを免除出来るだけで待っている結末は変わらないわけですね」
「そういう事です」
そんな会話をしながら歩き続ける事数分、入り口らしき物が前方に見えてきたその時、そこに二人の人物が立っているのが目に入ってきた。
あれ……誰だろう?
そんな疑問を抱きながら歩いていき、徐々にその人物達の姿が明らかになっていくと、シフルさんは一瞬驚いたような顔をしてから優しい笑みを浮かべながらポツリと呟いた。
「……やはり、お二人は優しいですね」
「もしかして、あそこにいるのが……」
「ええ。私達が会いに行こうとしていた方々です」
「あの人達が……」
少々浅黒い肌をした短い黒のストレートヘアの男性と対照的に絹のような純白の肌に黒いロングヘアーの女性の二人を見ながら歩いていき、二人の目の前で足を止めると、シフルさんは笑みを浮かべたまま二人に話しかけた。
「迎えに来て頂いてありがとうございます。ですが、お家で待っていて頂いても良かったんですよ?」
「ははっ、まあな。けど、家で
「それで、ここまで迎えに来てみようという話になったんです」
「そうでしたか。お二人とも本当にありがとうございます」
シフルさんがペコリと頭を下げると、男性は興味深そうな顔をしながら僕に視線を向けた。
「それで……この子が例の子か」
「はい。先程目覚めたばかりで、やはり以前の記憶を失っているようでした」
「なるほどなぁ……それにしても、
「ふふ、そうだね」
「あ、あの……」
「ああ、自己紹介がまだだったな。俺は
「私は遠野七海。これからよろしくね」
「あ、はい……」
陸斗さんと七海さん……なんだか性格も対照的な二人だけど、優しそうな印象を受けるし、安心しても良いのかも。あ、そうだ……。
「さっき、柚希って言ってましたけど、それって……?」
「ん……ああ、現世にいる俺達の息子だよ。まだ4歳なんだが、俺達が事故で亡くなった事で死に別れてしまったんだ。それで、今は兄さんが引き取って面倒を見てくれてるんだ」
「そうだったんですね……辛い事を話させてしまいすみません……」
「はは、良いって。この天上に来た時に兄さんにも謝られたけど、生き物なら誰しもいつか死ぬものだからな。俺達にとってそれが早かったっていうだけだ。
まあ、兄さんが面倒を見てくれてるとはいえ、俺達が亡くなった事で柚希を悲しませてしまったのは、本当に申し訳ないと思っているよ。それに、もっとアイツと思い出を作りたかったとも思ってる」
「…………」
「けど、こうして天上に無事来れて、俺達はここで色々な人や物と出会った。その事はとても嬉しいと感じてる。自分が知ってた世界があまりにも小さかった事やこの先もっと色々な物と出会えるんだって思えたからな」
「陸斗さん……」
陸斗さんの顔を見ながら僕が呟くと、陸斗さんは僕の頭に優しく手を置いてからにっと笑った。
「まあ、そんなわけだからまったく気にしなくて良いからな」
「……はい。ありがとうございます」
「どういたしまして。それで、兄さん。例の件はこの子に伝えたのか?」
「いえ、お二人との顔合わせが済んでからにしようと思っていたのでこれからです」
「なるほど……」
七海さんが納得顔で頷く中、シフルさんはにこりと笑いながら僕に話しかけた。
「さて、それではあなたのこれからについてお話しします。ですが、話が終わった段階で何か他にやりたい事があったりした場合は、遠慮無く申し出てください。
今からお話しするのはあくまでも提案で、それをあなたに強制するつもりはありませんから」
「わかりました」
「では、お話しします。現世に戻り、陸斗さん達の子供として生きていく気はありませんか?」
「……え?」
シフルさんからの提案に僕は思わず疑問の声を上げてしまった。
現世に戻って陸斗さん達の子供として生きていく……? でも、陸斗さん達にはもう柚希君っていう実子がいるんじゃ……。
「たしかにそうですが、今の柚希君を陸斗さん達に会わせてしまうと、陸斗さん達を今度こそ喪わせまいとしてそちらにばかり意識を向けてしまう可能性があります。実際、柚希君は自分にも陸斗さん達が亡くなった一因があると考えていますからね」
「なるほど……って、あれ? 僕、口に出してました?」
「ふふ……私は相手の考えている事がわかるので読ませて頂きました」
「な、なるほど……」
「私としても柚希君をまた陸斗さん達に会わせ、色々な話をしてもらったり、家族としてしっかりとした時間を過ごしてもらいたい気持ちはあります。ですが、柚希君の保護者として柚希君にはしっかりと成長してもらいたいと思っています。
