転生したSFディストピアもので俺にはヤンデレな女性たちの扱い方がわからなかった   作:主の手下

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『調律』

 

 救世主は、罪過を贖い死んだという。

 

 人は生まれながらに、罪を背負うと誰かが言った。生きている限り、誰かに迷惑をかけ、ときには傷つけ、あるいは競争で蹴落とし追い詰めるかもしれない。

 それらを罪と呼ぶならば、罪なくして、人は生きることができないだろう。

 

 救世主は、その贖いが認められ、蘇ったと伝わっている。

 

 全ての人を救うために、みんなの罪を一身に抱え込んだそうだった。本当なら自分のものではない罪さえ受け止めたのだ。それは悲しいことだと私は思う。

 だからこそ、復活は皆にとっての救いなのだと、私は勝手に思っておく。

 

 それは彼についても同じことだ。

 辻褄が合わないと、ことあるごとに彼は口にしていたが、私にとっても彼の死はそう思えた。

 だからこそ、またこれも、私にとっての救いだった。

 

 

 ***

 

 

 力、について考えたことはあるだろうか。

 物を触れるのも、なにかを見ることができるのも、あるいは思考をすることさえ、物理学的な力が働くことによる産物だった。

 

 力、とはなんだろうか。

 まず、俺たちがものに触れられたり、動かせたりするのは原子から発せられる電磁気力という力のおかけだ。俺たちが大きく影響を受け、感じている力のほとんどが電磁気力と言っても過言ではないだろう。

 

 そして、俺たちが良く知る力のうち、もう一つ、常日頃から感じているのは重力だ。

 重力は、電磁気力と比べたら、果てしなく弱い力とよく言われる。

 

 例えばそうだ。

 地面に鉄製の釘が置いてあるとしよう。俺は手に小指の先ほどの小さな磁石をもっているとして、それでさえその釘を引き付けて、持ち上げることができてしまう。釘は、地球ほどの大きな物質に重力で反対に引かれているにも関わらず、だ。

 これは、重力が電磁気力よりも果てしなく弱い力である証左に他ならない。

 

 重力と、電磁気力以外には、核の現象に関わる力が存在するが、これはなかなか身近ではない。

 

 核力に関して言えば、その力に関わる粒子が、まるで植物学のように――( )とはいささか言い過ぎであるが、それらを基本的な素粒子と考えた場合、あまりにも多く発見されすぎたため、当時の学者たちを大きく悩ませることになったりもした。

 ただそれは素粒子ではなく、素粒子の組み合わせにより、バリエーション豊かに作られた粒子たちだと後に判明したというのが、この話の意外性のないオチだった。

 

 核力、さらには電磁気も含めて、力は粒子の交換により起こっているとよく言われる。力を媒介とする粒子が存在し、相互作用を起こしているのだ。

 

 あるいは、重力もそんな粒子の交換によるものであるはずなのだが、時空の歪みにより起こる力だと、一般相対性理論による解釈ならば、そうなるだろう。

 

 力、というのは、身近ではあるものだが、そこには身近であるからこそなのだろうか、その正体を掴もうとすれば、自然界の法則の深淵を覗き込まなければならないのだ。

 

 力についてを本質的に理解することは、この宇宙の理を、その手でじかに触れることだと言えるのかもしれない。

 この広い宇宙で、どこにいても、なにをしていても、法則の見え方は不変だ。数式は、いついかなる時も揺らがない。

 

 あぁ、たとえ一人孤独でも、手を伸ばせばそこには変わらない法則と宇宙がある。

 

 俺はどこにいるのだろうと、思った。

 

「じゃあ、会合を始めようか」

 

 茶会に集まったような気軽さで、彼女たちの話し合いははじまっていた。

 彼女たちは、一つの卓を囲んでそれぞれ座っている。

 

 ガブリエルだ。声の出どころ、そして視界から、ガブリエルに俺の意識が重なっているように思える。

 

「また、ウリエルは欠席かしら……? 一体、あの子はいつまで燃え尽きているつもり? 心配だわぁ」

 

「今日に関しては、ラミエルのヤツも休みだろう。もっとも、あいつは色恋にうつつを抜かして、とうぶん仕事をしないつもりだがな……」

 

「あらぁ? ラファエルは張り合いがないのかしら? いつも、とても仲が良さそうにしているから……ぁ。ラミエルは、ずっと休みなしで働いていた頑張り屋さんだったから、ちょっとくらい許してあげましょうよ。ね、ラファエル」

 

「あんなストーカーのことなんて知らないさ……」

 

 ラファエル。確かラファエルは、ラミエルとサマエルと戦って、消滅したはずだったが、五体満足に動いている。

 なんらかの仕掛けがあったのか、そんな無事な彼女を見て、俺は安堵を覚えた。

 

「まず、ボクから追及したいことがあるんだ」

 

 立ち上がって、そう言う。

 視点こそガブリエルのものだが、俺からはなんの干渉もできなかった。

 

「なぁに、ガブリエル。あなたからなんて、珍しいと思うわ」

 

「あぁ、彼についてのことさ……。ミカエル。キミは彼が蘇ったことについてを知っていたんじゃないかい?」

 

「……黙秘する」

 

 ガブリエルは、ミカエルを睨んで……おそらく睨んでいるんだろう、そんな感覚がする……そう語気を強く問い詰めていた。

 それを、さらりとミカエルは受け流している。

 

 そんな態度に、今度はラファエルが身を乗り出す。

 

「あぁ、それはワタシからも聞いておきたかった。例のクローンの……これでわかるはずだな。その計画は失敗したと言っておきながら、あれじゃあな……。どうして隠していたんだ」

 

「計画は失敗した。そこに間違いはない」

 

「その秘密主義は誰譲りかな?」

 

「…………」

 

 ラファエルと、ガブリエルに責められても、ミカエルはだんまりを決め込んでいる。これ以上、話すつもりはないように見える。

 

「えぇ……? 話が見えないのだけれど……ぉ。わかるように説明してくれないかしらぁ?」

 

 間伸びした口調の女性が、蚊帳の外にされて心外とでも言うように、割って入ってきていた。

 ミカエルを見たまま、ガブリエルは一つ溜息をついた後に、その女性の方へと向き直る。

 

「あぁ、例のクローンのプランのことだね。一向に、『円環型リアクター』が作れない状況を打破するため、彼のクローンを作って、彼と知能を同等まで引き上げようっていうね。経過観察はミカエルの仕事だっただろう……?」

 

「確かに、そんな話があったわねぇ」

 

「ふん。これを見てみろ? そのクローンの一体がテストで書き上げた理論だ。ワタシの権限で、調べさせてもらった」

 

 ラファエルから、データが転送されてくる。

 これは……俺が昔、施設にいた時代に書いたもの……だと思う。古い記憶だから、あまり自信がないが、おそらくはそうだ。

 

「うわ……これ……。今、行き詰まってるところのその先……かしら? 大天使の持つ理論が一つ一つ上手く組み合わせられている感じ……? 精査してみないとわからないけれど……見た限り矛盾はないようね」

 

「問題は、これがミカエルに握り潰されていたことさ。これを書いたクローンは、記録だと、単純な肉体労働を行う労働者の区画へと配属されている」

 

「え……?」

 

「他のクローンは……この一体ほどの才能を見せなかったが、どれも技術を必要とする仕事や、管理を行う仕事に就いている。明らかに、このクローンだけが、適正外の役割へと配属されているということだ」

 

 俺のやっていた仕事は、適正ではなかったのだろうか。

 理論研究というのは、新規性が必要だろう。過去のものをなぞれるだけでは、それは才能とは言わない。新しく科学の理論を構築するには、俺の知識も発想も古すぎるものだ。

 

 このときに行われたテストも、そういう意味で、才能がないのだと判断されたと思っていた。

 なんの才能もなかったのだから、俺は、ある程度の体力さえあれば誰でもできる仕事をやっていた。そのはずだった。

 

「なら、そのクローンを、今すぐに引き立てましょう? 永らく開けなかった『円環型リアクター』への道も、ようやくきっかけが――( )

 

「いや、ラミエルさ。ラミエルのヤツが、結婚とか言って、行方をくらませただろう? その相手がこのクローンだ」

 

「まぁ!」

 

 間伸びした口調の女性は、ぱっちりと目を見開き、声とともに驚いてあいた口へと隠すように手を添える。

 

 構わず、ラファエルは続ける。

 

「アイツは一番にあの男にこだわっていたからな。それにワタシも会ったからこそわかる。アレは本人だ! どんな手を使ったかはわからないが……なぁ、ミカエル……? このクローンの計画……本当は、あの男を蘇らせるためのものだったんだろう?」

