転生者の幽雅な日常 ANOTHER   作:九戸政景

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政実「どうも、秋生まれで寒さに弱い片倉政実です」
柚瑠「どうも、乙野柚瑠です。そういえば、秋生まれなんだね」
政実「うん。だからか秋は好きな季節の一つで、夏が終わって秋になると色々楽しみになるんだよね」
柚瑠「なるほどね。さてと、それじゃあそろそろ始めていこうか」
政実「うん」
政実・柚瑠「それでは、第六話をどうぞ」



第六話 涼しげな秋と神殺しの魔狼

 夏の暑さも少しずつ無くなり、涼しさから肌寒さへと 変わり始める秋。そんな秋のある日、四人 で一緒に登校していると、赤いマフラーをつけて いた泉ちゃんが寒そうに体を震わせる。

 

 

「さむ……最近、かなり寒くなってきたわね」

「そうだね……冬になったらもっと寒くなるし 今の内から体調には気をつけないとね」

「まあね。そういえば、エジプト組って寒さはどうなの? やっぱり暑いところだけど夜は冷えるから寒さは大丈夫だったりする?」

「三人とも大丈夫みたい。特にイスウィド君が心配だったけど、このくらいで寒いとは言っていられないって言ってたよ」

「それ、本音は寒いって言ってるじゃないか」

 

 

 晶夏ちゃんがクスリと笑う中、泉ちゃんが小さくため息をつく。

 

 

「はぁ……今度会った時、イスウィドに文句を言わ れるわよ?」

「ははっ、それは怖いね。けど……やっぱり不思議なもんだ。神様や妖怪なんてモノ達が実在していた事もそうだけど アタシ達がソイツらと友達だなんてさ」

「たしかにそうだが、晶夏と柚瑠もそれに負けず劣らず不思議な存在だろ? 二人は転生者なんだからな」

「それはたしかにね」

 

 

 打ち明ける前と直後は不安と恐怖で押し潰されそうになっていて、みんなから拒まれたらどうしようという恐怖でいっぱいだった。

 

 けれど、三人はその事を受け入れてくれ、 『友の書』のみんなとも仲良くなってくれた。その事は本当に嬉しかったし、安心感から涙を流してしまう程だった。

 

 その後、実は晶夏ちゃんも転生者であった事もわかり、晶夏ちゃん提案のお泊まり会は本当に僕達にとって様々な物が変わった一日になった。

 

 

「何と言うか……僕達くらいだよね。あんな風にお泊まり会であそこまでの秘密を打ち明けあったのって」

「そうだろうな。父さん達が学生の頃は恋愛話で盛り上がったそうだが、俺達は人ならざるモノ達との会話で盛り上がっていた。こんなお泊まり会はそうそうないはずだ」

 

 

 一騎君の言葉に僕はクスリと笑う。

 

 夏休みに四人でやったウチでのお泊り会。そこで僕は三人に全てを話した。新しく仲間になってくれたアビヨッド君が提案してくれた事で僕は打ち明けてる決意を固める事が出来たのだ。

 

 

「そうそうどころか基本的にないでしょ。でも、正直な事を言えばとても有意義な出会いだったわ。明志さんや景光さんのような知識人との会話は勉強になるもの」

「たしかにな。これからも色々なモノ達と出会えるのは楽しみだが、必ずしも俺達に対して友好的では無いんだろうな……」

「そうだね。でも、出来るならそういうモノ達とも仲良くなりたい。難しいのはわかっているけど、それでも色々なモノと仲良くなっていきたいんだ」

「だいぶ欲張りね。けど、柚瑠らしいと思うしそれを実現したいなら頑張りなさい。私も……まあ、応援くらいはしてあげるから」

「泉ちゃん……」

 

 

 軽く頬を赤くしながら泉ちゃんが顔を背けているとそれを見ていた晶夏ちゃんはクスクス笑う。

 

 