なので、非常に心苦しいですが今の柚希君に陸斗さん達を会わせるわけにはいかないのです」
「シフルさん……」
シフルさんは申し訳なさと哀しさが入り交じったような表情を浮かべており、柚希君を大切に想っているからこそそういう判断をしたんだというのがハッキリとわかった。
ふふ、そこまで想ってもらえる柚希君が羨ましいなぁ。
そんな事を考えた後、僕は陸斗さん達に視線を向けた。
「陸斗さんと七海さんも同じ意見ですか?」
「ああ。まだ4年しか一緒に過ごしてないけど、柚希がどんな性格をしてるかはしっかりとわかってる。兄さんの言う通り、今の柚希が俺達と会ったら、俺達のためにだけ動こうとして、アイツのための人生じゃなくなってしまうだろうな」
「そこまで考えてくれるのはもちろん嬉しいけれど、柚希の人生はあくまでもあの子の物。もう少し心が成長して、私達や天斗さんが大丈夫だと判断出来たらしっかりと正体を明かして、その上で謝るつもり」
「なるほど……あれ? でも、さっきの話だと陸斗さん達も現世に戻るような事を言っていたような……」
「はい。ですが、陸斗さん達にはこちらで用意した別の体に入ってもらい、ある設定の人物を演じて頂きます。そして、生前柚希君と一緒に住んでいた家に住めるようにはしますが、そのためにはまず柚希君にも許可を頂かないといけませんね」
「そうだな。まあでも、兄さんの考えた設定通りなら、柚希も嫌とは言わないんじゃないか? 柚希からしたらまったく知らない奴が住むっていう形にはなるけど、困ってる奴を放っておく事は出来ないからな」
陸斗さんが笑みを浮かべたまま言った後、僕はおそるおそる陸斗さんに話しかけた。
「えっと……因みに、その設定って……」
「“仕事の都合で家族揃って転勤してくる事になったが、転勤直前で住む予定だった貸家がダブルブッキングで駄目になり、住む場所に困っている兄さんの知り合い”だな。
まあ、流石に柚希もその相手がどんなのか気になるだろうから、一度会う必要は出てくるけど、まあバレたりはしないだろ」
「そうだね。私達がボロを出さなければ大丈夫だと思う。柚希は勘が鋭いけど、人の事をむやみに疑う子じゃないから」
「だな。それで……どうする? もし、俺達の子供になるのが嫌じゃないなら、俺達としては嬉しいけど」
「あ……別に嫌というわけじゃないんですけど、もし僕が断った時ってどうなるんですか?」
「その時はあなたの希望を聞き、それを叶えさせてもらった後、陸斗さん達だけでこの件を進めていきます。元々、陸斗さん達が柚希君の事を少しでも近くで見守りたいと仰った事から、この計画は始まったので、陸斗さん達だけでも問題はありませんから。
ただ、もしもあなたがまた現世で生きていきたいと考えているのなら、協力をして頂けるとありがたいです。ただの赤の他人を演じる陸斗さん達だけよりは、それよりも近い距離で接する可能性のあるお子さんの役をして頂ける方がいれば、私達が気付けていない柚希君の心の変化などにも対応出来ますから」
「なるほど……」
シフルさん達の話を聞いた後、僕はここまでの話からどうするかについて考え始めた。シフルさんには恩はあるけど、この件を断って、自分の望む人生を叶えてもらう事も出来る。シフルさんが言っていたようにこの提案は別に強制される物では無いから。
だけど、ここまで話を聞いて放っておくのは出来ないし、何より僕自身その柚希君という子にも興味が湧いていた上、何となく深く関わっていかないといけない気がしていた。
……となれば、答えは一つだよね。
「……わかりました。その件、引き受けさせてもらいます」
「……ありがとうございます。ですが……本当によろしいんですか? 言ってみれば、柚希君のためにあなたを利用しようとしているような物ですよ?」
「そうかもしれません。でも、シフルさんにはまた生きるためのチャンスを貰いましたし、それならただ生きていったり、この天上でのんびり過ごすよりもシフルさんや陸斗さん達の助けになりたいんです。
それに、話を聞いていて柚希君がどんな子か興味が湧きましたし、何となく柚希君とは深く関わらないといけない気がしたんです。何でなのかはわからないですけどね」
「そうでしたか……わかりました、それではどうぞよろしくお願いします」
「はい、任せてください」