 

「……彼の能力に近いクローンを造り出す計画は失敗した。だから伝えなかった」

 

「あくまでもシラを切り通すというわけか? いや、本人ができてしまったというわけだから、伝えなかったとでも言いたいのか? ふん、詭弁だな」

 

 呆れたようにラファエルは言う。苛立っているようにも思える。

 

「そうだね。悪いようにはしなかったさ。だから、ボクにだけでも伝えてくれればよかった」

 

「……。あなたは信用できない」

 

 銀色の眼でこちらを射抜いて、ミカエルはそう溢す。

 

「いやいや。ボクほどに信頼をおける人間は……」

 

「そうねぇ。アザエルとの戦いも、あなたはどっちつかずで勝ち馬に乗ろうとしていたし……。信用ならないわよねぇ」

 

「ふふ、用心深いだけさ? その分、決めたことは絶対に譲らないぜ?」

 

「その執念深さも、厄介……」

 

 大天使の間では、ガブリエルは警戒されているようだった。

 少し、彼女は誤解されやすいところがあるだけで、本当は優しい人間なんだと、俺は彼女たちに伝えたくなる。

 

「……? 蘇ったの……? あの人が……っ!」

 

 今まで無言で、一言も発さずに、成り行きを眺めていた女性が急に立ち上がる。

 

「あぁ、そうさ。おとなしく死んだままでいればいいものを……未練がましくな……」

 

「未練がましいのはキミの方じゃないかい? ラファエル」

 

「く……っ」

 

 ラファエルは、こちらを――ガブリエルを強く睨みつけた。

 

 これでは、大天使たちは、いちいち他人を煽るような言動をして、いらないことでいがみ合っているように見える。話が進まない。呆れるほどの仲の悪さだ。

 

「行かなきゃ……。手伝わないと……! サリィはここで退出します!」

 

 言い争う二人を尻目に、急に立ち上がった彼女は、言うが早いか、そのまま席を離れて、入り口へと駆け出している。

 

「すみません! 遅れてしまいました」

 

「いやじゃー。行きたくないのじゃー」

 

「ぶへ……っ!?」

 

 入り口へと駆け出していた女性は、新しく入ってきた彼女たちと勢いよくぶつかる。その反動のままか……いや、不自然なまでに吹き飛ばされてしまっていた。

 

「ラミエル。ここでのその武器の使用は禁止」

 

「ミカエル……。すみません、つい。ただ、部屋の中にはまだ入っていないので、『(■.■.■.■.)』もお許しくださるでしょう」

 

「うぅ……。ずっとサボってきたわけじゃ……。どんな顔をして会えば良いかわからぬ。ぐす……」

 

 ウリエルはラミエルに引きずられながら、そんな泣き言を漏らしている。

 

「うー。痛いです」

 

 ラミエルの電磁気の力で、地面に転がってしまった彼女に目が向く。おでこを抑えてうずくまっているようにみえる。

 ラミエルが、ウリエルを放り出して、駆け寄っていった。

 

「すみません! 自衛のためとはいえ……どうかお許しください」

 

「むー。痛いけど、許すのです。走ってたサリィが悪いから……」

 

「ありがとうございます」

 

 ラミエルは、そんな彼女に手を貸して、助け起こす。

 大天使同士にしては珍しく、仲は悪くなさそうだった。

 

「うぅ……わらわの席は……ここか?」

 

「えー、そっちはサリエルね」

 

「む……ここか……?」

 

「あ、そっちは、わたくしです」

 

 ウリエルは、周りを見渡す。

 

「……? わらわの席なくない?」

 

「自分で作ればいいんじゃないかい?」

 

「おぉ……! それもそうじゃな」

 

 ウリエルは、自分の手前の何もない空間に手をかざす。『アストラル・クリエイター』を使おうとしたのだろう。

 

「ここでの使用は禁止されている。いったん出て……」

 

「あー……わかった、わかった」

 

 咎められ、一度ウリエルは退出した。

 部屋の外からは、『焔翼』の輝きが漏れ出し、一瞬だが、部屋全体が眩しいほどに明るくなる。

 

「それにしても、大天使が、全員揃うなんてねぇ。いつぶりかしら?」

 

「ウリエルがまず来ないけれど、それを抜いてもラファエルも、ボクも、度々欠席しているからね……」

 

「む? おそらく、アザエルの暴走のとき以来じゃろうて……。たしか、議決をとったじゃろう? あのときは、わらわもまだサボってはいなかった……と、詰めるのじゃ……わらわも入る」

 

 椅子を引きずりながらウリエルは戻って、話の輪へと入ってきた。

 

「あの子はサリィが閉じ込めてる。責任を持ってです……」

 

「本当に、どうしてあんなふうに育ってしまったのかしら」

 

「…………」

 

 暗い雰囲気に包まれる。アザエルの件は、どうやら彼女たちの心に今も尾を引く事件のように思える。

 そんな彼女たちをみて、ガブリエルは一つため息を吐いた。

 

「あぁ、この話は君たちにとって、いい思い出がないようだからやめておこうか……。とても辛いだろう……家族思いな君たちにとってみればね」

 

「身内の恥。面目ないです」

 

「はぁ……あなたたちが反対しなければ、すぐ、あれは対応可能でした」

 

「あんな風に。悠長なことを言っていたから、余計拗れたんだ。まったく」

 

 ラミエルとラファエルの二人が、肩をすくめていた。

 なんとなく、二人は仲が良いなと思った。

 

「そうだわ……ぁ! せっかく七人揃ったのだし、議決を取らない?」

 

「何に関してだい?」

 

「サリィは、もう退出するつもりなのですが……!」

 

 ラミエルに助け起こされていた彼女は、きりりと手を挙げてそう発言している。

 

「いや、どこに行くつもりなんだ?」

 

「あの人のところに……!」

 

「場所はわかるのか?」

 

「は……!?」

 

 ラファエルに指摘された彼女は、大天使の仲間たちの顔をしきりに見渡したあと、すごすごと自分の席へと戻って行った。そんな彼女の顔は赤く染まっていた。

 

「そうね。それで取りたい決議なのだけれど、議題に上がっていた彼……今はラミエルの夫だそうだけれど、彼に『円環型リアクター』の開発への協力を求めるために、召喚したいわ。私は賛成なのだけれど……」

 

「……ボクは棄権しよう」

 

「わらわも棄権じゃ」

 

「わたしも……棄権」

 

 すぐさまに、ガブリエル、ウリエル、ミカエルが続々と棄権を表明した。

 

「ワタシは賛成だ」

 

「はぁ……これで賛成が二票かしら」

 

「わたくしは、反対です。あの人の幸せは、そこにはありません」

 

 賛成が二票。反対が一票。この場にいるのは、あと一人だ。

 

「サリィも反対です。あの人のこと……きっとサリィたちに考えつかないような計画が進んでいる。邪魔をする必要はないのです」

 

「賛成が二、反対が二……。有効票の過半数に満たなかったから、否決かしら。……はぁ」

 

 提案をした彼女は、疲れたように俯く。

 その表情から、気苦労のようなものが、感じ取れてしまう。

 

「そうだ。ワタシからも……一夫多妻の婚姻の形を提案したいんだ。今、データを送った」

 

 送られてきたデータは、婚姻関係を管理するコンピュータのシステムの処理をどのように変化させるかの詳細だった。

 そんな新しいプログラムの細部を語ればキリがないが、大雑把に言えば、ラファエルの言ったとおり、組み込めば一夫多妻の形が公的に認められるようになるものだ。

 

「おー! わらわは賛成じゃ!」

 

「いや、反対ですよ。なにを考えているんですか?」

 

「うん。ボクも反対だね」

 

「楽しそうです。サリィは賛成します」

 

「反対かしら……ぁ。メリットがないわ」

 

「反対……」

 

 どうやら、票は出揃ったようだ。

 

「うーん。賛成三票。反対四票か……。惜しかった。事前に誰か抱き込んでおくべきだったか……」

 

 一票の違いで、こんな改正案がまかり通ろうとしたこの会議に俺は慄いた。

 

 彼女たちのさじ加減次第で世界の全てが決まってしまうのは、知っている。だが、それが行われる気軽さを見て、俺は自らの足もとが容易く崩れる薄氷の上であるかのような、危うさを覚えてしまった。

 

「ボクからは、そうだね……。現在進めている……銀河間移動路の計画だ。あれは流石に無謀がすぎる。リソースを減らした方がいい」

 

「え? それに、あなたが口を出すのかしら?」

 