「泉は本当に素直じゃないね」

「うるさい。でも、二人だって気持ちは同じでしょう?」

「ああ、もちろん。アタシ達だって新しいダチとの出会いは楽しみだからね」

「ヌールのように特に仲良くなれる奴もいるかもしれないしな」

「あはは、可能性は──」

 

 

 笑いながら答えていたその時だった。

 

 

「おはようございます。柚瑠君」

「え? あ….…」

 

 

 そこにいたのは、スーツ姿の天斗さんであり、 いきなりだった僕も驚いたけれど、初めましてである泉ちゃん達はもっと驚いていた。

 

 

「天斗さん……おはようございます」

「ふふ、驚かせてしまいましたね。そちらは……学校のお友達ですね?」

「あ、はい。みんな、こちらは遠野天斗さん。父さん、陸斗さんのお兄さんで僕の事を転生させてくれた神様だよ」

「初めまして、皆さん。よろしくお願い致しますね」

 

 

 天斗さんが微笑みながら言うと、三人は天斗さんの雰囲気に圧倒されているのかとても静かに頷くだけであり、その様子を見てクスリと笑ってから僕は天斗さんに話しかけた。

 

 

「天斗さん、僕に何か用事でしたか?」

「はい。今すぐにというわけではないですが、 後で諸事情でお家にお邪魔させてもらうのでそれをお知らせに来ました。と言っても出勤途中に姿を見かけたからでもあるんですけどね」

「諸事情……それは柚希君に関連した事ですか?それとも……」

「柚希君に関する事ではないですね。少々柚瑠君達にお願いしたい事があるのです」

「お願い事……わかりました。お待ちしてますね」

「ありがとうございます。では」

 

 

 そう言って天斗さんが行こうとしたその時、僕はある事を思いついた。

 

 

「あ、天斗さん」

「はい。なんですか?」

「柚希君は……柚希君はあれから元気ですか?」

 

 

 僕は不安を感じながら問いかける。

 

 初対面となったあの日から僕も父さん達も柚希君とは会っていない。別に不仲というわけでもないし、僕達としてはまた会って話したいと思っている。けれど、柚希君はあまり乗り気ではないのだという。

 

 柚希君もまた会って話したいとは思っているらしいけれど、僕達が住んでいる家は生前の父さん達が抽希君と住んでいた家だ。

 

 だから、またウチまで来るとなったら柚希君はその時の事を思い出して辛くなってしまうし、僕達と会ったとしても今の柚希君にはもうない親子の姿は心を傷つける原因にもなる。

 

 その事を考えて僕達は無理に会いに行く事はせずに柚希君が会いに来るだけの気持ちが整ったその時に会う事にしていて、その事を柚希君にも伝えていた。

 

「まだ会わないとは決めていてもやっぱり気になっちゃって.……」

「柚希君はとても元気ですよ。お家のお手伝いも 率先して手伝ってくれますし、学校で出来たお友達と切差琢磨しながら勉強も運動も頑張っていて、夏頃から始めた合気道にも熱心に取り組んで います」

「そうですか...….父さんが天斗さんから様子を聞いてきてはくれていますけど、こうして天斗さんから直接聞く事が出来るとよりホッとします」

「ふふ、それだけ柚瑠君が柚希君の事を気にかけているという事ですよ。柚希君も柚瑠君達の事は本当に気にしていて、会いに行けない事を申し訳なく思っていました」

「でも、それは仕方ないですよ。柚希君の気持ちを考えたら来ようと考えるだけでも覚悟がいりますし。

 なので、本当に無理はせずに自分のタイミングで良いから、その時を楽しみにしながらお互いにこれからも強くなっていこうと言っていたと伝えてもらってもいいですか?」

「はい、しっかりと承りました。それでは今度こそ私も行きますね。柚瑠君もお友達の皆さんもお勉強頑張ってくださいね」

「ありがとうございます。天斗さんもお仕事頑張ってくださいね」

「はい、ありがとうございます。では」

 

 そう言って頭を下げた後、天斗さんは歩き去っていった。その姿を見送っていると、黙っていた晶夏ちゃんがポツリと呟いた。

 