胸を軽く叩きながら答えていると、不意に僕の頭にポンと何かが置かれ、僕が思わず「わっ」と声を上げてしまっていると、陸斗さんがにっと笑いながら僕の頭を優しく撫でてくれていた。
「ありがとうな。まだ出会って間もない俺達に付き合ってくれる決心をしてくれて」
「陸斗さん……いえ、良いんです。目的もなくただ第二の人生を歩むよりもこうして出会えた皆さんのために頑張る方が有意義だと思いましたから」
「そうか……だが、一緒に暮らす中で何か困った事や頼みたい事があったら、遠慮無く言ってくれ。血の繋がりこそ無いが、お前はもう俺達の息子なんだからな」
「……はい!」
「うん、良い返事だ。という事で、これからよろし──と、そうだ。そういえば、お前の名前をまだ決めてなかったよな」
「あ、そういえば……」
僕の以前の記憶は無いから、名前自体はない。でも、また現世で暮らすとなると、名前は必要だよね……。
そんな事を考えながら顎に手を当てていた時、シフルさんが何かを思い付いた様子でポンと手を叩いた。
「それならば、前世でのあなたの名前を読み方を変えて使うのはどうでしょうか?」
「前世での僕の名前……」
「はい。前世、あなたは
「柚瑠……」
「柚瑠か……良いんじゃないか?」
「そうだね、私も良いと思う。ただ、最終的に決めるのはあなた自身だよ」
「七海さん……」
「さあ、どうする?」
七海さんの真っ直ぐな目で見つめられながら、僕は提案された名前について考え始めた。そして考える事数分、結論を出した僕はシフルさん達を見回しながら静かに口を開いた。
「……僕もその名前で良いと思います。他にも良い名前はあるかもしれませんが、前世の僕が使っていた名前なら今回も大事にしてあげたいですから」
「……わかりました。それでは、これから君の事は柚瑠君と呼ぶ事にしましょう」
「改めてこれからよろしくな、柚瑠」
「これからよろしくね」
「はい、こちらこそよろしくお願いします」
陸斗さん達に対して返事をしながら僕が少しずつ自分というものが出来ていく事に嬉しさを感じていてると、シフルさんはニコニコと笑いながら僕に話しかけてきた。
「さて、それでは柚瑠君の新たな旅立ちを祝って、私から贈り物をさせてもらいますね。柚瑠君、何か欲しい物はありますか?」
「欲しい物……ですか?」
「はい。形式的にはあなたも転生者という事になりますので、三つまでなら願いを叶えられますよ」
「三つまで……因みに、どんな事でも良いんですか?」
「ええ。邪な願いや世界の根幹を揺るがしかねないような物以外であれば何でも良いですよ」
「……わかりました」
願い、か……正直、これといった物は無いんだよね。でも、この先の人生で様々な出来事があるかもしれないし、どうせ願うなら誰かのためになる物が良いかな。そうなると、僕が願うべきは……。
「……決まりました」
「わかりました。それでは、この宝玉を手にしながらそれを願って頂けますか?」
そう言いながら渡されたのは、とても綺麗な金色の宝玉だった。
「これは……」
「これは『力の宝玉』。これを手にしながら願う事で、柚瑠君の願いは叶えられます。では、どうぞ」
「……はい」
静かに返事をした後、僕は『力の宝玉』を掌に載せながらさっき思い付いた願いを頭の中に思い浮かべた。すると、『力の宝玉』は光を放ち出し、さらさらとした光の粉へと変わっていった。そして、それはやがて小さな水晶のような物へ形を変えると、僕の掌に静かに残った。
「……これで、僕の願いが……」
「はい、しっかりと叶いましたよ。ところで……何やら強い力の気配を感じますが、何を願ったのかお聞きしても良いですか?」
「あ、はい。えっと……まず最初に願ったのは、妖力や魔力などの『力』です。この先、どのような事があるかわかりませんし、自分や誰かを守るために持っておいて損は無いかなと。
次に願ったのが『周囲の気や波動を感じ取れる能力』です。これを持っていれば、たとえ生活の中で暴漢や悪人が近くにいても事前に感じ取って対策を練ったり、遭遇を避けられるかなと思ったんです。
そして、最後に願ったのは『治癒や浄化の力』です。誰かを癒したり呪いなんかを浄化出来るようになれば、誰かがそういった事で困っていてもすぐに対応してあげられるかなと思って。もっとも、この水晶の形になったのはちょっと予想外でしたけどね」
水晶を手に載せながら苦笑いを浮かべつつ言っていた時、シフルさん達は少し驚いた様子でお互いに顔を見合わせた。けれど、すぐに納得したように頷きながら微笑みを浮かべた。
あれ……どうかしたのかな?