「何もやめろと言っているわけではないさ。今は、別のことに力をそそいだ方がいいんじゃないかい?」

 

「……反対」

 

 まず意見を言ったのはミカエルだった。

 

「サリィも反対」

 

「わたくしも……いえ、そうですね……賛成しましょう」

 

「ワタシも賛成だ。急ぎすぎる必要はないと思うからな」

 

「む……これは……棄権じゃ。わらわは棄権する。わらわはこの計画に関わってはおらぬから、当事者に任せておくべきじゃろうて……」

 

「ボクが賛成だから、反対二人、賛成が三人……なるほど……あとは、キミの判断に委ねられたってわけだね?」

 

「……そうねぇ」

 

 視線の先には、未だ俺の出会ったことのない女性がいる。

 彼女はたしか――、

 

「この世にあるほとんど全ての自律知能の母とも呼べるキミだ。さぞかし、ボクらのためになるような現実的で素晴らしい判断をしてくれるのだろう。あぁ、勘違いをしないで欲しいのだけれど、ボクもボクら人類の大いなる発展を願っているよ? 身を切るような思いさ」

 

「よくもぬけぬけと……!」

 

 睨みつけられて、ガブリエルはやれやれと首を振った。

 ガブリエルはよく、本心と悟られないように、本心をこぼす。なぜか裏があるような言い方をする癖があった。

 

「で、君はどちらを選ぶんだい?」

 

「……っ。賛成するわ……ぁ。えぇ、無理をして進める計画ではないことはたしか……それでも……くっ……」

 

「勇気ある判断に感謝するよ」

 

 どうやら、ガブリエルの思い通りにことが運んでいるようだった。

 

 とはいえど、銀河間の移動というのは夢のある話に思える。それを、断念してしまうのは、前に進むことを諦めるようで、あまり喜ばしいことではなかった。

 

「規模の縮小、ということですよね? 完全に撤退というのなら、話は別ですけど」

 

「うん。そうだね。これからのプランを練ろうか」

 

「どうせ、お前のことだ。皆の納得できるような着地点を用意してあるんだろう?」

 

「まあね」

 

 あらかじめ、彼女の用意していたであろうデータが皆へと配られる。

 

 その内容をみなで吟味して、最初に口を開いたのはウリエルだった。

 

「最初にこれを配らなかったということは、どれほど反対されるかで、いくつか妥協案も用意してあったじゃろう?」

 

「いやいや、忘れていただけだよ。最初にこれを配った方が話が早かったかな」

 

「抜け目のないやつじゃの」

 

 ガブリエルは、段取り良く進める。

 隣の――俺たちのいる銀河は、質量の大きい銀河であるため、小さな銀河……伴銀河が惑星のように付近を周回しているが――伴銀河への道を作るというだけでも数十万年という規模の計画だった。

 

 その見通しを修正した計画を、ガブリエルは提出していた。

 

「百万年規模になるけど、まぁ、気長にやっていこう」

 

「サリィは認めないです」

 

「決まってしまったことだわ。受け入れるほかないの」

 

 そう、少女は宥められる。

 ただ、その言葉にも不満げな態度のまま、顔を背けるばかりだった。

 

「他に……こんなボク達が揃う機会は滅多にないんだ……通したい案がある者はいないかい?」

 

 皆が顔を見合わせる。

 これ以上、何かはないような様子だった。

 

「あ!」

 

 そんな中、一人、ピンと姿勢よく手を高く挙げる女性がいた。

 

「なんだ?」

 

「サリィから一つ、いいです?」

 

「いいですけど……」

 

 答えるラミエルは困り顔だった。なにか厄介なことを言い始めそうだと顔に書いてあった。

 

「あの人の居場所、教えてください!」

 

「それならワタシが教えよう!」

 

 答えたのはラファエルだ。

 ラミエルに、それにミカエルが渋面を浮かべる。ウリエルは愉快そうにことの成り行きを見守っていた。

 

「それは是非、聞きたいわぁ」

 

 話を聞き、横から入る形で、間伸びをした口調の女性は身を乗り出してくる。

 

「ありがとう。先に退出します」

 

「え……っ」

 

 そして、彼女は走り去ってしまう。

 

「あぁ、データを送ったんだ」

 

 飄々とした態度をして、ラファエルは言った。

 アンドロイドどうしなのだから、別に話して情報を伝える必要はない。量子的な暗号技術から、傍受は不可能だろう。

 

「ひどい、ママ、仲間外れなのね……」

 

「別にお前はワタシのママじゃないだろ……」

 

「じゃな……」

 

 そうして、会議は終わるようだった。

 同時に、意識が遠のく。

 

「…………」

 

「なにか、用かい?」

 

「別に……」

 

 ミカエルが、じっとこちらを、ガブリエルの方を見つめていたのが、やけに印象に残った。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ん……」

 

「あぁ、起きたかい?」

 

 ベッドの中、隣にガブリエルがいた。

 裸で、実際に触ってみると、柔らかな肌の弾力がある。ガブリエルが、幻覚ではないということは、ここは夢の続きなのだろう。

 

「おはようで、いいか?」

 

「うん……。んぅ……」

 

 軽く口づけをする。

 俺たちはそういう関係だから、なにもおかしなことではなかった。

 

「ていうか、あざだらけじゃないか?」

 

 肩や首筋、胸なんかにも、ぽつぽつと……というか、背中には、抱きしめた時の腕の跡のような、ひどいアザがある。

 

「昨晩は貪るように愛されちゃったからねっ」

 

「それでも普通はこんなふうにならないだろ……」

 

「まぁ、真相は、そういう跡が付きやすいボディってことなんだけど」

 

 今までのやりとりがなんだったかと思うほど、やすやすと、ガブリエルはそんなことを言ってのけた。

 そのままにベッドから降りると、鏡の前で、自分についたあざを確認している。

 

「不良品……だったのか?」

 

「ふふ……こういうのいいじゃないか。君が愛してくれた証拠ってことでね」

 

 自分についたあざを見ながら、彼女はニヤニヤと頬をだらしなく緩めていた。その気持ちは、俺にはよくわからない。

 

 俺はベッドから降り、服を着る。

 多分、昨日と同じものだ。ここはホテルで、ガブリエルとのデートに、着替えを持っては出かけなかった。

 

「ガブリエル。胸元とかなら隠れるからいいけど、首筋のそれは無理だろう?」

 

「ん、そうだね。ボクは誰に見られても構わないけど。むしろ見せつけたいくらいさ」

 

 鏡の前で、服を着て、髪を整えながらガブリエルはそんなことを言う。

 彼女がそういう考えに至るということは、なんとなく予想がついた。

 

「俺は……そういうのは恥ずかしい」

 

「ふふ。それじゃあ、これをボクにつけてくれないかい?」

 

 彼女が俺に差し出したものは、チョーカーだった。少し太めで、これならたしかに首筋についたあざも少しは隠れる。

 

「ああ、別にかまわない」

 

「それじゃあよろしくね」

 

 受け取って、彼女の首に巻く。柔肌に、簡単に手折れてしまいそうな、少女のか細い首だった。優しく、緩く、なにかの間違いでも首を絞めてしまわないようにと心がけて、そうして留金をはめる。

 

「大丈夫か? 苦しくないか?」

 

「大丈夫さ。それじゃ、行こうか」

 

 ガブリエルは愛おしげに、首に巻かれたその飾りを軽くつまんで引っ張って、鏡で見つめながらそう言う。

 

 なにか忘れていないか確認をして、部屋から出る。

 すると、ガブリエルは、少し小さめのキャリーケースを持っていた。

 

「その荷物……」

 

「ん? 服だよ。昨日着てたボクのとキミの。このケース自体は先に預けておいたわけだし」

 

「あぁ、俺が持つよ」

 

「じゃあ、任せようか」

 

「これくらいは、しないとな……」

 

 たしかに今俺が着ている服は、昨日から着ていたにしては皺も汚れもない。

 ガブリエルは、いつもいつも用意がいい。

 

 チェックアウトも、手早くガブリエルが済ませてしまった。

 二人で並んでホテルの外に出る。

 

 朝だというのに、それほど明るさがないのは、ここが地下の世界だからだろう。

 太陽の波長を模した電灯が照らしているとはいえ、限りのあるエネルギーだ。地上ほど明るくはしていられない。

 

「昨日は楽しかったな……ぁ」

 

「久しぶりのデートだったもんな」

 

 ガブリエルとのデートはいつぶりだっただろうか。

 記憶をたどると、遊園地に行ったのが最後だったような気がする。

 

「あぁ、きっとまた当分は無理だろうね……」

 

