ヌール「どうも、ホルスのヌールだ」
政実「という事で、今回はヌールのAFTER STORYです」
ヌール「俺の話か……果たしてどのような話なのだろうな」
政実「まあ、それは読んでもらってからのお楽しみという事で」
ヌール「わかった。さて、それではそろそろ始めていくか」
政実「うん」
政実・ヌール「それでは、SECOND AFTER STORYをどうぞ」
「……よし、朝の散歩はこんなもんで良いか」
空が晴れ渡った気持ちの良いある日の事、眼下にある街並みを眺めながら独り言ちた後、俺は穏やかな日差しを背に浴びながら家に向かって飛び始めた。そして、家の開け放たれた二階の窓からスーっと入っていくと、机に向かいながら本を読んでいた柚瑠が顔を上げてにこりと微笑む。
「おかえり、ヌール君。今日の飛び心地はどうだった?」
「ああ、今日も良い感じだった。ところで、柚瑠は何を読んでいるんだ?」
「エジプトの神話についての本だよ。こっちはエジプトの歴史についての本で、そっちが色々な妖怪について書かれた本や中国の神話の本だね」
「そうか……それにしてもいくら今日が休みの日だからといってそんなに読めるのか?」
「うん。集中して何かをするのは得意だし、明志さんや景光さん、そしてヌール君とはもっと仲良くなりたいから、みんなに関する事は色々知っておきたいんだ」
笑みを浮かべながら柚瑠は言うが、机の上に置かれた本はどれもそこそこ厚く、俺から見ればこれらを今日だけで読むというのは苦労しそうだった。
「柚瑠……お前は本当にすごいな」
「ううん、すごくなんてないよ。それに、誰かと仲良くなりたいなら、まずはその人の事を知るのは当然だからね」
「……そうだな。何も知らないのに仲良く話をしたり一緒に何かをしようとするのは難しいからな」
「うん。せっかくこうして一緒にいるからには、いつでも楽しく過ごしたいからね。そのために僕は色々な事を知りたい。知らなかった事で相手を悲しませたり怒らせたりするのはやっぱり良くないから」
「柚瑠……」
微笑みながら話す柚瑠の姿がどこか大人びた物に見えていた時、柚瑠は小さく拳を握りながら真剣な表情を浮かべる。
「それに、僕には絶対に達成したい目標もあるからね。でも、それを達成するには知識や体力だけじゃなくて僕自身の成長も必要だ。だから、僕は色々な事に挑戦して自分自身をもっと高めたい。そうじゃなきゃ彼を、柚希君を支えられはしないから」
「柚希……この家に本来住んでいた奴で、今はシフルさんの家にいるんだったな」
「そう。彼は僕なんかよりもずっと大人で強い子だけど、その裏では強い哀しみに耐えている。だから、僕はそんな彼の支えになりたいんだ。それに、彼の事はなんだか他人には思えないしね」
「他人には思えない、か……もしかしたらお前と柚希は何か前世で縁があったのかもしれないな」
「ヌール君もそう思う? 僕もそうかなと思ってそれを柚希君に話してみたら、柚希君も僕にどこか懐かしさみたいな物を感じてたみたいで、僕達が出会った事で眠っていた前世の記憶みたいなのが呼び覚まされたんじゃないかって言ってたよ」
「ふむ……まあ、その可能性はありそうだな」
「そんな縁がある柚希君と少しでも繋がりを持てた以上、僕は柚希君の助けになりたいんだ。言ってみれば、今の僕は柚希君が本来いた位置にいさせてもらってるような物だから、この先の未来で柚希君がこの位置に戻ってきた時には柚希君がすぐに父さん達とまた幸せになれるようにするのは僕の務めだからね」
「なるほどな……」
「だから、僕は今の内から色々な物を取り入れて、本当に強い僕を目指したい。もちろん、ヌール君達と一緒にね」
優しい笑みを浮かべる柚瑠の姿に少しだけ安心感を覚えた後、俺はここに来る事になった経緯を想起した。
ホルスの父親と神力を取り入れた普通の隼の母親の間に生まれた俺は腹違いの兄弟達を含めた家族から愛情を与えられながら育った。しかし、他の兄弟達が神と神の間に生まれた子である中で自分だけが違う生まれである事で親父達が何か理不尽な目に遭う事を恐れ、親父達には何も告げずに家を出た。
そして宛もなく飛んでいた時、様々な力が混ざりあった物の気配を感じ、少し警戒をしながらその気配の主の元へ飛んでいった結果、柚瑠達と出会ったのだった。
柚瑠達は俺の話を聞いてくれた上で俺のこれからについて考えてくれたり親父としっかり気持ちを通じ合うための機会をくれたり、と初めて会う俺に対して様々な事をしてくれた。そして、俺達の総意によって柚瑠達の元で成長をする事に決め、こうして乙野家に世話になっているのだった。
