柚瑠「どうも、乙野柚瑠です。お互いの常識に慣れるまでは大変そうだけど、楽しそうではあるよね」
政実「だね。人間同士で住むのとはまた違った発見もありそうだし、出来るならやってみたいかな」
柚瑠「ふふ、そっか。さて、それじゃあそろそろ始めていこうか」
政実「うん」
政実・柚瑠「それでは、第1話をどうぞ」
「んむ……」
目蓋の裏で光を感じ、僕は目を覚ました。そして、ゆっくりと目を明けて、静かに体を起こした後、周囲を軽く見回してから僕はボーッとしながら呟いた。
「……ここは──って、そうだった。僕は昨日から陸斗さん達の息子として新しい人生を歩み始めたんだった」
神様であるシフルさんの手による目覚め、その弟さんである陸斗さんと奥さんの七海さん、そして僕が手にいれた魔導書の『友の書』の仲間になってくれた獬豸の明志さんとの出会い。そんな普通なら起こり得ないような出来事を経て、僕は新たな人生の一歩を踏み出したのだった。
「自分の身に起きた事じゃなかったら、完全に物語の中の出来事だと思ってしまいそうだけど、昨日あった事は事実なわけだし、これからは陸斗さん達の息子としてしっかりと生きていかないといけないな」
拳を軽く握りながら決意を新たにしていると、部屋のドアがコンコンとノックされ、それに続いて陸斗さんの声が聞こえた。
「おーい、柚瑠。起きてるかー?」
「陸斗さん……はーい、起きてまーす」
「おっ、起きてるな。そろそろ朝飯の時間だから、起こしに来たんだ」
「そうだったんですね。わざわざすみません……」
「ははっ、良いんだよ。こういうのも親子のふれ合いの一つだからな」
「親子のふれあい……」
その言葉を聞き、胸の奥がポカポカしていくのを感じていると、ドアの向こうから再び陸斗さんの声が聞こえてきた。
「さて、俺もそろそろ朝飯の準備の手伝いをしに行くかな」
「あ、じゃあ僕も行きます。一人だけ何も手伝わずに食べるわけにはいきませんから」
「ん、わかった」
その返事を聞いた後、僕はベッドから体を出し、ゆっくりと立ち上がってから、机の上に置かれた『友の書』を手に取った。そして、ドアへ向かって歩き出し、ドアをゆっくりと開けると、陸斗さんは僕を見ながらニッと笑った。
「よっ、柚瑠。昨日はよく眠れたか?」
「はい。色々な事があったので、眠れないかなとも思ったんですが、ベッドに入って目を閉じたらすぐに寝ちゃってました」
「ははっ、そうか。さて、それじゃあ七海のところに行くか」
「はい」
返事をした後、僕達はゆっくりと階段を降りていき、リビングに入っていった。すると、そこには朝ごはんの準備をしている七海さんの姿があり、七海さんは僕達がいるのに気づくと、にこりと笑いながら声をかけてきた。
「おはよう、柚瑠君。体の調子が悪いとかはない?」
「おはようございます、七海さん。昨夜ぐっすり眠ったからか体調は万全みたいです」
「そっか。それなら良いんだけど、もしも何かあったらすぐに私か陸斗君に言ってね?」
「そうだぞ、柚瑠。もう俺達は家族なんだから、遠慮無く色々言ってきて良いからな」
「……はい」
二人の優しい言葉を聞き、また胸の奥がポカポカとしてきたその時、僕はある事を考え、少し不安になりながらそれについて二人に訊いた。
「あの……もしもなんですけど、柚希君に全部伝えた後ってどうするんですか? やっぱり、柚希君はお二人の実子ですし、柚希君ともう一度暮らしたいですよね?」
「んー……まあ、真実を伝えた後だし、暮らせるなら一緒に暮らしたい気持ちはあるな」
「そうだね。伝えるのがいつになるかはわからないけど、一緒にいてあげられなかった分の面倒はみてあげたいかな」
「そう……ですよね」
「でも、だからといってお前がいなくなったりする必要なんて無いからな」
「……え?」
陸斗さんの言葉に驚いていると、陸斗さんはニッと笑いながら僕の頭にそっと手を置き、優しく撫でながら言葉を続けた。
「さっきも言った通り、お前はもう俺達の家族だ。たしかに血の繋がりは無いけど、それを理由にしてお前と柚希を差別するつもりはない。お前と柚希は等しく俺達の子供なんだからな」
「陸斗さん……」