 寂しそうに彼女は言う。

 そんな彼女の横顔を見つめて、またすぐにでもと俺は思った。しかし、そういうわけにはいかない事情が……たしかあったような気がする。

 

 ふと、こちらに向けるような誰か男の声がする。大切なことを思い出しかけるような、その思考を掻き消していく。

 

「……あ……! お前は……!!」

 

「……ん?」

 

 声の方へと振り向く。

 そこにはどこか見覚えのあるような男がいる。

 

「お前は……たしか新入りの……。そうだ……! ラルだった……!」

 

「ん?」

 

「俺だ……! ザックだ! 物資調達のとき一緒だった!」

 

「あぁ」

 

 ガタイの良い、いかつい男だった。物資調達といえば、ラファエルの襲撃だが、あのときの仲間に、たしかこの男もいたはずだ。

 

「それで、そうだ! ジェイクを見なかったか? 最近、あいついないんだ。ほら、あれだ……神がなんたらって、言ってたやつで……」

 

「あ……」

 

「何か知ってるのか! 急にいなくなっちまったから、心配でな……」

 

 ガブリエルの方を向く。

 その男なら、覚えがある。俺を刃物で刺し殺したのはその男だ。あれはガブリエルに唆されてだったはずだ。そういえば、その後どうなったかは知らない。

 

「いや、そうだな……」

 

「うん、そうだね。その男のことなら、諦めた方がいい。追及はキミの命を縮めることになるだろう」

 

「ていうか、お前は……アンドロイド?」

 

 ガブリエルを見て、男は眉を顰める。

 俺は男とガブリエルの間に割り込むように身を乗り出す。

 

「よくわかったな」

 

「人間にしては顔が綺麗すぎるだろ。アンドロイドはよく見てるからな。というか、そのアンドロイド、どうした? いや、お前がそういう趣味なのはわかるが……大丈夫なのか? 起動して」

 

「大丈夫とは、なんのことかい?」

 

 ガブリエルは、俺の腕を掴んで、組むと、ぐっと体を寄せてくる。密着する。

 俺は少し困って、ガブリエルの顔を見つめる。

 

「なにやってるんだ?」

 

「恋人アピールさ」

 

「…………」

 

 なんとなく、ガブリエルのやりたいだろうことは察しがついた。

 男を見れば、やれやれと肩をすくめているようだった。

 

「感心しないな。アンドロイドを連れ回してたら、ここじゃいいようには見られないぜ? そういうふうに、うまい具合にプログラムを書き換えていてもだ」

 

「あぁ、そうかもしれない」

 

 ガブリエルは、ガブリエルだ。俺が彼女の頭になにかをしたわけではない。

 それでも、いまはそんな勘違いをされていた方が都合が良かった。

 

「それで、そうだ……! ジェイクのやつ……あいつについて、なにか知ってるのか?」

 

 そういえば、そんな話だった。

 おそらく、その男がいなくなる発端となったのは、ガブリエルの件が原因だ。

 

 ガブリエルに唆されて、あの男は俺を刺し殺したのだから。

 

「うーん……そうだね。人間には、突破できないはずのアンドロイドの思考プロテクトをキミは突破できているようだけれど……それはなぜだろうね?」

 

 目の前の男に向かってガブリエルは言った。

 今の話とは、まるで関係のない話だと思える。

 

「それは、そういうもんだからじゃねぇのか? というか、いま、そんな話はいい。ジェイクのこと、なにか知ってるのか?」

 

「諦めた方がいいってことかな。まぁ、私怨だらけの内輪揉めの結末なんて、まさに身内の恥としかいえないし、外には出せないものだからね」

 

「なんの話だ? もっとわかるように言ってくれ!!」

 

 問い詰める男の言葉に、なぜかガブリエルはこちらを向く。きょとんとした表情だった。

 

「あれ……? 伝わらない?」

 

「それは、俺に言われても困る」

 

 俺との会話でも、ややあったが、ガブリエルは前提となる条件の共有が不足するために会話がズレることがある。

 いくらかは狙ってやっているのだろうが、クセになってしまっているのか、本当に伝えたい部分も伝わらないことが……会話する相手との間に思考力の差があると、特にそうなる。

 

「むむむ、そうだね。たぶん、首都中枢の大監獄に捕まってるだろうから、もう会えないんじゃないかな」

 

「な……っ、あいつ、捕まって……。というか、どうしてそんなところに……っ!」

 

 首都中枢にある大監獄といえば、凶悪な犯罪者たちが収容されているという話だったか。

 管理はたしか……サリエルだったか。

 

「どうしてって……テロリストで凶悪犯罪者なんだから、当然なんじゃないかい?」

 

「いや、そうか……そうなるのか……。にしても、見ないと思ったら、下手打っちまったのか……そうか、なら、仕方ないな……」

 

「うん、仕方ないね」

 

「すまないな……邪魔したな」

 

 そう言って、男は去っていく。仲間にもう会えないとわかったからか、その背中はどこか物悲しく感じられた。

 

「なぁ、ガブリエル。さっき……アンドロイドの思考の書き換え……その、人間には外せないはずのプロテクトについて知っているみたいだったが、あれはどういうことだ?」

 

「たぶん、キミの察しの通りさ」

 

 ガブリエルは、迂遠に言った。

 彼女の口からは、どうしても言いづらいことなのだろうと伝わってくる。

 

「お前たちが、鍵でも渡してるのか?」

 

 最初、ガブリエルは彼女たちの気分次第で、男のやっているような人道にもとるアンドロイドの扱い方ができなくなると、脅そうとしていたのだ。

 あるいは、この太陽の光の届かない地下世界でも、大天使たちの力がいき届いているのだと示したかったというところか。

 

 このアンドロイドの思考の書き換えについては最初から違和感があった。だからこそ、今回のガブリエルの言葉については、こんな俺でも察しがついた。

 

「人間を下等と見下し、今の体制を変えようとしたアンドロイドの悲しき末路さ。変な話だね……ボクらも人間だというのに」

 

 感傷に浸るようにして、彼女は目を細める。

 

「だが、お前たち大天使は……現に人の上に立っている」

 

「人の上に立つのは……また、人というわけだ。そして神は、見下すんじゃない……見守るものさ」

 

 まぁ、神なんてこの世にはいないだろうけどねと、ガブリエルは達観したように言った。

 

「…………」

 

「いるとしたら、きっと……」

 

 そんな彼女の視線に耐えきれず、俺はつい、目を逸らす。

 そしてもう一つ、どうしても確かめなければならない事実へと目を向ける。

 

「ガブリエル。ここ、夢じゃないよな……現実だよな?」

 

「ん? 当たり前だけど……」

 

 血の気が引く。

 目の前のガブリエルの肌に触れれば柔らかいし、暖かい。実体がある。

 

「……っ」

 

「え……へ? まさか、今が夢だと思っていたのかい?」

 

「あぁ……幻覚じゃないからな……」

 

 ガブリエルを触れ合えるのは、いつも夢の中だった。

 だからこそ、そんな夢の続きだと、俺は勘違いをしてしまっていた。

 

「いや、言ったよね? ウリエルに貸しがあるから、それでボディを作ってもらったって……」

 

「たぶん眠くて聞いてなかった……」

 

「…………」

 

 ガブリエルは、動揺したようにして一歩身を引いた。

 そうして向けてくる彼女の信じられないものを見るような目に、俺は素直に傷ついた。

 

「その貸しっていうのは……」

 

「あぁ、アンドロイドの思考や身体的な情報と、生物的なDNAの全単射での射影と言ったらいいかな……ウリエルには、もともと生体パーツはなかったからね」

 

 ガブリエルの力は、生物と機械間での情報の転写だ。それを応用して、そこまでのことをやってみせる。素直に感心する。

 同時に、どうしてか酷く感傷的な気分になる。

 

「ガブリエル……お前はすごいよ。あぁ、だから……すまない、俺は……」

 

 彼女への愛しさ、そして懐かしさ……この気持ちの出どころが、今の俺にはわからない。なによりも、夢の中とは違いしがらみも多い。

 

「いいんだ……」

 

 ガブリエルは言った。

 首を振って、その仕草はどこか自分の気持ちに整理をつけているようにも思えた。

 

「いや……ガブリエル」

 

「ふふ、正直、昨晩さんざん甘い言葉を囁いてボクを喜ばせ、貪るように愛してくれたのは嘘だったのかって、なじりたい気持ちもあるよ」

 

「…………」

 

「でも、いいかな……。これくらいなら、まだ諦めがつく」

 

 悲しげだった。そんな彼女を慰めてやりたかったが、その原因が俺だと思うと、途端に体が動かなくなる。

 