 

「見てくれは優しそうな兄さんだけど、雰囲気はスゴかったね」

「そうだな…….あれが力の強い神様の雰囲気なんだろう」

「そうね。それにしても、柚瑠へのお願い事って 何なのかしら?」

「わざわざ後で家まで来るくらいだし……って、 結果的に後で会うならその時に伝言をお願いしても良かったんじゃないのかい?」

「……あ」

 

 

 晶夏ちゃんの言葉を聞いて僕がその事に気づいていると、泉ちゃんは呆れたようにため息をついた。

 

 

「はあ……柚瑠って本当に天然よね」

「あはは、今更になってそういえばって思ったよ」

「何というか柚瑠らしいけどね。あ、そういや……あの天斗さんが柚瑠を転生させたんだったよね」

「うん、そうだよ」

「だったらさ、アタシを転生させたのもあの人なのかなって思ってね」

「あ、なるほど」

 

 

 晶夏ちゃんの予想は当たっているかもしれない。前に天斗さんは天上であらゆるもの 生死を担当する部署にいると 言っていたし、実際に僕を転生させている。

 

 だから、晶夏ちゃんを転生させたのが、 天斗さんだったとしても違和感はない。

 

 

「気になるなら今日の帰りにウチに寄っていく? 今日は空手の練習はお休みだし、一騎君と泉ちゃんも良かったら……」

「ああ、せっかくだからお邪魔しよう。泉はどうする?」

「聞く必要ある? 天斗さん……だったかしら? あの人が何を頼みたいのか気になるから」

「うん、わかった。それじゃあ放果後はそのままウチまで行こうか」

 

 

 その言葉に三人が頷いた後、僕達は他愛ない話をしながら学校へ向けて歩き始めた。

 

 放果後、僕は『友の書』を持ちながら泉ちゃん達と歩いていた。一騎君の肩にはヌール君が留まり、泉ちゃんと晶夏ちゃんの間にはえぬちゃんが挟まっていて、その光景に僕は安心した。

 

 

「みんなが仲良いのを見るとやっぱり安心するなぁ」

「先日の件でお互いに交流し、その後も袖瑠の図らいで会話をしたりお互いの事を伝えてもらったりしていたからな」

「歳が近い事もそうだが、性格や趣味などが同じ たったりすると気が合いやすいのかもな」

「だから私達も仲良しだもんね」

「そうだね」

「私の場合は少なくとも嫌いという程ではないだけだけど」

「もう、泉ちゃんったら照れ屋なんだからあ」

「照れてないから」

 

 

 泉ちゃんはピシャリと言うが、えぬちゃんは至って 気にしていない様子でありこれを見ていた僕達はクスリと笑った。

 

 そして歩く事数分、僕の家に着いて玄関のドアを開けると、そこには明志さんと話す母さんがいた。

 

 

「母さん、明志さん、ただいま」

「柚瑠、おかえりなさい」

「おかえりなさい、抽瑠君。皆さんもこんにちは。これからお家で遊ぶご予定でしたか?」

「いえ。晶夏ちゃんは天斗さんに質問があって、 泉ちゃんと一騎君は天斗さんからのお願い事について知りに来たんです」

「天斗さんの……ああ、そういえば陸斗君もお昼に教えてくれたよ。柏瑠にお願いしたい事があるようだって」

 

 

 母さんがニコリと笑いながら言っていると、泉ちゃんは少し驚いた様子を見せた。

 

 

「そういう事も報告してるんですか?」

「うん。私達って小さい頃から結構こういうのがあったとかこれがおもしろいみたいだとか話したんだ。だから、今もお昼と夕方には陸斗君から連絡が来るの」

「母さん達的にはお互いの安否確認みたいな物みたいだね」

「あ、そういえば亡くなったのって交通事故が原因でしたね……」

「そう、だから定期的に連絡をする事でお互いの 状況を知る事も出来るし、実際に声を聞く事も出来る。

 それに、朝のいってらっしゃいと帰ってきた時のおかえりなさいとお疲れ様以外にも頑張ってねと 気をつけて帰ってきてねも言ってあげられるからね。挨拶はやっぱり重要なコミュニケーションでもあるから大事にしたいの」