「そうだよ、柚瑠君。たとえ、また私達と柚希が一緒に暮らす事になったとしても、君だって私達と一緒にいて良いんだよ。柚希だって君を追い出したり除け者にしたりする気はないだろうしね」
「はは、そうだな。最初は色々戸惑うだろうけど、慣れてきたらむしろ自分から世話を焼きにいきそうだよな。アイツ、困ってる相手を放っておけないし、結構世話好きだからな」
「そうだね。私達がまだ生きてた頃、自分が他の事をしてる時でも私達が何か困ってたら、すぐに手伝おうとしてくれたし、絶対にそうなりそうだね」
「ああ。それで、こっちがお礼を言ったら、自分がやりたくてやった事だから、お礼なんて良いって言ってな」
「そうそう」
笑顔を浮かべながら懐かしそうに話す陸斗さん達の様子に少しだけ羨ましさを感じながら僕は話しかけた。
「柚希君って本当に良い子なんですね」
「ああ。でも、だからこそ心配なところもあるから、本当ならアイツの事をしっかりと支えてやりたい」
「けど、今の私達じゃそれはなかなかしてあげられない。事情を話すまでは、柚希にとって私達はまったくの赤の他人だから」
「そうですよね……」
「まあ、だからってわけじゃないんだけどさ、もし事情を話すまでの間で柚瑠が柚希と何らかの理由で関わる事があって、何かで悩んでるようだったら、話くらい聞いてやって欲しいんだ」
「歳が離れてる私達よりも歳が同じくらいの柚瑠君なら柚希も悩みを打ち明けやすいと思うから。もちろん、柚瑠君さえよければだけど……」
七海さんが申し訳なさそうに言う中、僕は笑顔を浮かべながら静かに頷いた。
「大丈夫ですよ。話を聞いて自分なりの考えを伝えるくらいなら僕にも出来ますから」
「……うん、ありがとう」
「ありがとな、柚瑠」
「どういたしまして」
安心したように微笑む陸斗さん達に対して笑顔を浮かべたまま答えていたその時、僕は明志さんをまだ出していない事を思いだし、『友の書』の明志さんのページを開いた。
そして、明志さんのページに魔力を込め、明志さんが『友の書』を通って出てきた後、隣に立つ明志さんに僕は話しかけた。
「おはようございます、明志さん。すみません、出すのが遅くなっちゃって……」
「ふふ、良いんですよ。その間、私も穏やかな時間を過ごさせて頂きましたから」
「……それならよかったです」
「ふふ、ええ。陸斗さんと七海さんもおはようございます」
「おはようございます、明志さん」
「明志さん、おはよう。そういえば、明志さんはもう朝飯って食べてたか?」
その陸斗さんからの問いかけに明志さんは微笑みながら首を横に振った。
「いえ、まだです。昨晩と一緒で皆さんと一緒に食べたいと思っていたので」
「なら、ちょうどよかった。今から俺達も朝飯を食べるところだったんだ」
「たしかにちょうどよかったようですね。では、私も準備を手伝わせて頂きますね」
「ああ、ありがとう。そうだ……それなら、これから明志さんを外に出せない理由が無い時以外は、一緒に飯を食わないか? みんなで食べた方が飯も美味く感じるしさ」
「うん、私も賛成。陸斗君の言う通り、みんなで一緒に食べた方が美味しいからね」
「僕ももちろん賛成です」
「ふふ、私も賛成です。居住空間内にいらっしゃるお手伝いさん達のお料理も絶品ですが、楽しさという調味料に勝る物はありませんから」
「ははっ、たしかにな。よっし……それじゃあ手分けして朝飯の準備をするか!」
その陸斗さんの言葉に揃って頷いた後、僕達はそれぞれの役割を分担し、手分けをして朝ごはんの準備を始めた。
約一時間後、食べ終わった朝ごはんの後片付けを陸斗さん達としていた時、玄関の方からシフルさんともう一つの知らない波動を感じた。
「ん……」
「柚瑠君、どうかした?」
「玄関の方からシフルさんの波動を感じるんです」
「兄さんの……ああ、例の計画について何か話したいんだろうし、ちょっと出てきてくれるか?」
「わかりました」
返事をしながら手に付いている泡を流し、手拭き用の布巾でしっかりと手を拭いた後、僕は玄関に向かって歩き出した。