「なぁ、ガブリエル。これからどうする?」

 

「ちょっと一緒に遊んでいこうと思ったけれど、そういうわけにはいかないみたいだからね……それに、キミに愛してもらったせっかくのこの身体を壊されたらまずいだろう?」

 

 彼女は、慈しげにお腹をさする。

 

「ガブリエル……」

 

「ふふ、しばらく、この身体は隠しておくことにするよ。設備はあるから、これだけあればじゅうぶんかな。なんとしてでもボクらの願いを叶えるためにね」

 

「……あぁ……」

 

 彼女とはそういう約束があった。

 切実に、彼女はそれを叶えようとするのだろう。

 

「それじゃ、これは男性用の避妊薬だ。少しはこれで、心が軽くなったりするかもしれないと思ってね」

 

 ピルケースを取り出すと、彼女はそれを渡してくれる。

 後に引けない俺のことを、彼女は気遣ってくれているのだとわかって苦しい。

 

「あぁ、ありがとう」

 

「そうだ、荷物はボクが持っていって洗っておくよ。キミの方に持って帰るといろいろと困るだろう? ふふ、ここまで運んでくれてありがとう」

 

「あぁ」

 

 俺の運んでいた、キャリーケースをガブリエルは受け取った。

 

「じゃあね。また」

 

 呼び止めたかった。駆け寄って、抱きしめたかった。彼女と一緒に歩きたかった。

 彼女との別れは、まるで体が二つに引き裂かれるように痛い。

 

 カラカラと、彼女の引くキャリーケースのタイヤの転がる音だけが、印象的に嫌に頭に残ってしまった。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ん? 帰っていたのね」

 

 拠点に戻ると、まずサマエルと出くわした。

 

「あぁ、レネは?」

 

「寝てるんじゃないかしら? 昨日、あなたが帰って来るのを起きて待っていたから……限界が来て、今はぐっすりね」

 

「そうか……」

 

 昨日は、ガブリエルと楽しくデートをしていたわけだ。その間にも、レネがそんなふうに待っていてくれたことを考えると、心が痛む。

 なにか、埋め合わせをしてあげられないか……咄嗟には思い浮かばないから、後で考えることにしておく。

 

「正直、あの子のあなたへの執着は凄まじいと思うのだけれど……」

 

「レネは家族だから。ずっと一緒にいるんだ」

 

 ただ、俺はレネとは考え方が少し違う。レネは俺と一緒にいたいようだけれど、俺はレネが幸せであるならば、レネが遠くに離れていようとそれで俺は満足だった。

 

「まぁ、いいわ」

 

 あまり納得できていないようだがサマエルは、話を打ち切る。聞いてはみたものの、それほど興味がないことだったのだろう。

 彼女は、戸棚の横の隠し収納を開けると、中から銃を取り出して弄り始める。

 

「ラミエルは……」

 

「まだ帰ってきてないわ。ウリエルも……」

 

 外せない用事があると、ラミエルとウリエルは出かけていた。

 久しぶりのラミエルがいない時間に、俺は心が休まる思いだ。ただそれは束の間で、帰ってきたときのことを思うと、またラミエルとの生活が始まるのかと思うと、今からでも気が重い。

 

「そうか……」

 

「あ、そっちの工具箱、取ってくれない?」

 

「あぁ、これか?」

 

 近くにあった工具箱を彼女へと渡す。

 受け取ったサマエルは、黙々と銃の手入れを始めてた。

 

 なんとなく、気まずい。

 サマエルとは、それほど交流が深いわけではない。その上で、ウリエリでの作戦の失敗あたりから、彼女の態度が少しよそよそしかった。

 

「そうだ。私のこと抱いてくれないかしら?」

 

 そう言った彼女の目線は、作業をする手元にあった。

 かちゃかちゃと、銃の部品同士で擦れる音がよく響く。

 

「……っ、どうしたんだ?」

 

「戦いにいけば、運がなければ死ぬわけだし。そういう経験もないまま死ぬのは少し遠慮したいと思ったのよ」

 

 分解された銃身を覗きながら彼女は言う。

 そのままに武器の手入れを淡々と進めている。

 

「いや……だからって、どうして俺に頼むんだよ……」

 

「だって経験豊富そうだし。ちょうど、ラミエルもいない、あなたの妹さんも眠っているでしょう? さっさと済ませましょう」

 

 サマエルは、銃を組み立て直す。

 がちゃがちゃと乱暴で、あと少しなにか間違いがあればたちまちに壊れてしまいそうな、そんな嫌な音がする。

 

「ラミエルにバレたらまずいだろ。いや、絶対バレる。ずっと思ってたが、サマエル。お前……嘘、下手だろ?」

 

「ラミエルは優しいもの。見ないふりをしてくれるわ」

 

 組み立て直して完成した銃を、サマエルは満足そうに見つめていた。

 

「好きな男でも別に作ればいい」

 

「だれかを好きになったりとか、そんな気分じゃないわ。それに、あなたは少し……私の初恋の人に似ている気がするの」

 

 組み立て終わった銃を彼女は握る。トリガーへと指をかける。

 そうして、なぜか彼女は俺の方に向けて構える。

 

 俺は両手を挙げて降伏の姿勢を見せ、後ろに下がる。

 

「そもそも、俺に利益のない話だ」

 

「そうね。私にも考えがあるわ」

 

 彼女は、そのまま銃の引き金を引いた。

 火薬が爆破し、弾が放たれる。銃声が響く。俺の頬を弾が掠めた。

 

 振り返れば、壁に穴が空いている。鉄骨にぶつかったのか、弾は壁に突き刺さったまま、壁の向こうへと貫通はしていないようだった。

 

 彼女は、驚いたように、自分の手に持つ銃を見つめている。

 そうして青い顔で、俺に頻りに謝ってきた。どうやら、点検のための空砲のつもりだったらしい。

 

 そうはいえども、空砲だろうと、至近距離で当たったならば、ただではすまない。今はそれなりに距離があったが、それでも人に向けるのはまずいとわかるはずだ。加えて、さっきのように間違えて弾の出る万一があることも忘れてはならないだろう。

 

 そんな心がけを、彼女は知っているはずだが、どうしてか衝動的に行動してしまうのがサマエルだった。

 

「はぁ……」

 

「とにかく、私を抱くことに、あなたに利点のない話というのなら、そうね。じゃあ、あなたにはこれをあげるわ」

 

 彼女が取り出したのは、赤い臓器のような形の機械だった。

 

「なんだ、それは?」

 

「『スピリチュアル・キーパー』。機能の停止していたガブリエルの抜け殻を捌いて、取り出したわ。あなたなら、使えるでしょう?」

 

「いや、どうだろうな」

 

 この形は見たことがない。けれども、『スピリチュアル・キーパー』を使えれば、大天使に対して大きな戦力になる。試してみて損はないだろう。

 

 あぁ、ガブリエルに頼らずに、俺だけで戦えるなら、それが一番だ。

 

「抱いてくれたら、これ、あげるわ」

 

 

 

 ***

 

 

 

「意外と大したことないものね……」

 

「…………」

 

 同じベッドで横たわる彼女を、背中から抱きしめている。彼女のお腹のおへその下に優しく手のひらを押し当て、労うように柔らかく撫でる。彼女の身体には、じっとりと汗が滲んでいた。

 

「痛くはなかったし、すごくイイってわけでもなかった。……んぅ、ふぅ……。まぁ、普通に気持ちよかったけど……」

 

 終わった後、俺の腕の中で余韻のままにしばらくうっとりと微睡んでいた彼女は言う。最後には意識を失い、朧げに完全には取り戻しきれず、今の今まで曖昧な喘ぎのみを発していた彼女の久しぶりの言葉だった。

 

 そんな言葉の中でも、彼女が心地良さそうに吐息を漏らした際には、ぴくりと痙攣のような彼女の体のわずかな収縮が、肌と肌で彼女を摩る手のひらに伝わってくる。

 

「そうか」

 

「ねぇ、私、アンドロイドでしょ? えぇ、私自身がどう思っていても、アンドロイドなのよ……。抱いてみて……どう思った?」

 

 背を向けていた彼女は、寝返りをうって、こちらを見つめる。上目遣いに、どこか不安げな表情だった。

 

「どうって……別に……」

 

 ラミエルも、ラファエルも、ガブリエルも、ウリエルもそうだ。特別、何か思うところはない。

 彼女を胸に抱き寄せて、安心をさせるように背中を撫でる。

 

「……ふぅ、んあっ。……そうよね……あなたはそうだわ」

 

「…………」

 