 

 

 微笑みながらそう言う母さんの姿に三人は心を打たれたようだった。二人が挨拶を大事にしているのは小さい頃からのようであり、 僕達もそれにならって挨拶はきっちりとするようにしているし、柚希君もそうしているようだ。

 

 僕もこのやり方は好きだし、これからもやっていきたいと思っている。それだけ気持ちの良い事だと思っているし、あいさつの大切さはわかっているからだ。

 

 その事を考えながらうんうんと頷いていると和室のから景光さんが顔を見せた。

 

「何やらにぎやかだと思ったが……お主らだったか」

「景光さん。ただいま戻りました」

「うむ、おかえり。お主らもよく来たな」

「はい、お邪魔します」

「「お邪魔します」」

 

 三人が答えた後、僕達は家の中へと入った。約一時間後、玄関のドアが開く音が聞こえて僕は廊下に出た。

 

 すると、そこにはスーツ姿の父さんと天斗さんの姿があり、 僕はおかえりなさいを言おうとした。

 しかし、父さんの腕の中にいるモノを見て僕は足を止めた。

 

 腕の中では銀色の毛並みの狼のような小さな動物がおり、それだけならまだ不思議ではないけれど、その狼の足や体は神力を宿した紐が巻きついていたのだ。

 

「え……父さん、その狼は?」

「ただいま、柚瑠。まあ、流石に驚くよな」

「それは……あ、おかえりなさい」

「よしよし、忘れなかったな。それでコイツなんだが……」

 

 

 父さんが説明をしてくれようとしたその時だった。

 

 

「え……な、なんでそれがここに……!?」

 

 その声を聞いて背後を振り返った。すると、声を聞きつけたらしい泉ちゃん達の姿があったが、 不思議そうにしている晶夏ちゃんと一騎君に対して泉ちゃんは信じられない物を見るような目で見ていた。

 

 

「泉ちゃん……?」

「それ……フェンリルじゃない!」

「フェンリル……あれ、何だか聞いた事あるような……」

「柚瑠……どうして貴方の方が不思議そうなのよ。その狼は恐らくフェンリル、北欧神話に伝わる神殺しの魔狼よ」

「おお、泉ちゃん。大正解だ」

 

 父さんは感心したように笑み、フェンリルの頭を 撫でた。

 

 

 フェンリル

 

 北欧神話に登場する狼の姿をした怪物であり、ロキとアングルボザの間に生まれた子供でもある。神々の黄昏の際に自身の戒めであるグレイプニルを解いてロキの兄弟であるオーディンを食い殺すとされる北欧神話において最強の魔獣の一角とも言われている。

 

 

 フェンリル……言われてみればそんな異名を持っていて、本来はもっと大きいはず……って、あれ?

 

「泉ちゃんがどうしてそれを?」

「う……この前から様々な人ならざるモノ達について調べていただけよ。ほら、柚瑠の事情を知った以上、これからも人ならざるモノと関わるわけだから、色々知っておいて損はないでしょ?」

「泉ちゃん……ありがとう。 さっき泉ちゃんが言っていたように本当は僕がちゃんとするべきだけど、泉ちゃんが色々調べてくれたのは嬉しいし、とても心強いよ」

「そ、そう……それはよかったわ」

「僕も頑張らないと……でも、どうしてフェンリルがここに?」

「そうですよ。フェンリルはたしか討たれて、命を落としたはずじゃ……」

「その通りです。なので、この子はその転生体という事になりますね」

「転生体という事はこのフェンリルは子供という 事ですね。それにしても何だか可愛いなぁ」

 

 

 父さんの腕の中にいるフェンリルは見た目は可愛いらしい仔犬のようであり、子供ながらも狼らしい凛々しさもあった。

 

