転生者の幽雅な日常 ANOTHER   作:九戸政景

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政実「どうも、人ならざるモノとの出会いを果たしたい片倉政実です」
景光「ぬらりひょんの景光じゃ。これは……向こうでもやっておる奴じゃな?」
政実「はい。改めて説明をすると、このAFTER STORYは主人公の仲間になってくれたモノ視点で進む各話の後日談的な物で、こっちでは景光さんスタートです」
景光「なるほどな。さて、ではそろそろ始めていくとするか」
政実「はい」
政実・景光「それでは、FIRST AFTER STORYをどうぞ」


FIRST AFTER STORY 大妖と絆紡ぐ箏の音

「……ふぅ、今日も茶が美味いな」

 

 柚瑠達と出会った翌日の昼過ぎ、リビングの椅子に座りながら淹れてもらった茶を啜っていると、その姿を見た陸人がソファーに座りながらクスクスと笑い始めた。

 

「柚瑠の仲間になったのが昨日の事なのに、もうすっかり馴染んでるな。流石はぬらりひょんってところか?」

「さてな。しかし、こうしてしっかりと存在を認識された上でのんびりとするのは久しぶりじゃ。昨日までは色々な家をただ渡り歩いておったからな」

「ぬらりひょんってそういう妖怪だもんな。それじゃあ今みたいな形で誰かと茶飲み話をするのは久しぶりなわけか」

「うむ。たまにこの天上に来た時は、儂の事を視る事が出来る奴がおるから、今のように話をしながらのんびりと飲み食いをしていたが、下界はそうもいかん。

今の下界は儂らのようなモノ達が住みづらい世界になっている上、そもそも儂らを視認出来なかったり存在自体を信じない者もおる。そのため、下界で誰かと茶飲み話を出来る機会など中々無かったな」

「そうか……」

「じゃから、儂も最近はあまり下界での旅はせずに、天上をぶらつく事が多かったんじゃ。そして、久しぶりにシフルの奴に会いに行こうと思っとったら、偶然会った奴から例の話を聞き、興味を持ってついてきたというわけじゃな」

「なるほどな……」

 

 儂の話を聞いた陸人が納得顔で頷いていた時、リビングに七海が入ってくると、陸人は微笑みながら七海に話しかけた。

 

「七海、柚瑠はどうだ?」

「眠ってる。やっぱり、まだ目覚めたばかりだから慣れない事ばかりで疲れが溜まってるのかも。今は明志さんが傍にいてくれてるよ」

「そっか。まあ、最近まで柚瑠はずっと魂のままだったからな。こればかりは仕方ないさ。とりあえず今はゆっくり寝かしてやろう」

「うん。それじゃあ私は柚瑠君が起きそうなタイミングですぐにおやつを出せるように準備でもしようかな。陸人君、何かリクエストはある?」

「そうだな……七海の作る物なら何でもって言いたいところだが、そういう回答は作る側にとって一番困るわけだしな。ここは久しぶりに紅茶のクッキーにしようか。この前、兄さんが知り合いの神様から良い茶葉を貰ってたみたいだから、それを使わせてもらおう」

「わかった。景光さんもそれで良いですか?」

「うむ。しかし……お主らは本当に夫婦仲が良いんじゃな。たまに相手への不満を感じたりはせんのか?」

 

 その儂の問いかけに対して陸人は笑みを浮かべながら迷う事無く答える。

 

「しないな。七海とは本当に小さい頃からの付き合いだからどういう性格でどんな考え方をしてるかわかるっていうのもあるけど、俺達は相手の事を考えながら過ごすようにしてるから、七海に対して不満なんて感じた事は無いよ。そもそも俺が仕事に行ってる間に家の事をやってくれてる相手に不満なんて感じる方が失礼だしな」

「私も陸人君に不満を感じた事は無いです。陸人君にはいつもお仕事を頑張ってもらってましたし、家事を手伝ってもらう時がありますから、不満を感じる方がおかしいかなと」

「なるほどな……そういった考え方が自然に出来ておるから、お主らは常に仲睦まじくしていられるわけか」

「まあ、そうだな。それに、俺は勝手な考えや行動で七海を悲しませるつもりもないし、七海が悲しそうにしてるところなんて見たくない。大切な存在だからこそいつも笑っていてほしいんだ。七海には笑顔が一番似合うしな」