「えっと……どうかしました?」
「……いえ、あなたと同じように願った方を知っているだけですよ」
「僕と同じ願いを……」
「はい。願った理由も似たような物だったので、少し驚いてしまいましたが、納得といえば納得ですね」
「は、はあ……」
なんで納得なのかはわからないけど、僕と同じように願った人がいるのは少し嬉しいし、親近感が湧くなぁ……。
そんな事を思いながら水晶を軽く握っていた時、シフルさんは笑みを浮かべたまま静かに口を開いた。
「さて……それでは、柚瑠君にもう一つ贈り物をしましょうか」
「え、良いんですか? 願いを叶えてもらっただけでもありがたいのに……」
「良いんですよ。せっかく、様々な力を得たからには、それを使うためのアイテムも必要ですから」
そう言うと、シフルさんの手に一冊の真っ白な表紙の本が出現した。
「それは……本、ですよね……?」
「はい。こちらは『
「表紙も中身も白紙の魔導書……」
「そうです。そしてこれは、主がいて初めて意味を成す物です。という事で、こちらに触れて頂けますか?」
「は、はい」
少し緊張しながら『友の書』に触れると、触れたところから徐々に光を放ちながら文字や絵が浮かび上がっていった。
この文字……まったく見た事が無いのに、なんて書いてあるのかハッキリとわかる……!
その事に驚きながら表紙に浮かび上がった文字や絵を食い入るように見ていると、シフルさんの優しい声が聞こえてきた。
「これでこの魔導書の主は柚瑠君になりました。という事で、どうぞ」
「あ、ありがとうございます……でも、魔導書の主なんて僕に務まるかな……」
「ふふ、大丈夫ですよ。それと……先程は贈ると言いましたが、正確にはお返しすると言うのが正しいです」
「え……それじゃあ、これは前世の僕が持っていた物なんですか?」
「もっと正確に言うならば、前世のあなたが持っていた書物を使って作り出した魔導書、ですね。なので、お返しするという言い方をしたわけです」
「前世の僕が持っていた書物……」
「まあ、書物といっても紙束を糸でまとめた簡素な物ではありましたが、その時のあなたの想いの力によって、こういった力を持った魔導書となったわけです。
そして、この『友の書』には実は兄弟に当たる魔導書が存在しますが……まあ、いつかそちらを持った方ともお会いする事があるかもしれませんね。
シフルさんは優しい笑みを浮かべたまま静かに言った後、『友の書』の静かに触れながら言葉を続けた。
「それでは続いて『友の書』について説明を始めますね。まず、この『友の書』には幾つか能力があるのですが、その一つが柚瑠君が絆を結んだ相手をこの本の中から出し入れ出来るという物です」
「本の中から出し入れが出来る……ですか?」
「はい。妖怪や神獣など何かしらの力を持ったモノと絆を結び、柚瑠君とその相手の力を白紙のページに注ぎ込む事で『友の書』に登録され、白紙のページにその相手の絵と種族の詳細が浮かび上がると同時に、相手はこれを扉にした先にある居住空間に送られます。そして、登録された仲間のページか表紙に柚瑠君が手を置きながら魔力を注ぎ込む事で外に出せ、その仲間が自分のページに手を触れながら自分の力を注ぎ込む事で居住空間に戻るという仕組みです」
「そっか……だから、中身が白紙だったんですね」
「その通りです。そして、兄弟に当たる魔導書も同じ能力を持っていまして、言ってみれば、その魔導書とこの『友の書』は所有者とあらゆるモノ達との出会いの記録であり、友達帳のような物ですね」
「出会いの記録……でも、その相手と絆を結ばないと登録出来ないんですよね?」
「たしかにそうですが、双方がお互いに好感を持っていれば登録は可能なので、あまり難しく考えなくても良いですよ」
「あ、そうなんですね」
絆を結ぶって言ってたから、結構親密にならないといけないのかと思ってたけど、たしかにそれくらいならあまり難しく考えなくても良いのかも。
