PSYCHO-PASS Shepherd of the Sun 作:キラトマト
「どうして案内する気になった?」
鹿矛囲が僕たちに問いかける。
「あなたを正しく裁くためよ」
「法の外で処分することも出来た」
「シビュラはそうしようとしてたみたいだけど、常守さん、そういうことしないでしょ?」
「当然、そんな選択肢は存在しない」
「ふっ、その断定があなたをクリアに保っているのが分かりますよ」
その瞬間、鹿矛囲の姿が変化する。
「違うやり方もあったはず。社会を恨む人たちの思いばかり背負わずに」
「そんな選択肢は存在しない。たとえ君たちともっと早く話せていたとしても」
「っと、着いたみたいだよ」
鹿矛囲は僕たちに呼びかける。そこに待ち受けていたのは……
「禾生……局長……?」
「いや、東金美沙子よ……」
「あなたたちの監視官権限はたった今剥奪されたわ。ここを出て野垂れ死ぬといい」
そう言われて、とっさにドミネーターを自分に向けるが、反応はない。
「それがシビュラの答えね、あの扉の向こう側で聞くわ」
「……僕たちという存在をかけて聞こう。シビュラよ……」
「僕たちの色が見えるか?」
◇◇◇
「母さん……」
東金はそう呟きながら、万年筆を自分の親指に突き刺す。そして親指が無くなったことにより、掛けられた手錠を外し、母親の元へと向かう東金朔夜。
◇◇◇
鹿矛囲は局長にドミネーターを向けるが、反応がない。
「無駄よ」
局長の持っているドミネーターが変形する。
「シビュラシステムよ。裁きの神を気取るなら、選べる道はひとつだ」
「お前たちがお前たちでいるために乗り越えなければならない存在が目の前にいるぞッ!」
「裁けるか? 僕たちを」
「問えるか!? 僕とお前の色をッ!」
鹿矛囲は激昂する。そんな日曜朝のテレビ番組じゃあるまいし、気合いで通じるわけないだろう、と思っていたのだが、予想は大きく外れ、ドミネーターはエリミネーターモードに変形する。
「何?!」
「これがお前の色か。東金美沙子」
そう言って鹿矛囲は弾丸を局長に向けて発射する。
「認めない! こんな、変化を……」
その言葉を残し、局長は頭の上半分を失い、倒れる。
そして、シビュラの奥深くまで入った僕達。
「これが……シビュラの正体……なんですか?」
シビュラの最深部に入った僕は驚嘆の声を漏らす。そう、脳が大量のクリアケースに保管されていたのだ。その脳にドミネーターを向けた鹿矛囲。ドミネーターは予想通りエリミネーターに変形する。
「これがお前の色か。シビュラ」
だが、鹿矛囲が発射する直前、どこからともなく、ドミネーターの声が聞こえる。
「ようこそ 鹿矛囲桐斗 協議により私たちはあなたたちを認識することを決断しました」
「また 常守朱の提案どおり集合的サイコパスを成立させます その上で私たちの犯罪係数を上昇させる要因を廃棄します」
すると、脳が入っていたケースが黒い煙で染められていき、数を減らしていく。
「今 私たちは新たな認識と完全性を獲得しました。これが私たちの進化の形です」
すると、鹿矛囲のドミネーターの反応が無くなる。
「これが答えよ。鹿矛囲」
そして、常守さんは鹿矛囲にドミネーターを向ける。
「あなたを逮捕します」
「……だそうだ、鹿矛囲。大人しく連行されろ」
僕はてっきり鹿矛囲は逮捕されるものなのかな、と思っていたのだが、その期待を裏切り、常守さんのドミネーターは無情にもエリミネーターモードに変形してしまう。
「僕は今、何色かな?」
「常守監視官 速やかな執行を推奨します」
「抵抗せずにドミネーターを渡しなさい」
「感じるよ。あれの中にも自分の色を取り戻せて喜んでるものたちがいる。君こそなぜシビュラにドミネーターを向けない?」
その問いに常守さんは
「集合的であるならばドミネーターを向ける者もまたその一部になる。別の誰かが向ければあれは違う色になるかもしれない」
と答える。
「あなたは……」
「シビュラはもう、後戻り出来ない」
