PSYCHO-PASS Shepherd of the Sun 作:キラトマト
僕たち一係が桒島浩一の元へ向かっている最中、分析官の唐之杜さんから連絡がかかってくる。
「酒々井監視官のドミネーターが使用されたわ。場所は千代田区セントラルホール」
それを聞いた霜月さんは常守さんに確認する。
「それって今向かってる場所じゃ──」
「現場一帯をドローンで封鎖。急いでッ!」
(たく、鹿矛囲も何考えてるんだか。それに、さっきの常守さんのおばあちゃんの話も気になるし……)
そう考えていると、僕らは事件現場へと到着した。だが、その地には鹿矛囲の姿はなく、燃焼中の屋敷と、桒島だけが残っていた。
「鹿矛囲はどこ?」
常守さんは桒島に問いかける。
「彼は行った」
「だが無駄足ではないよ。彼らを見送ってやってくれ」
桒島は僕たちに喋る暇も与えず、矢継ぎ早に言葉を繋げる。
(彼ら?)
そう思いながら、桒島が指さしたのは、燃えたぎる屋敷の中にいる動物たち、の正体であった。
「これって……ひ──」
「それ以上言わないでッ!」
僕が口に出そうとすると、ひさぎに止められる。
「これが人間のやることか!」
「まさに地獄絵図……だろう? 身の毛もよだつ行為だ」
「これをやったのは鹿矛囲か?」
東金さんは問う。
「冗談を言うな。これをやったのはこんな遊びでしかサイコパスを保てなかったのはあの中で残骸になってる役人どもだ」
役人がこれをやったというのか? 腐ってやがるッ。
「だから殺したのかッ?!」
「……彼らは全員密入国者だ。役人どもの甘い言葉に乗せられ、そしておもちゃにされ」
「そしていざ犯罪係数が上がると鹿矛囲に救いを求めた」
「……それが、鹿矛囲の逆鱗に触れたと」
「焼いてくれと願ったのは彼らだ。彼らはもう二度と元の姿に戻れない! 鹿矛囲がそうであるように……」
鹿矛囲も……か。
「同行に応じてもらえますか?」
常守さんが流れを断ち切るように彼に同行を促した。
「もちろんだ。だがその前にこれを……」
そう言って桒島は常守さんにリングケースを手渡す。それを開けた常守さんは激しく激昂し、桒島に掴みかかる。
「何をした!」
「常守ッ、やめろ!」
それを宜野座さんは素早く取り押さえ、ケースを六合塚さんに渡す。
「何をしたッ!!」
「六合塚ッ!」
そのケースの中身を見た六合塚さんは腕の端末で読み取り、一人の名前をつぶやく。
「常守……葵……」
常守葵って、まさか……!
「なに!?」
──そして、その光景を見ていた東金さんは、心無しかほんの少し、口角が上がっているように見えた。
そして、本部に帰還した僕達だが、一人足りない。そう、東金朔夜執行官である。
「あれ? 東金さんは?」
僕はつぶやく。
「それくらい腕の端末で分かるでしょ?」
霜月さんに言われ、僕はそれを起動し、東金さんの位置情報を確認する。
(……地下駐車場か)
「ちょっと僕、野暮用なんで、行ってきます」
「独断行動は……!」
霜月さんは止めようとするが、
「それなら東金さんもでしょ?」
僕がそれを言うと諦めたのか、彼女は、口出しをしなくなった。
「なら私も──」
「ここは僕に任せて、ひさぎは残ってて」
僕は走る。後ろからひさぎの声が聞こえた気がするが、気にしない。
僕が地下駐車場に着くと、そこにはトランクが開けっ放しの車が一台、停まっていた。
僕は中身が気になり、車に近づく。だがトランクの中には何も入っておらず、血痕だけが残っている。
「……血?」
僕は六合塚さんがやっていたように血痕に向けて腕の端末を向ける。その血の正体は────
「常守……葵」
「おや、加賀美監視官ではないですか」
ふと後ろから声がかけられる。
「あぁ、東金さんですか……。常守さんのおばあちゃんが……」
「ええ、俺も見ました。一歩遅れたようですね」
どうやら、東金さんも常守葵を助けに来ていたらしい。
「どうします? 常守さんに報告しておきますか?」
「いえ、その必要はありません。加賀美監視官」
《常守朱の色相を曇らせるのはあのバアさんの死体が発見されてからだ。まだ、言うわけにはいかない》
(白々しい、その首についてる血はなんなんだよ?)