そんな事を考えていると、シフルさんはニコニコと笑いながら説明を続けた。
「それでは、次の説明です。この『友の書』にどなたかを登録した後、柚瑠君は絆を結んだ方と“同調”する事が出来、それをする事で同調した相手を代表する力を柚瑠君に宿らせる事が出来ます」
「力を宿らせる……」
「例を挙げると、炎を操る事に長けている方と同調したなら、柚瑠君も魔力を消費して炎を操る事が出来、力自慢の方と同調したなら、柚瑠君の腕力が強化されるといった感じです。尚、特に代表される力が無い方の場合は、その方の特徴などが代わりに同調時の能力として柚瑠君に宿ります」
「なるほど……あ、でもそれだけでは無いんですよね?」
「はい。同調を続けている間は、お互いに力を消費し続けます。なので、どちらかの力が尽きてしまったら、その時点で同調は解除されます。因みに、柚瑠君の魔力が尽きて解除された場合は、しばらく『友の書』の力を使えなくなり、相手の力が尽きて解除された場合は、その方をしばらく『友の書』から出せなくなります。なので、同調のし過ぎには注意してください」
「わ、わかりました」
仲間との同調……普段はそんなに頼らないかもしれないけど、いざという時には使いそうだし、誰かが仲間になってくれたら早めにその能力の把握をしないといけないな……。
そんな事を思いながら『友の書』をじっと見ていた時、僕達の背後からこっちに向かって近付いてくる足音が聞こえ、僕達はゆっくりとそちらを向いた。すると、角が付いた羊のお面を被った黒い中国服姿の子供が見え、その姿にシフルさんは嬉しそうな笑みを浮かべた。
「おや、あの方は……」
「お知り合いですか?」
「はい。あの方は中国に伝わる瑞獣の内の一体である『
明志さんを見ながらシフルさんの説明を聞いていたその時、明志さんは僕達に気付いた様子を見せると、そのままゆっくりと近付き、シフルさんの目の前で足を止めた。
「皆さん、どうもこんにちは」
「よう、明志さん」
「明志さん、こんにちは」
「こんにちは、明志さん。今日は天上まで何のご用事だったのですか?」
「特に用事があるわけではないのですが、ここに来れば何か面白い事がある予感がしたのです。ところで……」
明志さんはそう言いながら僕に視線を向けると、興味深そうにしばらく眺めた後、「……なるほど」と言いながらクスッと笑った。
「この子は例の子ですね?」
「ええ。先程、目を覚ましまして、陸斗さん達との顔合わせやあの事について話をしていたところです」
「そうでしたか。初めまして、私は獬豸の明志といいます。これからよろしくお願いしますね」
「あ……初めまして、柚瑠といいます。こちらこそよろしくお願いします、明志さん」
「はい、よろしくお願いします。それで、どこまで話は進んでいましたか?」
「大体は終わり、今は『友の書』についての話をしていたところですね」
「なるほど……」
「ただ、仲間になってくれる相手はまだいないんですけどね……」
僕が苦笑いを浮かべながら言うと、明志さんは『友の書』をチラリと見てから僕に話しかけてきた。
「では……私がその第一号になりましょうか?」
「……え? それはとてもありがたいですけど……本当に良いんですか?」
「ええ。出会ってまだ間もないですが、あなたと一緒ならば楽しい毎日を過ごせると確信しましたから。それに、未来ある若者の手助けが出来るのはとても嬉しいですしね」
「明志さん……でも、瑞獣としての仕事とかあるんじゃ……」
「昔ならばそうですが、今の時代はまったくそういうのがありませんから。それに、子を成して次の世代を育てている方々と違って、独り身の私はこうやってぶらつくしかやる事がありませんので、それなら私も誰かの手助けがしたいんです」
「…………」
「柚瑠君。私を仲間にして頂けますか?」
優しくもとても真剣な声で明志さんが問いかけて来た後、僕は一度大きく深呼吸をしてからにこりと笑った。
「もちろんです。これからよろしくお願いします、明志さん」