そして、玄関のドアを開けると、そこにはニコニコと笑うシフルさんと後頭部が異様に突き出た和装のお爺さんが立っており、そのお爺さんの姿に僕が驚いていると、シフルさんはクスリと笑ってから話しかけてきた。
「おはようございます、柚瑠君。昨夜はよく眠れましたか?」
「あ……はい、ぐっすり眠れました……」
「ふふ、それならよかったです。昨日は色々あった分、頭が混乱して眠れていないかもしれないと思っていましたから。ところで、明志さんや陸斗さん達はいらっしゃいますか?」
「はい、今は朝ごはんの後片付けをしてますけど……あの、そちらのお爺さんは?」
お爺さんを見ながら訊くと、お爺さんは少し驚いた様子を見せた。
「……小僧、まさかとは思うが、儂を普通の人間のじじいと思っとるのか?」
「そうですけど……え、それじゃあお爺さんってまさか人間じゃないんですか?」
「……つかぬ事を訊くが、こんなに後頭部が出っ張った人間がいると思うのか?」
「え……世界のどこかにはいると思うんですけど、いないんですか……?」
僕が首を傾げながら訊くと、お爺さんは本当に驚いた表情を浮かべた後、とても愉快そうに笑い始めた。
「はっはっは! 面白い童じゃな! しかし……その様子だと、本当に儂の正体が何かは知らんようじゃな」
「仕方ありませんよ。柚瑠君は昨日目覚めたばかりですし、私の甥のように人ならざるモノ達には明るいわけではありませんから」
「まあ、それならば仕方がないか」
「えっと……シフルさん、結局このお爺さんは一体?」
「柚瑠君、この方は私の友人で『ぬらりひょん』の
そして、シフルさんは続けて『ぬらりひょん』についての説明を始めた。
『ぬらりひょん』
秋田県や岡山県にて伝承が伝えられる後頭部が異様に突き出たハゲ頭の和装の老人の姿をした妖。一般的には妖怪の総大将というイメージがあるが、それは後代における誤伝・俗説とされ、今でも謎の多い妖である。
シフルさんの説明が終わり、景光さんの事を驚きながら見ていると、景光さんはニヤリと笑いながら僕に話しかけてきた。
「まあ、今は様々な家に上がり、その家の者が出してくれた茶や茶菓子を飲み食いしながら世間話に興じて毎日を過ごすだけのじじいだがな」
「え……でも、景光さんなら普通に家に入って気づかれずに色々な物を飲み食い出来るんですよね?」
「ああ、まあな。じゃが、その話より先にシフルの話の方を優先してやれ。来る道すがらに軽く話は聞いたが、お主らにとって大切な計画についての話のようじゃからな」
「あ……わかりました」
返事をした後、シフルさん達と一緒に家の中に入っていくと、キッチンから陸斗さんがひょこっと顔を出した。
「いらっしゃい、兄さ──ん、そこの爺ちゃんは……もしかしてぬらりひょんか?」
「ほう、お主はぬらりひょんを知っておったか」
「ああ。俺達の子供が妖怪や神様みたいな人ならざるモノ達の事が大好きでな、その内に俺達もそういうモノ達の知識には強くなったんだ」
「なるほどな。そして、その子供というのがシフルが世話をしている童の事か」
「そうだ。それで、ぬらりひょんの爺ちゃんは一体何の用だ?」
「なに、何か面白い物でも無いかと思いながら天上を歩いておったら、シフルと偶然会い、話を聞いて興味を持ったからついてきただけじゃ。まあ、こうしてついてきたからには、お主らの計画とやらについても協力させてもらうぞ」
「ははっ、ありがとな。さて、それじゃあ洗い物も済んだし、早速話し合いを始めるか」
その言葉に頷いた後、僕達は揃ってリビングに入った。そして、そこにいた七海さんと明志さんに景光さんを紹介した後、僕達は思い思いの席に座った。
「さて……それでは話を始めましょうか」
「ああ。それで兄さん、柚希に話はしたのか?」
「はい。陸斗さんの予想通り、家を貸す事には賛成をしてくれましたが、やはり一度会ってみたいとの事だったので、近い内に会う機会を設けるという約束はしました」
「まあ、そうだよな。けど、俺達が下手な事をしなければいいわけだし、そこはまだ良いか。で、いつ会う事にする?」
「そうですね……今度の週末はどうでしょうか?」
シフルさんの提案に陸斗さんはニッと笑いながら頷いた。