「いつか本当の裁き手が現れたとき、あそこにいる脳が最後の一つになっても犯罪係数は下がらないままかもしれない」
「まさか最初からそのつもりで……」
「もしかするとその裁き手は、今目の前にいるのかもしれない」
「この……馬鹿野郎ッ!!」
僕は鹿矛囲を殴ってしまう。
「何をやっているんですか加賀美監視官!」
「お前だけ逃げてんじゃねぇよ! 死んで償えるわけないだろッ! 生きて、生きて償えッ! この事件で死んだものたち全員のッ!」
「そこから出ろ冒涜者どもッ!」
僕が鹿矛囲を説教していると、入口から叫び声が聞こえる。
そして常守さんは咄嗟に、鹿矛囲の前に立つ。
「やめなさい!」
「いい目だ。気付いているだろう? 常守葵を殺したのはこの俺だと」
「ひからびた老人のくせにしぶとくってな。あーちゃん あーちゃんと呼び続けていたぞ」
「……っの外道が……」
「ハッハッハ、外道か……悪くないねぇ」
そして、呻いている常守さんに鹿矛囲立ち上がり、が声をかける。
「別の可能性もある。君も気付いているだろう? 君が願う法の精神」
「もしそれが社会という存在に等しく正義の天秤となるなら、いつかその精神こそがあそこにいる怪物を本当の神様に変えるかもしれない」
そして、回復した常守さんを押し退け、東金にドミネーターを向ける鹿矛囲。両者のドミネーターがエリミネーターモードに変形する。
そして、同時に発射される弾丸。
────その光景を僕は、ただ見ていることしか出来ず、そして、鹿矛囲の体が膨らみ、そして破裂する。
「東金……東金朔夜ぁぁぁあああ!!!」
僕はドミネーターを東金に向ける。だが、監視官権限が剥奪されているからか、ドミネーターに反応がない。
「何故だッ、なぜ染まらないッ」
「東金朔夜。反逆行為ならびに常守葵の殺害容疑であなたを逮捕します」
「ああ、ああ、あー!!」
◇◇◇
『犯罪係数899 執行モード リーサル エリミネーター』
「なにがシビュラの子よ。真っ黒じゃない……」
「母さん……あなたも俺も 結局シビュラの奴隷でしたね」
「あなたに従った自分が許せない。こうしなきゃ私がクリアじゃなくなるの」
「ハハハ……この娘が新しい奴隷というわけですか。せいぜいシビュラを美しく保つためだけに生きて……」
「私を濁らせる人間なんて消えればいい」
トリガーに指をかけ、執行寸前のところで東金は絶命する。
「私ここから先へは進みません……秘密は守ります。いえ全部忘れます! 何も知りません!」
「私シビュラを信じます……私、この社会が大好きですから!」
◇◇◇
「抵抗せずに──」
外に出た僕たちを待っていたのは、刑事課の面々であった。
「よせッ! やめろ!」
宜野座さんが錫木くんを止める。
「け……権限戻ってる……」
雛河くんが僕たちの権限を見せる。
「……サンくんか?」
三係の方から僕の名前が呼ばれる。それも、あだ名でだ。
「もしかして……礼音……さんですか?」
「やはり……サンくんなのだな。監視官になったとは聞いていたが、まさか、こんな出会い方をするとはな」
「サン……サンッ……!」
すると、また後ろから僕を呼ぶ声が聞こえてくる。そして、振り返るとひさぎが僕に向かって飛びついて来ていた。
「ちょひさぎ、なんで泣いてんだよ──んむっ」
ひさぎは飛びつき、僕に抱きついてきたと思ったら、その後、僕の唇を奪ったのだ。
「?!」
一同が、困惑の声を流す。
そして、僕の唇から離したと思ったらすぐに言葉を放つ。
「無茶しすぎなのよッ!! あんたはッ!!」
パンッ、と僕の頬が思い切りぶたれる。
「いったッ! ちょ落ち着けひさぎッ!」
僕はひさぎを体から引き剥がす。
「ひさぎ、僕は死なない。そうだろ?」
「……そう、だけど……」
「でもッ……!」
僕らが、言い争いをしていると、錫木くんが声を放つ。
「二人ともこんなところで争ってないで、早く帰りますよ!」
「チッ」
「こらひさぎ、舌打ちしない。錫木くんも言ってるんだからさっさと帰還するぞ」
「はいはい、分かりましたー監視官さまー」
ひさぎが気だるげに返事をする。