本当に偶然ではあったが、こうして乙野家に世話になる事になったのは本当に幸運だった。柚瑠達にはとても良くしてもらっているし、明志さんや景光さんからは力の特訓や他のモノについて教えてもらえているからな。
親父達には迷惑と心配をかけてしまったが、こうして出てきたのは結果として良かったのかもしれないな。
そんな事を考えていた時、ふと頭の中にある考えが浮かんだ。
「そういえば……あの時、柚瑠は自分は魂が半分しかない歪な存在だと言っていたが、そのもう半分の魂の持ち主はどうしているんだろうな」
「うーん、どうだろうね。シフルさんが言うには、無事に転生を果たしたみたいだけど、それは僕が目覚めるよりもかなり前の話みたいで、そもそもこの世界にいるとは言ってないから、僕には知る術が無いかな」
「そうか……だが、もしも会えるなら会ってみたいか?」
「そうだね。今どんな生活をしていて、どんな人生を送ってきたか興味があるから。もっとも、向こうも前世の記憶は無いだろうから、たとえ出会えてもわからないだろうけどね」
「そうだろうな」
「ただ、もしも出会えてその人が何かで困っていたら、僕はその人の力になりたいかな。魂の片割れだからっていうわけじゃなく、困っている人を放っておく事が出来ないからね」
笑いながら言う柚瑠の姿を見た後、俺はふと浮かんだ疑問を柚瑠にぶつけた。
「……柚瑠は常に誰かの助けになりたいと思っているのか?」
「まあ、そうだね。もちろん、本当に助けを必要としていない人や助けない方が良い人も世の中にはいるだろうけど、それ以外の人だったら助けたいって思うよ。
助ける事で感謝をされたいわけじゃないけど、それで誰かが幸せになれるなら僕はそれで良いと思うんだ」
「……その結果、自分が不幸になってもか?」
「うん。誰かが悲しんだり苦しんだりする方が僕にとっては辛いから」
「柚瑠……」
柚瑠の思いは別に悪くはない。誰かの幸せを願いながらしっかりとした行動を取れる奴は決して多くはないし、まだそこまでは出来ないまでもそれを目指そうという姿勢はとても良い物で、俺自身も見習わないといけないとは思う。だが……。
「……そのままだと誰も幸せには出来ないぞ」
「え……?」
俺の言葉に柚瑠は驚く。自分が思っていなかった事を俺から言われたのだからそれは当然だろう。俺はそんな柚瑠の驚く顔を見ながら言葉を続けた。
「柚瑠、お前のその他人の幸せを考えながら行動をしようという考え方は悪くない。そのおかげで救われる奴も少なからずいるだろうからな」
「う、うん」
「だが、相手の幸せを感じる理由の中にお前が含まれていないという根拠はあるのか?」
「あ……」
「陸人さん達や明志さん達、それに入学式に仲良くなった一騎達はお前の事を好いているし、お前が何か怪我をしたり病気に罹ったりしたら心配になるだろう。
そんな人達がいてくれる中で、お前が自分が不幸になってでも誰かを救おうとするのは良くない。その行動によって少なくともその人達だけは辛い思いをするからな」
「それは……」
「だから、自分を犠牲にするような真似だけは止めた方が良い。本当に他人の幸せを願おうというのなら、相手が本当に求めている物をしっかりと感じ取り、そのために動く必要があるからな」
本当は勝手な真似をして親父達を心配させた俺が言えた事では無いのかもしれない。俺自身も親父達のこれからを考えて出てきた結果、親父達を心配させた上にシフルさんや柚瑠達にも関わらせてしまったから。
けれど、そんな俺に対して手を差し伸べ、共に歩もうと言ってくれた柚瑠だからこそ俺は伝えたかった。柚瑠には同じような真似をして欲しくないし、俺を含めて柚瑠の事を常に案じている相手がいる事を忘れて欲しくないから。
「……だから、自分の身に危険が及ぶかもしれない事が出てきても、まずは自分の安全を優先してくれ。相手の心配をしたくなる気持ちはわかるが、お前が誰かに手を差し伸べるためには、まずお前自身が万全でないといけないからな。
その後でなら、俺達もお前のためにしっかりと動こう。お前の身の安全を確保出来ていない状態で行動をして、お前の命を失うような事になっては、俺達も辛いし、再びお前に生きるチャンスをくれたシフルさんや家族として大切にしてくれている陸人さん達に申し訳ないからな」
「ヌール君……」
「それと、自分が何かやりたい事があったら、それを隠さずに誰かに言ってみろ。先程から聞いていると、お前は他人を優先し過ぎる所があるようだからな。
そのままだと、何かやりたい事があっても他人の事を考えてそれを言わずに終わらせてしまう可能性がある。だから、もしもこの先の人生で何かやりたい事があったら、俺達や陸人さん達、一騎達にまずは言ってみろ。