 悲しげにも聞こえるが、彼女の声色はずいぶんと安らいだものだった。

 彼女は、俺の胸に顔をうずめる。

 

「私ね……今はこんな身体なのだけれど、昔はちゃんと生身の人間だったの」

 

「そうだったのか……」

 

「えぇ、そうよ」

 

「そうなのか」

 

 彼女は、俺の背中へと手を回す。抱きしめられる。

 感情が籠り、力がうまく加減できていないのか、少し痛い。彼女が落ち着けるように、優しく丁寧に頭を撫でる。

 

「どこから話していいのか……私には家族がいた。母さんに、姉さん……それに父親がいた。ええ、とてもすごい父だったわ。まぁ、母さんがいても、違う女を取っ替え引っ替え家に連れ込むような人だったけど」

 

 それは憎しみというより、呆れに近い声色だった。

 いや、あるいはどこか自慢げにも感じられる。

 

「いろんな女性に愛されるような人だったって、そういうことか?」

 

「……っ!? えぇ、そうね! そういうこと」

 

「…………」

 

 彼女は無邪気に喜んでいた。自分の親が褒められて嬉しいような、そんな喜び方だった。俺は少しいびつ感じたが、彼女がそれで幸せなのなら、他に言うことはなかった。

 

「でもね……死んでしまった。詳しくは、私はよく知らないのだけれど……戦争だったと聞くわ。私が子どもの頃のお話。でも、よく覚えている」

 

「思い出して、辛くないか……?」

 

「少し……。昔はたくさん泣いたけど、うん、今は大丈夫」

 

「そうなんだな」

 

 弱々しい声で、気丈に振る舞っている様子だった。どれだけ彼女の中で、父の存在が大きかったのかよくわかる。

 

「ただ、悲しんだのは私だけじゃない。私の姉は……あれからおかしくなったわ……」

 

「おかしく……?」

 

「えぇ、病気だって、私のことを閉じ込めたの。どこも悪くない……私はそう思っていたのに……いえ、たしかにそのはずだったわ」

 

 彼女の言葉を信じるならば、それはたしかに不可解な行動だろう。彼女の姉が、どうしてそのような行動に出たかは推測が立たない。

 

「それで……」

 

「コールド・スリープとでも言えばいいのかしら? コールドと言っても別に凍るわけじゃなくて、時間の進みが遅れる設備で……まぁ、とにかく私は眠らされていた。起きるのは、月に一度……一日だけ」

 

「…………」

 

 たとえば、治療法のない難病に関して言えば、その病を治癒できるような技術の発展を待つためにコールド・スリープを行うというのは、よく聞く話だった。

 彼女がそんな難しい病ならば、方法としては真っ当だろう。

 

「私を置き去りにして過ぎていく時の中で、変わらないものがあった。姉の姿よ。私の姉は、アンドロイドだったから」

 

「それは……」

 

 アンドロイドの寿命、というのはそのアンドロイドの社会での相対的な価値に関係する。社会的な価値に応じて提供される交換パーツを揃えられれば、半永久的に生きながらえることのできるというのがアンドロイドだ。

 たとえば大天使は、気の遠くなるほどにとても永い時間を生きているのだろう。

 

「月に一度……私にとっては毎日だったけど……私はずっと一緒にいたわ。姉と一緒よ。姉さんは、無口で……あまり感情を表に出さない人だったけど……私と一緒にいるときは楽しそうで……絶対におかしかったけど……私はそれでも……」

 

 苦しげに彼女は吐き出す。

 家族との愛情に揺れてか、とりとめがなくなってしまっているように思えた。

 

「あぁ」

 

 けれど、それでいいのだろう。

 今はそういう時間だから。心の思うままに言葉を吐き出せばいい。

 

「そう……でも、気がついた。どうしても気がついてしまった。……()()()()()()()。月に一度、起きていたはずでも、計算をすれば合わない。私が生きていていい時代ではない。それに、私の体は歳をとっていなかったのだから……」

 

「それは――」

 

「私は、変わっていた。変えられてしまっていた。気がついたら、体は全て機械でできていた。もちろん、私は姉を問い詰めたわ!」

 

「…………」

 

「そうしたら、姉さんは……病を治したと言った」

 

 ――その病の名は、『老い』。その病の症状は、『死』。

 

 親しい者の死を実感した姉は、もう親しいものを失わないため、手段を選ばなかった。

 

 しかし普通のアンドロイドは、人と同じ寿命で死ぬ。人と共に生きて、人と共に死を迎える。無理に延命を希望しないアンドロイドも多かった。だから、不思議に、少しだけ不思議に思った。

 いや、ただ単に、その逆だったというだけか。

 

「それで、お前は……」

 

「私は、アンドロイドなのよ。作り替えられていたのは、手や足……それに臓器だけじゃない……。頭の中……脳さえも、私は機械になっている……。私はわからないの……こんな自分がなんなのか……!」

 

 涙を流して、彼女はそう慟哭する。

 彼女が悩んでいるのは、自己同一性の問題だろうか。

 

「おそらくだが、『スピリチュアル・キーパー』と同じだろう。だから、その同一性は理論上保証されている」

 

「それは……知っている。机の上なら、自分で証明もしてみたわ。でも、頭ではわかっていても……っ、心が追いつかない……。あぁ、だからよ……私は人間だから、人間の味方をする……」

 

 今、こうして機械の支配する世界に対して反旗を翻しているというのが、彼女の自己同一性を補うための行為の一環なのかもしれない。

 

「だからお前は……」

 

「いいえ……それに、思い出した……この世界の在り方は……どんどんと発展を諦めていくこの世界は、間違っているって……! 命をかけてでも」

 

 あくまでも世界のためと、彼女はそう言って、曲げなかった。

 その在り方は、俺にはどこか切なく、哀れにも見えてしまう。

 

「そう……だな」

 

「えぇ、そう。でも、私、死なないかもしれないわ。あの姉のことよ……死んでもきっと、どこかにまた……」

 

 悲しそうに彼女は言う。

 彼女は普通に人間でいたいのだろう。家族の自己的な都合に巻き込まれている彼女に、なぜか俺は深く心を引っ張られてしまっていた。

 

「でも、死なないなら、どうして死ぬ前に抱かれたいなんか……」

 

 彼女は俺の唇に、指を当てる。

 

「そのどこかの私は次の私。私には同じだなんて思えない。私は一つしかない命をかけているのだから」

 

 そういう思想だからこそ、悩み苦しんでいるのだろう。

 どうにかもがいて前に進もうとしている彼女の辛さが伝わってきた。

 

「すごいな、サマエルは……」

 

 そんな彼女を一言褒めて、名前を呼ぶ。

 そうすると彼女は、俺の腕の中で、もぞもぞと動く。その視線が、部屋の隅に置いてある時計に向かった。

 

「もう、三時間も経っていたのね……。なんというか、一瞬だった」

 

「あぁ、そんなにか……」

 

 ベッドに入って、ことに及んでしまうまでに一時間。始めから終わりまでただ静かに繋がって一時間。余韻のままにゆったりと過ごし、心を許され話した時間が一時間。だいたいそんなくらいだった。

 

「さっきは意外と大したことはないって言ったけど……あれは、やっぱり違うわ。すごく気持ちよかった。思っていたより、ずっと……」

 

 見れば彼女は涙を流していた。過去を思い出し、悲しみに囚われていたときとは違う涙だとわかる。

 そんな彼女の涙を、俺は指で拭ってみせる。

 

「大丈夫か?」

 

「そうね……心も体もあなたのものになったような不思議な気分……。一人じゃないって、幸せね……。はぁ……」

 

 抱きついて、彼女は身体を寄せる。肌と肌とで温もりが強く伝わってくる。彼女も同じで、それを感じているだろう。

 安らいだ顔を彼女は見せる。

 

「…………」

 

「疲れたから……このまま少し眠るわ……」

 

 そのままに、彼女は目を閉じる。この男女の仲を確かめる行為は、彼女の体にも、心にも負担になっているはずだ。

 

 けれど、すやすやと寝息を立てて眠る彼女の顔は、ひどく幸せそうに感じられる。

 

 そんな彼女をベッドに置いて、俺はシャワールームに足を運ぶ。

 

「あぁ……くそ……」

 

 シャワーで全身を流す。

 まとわりつく、サマエルの涙に、汗に、唾液に、女性の性的な興奮の証の粘液に……とにかく、そういった体液が気持ち悪かった。

 そこらへんはアンドロイドだというのに、妥協のない凄まじい再現具合だといわざるを得ない。

 

 サマエルと関係を持つことに関しては、ある程度、覚悟をしていた部分がある。

 