「陸人君……ふふ、でもそれは私も同じだよ。陸人君には結構お願いを叶えてもらってるし、これ以上に望む事なんて無い。

これ以上の事を望むなんてあまりにも強欲(ごうよく)だと思うし、それがきっかけで陸人君が苦しんだり傷ついたりするのは耐えられない。陸人君にはいつも明るく元気でいてほしいし、陸人君だって笑顔が一番似合うからね」

「七海……ああ、ありがとうな」

「ふふ、こちらこそありがとう、陸人君」

 

 笑い合う二人の笑みはとても幸せそうな物で、その姿から二人が本当にお互いの事を思いやり、お互いの幸せを心から願っているのがハッキリとわかった。

 

「……お主らの間には本当にたしかな繋がりがあるんじゃな。相手を自分に繋ぎ止めようとする呪いのような物ではなく、相手をしっかりと思いやりながら支え合おうとする温かな絆がな」

「そんな大層な物じゃないさ。そういえば、景光の爺ちゃんにはそういう相手はいないのか?」

「そうじゃな……旅をする前に別れを告げてきた家族や部下も大切な存在じゃが、それ以外で言うならばたった一人だけそう言える相手はおったな」

「おっ、そうなのか。それで、どんな相手なんだ?」

「お主らと同じ人間じゃよ。それもとても変わった奴じゃった」

 

 湯飲みの茶を一口飲んだ後、儂はその時の事を思い出し始めた。

 

「あれは儂が旅を始めて少し経った頃だ。元々、儂は旅を始める前は部下達や息子達と共に瓦版屋をしておってな。その時の癖か何か珍しい情報を聞きつけたら、すぐにそこに向かうようになっていた。

その時もそうで、人間達が山中にある集落にたった一人で住んでいる変わった人間の話をしていた時、その人間に興味が湧き、儂はすぐにその場へと向かった。

そして、その集落に来てみると、そこは空き家ばかりが並ぶ物悲しい場所で、すぐにでも消滅集落となり得るような場所だった。儂は様々な家の中を覗きながら歩き、件の人間の事を捜した。すると、どこからか箏の音色が聞こえ、儂がその音色を頼りに家を探し当て中を覗くと、そこには作務衣姿で箏を弾く銀髪を麻紐で結った年老いた男がいた」

「つまり、その爺ちゃんが噂の変わり者ってわけか」

「うむ。其奴は儂が見ているのにも気づいていない様子で箏を弾き、儂も演奏中に話しかける気は無かったため、演奏が終わるのを縁側に座りながら待つ事にした。

そして演奏が終わり、其奴は満足そうな顔をしながら頷き、ふとこちらに顔を向けると、ようやく儂がいる事に気づいたらしく、一瞬驚いた様子を見せたが、すぐに興味深そうな表情を浮かべながら話しかけてきたのだ」

「そのお爺さんは景光さんがぬらりひょんだという事は気づいていたんですか?」

「いや、気づいてはおらんかった。それで、痺れを切らした儂が正体を明かすと、其奴はまた一瞬驚いた程度ですぐに何事も無かったかのように話を始めた。

それには儂の方が驚いてしまってな、妖が目の前にいる事について恐怖などは感じないのかと訊いても、本当に恐怖を感じてはいなかったようで、儂はこやつは本当に変わり者だと思ったよ。お主らのように人ならざるモノとの関わりがあったわけでもなく、霊力などを有していたわけでも無かったしな」

「なるほどな……」

「儂はそんな奴に興味が湧き、しばらくその集落の内の一軒を借りて、奴の生活の様子を見てみる事にした。あそこには水質のよい井戸や果実の生る木も生えておったし、儂が見つけた家にはまだ寝具も残されておったから、生活を送るのは難しい事では無かったからな。

そして、奴の生活の様子を見てみると、奴は朝昼晩の三食を食べたり近くの川で体を洗ったり夜になって眠る以外の時間はずっと箏を弾くか箏曲を作るかしており、儂は奴にこんな生活は飽きないのかと訊いたが、奴は飽きるどころかその生活がとても満ち足りた物だと感じていた。まあ、世間から離れてしたい事をし続けられる生活はとても満ち足りているだろうな」

 

 その時の奴の顔を思い出して懐かしさを感じていると、陸人は顎に手を当てながら不思議そうに呟く。

 