「では、戻りましょうか。加賀美監視官」
「えぇ、そうですね」
「ただいま戻りました、っと」
部署内に戻ると、既に刑事課の殆どが出払っていて、残っているのは僕と東金さんと常守さんだけである。まさか、また鹿矛囲絡みの事件か?
「また事件ですか?」
「えぇ、それも現在進行中のね」
「常守さんは行かないんですか?」
「いえ、すぐに私も──」
常守さんはそう言って外に出ようとするが、東金さんがそれを止める。
「肉親が人質になった時点であなたはこの事件に──」
(肉親? あぁ葵さんのことか)
「それを決めるのは監視官である私です」
「これは禾生局長のお考えです」
「……そこを、どいてください」
そう言って、常守さんは無理やり外に出る。
「ちょ常守さん。もう、僕も行きますから」
やはり常守さんは僕の提案を断るが、無理やり着いていく。常守さんはエレベーターの中で、霜月さんとなにか事件について話していたが、よく分からない言葉で溢れていたので、会話には参加しないでおいた。常守さんが向かっているのは──局長室。
局長室に入った僕たち。局長に入って早々聞かれたのは僕のことであった。
「なぜ君がここにいる? まぁいい。君たちには別の任務を与えよう」
「鹿矛囲桐斗の暗殺」
常守さんは分かりきったような口でそう言う。
「その通りだ」
「暗殺って、えぇ?!」
「加賀美くんは黙ってて」
酷い……
「鹿矛囲桐斗の目的はシビュラシステム。だから鹿矛囲の始末を急いでいる。そうでしょ?」
「まったく、相変わらず余計なことを考えるのが好きだな」
「あと一時間もすれば、彼は目的を達成するだろう」
「現場に先行した三係には犯人が立てこもっている区画の頭上に爆弾を設置するよう指示してある」
「なっ……?!」
僕は思わず声を上げる。
「あそこには500人もの人質がいるのよ?!」
「閉鎖空間で一方的に駆られる側となった人間がサイコパスをクリアに保てる可能性は極めて低い。恐らくは既に殆どが潜在犯であろう」
「……潜在犯だったら、殺していい。そう仰りたいんですか、禾生局長」
「すまないがこれは決定事項なのだよ。加賀美監視官、そして君たちの任務でもある」
「起爆の指揮を執れ。君たちの手で終わらせろ」
(僕らが、起爆の権限を持ってるってことは、起爆しない選択肢もあるってことだ。だったら、反抗してやるさ、徹底的にな。シビュラシステムッ……!)
「それと……今しがた残念な報告を受けてね」
「君の祖母……常守葵の遺体が倉庫外で発見された」
遺体……、え?
「拘束された状態で撲殺されたようだ。惨たらしい犯行だよ」
「最後の引き金は君に任せよう。信頼しているよ、常守監視官」
一係の部署に戻った僕と常守さん。
「常守さん……すみません」
僕はあのとき間に合わなかったことを謝罪する。
「なんで、あなたが?」
「東金さんのところへ行った時、葵さんの血痕を発見したんです。でも、東金さんがあなたの色相を濁らせたくないって……」
「すみませんッ!!」
「過ぎた事を悔やんでも仕方ないわ。むしろ、私はあなたのおかげで決心した」
「え?」
そう言って常守さんは足早に、取調室へと向かった。
取調室では、桒島浩一が取り調べをしている真っ最中であった。それも気にせずに、常守さんは発言する。
「桒島浩一。あなたに頼みがあります」