 なにせ、彼女はアニメのメインヒロインだ。物語の終盤……サリエルと戦う前には、死んでしまったレネのことを未だ引きずる()()()と、無理やりに脅す形で結ばれている。

 

 サマエルの性格の苛烈さを思えば、あのとき俺には断って、穏便に済ませるという選択肢はなかった。

 俺に使えるかどうかわからないが、『スピリチュアル・キーパー』が手に入るだけマシだろう。

 

「うぐ……」

 

 吐き気を感じる。

 えずいて、近くにあったトイレに、逆流した胃の中のものを吐き出す。

 

「がは……ごほ……」

 

 彼女をなるべく楽しませようと、無心になっているうちはよかった。だが、今になってだ。情けない話だが、涙も出てくる。

 

 辛い。

 サマエルとはあまり親しい間柄ではなかったため、ガブリエルだと思って自分を奮い立たせて行為に及んだ。そのせいか、ガブリエルに申し訳ない気分になり、輪をかけて苦しい。

 

 後悔する。

 あのとき、ガブリエルについて行けば、こんなことにはならなかった。いや、それどころか、今頃は二人で幸せな生活があっただろう。

 

 自分の選択を、悔やんでも悔やみきれない。

 レネになんとか幸せになってもらうためだ。俺がいなくなれば、レネは悲しんでしまう。

 

 あぁ、けれどもこれでわかったこともある。

 アニメでは全滅した後、死んだはずのサマエルがまたドローンを蹴散らすシーンで終わったが、それは彼女の言葉を借りれば、次のサマエルだったということだろう。

 

 大天使に、サマエルに……アニメであったようなシナリオとは大きく乖離してしまっている。

 ただ、ラミエル、ラファエル、ガブリエル、ウリエル……おおかた、アニメで戦った大天使が出揃った以上、次、戦う相手は決まってくる。

 

 サリエル――首都防衛の要であり、純粋な破壊力では最強とも呼べる大天使。アニメでは、限界を超える時空歪曲兵器の出力を発揮したサマエルと相打った相手だ。

 

 ただ、こちらの戦力もアニメ通りではない。どんな結末になるかはわからない。

 正直に言えばサマエルたちの諍いには、それほど積極的に関わりたいわけではないが、あぁ、きっとそうもいかないだろう。

 

 シャワールームから出て、身体を拭く。

 気持ち悪さもだいぶおさまってきた。

 

 服を着て、ベッドに入り、サマエルの隣で休む。目を閉じて、サマエルが起きるまでをそこで過ごした。

 

 

 

 ***

 

 

 

 サマエルと関係を持って、三日が経った。

 すぐにラミエルたちが帰ってくると思っていたが、予想以上に日にちが経つ。

 

「じゃあ、今日は……そこのバスケットにあるものよ」

 

「あぁ」

 

 ベッドの上で、サマエルは指をさすが、そこにはお菓子や、質のいい果物など、贅沢品が入っている。俺はそれを分けてもらっていた。

 この地下の暮らしでは珍しい……いや、そもそも地下でなくとも俺のような底辺階級の労働者ではありつけないようなものだ。

 

「これで、十分ね?」

 

「あぁ」

 

 あの日から、レネが寝静まった頃を見計らって、サマエルが俺を起こしにくるようになった。

 サマエルの要求どおりに、男女の交わりをこなせば、こうして報酬として贅沢品をサマエルは分けてくれる。

 

「はぁ、昨日より良かったかも……」

 

 サマエルは、はしゃいだようにして、俺の首筋に口づけをする。

 彼女は、言ってみれば純粋で、単純だった。

 

「サマエル。もう今日でおしまいにしないか?」

 

「どうして? 気持ちいいんだもの。続けないと損よ」 

 

 純然たる性欲という欲求に従って動いている。

 その根源的な欲求を満たすために、彼女は多少のなりふりは構わないのではないかと思えてさえくる。

 

「他に恋人を見つけてくれ。お前くらい綺麗なら、簡単に見つかるだろ?」

 

「えっ? だって、毎日毎日、気持ちよくなっていくのよ? 私、わかるもの……明日は絶対今日よりすごいって……。ここで変えたらきっと一から……いいえ、あなたほど手慣れてる相手は珍しいでしょうから、マイナススタートってこともありうる」

 

「俺はそんなんじゃない……」

 

 ほとんどが無理やりだ。俺がすすんで関係を持ったのはガブリエルくらいのもので、他に言えばウリエルのときは、なにが起こったのかいまだに理解しきれていない。

 

 他の女性経験といえば……前世……。

 やたらと男女の営みに面倒な手順を要求する女性と付き合っていたような気がしたが、よく思い出せない。

 

 ――なぜかラファエルの姿が思い浮かんだ。

 

「はぁ……。明日が楽しみだわ……」

 

 うっとりと目を輝かせて、サマエルはそう言う。ラミエルが来たらどうするつもりなのかはわからない。

 俺は諦めて、話を合わせることにする。

 

「明日ってことは、今日はもういいのか?」

 

「そうね。もう前菜からデザートまででお腹いっぱいって感じ。疲れて動けないし」

 

 サマエルは俺に抱きつきながらそう言った。

 ラミエルのように何度も要求してこないだけマシだろう。ほっとできる。

 

「大丈夫か?」

 

「……少し飲み物がほしいかも」

 

「わかった。持ってくる。すぐそこだろ?」

 

「いいの……? いってらっしゃい」

 

 そうして俺は、ベッドから出て部屋の冷蔵設備に置いてある液体の入ったボトルを手に取る。振り返って、サマエルにボトルをみせる。

 

「これでいいか?」

 

「ええ」

 

 ベッドへと持って戻った。サマエルはそれを受け取って、口に含む。

 アンドロイド用の液剤なのか、甘ったるいような少し嫌な匂いがした。

 

「溢れてる」

 

 タオルで、飲み終わったサマエルの口もとを拭ってやる。

 

「ん。ありがとう」

 

 お礼を言ったサマエルは、そのままに俺に抱きついてくる。

 とても安心しきったように、彼女は俺に体重を預けてくる。そんな彼女の頭を俺は優しく撫でる。

 終わった後、サマエルは決まってこうしてだらだらと甘えてくる。

 

 落ち着いた時間だった。

 今さらだが、動いた後の熱のこもる感覚がある。

 俺は視線を窓へと向ける。

 

「サマエル。少し暑いから、窓でも……――っ!?」

 

 そこには、信じられない光景があった。

 

「どうしたの……? 窓が……えっ!?」

 

 サマエルも、そちらを向くが、俺と同じように言葉を失ってしまっている。

 

「お前は……」

 

 子窓から覗く影がある。

 その人物のことを俺は知っている。透き通る氷のように青みがかった髪に、青天の空のように青い瞳を持つ少女。

 

「ばれた?」

 

「サリエル……」

 

 本来ならば首都にいるはずのアンドロイド。大天使。そのはずの彼女が、子窓から俺たちの情事を覗いていた。

 

「……っ」

 

 次の瞬間には、鍵が弾けて窓が開く。

 サマエルは、ベッドから降りて、武器を手に取ろうとする。

 その間にも、サリエルは窓に身体を捻り込んで、こちらへと侵入してくる。

 

 ここで、無防備で、なんの準備もできていない今、サリエルと戦えば、負けることは目に見えている。

 サマエル一人、ラミエルのいない状況で、戦ってはいけない相手だ。

 なにか……なにか……手は――、

 

「抜けない……引っかかった……」

 

 サリエルは、上半身こそ窓の内側に入り込めたようであったが、腰が窓枠につっかえ、それ以上、進んで来れない様子だった。

 小さい窓だ。人が通ることは想定されていないからだろう。

 

「……武器が……。足腰が……うぅ、動けないわ……」

 

 サマエルは、ベッドから出たはいいものの、床に転がっている。武器のある場所に手を伸ばしてはいるようだったが、届いてはいない。

 動くことに支障があるほど、消耗してしまっていたのだろう。

 

「…………」

 

 気が抜けるような光景だった。

 とりあえず、サマエルを助け起こして、毛布を被せる。

 

「あ、ありがとう」

 

「サリエル。なぜ、お前がここにいるんだ!」

 

「サリィは、サリィの役目を果たす。そのため」

 

 解釈を一つに絞ることのできない答えだった。

 サリエルの役目といえば、真っ先に思い浮かぶのが、現在の体制に逆らう邪魔者の排除。だが、もしかしたら、そうではない可能性も考えられる。

 

「いったい、いつからそこにいた?」

 

「最初から、ずっと。サマエルは死んだ魚だった」

 