「けど、不思議だよな。どうしてその爺ちゃんは一人でそこに住んでたんだ?」

「奴が言うには、あそこには移り住んだらしい。若い頃は別の地方にいたようだが、そこでの暮らしが奴には窮屈だったらしく、若い内に身辺整理をしっかりと行った上であの箏だけを持って安住の地を探した結果、あの集落に辿り着いたとの事だ」

「箏だけを持って……その人にとって箏はとても大事な物だったんですね」

「幼い頃に親から贈られ、それ以来ずっと弾いてると言っていた。奴にとっては無二の親友のような物だったのだろうな。奴があそこに移り住んだ頃はまだ他にも住民はいたらしく、時には自身の演奏を他の者にも聴かせていたと言っていたな」

「そっか……それからずっと住んでたって事は、ようやく安住の地を見つけられたわけだな」

「そうだな。それから集落に以前から住んでいた女子(おなご)夫婦(めおと)になり、子宝にも恵まれ、とても幸せな毎日を送っていたという。じゃが、その内に若い者は徐々に村を離れ、年寄り達は病や寿命で亡くなっていき、とうとう其奴の奥方も亡くなった。そして、最終的に奴一人のみが残ったわけじゃ」

「でも、子供はその爺ちゃんに声はかけなかったのか? 自分達と一緒に住まないかってさ」

「かけては来たようじゃが、奴自身がそれを断ったのじゃ。安住の地であるあそこを離れたくないという一心でな」

「そうだったんですね……」

「その選択に後悔をしていないかと訊いた事もあったが、奴はまったく後悔をしていなかった。やはり、奴にとってはあの集落こそが一番安らげる場所だったのだろう。まったく……白金(しろかね)の奴は本当に変わり者じゃったな」

「白金……それがその爺ちゃんの名前なのか?」

「いや、それは奴の楽士としての名じゃ。本名は他にあったようじゃが、あの地に住む際にその名は捨てたと言っていた。名前自体を忌み嫌っていたわけではないようだが、その時の自分はもう捨て、今は一人の楽士として生きていると言っていたから、過去との決別の意味があったのだろう」

 

 その話をする白金のスッキリとした顔を思い出し、小さくため息をついていると、七海はどこか羨ましそうな表情を浮かべた。

 

「でも……そうやって何からも縛られずに生きられるのは良い事ですよね。もちろん、ルールは必要になりますけど、必要以上のルールは設けずに生活出来るのはなんだか羨ましいかもしれませんね」

「うむ。引き締めるところはしっかりと引き締めるが、必要以上の事には縛られない。誰もがそういった生活を送れるなら良いのだが、そうもいかんからな」

「だな。それで、景光の爺ちゃんはそこにいつまでいたんだ?」

「そうじゃな……だいたい二年くらいはおったな。儂も旅の最中じゃったから、そろそろまた旅立とうと思い、その前日に白金にその事を話しに行った。奴はそれを聞いても特に驚いた様子も見せず、いつかそうなると思っていたと言っておった。

そしてその日の夜は、奴の家で酒盛りをしたのじゃが、その時に儂は本当にあの地を離れるつもりは無いのかと問うた。奴はそれに対して首を横に振った後、こんな事を言い始めたのじゃ。

『私がこの地にここまで拘るのは、私がこの地を安住の地として留まる事を決めたからだけではなく、何か運命のような物がそうさせているのかもしれない。まあ、本当にそうなのかはわからないが、私がここに留まる事で後に誰かが助かるのなら、私はここにいた意味があったのだろうね』

とな」

「運命のような物が、か……」

「まあ、奴も言っておったように本当にそうなのかはわからん。じゃが、少なくとも奴があそこにいた事で儂がとても有意義な二年間を過ごせたのは間違いない。これまで様々な人間を見てきたが、出会いに感謝した人間は白金とお主らくらいじゃからな」

「はは、そっか。そう言ってもらえるのは嬉しいもんだな」

「そうだね。そういえば、それから白金さんには会いに行ったりはしたんですか?」

「いや、行っておらんな。行ってみても良かったんじゃが、各地を巡っておる事で中々あそこまで行く機会も無くてな、あれ以来白金には会っておらんよ」

「そっか……けど、また会いたいとは思わないのか? 会いたいなら兄さん達の力を借りれば簡単に会いに行けると思うぜ?」

 

 陸人の問いかけに対して儂は首を横に振る。

 