「……はい、こちらこそよろしくお願いしますね、柚瑠君」
そして、僕と明志さんは固く握手を交わした。明志さんの表情は羊のお面でわからなかったけれど、何となく安心したような笑顔を浮かべているような気がした。
最初の仲間が瑞獣か……とても嬉しいけど、これからは僕も明志さんに恥じないような人にならないといけないな……。
握手を交わしながらそう決意していると、シフルさんが優しい笑みを浮かべながら話しかけてきた。
「では、そろそろ登録に入りましょうか。柚瑠君、最初のページを開いてください」
「あ、はい──開きました」
「そうしたら、先程説明したようにお互いの力をこの白紙のページに注ぎ込んでください」
「わかりました」
「はい」
返事をした後、僕と明志さんは白紙のページに手を置き、集中力を高めるために軽く目を閉じながら『友の書』に自分の力を注ぎ込むイメージを頭の中に浮かべた。すると、僕の中を巡る『力』が腕を通して一気に手まで移動し、掌に空いた穴から『友の書』の中へと注ぎ込まれるイメージが突然頭に過った。
くっ……なんだ、これ……!
そんな事を思いながら体の力が徐々に抜けていくのを感じ、軽く地面を踏みしめた。そして、全てが注ぎ込まれたのを感じた後、僕は安心感を覚えながら静かに目を開けた。
すると、白紙だったページには筆で描かれた木々が生い茂った山中で静かに佇む明志さんの姿と獬豸について詳細に記された文章が浮かび上がっていた。
「これが……登録」
「その通りです。柚瑠君、お疲れ様でした」
「あ……はい、ありがとうございます。でも、誰かを登録する度にこんなに疲れるなら、僕も少しずつ力をつけていかないといけませんね」
「そうだな……でも、兄さんや明志さんもいるし、ゆっくり自分のペースでやってけばいい」
「うん。あまり焦っても仕方ないから」
「そう……ですね」
明志さんのページを見ながらポツリと呟いていたその時だった。
『……ほう、ここが居住空間ですか。ふふ、中々居心地の良い場所のようですね』
「……え?」
今、明志さんの声が『友の書』から聞こえてきたような……?
その事に僕が驚いていると、シフルさんはクスクスと笑いながら説明をしてくれた。
「居住空間にいる方はこうして本を通して柚瑠君に話しかける事が出来るんです」
「な、なるほど……」
「つまり、居住空間にいる仲間はこうして話しかける事で、柚瑠に外に出してもらうってわけだな」
「そういう事です。さて……明志さん、そろそろこっちに戻ってきますか?」
『そうしても良いですが……もう少しこの空間を見て回りたいと思います』
「あ、わかりました」
明志さんに返事をしていると、シフルさんは僕達を見回してからにこりと笑った。
「さて、柚希君には私がお話をしておきますので、現世に戻るのは明日にして、とりあえず今日のところは天上にある私の家に戻りましょう」
「はい」
「ん、了解」
「わかりました」
揃って返事をした後、僕達は色々な話をしながらシフルさんの家に向かって歩き始めた。ひょんな事から始まった僕の新しい人生。これからどんな事が待っているかはまったくわからないけど、陸斗さん達や明志さん達がいれば、どんな事でも乗り越えられると感じた。
でも、頼ってばかりじゃ駄目だ。僕自身も強くなって、色々な人を助けられるようになっていかないと。
「……そのためにも明志さんに手伝ってもらって、色々な修行をしよう。そして、この『力』を色々な事に活かすんだ」
この先の目標が定まり、やる気が奥底から湧いてくるのを感じながら、僕はどんな修行をするべきか考えつつゆっくりと歩いていった。
政実「プロローグ、いかがでしたでしょうか」
柚瑠「今回の話だと明らかになってない事とかありそうだけど、それは次回かな?」
政実「そうだね」
柚瑠「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
柚瑠「うん」
政実・柚瑠「それでは、また次回」