「はぁ~、今日もお客さん来うへんなぁ。ほんま暇やわぁ。」
ミノス族の少女が一人、カウンターに肘を付きため息を吐いている。
彼女の名はクロワッサン、ペンギン急便の一員であり、ただいま絶賛店番中だ。
しかし、店番と言ってもペンギン急便はその暴力性からわざわざ表立って配達を依頼されることは少ない。仕事のほとんどが電話か何かしらの裏ルートで依頼される。そのため表ルートの店番をしているクロワッサンは白昼堂々ため息をついていたのだ。
「あの、お手紙を送りたいんですけど……」
そんな平和な店に珍しくお客さんがやってきた。クロワッサンは隠すように付いていた肘を直し出迎えた。
「はい!ってお嬢ちゃん、一人か?」
やってきたコータス族の少女はまだ年齢が両手に収まるくらいだった。おもわず親を辺りに探したほどだ。
「うん、おてがみをおくりたくて。」
「そうかそうか、でもうちよりも絶対に普通の郵便屋さんの方が早いと思うで?」
クロワッサンがそう言うと少女は顔を曇らせた。
「いってみたけど、これはむりだって……」
そう言って少女がカウンターの上に出したのは普通の手紙だった。
「何や、最近の郵便屋さんはえらい不親切やな。」
そう言って封筒を手にする。振ってみても何か音がするわけでもなく重さも何も問題はない。しかし、そこに描かれた宛名にクロワッサンは覚えがあった。
「龍門二十二番通り新ビル三階レプテリア様」
ガタガタの幼い文字で書かれてあったその宛名を見てクロワッサンはおもわず問いただした。
「お嬢ちゃん、これ誰に送るつもりなんや?」
「ぱぱ。ここにいるはずってままがいってたから。」
龍門で二十番通りから先は基本的に裏街となっており各国から集まったマフィアやギャングが日夜勢力争いを繰り返している魔境だ。普通の郵便局なら確かにこの仕事を引き受けない筈だ。
「やっぱり、だめ……?」
クロワッサンが少し考えこんでいるとお嬢ちゃんが心配そうな声でそう聞いてきた。
「大丈夫やで、お姉ちゃんに任せとき!ただ手紙は一通百龍門幣やけどちゃんと持っとるか?」
「うん!ちゃんとあるよ!」
その小さな手には一枚の硬貨が乗っていた。
「よし、百龍門幣ちゃんと領収しました!おおきにな!」
「で、お前はそのお嬢ちゃんとやらに負けてまんまとこの仕事を持ち帰ってきたわけか。」
少女が来店してきた日の夜は珍しく社宅にメンバー全員が集まった日だった。
「だってボス、お父さんに手紙送るだけやのにわざわざ来てくれてんで?そんなんいくら守銭奴の私かて負けてまうわ。」
言い合っていたのはクロワッサンとボスだ。ただでさえ忙しいのに何の金にもならない仕事を持ち込んできたクロワッサンにボスが怒った、という形で今夜の喧嘩は開戦された。
「それにこんな仕事もこなせへんなんてペンギン急便の名が廃ってしまうやろ!」
「廃って結構。元から大した名前もついてねぇんだ、んなもん廃ってなんぼだろ。」
「今夜は結構激しめですね~。」
のんきそうに喧嘩を眺めているのはソラ、龍門では人気のあるアイドルでありながらペンギン急便の一員であるという奇抜な二足の草鞋を履く少女だ。
「ほんと、あの二人いつも仲よさそうに話す癖にたまにすっごくぶつかるよね~。」
エクシアがテレビを見ながらそう言った。隣ではテキサスが我関せずといった表情で同じようにテレビを眺めている。
「はぁ、うちらのボスはついにプライドまで無くなってもうたんか。エクシアもそう思うやろ?」
「えぇ!?もうこっちに飛び火させないでよ~。」
「そう思うやろ?」
「ま、まぁ二十二番通りなら近いし行ってもいいと思うけどね。」
クロワッサンの圧に負け、エクシアはそう言ってしまった。
「じゃあ分かった、クロワッサンとエクシア二人で今から届けに行ってこい。」
ぶっきらぼうにボスがそう言った。
「よっしゃ!ほなエクシアさっさといくで!」
「何で私なのさー!」
ガッツポーズをしたクロワッサンと対照的にエクシアはソファの上でうなだれた様子だ。
「二十二番通りなら近いんやろ?なら余裕やん!」
「うぅ、絶対にこの分の手当は貰うからね!」