「問題ない。新しい職場で働き始める前にその事を解決出来るならそれに越した事は無いからな」
「新しい職場……ですか?」
「ああ。柚瑠達にはまだ話してなかったが、俺は今度から兄さんと同じ会社で働く事になってるんだ。流石に働かないわけにもいかないし、兄さん経由で社長さんには話を通してもらってたからな」
「話を通してるって事は、社長さんはシフルさんが神様で陸斗さんが一度亡くなってる方なのをご存じなんですか?」
「はい。実はその会社は私の友人が
「面識があるって言っても兄さんの紹介で知り合ってから何回か飲みに行った程度なんだけどな。それでも向こうさんには結構気に入られてたみたいだ。まあ、死んだ後に計画の話し合いをするために一度会いに行ったら椅子から転げ落ちる程驚いてたけどな」
その時の事を思い出しながら陸斗さんがクスクスと笑い、それに対して苦笑いを浮かべた後、僕はある疑問をシフルさん達にぶつけた。
「ところで……柚希君にはいつ真実を話すんですか?」
「少なくとも義務教育が終わるまでは話さないつもりです。最低でもその頃なら柚希君も色々と気持ちの整理が出来ているはずですから」
「そうだな。問題はどんな形で打ち明けるかだけど……景光の爺ちゃんはどう思う?」
「ん……儂か?」
「ああ。この問題を一番客観的に見られるのは爺ちゃんだからな。当事者である俺達よりも冷静に考えられる爺ちゃんの意見が欲しいんだ」
「……なるほどな」
「それで、景光の爺ちゃんはどんな形で打ち明けたら良いと思う?」
「そうじゃな……やはり、しっかりとした話の場を設け、当事者であるお主らのみで話すべきだと思う。そして、話すならば早い方が良いだろうな」
「え、どうしてですか?」
僕の疑問に対して景光さんは真剣な表情を浮かべながら答えた。
「話そうとする前にその柚希という小僧が命を落とさんという確証は無いからな」
「あ……」
「何かの事故や他者の悪意によって命を落とした後、この天上にて話をするという手ももちろんある。じゃが、柚希にも生きている内に両親と共にしたかった事や話したかった事はあるはずじゃし、命の落とし方次第では真実を伝える前に転生をさせんといかん場合もある。そうじゃろ、シフル?」
「はい。そういった場合はもちろんあります」
「よって、義務教育が終わってからというお主らの意思は尊重するが、出来るなら成人するまでには伝えた方が良いじゃろうな」
「なるほどな……アドバイス感謝するぜ、景光の爺ちゃん」
「礼には及ばん。しかし……真実を伝える事で柚希は少なからずショックを受けるはず。それについてはどうするつもりだ?」
景光さんが真剣な表情を浮かべながら訊くと、陸斗さんと七海さんは確信に満ちた目をしながら答えた。
「その時はしっかりと謝るし、柚希が嫌がっても傍にいるさ」
「そうだね。今まで愛情を注いであげられなかった分、一緒に話したり何かしたりしてあげないといけけないから」
「え……でも、それって解決になってるんですか?」
「んー……まあ、なってないのかもしれないな」
「だったら──」
「でも、柚希が受けたショックをどうにかしてやれる正しい解決法なんてのは初めから無い。
今のアイツの中には俺達を亡くした事による喪失感や自分にはいない両親とのふれあう他の子供達を見た事による羨望なんかがあり、真実を伝えた後も自分が本来いたはずの場所にいる柚瑠に対して色々な思いを抱くと同時に仕方なかったとしてもそれまで真実を黙っていた俺達にも色々な思いを抱くはず。そんなアイツの心の傷や隙間をどうにかしてやるなんて誰にも出来やしないんだよ」
「だから、私達は私達に出来る事を精いっぱいするだけだよ。過ぎ去った過去はどうにも出来なくても未来は自分達の手で作っていけるからね」
「未来を自分達の手で……」
七海さんの言葉を繰り返していた時、陸斗さんは僕の頭の上にそっと手を置いた。
「ああ。そして、その未来にはお前も絶対にいる。柚希からしたらすごく複雑だろうけど、真実を話した後にアイツがお前を拒絶するとは思ってないからな」
「どうしてそこまで確信出来るんですか?」