 そしてフェンリルは話し声で目を覚ましたのか 大きな欠伸をし、不思議そうに周囲を見回したそして、僕の顔を見ると、フェンリルは一瞬首を傾げたけれど、すぐに嬉しそうに一鳴きし、ハッハッと舌を出し始めた。

 

「可愛い……天斗さん、もしかして僕へのお願い 事ってこの子の事ですか?」

「その通りです。このフェンリルの幼体を柚瑠君 に育ててほしいと思っています」

「この子を……」

「けれど、大丈夫なんですか? フェンリルは

 さっき言ったような異名もある上に神々の黄昏(ラグナロク)にも関わっていたような存在ですよ?」

「神々の戦い……」

「なんかすごくスケールの大きな言葉が出て来たね……」

 

 

 泉ちゃんの言葉に一騎君達が驚く中、天斗さんは優しく微笑む。

 

 

「大丈夫ですよ。この子の力は遥かに弱体化していますし、狂暴性もありません。 今は多少活発的にはなっていますが、それは転生した際に一度幼少期に戻ろうという考え方をなさったからなので問題ありませんよ」

「それなら......いや、それでも、フェンリルが家に いる状態って中々なような……」

「神話の存在が目の前にいるだけじゃなく、家では一緒にいるわけだしね。 ただ、もうヌール達もいるし、柚瑠からすれば今更なんじゃない?」

「あはは、まあね。天斗さん、僕で務まるかは わかりませんが、フェンリルさんの件はお受けします」

「ありがとうございます、抽瑠君。それでは……どうぞ」

「はい」

 

 そう答えて僕は父さんからフェンリルさんを受け取る。少しずっしりとした重さとたしかな温かさ、そしてキョロキョロしながら忙しなく息遣いをするその姿に僕は“生”を感じていた。

 

 

「フェンリルさん、これからよろしくお願いしま──

「わふっ!」

「え?」

 

 フェンリルさんは何かを訴えかけるかのように鳴き、言葉がわからない事で困惑して いると、ヌール君が助け舟を出してくれた。

 

 

「どうせだからただフェンリルと呼ばれるよりも名付けをしてほしいようだぞ」

「名付け……でも、本当に僕で良いのかな?」

「わうっ」

「良いみたいだ。むしろ、それを望んでいるようだぞ」

「わかった。それじゃあちょっと考えてみるね」

 

 

 そう言ってから僕はフェンリルさんの名前を考え始めた。

 

 さて.……どうしようかな。名前をつけるなんて今までやった事がないからどんな風につけたら良いかわからないな。でも、せっかくだからフェンリルっていう部分は 使いたいな。

 

 そう考えながら名前について頭を悩ませる事数分、ようやくこれだという名前を思いつき、僕はフェンリルさんを抱き上げながらその名前を告げた。

 

 

「思いつきましたよ。貴方の名前はリンです」 「へえ、結構短めな名前だな。由来は何なんだ、柚瑠?」

「せっかくだからフェンリルっていう種類名は使いたいなと思ったんだ。それで、それをベースに して考えていた時、凛としているっていう言葉が あるのを思い出して、その時にリンなら男女関係 なくつけるしいいかなって思ったんだ」

「なるほどな。さて、本人ならぬ本狼はどうだろうな」

 

 一騎君がフェンリルさんに視線を向ける。 フェンリルさんは考えこむように首を傾げていたが突然一声鳴いた。

 

 それを聞いてもしかしてダメだったかなと不安で なっていると、スール君はふうと息をついた。

 

 

「安心しろ、柚瑠。名前は気にいっているようだ。 だが敬語はいらないそうだぞ?」

「え、そうなの?」

「わふっ」

「自分の主はあくまでも柚瑠だからだそうだ」 「そっか……」

 

 

 ヌール君の通訳を聞いてホッとした後、僕はフェンリルを真っすぐに見つめた。

 

 

「僕を主として認めてくれてありがとう、リン。 改めてこれからよろしくね」

「わふ!」

 