よっぽどの事じゃなければ、みんなそれを否定はしないだろうし、もしかしたらお互いに納得出来る折衷案を出してもらえるかもしれないからな」
「……うん、そうだね。ありがたい事に僕の周りには僕を大切にしてくれている人達や友達だと思ってくれている人達がいる。その人達に幸せになってもらうには、まずは僕自身も楽しさや嬉しさを感じてないといけないよね」
「そういう事だ。まあ、明志さん達や陸人さん達だったら、もっと別の言い方も出来たかもしれないが、俺ではこのくらいが限界だ。すまないな」
「ううん、良いよ。そもそもそういう事を言ってもらえる事自体が幸せな事だからね。ありがとう、ヌール君」
「どういたしまして。だが、俺だって今だからこういう事を言えるんだ。今もそうだが、柚瑠達と出会う前の俺はとても未熟だった。相手の気持ちを勝手に決めつけて、それを良しとしていたからな。
しかし、柚瑠達と出会って相手としっかりと話して気持ちを伝え合う事の大切さや想われる事のありがたさを知ったからこそ今の俺がいる。だから、本来お礼を言うのは俺の方なんだよ」
ニッと笑いながら言うと、柚瑠は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに嬉しそうに笑った。
「そっか。それじゃあ僕は、自分がやった事のお返しをしてもらったわけだね」
「そういう事だ。まだ出会って間もない俺が言うのもあれだが、柚瑠の良いところはその穏やかな雰囲気で相手の気持ちを安らかにさせたり相手の気持ちに寄り添いながら話が出来るところだ。実際俺も柚瑠のそういうところに救われたような物だからな。
だから、俺は自分自身の成長をしながら柚瑠がいつでもそういうやり方をしていけるようにサポートしていく。俺と同じように柚瑠のそういうところに救われる奴がこの先もいるかもしれないからな」
「ヌール君……うん、ありがとう。えへへ……」
「ん、どうした?」
「いや、色々言ってくれるヌール君が頼もしくて、僕にお兄さんがいたらこんな感じなのかなって思ったんだ」
「なるほどな。だが、それなら柚瑠の方が兄貴だろう。親身になって話を聞く事で相手の心の拠り所になって、安心感を与えてくれてるわけだからな」
「ヌール君……」
「まあ、まだ少し頼りなさそうな所もあるけどな」
ニッと笑いながら言うと、柚瑠はムッとした。
「もう、ヌール君!」
「ははっ、そう怒るな。ただ、お前の事はそれくらい頼りになる存在だと思っている。少なくとも何か困った事があったら、一番に相談をしたいと思うくらいにはな」
「……そっか」
「ああ。柚瑠、俺をその光で闇の中から救い出してくれてありがとう。今度は俺が皆の太陽になれるように頑張っていくから見ていてくれ」
「うん、わかった。でも、ただ見ているだけじゃなく、そのために僕も全力でサポートさせてもらうね」
「ああ、よろしく頼む」
優しい笑みを浮かべる柚瑠に対して微笑み返した時、胸の奥が徐々にポカポカしてくるのを感じた。そして、その春の陽気のような温かさは俺に安心感をもたらすと同時にこれからに向けてのやる気も出させてくれた。
先にも言ったように俺はまだ未熟な若造で、柚瑠を支えようとするのは明志さん達の方が適任だろう。だが、歳の近い俺だからこそ話しやすい時もあるだろうし、気づきやすい事もあるはずだ。
そして何より、この心の闇を優しく照らしてくれる太陽のような存在を沈ませたくないという気持ちが俺の中にある。だからこそ、俺は柚瑠と共に歩む。歩幅を合わせ、すぐ近くで柚瑠の支えになるために。
柚瑠との絆の温かさ、そして胸の奥で燃える決意の炎という二つの熱をしっかりと感じ、俺はそれらを決して冷ますまいと思いながら拳を握る代わりに翼にしっかりと力を込めた。
政実「SECOND AFTER STORY、いかがでしたでしょうか」
ヌール「今回は俺が決意を新たにする回だったな。ところで、俺達が向こう側のメインキャラ達と出会うAFTER STORYもあるのか?」
政実「それはまだ考え中かな。ただ、そのパターンも面白くはなりそうだから、出来そうならこっち側のメインキャラと一緒に出会う形にはなるかな」
ヌール「わかった。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価なども待っているから、書いてくれると嬉しい。よろしく頼む」
政実「さてと……それじゃあそろそろ締めていこうか」
ヌール「ああ」
政実・ヌール「それでは、また次回」