「それがアイツだってわかってるから、そして信じてるからだよ。アイツとはたった4年しか一緒にいられなかったけど、それでもアイツの事はわかってるつもりだ。
もちろん、わかってない事やわかってやれてないところはあるだろうけど、そこはこれからゆっくりとわかってやればいい。それが俺達が唯一してやれる事だからな」
「……それが家族っていう物なんですね」
「まあ、家族の形はそれぞれ違うだろうけど、俺達の場合はそうだと思ってる。お互いに言いたい事を言い合えなかったりしたい事をし合えなかったりするのは寂しいし、実の家族である俺達が他の誰よりもアイツの事を信じてやってわかってやりたいからな。
その上で正しい行いは応援し、間違った行いは正す。状況によって正誤は変わるだろうけど、その判断を下す前に話はしっかりと聞くつもりだしな」
「…………」
「だから、柚瑠も言いたい事があったら遠慮無く言ってくれて良いし、何かしたい事があったらやってみてくれ」
「間違ってると思ったら私達なりの意見は言うけど、基本的にはどんな事でも応援するつもりだから」
「……わかりました」
陸斗さん達の温かい言葉に頷きながら答えていた時、その温かさで僕の気持ちが落ち着いていくのを感じた。
たしかに家族の形はそれぞれで、陸斗さん達の思う形を否定する人もいるかもしれない。でも、少なくとも僕は陸斗さん達の思う家族という物が好きだ。お互いに意見を自由に言い合えて、正しい事は応援し合い、間違っていると思う事はしっかりと話し合う。
それが出来るのは、やっぱりお互いがわかり合おうとしているから、そして信じ合おうとしているからなんだと思う。
この人達と家族になれて本当に良かった。でも、陸斗さん達に甘えるだけじゃなく、僕自身も陸斗さん達から頼られ、信頼されるような存在にならなくちゃ。
拳を軽く握りながらそう思っていると、その姿を見ていた景光さんがくつくつと笑い始めた。
「……現代においてお主らのような人間がまだいようとはな。人間もまだまだ捨てた物では無いという事か」
「その言い方……爺ちゃん、あんた人間との間に何かあったのか?」
「いや、儂自身に何かあったわけではない。しかし、様々な場所を訪れていく中で人間によって住みかを追われたり辛い目に遭ったりした妖や獣と出会う事もあっただけじゃ」
「……たしかに現代は妖怪や野生の動物達にとって生きづらいかもしれませんね」
「ああ。そして、そんな奴らの話を聞く内に、儂も次第に人間達に対して失望をし始めていた。もちろん、人間の中には自然や動植物にも目を向ける者や古より伝えられる話を後世まで伝えようとする者もいる。しかし、自分達以外のモノ達を
昔に比べ、文明や科学などは進化したかもしれんが、他者を慈しむ心や関わり合おうとする気持ちは退化しているように感じていたのじゃよ」
「…………」
「じゃが、どうやらお主らは違うようじゃ。話を聞く限り、共に生きるという事の意味や大切さをしっかりと理解しているようじゃからな」
「景光さん……」
景光さんの言葉を聞きながら景光さんをじっと見ていたその時、景光さんは僕に視線を移した。
「小僧──いや、柚瑠。儂をお主の仲間に加えてはくれぬか?」
「え……それは嬉しいですけど、本当に良いんですか?」
「ああ。旅をする前に部下や家族達には別れを告げておるし、お主らのこれからに興味が湧いたからな。どうせ特に目的も決めずにしておった旅じゃ。そろそろそれを打ちきり、今までに得た知識や経験をお主らのために使うのも悪くなかろう」
「景光さん……」
「さて……柚瑠、お主の気持ちを聞かせてもらえるか?」
景光さんの言葉に少し緊張を覚え、どうしようと思いながらふと陸斗さんと七海さんに視線を向けると、二人はまっすぐな目をしながらこくんと頷いた。
……二人とも僕の気持ちを尊重しようとしてくれてる。僕なら正しい選択が出来ると考えてくれてる。だったら、僕はその想いに応えるだけ。
「……こちらこそよろしくお願いします、景光さん」
「……ああ、よろしく頼むぞ、柚瑠」
僕達が微笑みながら握手を交わしていると、明志さんはにこにこと笑いながら僕に話しかけてきた。
「ふふ、また食卓が賑やかになりそうですね」