 リンは元気良く返事をしてくれ、僕はその事に嬉しさを感じた。そして、僕は『友の書』や僕自身の事について話すと、リンは納得顔で頷いた。

 

 その後、僕とリンは白紙のページ に手を置いてそれぞれの『力』を『友の書』に注ぎこみ始め、それと同時に白紙のページに『力』が流れこんでいくイメージをしながら目を閉じた。

 

 その瞬間、頭の中に自分の中にある『力』が腕を通して手の平の真ん中に空いた穴から流れていくイメージが浮かび、 体のカも少しずつ抜けていった。

 

 くっ……やっぱりリン自身の力が強いからか登録の時に必要な『力』も多いな。でも、僕だって少しずつ力をつけているんだ。こんな事でへこたれるもんか……!

 

 そう思う事で自分を鼓武し、僕は足でしっかりと踏みしめて歯を食い縛った。そして終わったという感覚を覚えて目を開けると、白紙だったページには月を見上げながら遠吠えを上げるリンの姿とフェンリルについて詳細に書かれた文章が浮かび上がっていた。

 

 

「ふう……完了っと」

「お疲れ様です。柚瑠」

「ありがとうございま……あ、そういえばどなたが リンのお世話を僕にお願いしてきたんですか? もしかしてリンのご家族とか……」

「はい、そうです。同じく北欧神話ではお名前を知られているロキさんからのご依頼です」

「ロキ……オーディンとトールを兄弟に持つ神の一柱で、多くの出来事を引き起こしてきた神様ですね……」

 

 泉ちゃんがため息まじりに言うその姿からそのロキさんがだいぶ困った神様なんだろうというのがハッキリとわかって僕は苦笑いを浮かべた。

 

 そしてリンのページに手を触れ魔力を注ぎこむと、ページからは光の玉が現れ、それはリンの姿となると、リンは僕の顔を見ながら舌を出してハッハッと息遣いをし始めた。

 

 

「わう!」

「どうやらリンも居住空間を気に入ったようだ」

「それはよかった。リン、改めてこれからよろしくね」

「わふっ!」

 

 

 リンが大きな声で答えているとリビングから母さんとアビヨッド君、そしてイスウィド君が 姿を見せた。

 

 

「陸斗君、おかえりなさい。天斗さんもいらっしゃい」

「ただいま、七海。見ての通り、新しい家族 が増えたぞ」

「うん、聞こえてたよ。フェンリルがウチに来た のは驚きだけど、ロキさんが柚瑠ならと思って天さん経由でお願いしてくれたわけだし、その期待には応えたいね」

 

「うん。僕自身はまだまだだけど、リンとも一緒に頑張っていくよ。そして、リンがロキさんに対して自慢出来るようになる。それくらいは出来ないといけないから」

「ああ、そうだな。そういえば……泉ちゃん 達はどうしてウチに? 柚瑠と一緒に勉強してたのか?」

「泉ちゃんと一騎君は天斗さんからのお願い事を知りたかったから、それで晶夏ちゃんは……」

 

 

 晶夏ちゃんは真剣な顔で天斗さんに近づいた。

 

 

「……天斗さん」

「はい、なんでしょうか?」

「アタシを転生させたのも天斗さんなんですか?」

「……ええ、そうですよ。貴女の死亡報告が部下から来た時、貴女の生前の記録を見ました。

 その結果、再び人間として生まれても問題なく、また人間として生きる姿を見たいと判断して地獄に報告をし、私の手で転生を果たして頂きました。こういった事例はあまりありませんけどね」

「そう、ですか……」

 

 

 晶夏ちゃんが肩の力が抜けたような顔を していると、天斗さんは優しく微笑んだ。

 

「千尋晶夏さん、前世では様々な苦しみを感じてきたと思います。ですがその分、今世では様々な方との出会いを楽しんでください。 柚瑠君達以外にも出会える方はいますし、 楽しい物事も待っていますから」

