「別に近いとは言ったけどさぁ、行くって意味じゃないじゃん!もしこれで手当て出なかったらこんなブラック企業絶対やめてやるんだから!」
「まぁそんなカッカしんとってや。せや!お礼に今度なんか奢ったるわ!」
「ほんとに!?やっぱりクロワッサンについてきて正解だったよ~。」
そう言って抱きつこうとしてきたエクシアを邪険そうに振り払う。午後九時、龍門にとってはこれから活気づいてくる時間だ。あたりはネオンや屋台の電飾がきらめいている。
しかしそんな喧騒からは遠ざかるようにして歩いていき二人はやがて二十二番通りに辿り着いた。
「えーっと、住所は……ってこれ新ビルまでしか書いてないじゃん!どうするのさ!」
「んなもん探すにきまってるやろ。」
「……それ本気?」
クロワッサンが黙ってうなずくとエクシアは見てわかる程に肩を落とした。
「大丈夫やって、ここで事務所なんてゆうても三つくらいやろ。総当たりしてもそんな時間はかからんって。」
「私たちはそれらすべてからもれなく恨みを買ってるんだけどね。」
ペンギン急便は配達の過程で何かと暴力沙汰に巻き込まれることが多い。しかもそれらすべてをコテンパンに倒しているため多くのマフィアやギャングから目の敵にされている。その結果先日のように襲撃されることも少なくない。
「なんか情報ないの~?渡してきた子がどんな子だったかとかさー。」
「コータスの子やった。けどこの辺りコータスの事務所なんてないやろ。」
基本的に龍門では同じ種族で徒党を組むことが主流となっている。
ペンギン急便の宿舎にある龍門の地図にはこの辺りの勢力図が描き尽くされているがクロワッサンの記憶にはそこにコータスの名前は載っていなかったはずだ。
だがしかし彼女と違ってエクシアには心当たりがあるようだった。
「コータス!?それなら絶対ここだよ!」
そう言ってショルダーバッグから地図を出して広げる。
「最近ここのボスがコータス族に移ったらしいんだよね。なんでも頭脳でのし上がってきた策士らしいよ。」
「ほんまに!?じゃあまずはここで決定やな!」
エクシアが指し示した事務所は幸運なことに数ブロック先にあった。
「夜分遅くにすんませーん、こちらのボスにお届け物なんですけど。」
クロワッサンはインターホンを鳴らしてそう言った。
「ちっ、表の極道まがいがうちに何の用だ。」
暫くして出てきたのは高身長の男だった。どうも二人の事を知っているらしい。
「こちらのボスに娘さんからお届け物です。いてはりますか?」
「まずボスに娘なんていねぇぞ。どっかと間違えてるんじゃないか?」
「そんなはずないですって、ちゃんとコータス族の女の子から受け取りましたもん。」
「はぁ?だからと言ってボスの子だとは限らねぇだろ。まさかお前ら届け物とか言って組織を無茶苦茶にしてやろうってわけじゃないよな?」
「そんな何でこっちが怨み持たなあかんのよ、逆だったらまぁ分かりますけどね。」
クロワッサンがそう言ったのを皮切りに玄関先での会話はどんどんエスカレートしていき今に殴り合いが始まってもおかしくない雰囲気だった。
「おい、やかましいぞ!」
突然奥の方で誰かが怒鳴った。と同時に周囲の空気がガラッと変わったのを二人は肌で感じた。
今まで言い合っていた男は突然言葉を失い静かにクロワッサンの前から離れた。
「おい、誰か状況を説明しろ。このガキどもは誰だ?」
「はい、ボス。どうもペンギン急便のやつららしくてなんでもボスに届け物があるとか。」
ボス……と呼ばれたその男の耳は少し欠けていたもののコータス族の物で間違いなかった。
「おいお前ら届け物ってなんだ、俺は別に何にも頼んじゃいねぇぞ。」
「コータス族の女の子からの手紙や、何でもお父さん宛てらしいんやけどアンタ心当たり無いか?」
クロワッサンにそう言われボスは少し考えこんだ後にハッとした様子で顔を上げた。
「その手紙、見せてもらう事って出来るか?」
「もちろんええで、ただし丁寧に扱ってな。」
そう言ってクロワッサンはボスに封筒を手渡した。それを受け取り丁寧な所作で封を開けていく。
中身を少し覗き、確認したのちにボスは何かをこらえるようにして
「お前らちょっと付いてこい。」
そう言ってまた奥の部屋へと消えていった。