「そうだろうな。じゃが、こう言ってはなんだが、奴もそろそろこちら側に来そうな程の歳じゃからな。待っておればいずれ天上で会う事もあるじゃろうし、その時を気長に待つわい」

「そうですか……」

「まあ、誰にでも等しく死は訪れるからな。それに、その白金っていう爺ちゃんは結構善人そうだし、この天上に来そうな気はするよな」

「うむ、そうじゃな。そして、白金に別れを告げ、旅を続ける中で儂は偶然シフルと出会い、今のような仲になったのじゃが、まさかあそこまで腰の低い神がいるとは思わんかったわい」

「兄さんはそういう奴だからな。基本的に誰に対して穏やかで優しいけど、怒る時には声を荒げはしないけどしっかりと怒る。それでいて正直者だし、時には子供っぽい悪戯も好き。そんな兄さんだからこっちでも下界でも色々な奴から好かれたんだろうな」

「そうかもしれんな。そして、旅の中で儂は自分自身も様々な人間の姿を見かけ、旅の中で出会った妖達から昨今の人間についての話を聞いたが、時が経つに連れて人間達は徐々に変わっていった。

我らを恐れず信じなくなったのもあるが、自分以外の動植物をまるで奴隷のように扱う者や同じ人間すらも自身の欲求を満たすために利用する者も確実に昔よりも多くなっていた。

その姿を見た儂は人間に対して失望し始めていたが、それでも完全に失望しなかったのは、やはり白金がおったからだと思っておる。どこかにきっと奴のような人間もいるだろうという希望を抱き続けられたのは、間違いなく奴のおかげじゃな」

「そっか。それで、天上に来る機会が増えて、久しぶりに兄さんに会いに行こうと思ったら俺達と出会って今に至るわけだな」

「うむ。白金と同じように善良な人間であるお主らと出会い、こうして仲間になれたのは本当に幸運だったと思っておるさ」

「ははっ、そう言ってもらえて嬉しいよ。けど……」

 

 その瞬間、陸人の顔が曇る。

 

「息子達に対して隠し事をしてる俺達は本当に善良と言えるのかな」

「その話はシフルの奴から軽く聞いたが、内容が内容だけに仕方ないだろう。お主らの実子の件もそうだが、()()()()も今は話すべきでは無いだろうからな」

「はい……話すとすれば、義務教育が終わる頃だろうとは思っているんですが、話した時に柚瑠君がどう思うかが心配で……」

「まあ、他の者であればそうかと思う事かもしれんが、柚瑠はどうかわからんからな。じゃが、いつかは話さんといかんからな。その時が来るまでに気持ちの準備をしておくしかあるまい」

「……だな。それが柚瑠と共に歩む事を決めた俺達の為すべき事だからな」

「うん。その時に柚瑠君がどう思うかはわからないけど、柚瑠君の事をしっかりと支えられるようにはしておこう」

「ああ。景光の爺ちゃん、話を聞いてくれてありがとうな。爺ちゃんがいてくれて本当に助かったよ」

「礼などいらんさ。そうする事を選んだのは儂じゃからな。陸人、七海、柚瑠だけでなくお主らの事もしっかりと支えていくつもりじゃから、これからもよろしく頼むぞ」

「ああ、よろしくな」

「よろしくお願いします、景光さん」

 

 そうして陸人達と笑いあった後、七海は柚瑠が起きてきた時用のおやつの準備を始め、儂と陸人は再び話を始めた。

旅の最中に出会った白金と旅の果てに出会った柚瑠達。この二つの出会いが無ければ、儂は人間に対して失望をしたままつまらん余生を過ごしていたかもしれない。そう考えるならばやはりこの奇跡のような出会いには感謝をせねばならないだろうな。

 

 もっとも、この先も様々な出会いがあるじゃろうがな。くく……さて、果たしてどのような出会いがあるのか今から楽しみにさせてもらおうか。

 

 陸人と話しながらこの先の未来で出会うであろうモノ達の事を考え、ワクワクしてくるのを感じた。




政実「FIRST AFTER STORY、いかがでしたでしょうか」
景光「今回は儂の過去についての話じゃったが、あちらでもこちらでも最初に仲間になったモノから始めていないのは何か理由があるのか?」
政実「そんなところです」
景光「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価なども待っておる故、書いてくれるなら嬉しいぞ。よろしく頼む」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていきましょうか」
景光「うむ」
政実・景光「それでは、また次回」
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