「はい、もちろんです。また会いたい相手もいますし、抽瑠達と一緒に成長しながら自分を高めていきます。天斗さん、 転生させて頂き本当にありがとうございました」

「どういたしまして。無理などはせずに第二の人生を楽しんでくださいね」

「はい」

 

 晴れやかな表情で晶夏ちゃんが答えた後、 母さんは何かを思いついたという様子でポンと手を打ち鳴らした。

 

 

「そうだ。三人とも、ウチで夜ご飯を食べていかない?」

「え、良いんですか? 流石にご迷惑なんじゃ……」

「ううん、大丈夫。三人がいると柚瑠達も喜ぶし、別に多く作る分には構わないから。でも、ちゃんてお家には連絡してね?」

『はい!』

 

 

 三人が揃って答え、ぞろぞろと電話へ向かっていく中、天斗さんは僕達を見ながらニコリと笑った。

 

 

「それでは私は失礼しますね。柚希君が待っていますから」

「わかりました。あの……柚希君によろしく伝え

 もらっても大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫ですよ。それでは失礼します」

 

 

 そう言って天斗さんが帰っていった後、 その姿を見ながらアビヨッド君が呟いた。

 

 

「ふむ、転生か」

「アビヨッド君、どうしたの、」

「柚瑠と晶夏は天斗殿の手によって転生し、こうして 巡り会った。となれば他にも天斗殿が転生させた相手がいてもおかしくはないだろう?」 「え……?」

「言われてみれば、あまりないとは仰っていましたが、二人だけであるとは仰っていませんでしたね」

「そうだ。あくまでも我の予想に過ぎぬが、もしかすれば覚えていないか話していないだけでまだいるのかもしれんぞ。

 まあ、我らはエジプトに伝わる神々であるために魂か転生という言葉に敏感なのもあるがな」

 

 

 アビヨッド君が静かに言う中、電話を終えた三人がこっちに近づいてきた。

 

 

「柚瑠、三人とも大丈夫だ」

「うん、わかった」

「アビヨッド達と何を話してたの?」

「あ、うん……天斗さんが転生をさせた人が他にもいるんじゃないかって話してたんだ」

「たしかに晶夏と柚瑠だけとは言ってなかったな」

 

 

 一騎君が顎に手を当てながら言っていると、泉ちゃんは真剣な顔で僕に話しかけてきた。

 

 

「柚瑠、貴方は人ならざるモノ達とも仲良くしたいという考えを持っているし、それを間違いだとは思わないし言わないわ。けれど、もしも天斗さんによって転生を果たした人がまだいて、その人が私達にあまり友好的ではない可能性もある。それでも仲良くしたいと思う?」

「……うん、そうしたい。もちろん、無理にとは言わないけど、出来るなら仲良くしたいな」

「……ほんと、柚瑠らしい返答ね」

 

 

 泉ちゃんが軽くため息をつき、一騎君と晶夏ちゃんは顔を見合わせながら笑う。

 

 僕や晶夏ちゃん、そしてリンはそれぞれ別の過去があって現世に転生した。だけど、同じく天斗さんによって転生した仲間だからというだけじゃなく、これからも仲良くしていたい。 もちろん他のみんなとも。そのためにも僕もせいいっぱい頑張ろう。みんなとずっと一緒にいられるように。

 

 みんなの楽しそうな姿を見ながら決意をすると同時に僕は小さく頷いた。




政実「第六話、いかがでしたでしょうか」
柚瑠「今回はフェンリルだったわけだけど、これからも色々なモノ達と出会っていく事にはなりそうだね」
政実「そうだね。あと、最後の方で天斗さんが転生をさせた人のが他にもいるんじゃないかっていう展開にはしたけど、ここは柚希の事でもあるけど、他にも出せたら出そうかなとは思って、こんな感じにしてるよ」
柚瑠「うん、了解。そして最後に、今作品についての感想や意見、評価などもお待ちしていますので、書いて頂けると嬉しいです。よろしくお願いします」
政実「さて……それじゃあそろそろ締めていこうか」
柚瑠「うん」
政実・柚瑠「それでは、また次回」
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