「はい。でも、いつかはもっと賑やかになれば良いなって思ってます。この先僕達の仲間になってくれるモノ達だけじゃなく、シフルさんや柚希君も加えたみんなで何かを話しながら一緒にご飯を食べられる。そんな未来に出来るようにしていきたいです」
「ええ、そうですね」
「そんな未来に出来るように私達も精いっぱい頑張らないといけないね」
「ああ。でも、そのためにもまずはこの計画をしっかりと成功させないといけないな」
「うむ、そうじゃな。さて……では、そろそろ登録とやらに移るか、柚瑠よ」
「あ、はい……って、どうして登録の事を?」
僕が首を傾げながら訊くと、景光さんはくつくつと笑いながら答えてくれた。
「なに、ここに来る途中にシフルからその魔導書や登録についての話を聞いただけじゃ。じゃが……今思えば、シフルが儂を柚瑠の仲間にするために話をしたようにも思えるが?」
「ふふ、それはどうでしょうね」
「……まったく、いつも通り掴み所の無い奴だ。じゃが、この出会いをもたらしてくれた事には感謝せんといかんな。さて、話は一度ここまでにして、そろそろ登録に移るぞ、柚瑠」
「はい!」
大きな声で返事をした後、僕は白紙のページを開き、そこに景光さんと一緒に手を置いてから目を閉じた。そして、自分の『力』を注ぎ込むイメージを浮かべると、僕の中の『力』が掌の穴を通って『友の書』に流れ込んでいくイメージが頭の中に浮かび、それと同時に体の力が抜けていくのを感じた。
けれど、それをどうにか耐えるためにしっかりと足で踏ん張っていると、その内に全てが注ぎ込まれたという感覚があり、僕はゆっくりと目を開けた。
するとそこには、和室の中心に敷かれた座布団に座りながら穏やかな表情でお茶を飲む景光さんの姿とぬらりひょんについての詳細な情報が浮かび上がっていた。
「ふぅ……何とか今回も登録出来た……」
「お疲れ、柚瑠。けど、この先も仲間を増やすなら、少しでも体力をつけた方が良さそうだな」
「そうだね。後、妖怪や神話に出てくるモノ達についての知識も増やした方が良いかな。明志さんと景光さんは友好的な方だけど、必ずしも人間に友好的なモノばかりでもないからね」
「そう……ですね……」
そうだ。人間にも色々な人がいるように人ならざるモノ達にも色々いる。中には人間に危害を加えてくるモノだっているんだ。でも、出来るならそういうモノ達とも仲良くしたい。甘い考えなのかもしれないけど、話す事でわかり合える相手だっているはずだから。
そう思いながら決意を新たにした後、僕は景光さんのページに魔力を注ぎ込んだ。そして、『友の書』から景光さんが出てきた後、僕は景光さんに話しかけた。
「景光さん、居住空間はどうでした?」
「うむ、あらゆる力が程よく混じり合いながら流れていて中々住みやすいと感じたぞ」
「それなら良かったです。景光さん、改めてこれからよろしくお願いします」
「うむ、こちらこそよろしく頼むぞ」
そして、僕達が再び握手を交わしていると、シフルさんはにこにこと笑いながら僕達に話しかけてきた。
「さて、景光さんも新たに仲間に加わった事ですし、親睦を深めるためのお茶会でもしませんか?」
「お、それは良いな」
「うん、私も賛成」
「私ももちろん賛成です」
「僕も良いと思います」
「無論、儂もな」
「わかりました。では、全員で手分けをして準備をしましょうか」
その言葉に揃って頷いた後、僕達はそれぞれの役割を話し合ってから準備を始めた。そして、準備をする傍ら、僕がみんなの方をチラッと見てみると、人間である陸斗さん達と神様や瑞獣であるシフルさんと明志さん、妖怪の景光さんが種の壁なんて感じずに力を合わせている光景が目に入り、それに対して安心感を覚えながらクスリと笑った後、僕は割り振られた役割を果たすために作業を開始した。
政実「第1話、いかがでしたでしょうか」
柚瑠「この感じだと、遂に次回柚希君と出会う感じかな?」
政実「その予定かな」
柚瑠「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
柚瑠「うん」
政実・柚瑠「それでは、また次回」