PSYCHO-PASS Shepherd of the Sun 作:キラトマト
無事に帰還した僕とひさぎ、そして礼音さんは、休む暇もなく、局長室に呼び出される。
「失礼しまーす。って?! きょ、局長?! し、死んだはずでは?!」
局長室に入った僕は、待ち受けていた人物に驚きの声を隠せない。
「ふむ、サンくんは知らないんだったな。向こうで見ただろ? あの脳が沢山ある光景」
「脳? って、あの時のか! でも、それとこれとでなんの関係があるんですか?」
「察しが悪いな、サンくんは。つまりはだな、局長はあの脳がある限り、死なないというわけだよ」
「つ、つまり今の局長はあの時とは違う人という訳ですか?!」
「あぁ、君の想像通りだ」
「へぇ、じゃあ、僕たちを呼び出した要件、教えて下さいよ」
「おっと、忘れていたよ。今君たちを呼び出した要件、それは、君たちの出自についてだよ」
僕も薄々勘づいてはいたが、いざ言われると驚いてしまう。
「そのことなら、私の口から既に話してあったつもりですが」
「私は彼の口から聞きたいのだよ。三静寂監視官」
「……あの、覚えている範囲でいいですか?」
「構わん。続けろ」
「まず、僕達は、ここ本州からとても離れた場所にある渚輪区っていう離島からここまで船で来たんです」
「それで、船でここまで来る途中に、黒くて大きな人型の影に襲われたんです。そこから記憶がなくて、気が付いたらベッドに寝てた、という訳です」
「ふむ、では、君の体で、異常が起こったということは無かったかね?」
「異常……ですか……」
ふと考えてみると、一つ心当たりがあったことを思い出す。
「あの……信じて貰えないかもなんですけど……僕の血って、怪我を治せる効果があるんですよ」
「ちょサンそれはッ」
「安心しろ来栖崎執行官。そのことは既に知っている。では、続けたまえ」
「それで前、ドローンの暴走があったじゃないですか。そのときに蓮池さんに血を飲ませたんです。でも、治らなくて……そのまま……」
「死んだ、というわけだな?」
「……はい」
僕は彼の死を克服したつもりだった。でも、心のどこかでは、認められていない自分がいた。
「そんな君に、朗報がある。その能力が、戻る、と言ったら?」
「戻る、って、確証はあるんですか?」
「ある。君が影と言っている物体が、君の能力を奪ったのだ」
「でも、あの影がまた現れると言うんですか?」
「ああ、第一、あの影を開発したのは、この私、八月朔日真綾だからな」
は? それって、僕の中にいる人じゃなかったっけ。
「ふふ、君は今、真綾は僕の中にいるはず、と思ったね?」
「だが残念。私はシビュラにこの身を捧げたのだよ」
「は、はぁ……」
この身を捧げたって言われてもピンと来ないんだよなぁ。だがまぁいい。血の能力が戻るんだったら、なんでもいい!
「では、その影、出して貰えますか?」
「君は影と言っているようだが、それは違う。あれは元は別の世界にワープするための実験装置だったんだよ」
「でも、どこに行くかはランダムだし、何より不安定だった。だから私は封印したつもりだったのだが」
「透露の奴、勝手に使ったみたいでね。それで、君たちが来たというわけだ」
「そして、私も透露に裏切られて、この世界に飛ばされたというわけだよ」
「だったら、他のメンバーはどこに行ったんですか?」
「他のメンバー、とは一緒に船に乗っていた少女たちのことか? 彼女たちは恐らく、また別の世界に飛ばされたのではないか?」
「そう……なんですね……」
「でもだったら、僕がそれ使ったらまた別の世界に行っちゃうんじゃ……」
「いや、そんな装置、私が使わせると思ったのかい? 勿論、既に改良済みさ」
「それはつまり、能力は戻るけど、元の世界に戻てしまうということですか?」
「いや? 勿論、戻ろうと思うのなら、戻れるが、君たちがここに残ると言うなら、別にそれでも構わんが」
「だってよ、ひさぎ、礼音さん。僕はここに残るつもりだけど、いいか?」
「サンが残るなら、私も残るわ」
「私も来栖崎くんと同感だ。ん? どうした? そんな顔して」
僕はその言葉に安心感を覚える。
「……いえ、少し、ホッとしただけです」
「あんた、まさか私たちだけ戻るとか思ってたの?」
「い、いや、そんなことは……あるかも」
局長がゴホン、と咳払いをして、話を元に戻す。
「談笑はそれくらいにしてくれないか? まあいい、では、これからも公安局で刑事課として働くということだな?」
「はい。勿論です」
皆が肯定する。
「では、これからも、監視官、執行官として責任をもって働いてくれ」
「「「了解!!」」」
そうだ、僕達はまだ、この世界にいなくちゃいけないんだ。