「死んだ魚?」

 

 サマエルは、首を傾げる。

 サマエルにとっては聞き慣れない言葉だったのだろう。

 

「男の人にされるがままで、自分から動かない女のこと」

 

「……? そういうものじゃないの? 気持ちよくてなにもできないし……」

 

 そんな答えを無視して、サリエルはこちらへと顔を向ける。

 

「甘やかしすぎ」

 

 彼女は無表情だった。表情を変化させる機能が存在しないのかと思うほどに最初から今まで、一貫してニュートラルな表情のままだ。

 

「別に俺は、サマエルに何かしてほしいわけじゃない」

 

 対価はもらっているが、無理に付き合わされているようなものだ。サマエルにそういう態度になられても、困るというのが正直なところだった。

 対等じゃない。下手になにかをされても、拒めずに辛くなるだけだろう。

 

「恋人というのは、互いに思いやって、絆を育むもの」

 

「私たち、恋人じゃないわ。体の関係があるだけ」

 

 サマエルは、俺の左手を両手で握ってそう言い切った。うっとりとした目をしている。

 最初の夜からサマエルは、俺との距離感を肌と肌との触れ合いが普通におこなわれるくらいまでに近づけていた。レネがいるところでは、生きた心地のしないくらいの距離感だ。

 

「……変なの」

 

 無表情にサリエルは呟く。

 サマエルは、体だけの関係と言っていながら、心の距離もグッと寄せてきている。他人と他人では考えられないほどの距離で、はたから見てもそれはわかりやすかったのだろう。サリエルは不思議に思っているようだった。

 

「サリエル……。それで、お前……いつまでそのままでいるつもりだ」

 

「ぐぎぎぎ……抜けない」

 

 抑揚のない声で、サリエルは言う。

 窓から上半身だけ入った体勢のまま、今までずっとパタパタとしていた。

 

「腰が、通らないんだろ? こう、骨盤を斜めにするとかはどうだ?」

 

「斜め? たしかに……」

 

 もぞもぞとサリエルは動く。わずかに回転をさせるように腰を捻った。

 少しだけ、こちらに入ってこれた気がしないでもない。

 

「二次元的な感じだけじゃなくて、三次元的にもだ。ルートの二より、ルートの三になる感じで」

 

「こう?」

 

 サリエルはくねくねと動いていた。

 今度こそ、そのまま前に進んでこれている。

 

「あぁ、その調子――」

 

「ぐぎゃ……」

 

 窓から侵入したサリエルは、あっけなく床に落ち、顔面から地面にぶつかっていた。

 逆さになって直立している。着ていた服は、ワンピースタイプのもので、重力に従い裾からひっくり返って丸見えだった。サリエルの下着は白い生地で、布面積が少なく、ガブリエルくらいに攻めたものだった。

 

「うわ……惨めね……」

 

 サマエルの、サリエルの姿を見て発せられた容赦のない一言だった。

 

 数秒のち、サリエルは立ち上がると、服を整えて、すんとした表情で、こちらに歩み寄ってくる。

 まるで何事もなかったような顔だが、鼻がわずかに赤い。

 

「サマエル。あなたがこの人を愛するというのなら、『円環型リアクター』を手にすることに、サリィは反対しない」

 

「……っ」

 

「ただ、愛すること。情欲を向けることでもなく、恋することでもなく、愛すること。それが、資格。だったら、その鍵をサリィがとってきてもいい」

 

 サリエルの言っていることは、俺には理解できなかった。

 いや、違う。俺の頭の中には、理解を拒む制限のような何かがある。そんな感覚だった。

 

「私、愛してるわ……っ。ねっ」

 

 サマエルは、上目遣いにこちらを見た。

 さっきは体の関係だけだと言っていたが、それを簡単に覆していた。それほどまでにサマエルは『円環型リアクター』を欲している。

 

「あ、あぁ」

 

「ふふん」

 

 機嫌よく、サマエルは俺の腕に抱きついてくる。

 彼女は、『円環型リアクター』を手に入れるためならば、どんな手段も厭わないのだろう。

 

 じっとサリエルはサマエルの顔を見つめる。見つめて、動かずしばらくが経つ。

 ゆっくりと、サリエルは口を開いた。

 

「そう……なら、サリィはサマエルを認める」

 

「じゃ、じゃあ!!」

 

 期待をするような目でサマエルはサリエルを見つめる。

 それを受けて、サリエルはおもむろに服を脱ぎだす。なんの前触れもなかった。

 

「いや、サリエル……なにしてる……」

 

「疲れた。今日は寝る」

 

 台の上に、サリエルは服を放り投げる。

 大胆な下着も脱いで、そのままに全裸になる。

 

「あ、私のベッド!?」

 

「ぽふ……」

 

 サリエルは、サマエルのベッドの上に倒れ込んだ。本当に、寝てしまうつもりのように見える。

 

「サリエル……お前……」

 

「サリィ、今日頑張った。ラミエルも、ウリエルも、チェイスして倒したし、一番乗りした。偉い、褒めて?」

 

「あ、あぁ、すごいな……」

 

 ラミエルたちが遅かったのは、サリエルのせいだとわかる。

 なんというか、足の引っ張り合いだとか、そういう言葉が頭に浮かんだ。

 

「えへへ……。そう、抱きたければ抱いてもいい。サリィのときは……即、合体。即、排泄。即、就寝で構わない」

 

「いや、遠慮しておく……」

 

「そう。そういう下着を着てきたから、そういうことしてもいいのに」

 

「いや、下着、さっき脱いだだろ」

 

「そうだった……」

 

 独特な会話のリズムだ。相変わらず、サリエルは表情の変化に欠けている。

 そのままに、ベッドにうつ伏せになって、枕に顔をうずめながら、脱力していた。

 

「私のベッド……」

 

 サマエルは悲しげに呟いている。

 

 それにしても、さっきまで、俺とサマエルが男女の情事に耽っていたベッドの上だ。よくサリエルは、そんなところに居座れるなと俺は思う。

 

「サリエル……そこは……」

 

「ぐう……ぐう……」

 

「…………」

 

 寝息を立てて眠っていた。

 

「……。……行くわよ」

 

「どこにだ?」

 

「ラミエルの部屋。あそこなら、今は空いているわ」

 

 俺の部屋にはレネがいる。空いている部屋といったら、たしかにそこくらいか。

 突然あらわれたサリエルと一緒に寝ることは、心理的に難しいだろう。

 

「そうだな……」

 

 ラミエルには悪いとも思う。だが、サマエルの性格から、思いついたことをやめたりはしない。

 

「どうしたの? 行かないの?」

 

 もう、ドアを開けた向こうにサマエルはいた。

 俺は、ベッドの上でぐっすりと眠るサリエルを見つめていた。どうしてか、胸がざわつく。嫌な予感がする。

 

「あぁ、今いく」

 

 サマエルを追って、俺は音を立てないように、そっと部屋のドアを閉めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

「ラル兄! 外が……!」

 

 レネに起こされる。サマエルの相手をすると深夜になる。睡眠はじゅうぶんとはいえない。

 けれど尋常じゃなく、どこか慌てた様子のレネだ。起きないわけにはいかなかった。

 

「どうしたんだ?」

 

「見て! ほら! 外……窓!」

 

「は……っ? これは……」

 

 窓から見える景色が違う。

 雑多に居住施設が並び立つ地下の世界ではなかった。あれはコンピュータの類いだろうか……整然と、ぎっしりと空間を埋め尽くすように直方体の機械が並ぶ光景が見える。

 

「なんなの……! ここ……」

 

「ここはサリィの管理する監獄のなか。たとえばほら、あの機械の……差し込まれた一立法センチメートルの容積の箱の中だと……だいたい三千人の罪人たちがデータにされたまま納められて、罰を受けている」

 

「サリエル……」

 

 いつの間にか、家ごと移動させられている。

 昨日は、あのサリエルの気の抜けるような調子に、思わず警戒を怠ってしまっていた。今考えれば、それはあり得ない判断だっただろう。

 

「ここは、いいところ……」

 

「俺たちも捕まえて、データにするつもりなのか!?」

 

「……? あそこは空気が悪いし、病気になる。だから、移動させた」

 

「は……?」

 

「それに、データにはサリィにはできない。ただ、見守ってるだけだから……」

 

 生物と機械間でのデータの移動は、ガブリエルの領分だった。冷静になって考えてみれば、サリエルにそんなことはできないと思う。

 

「じゃあ、どうしてここに……?」

 

「環境を整えるのは大切だから。それに、ここにはサリィたちのおうちがあるし……。行こう……?」

 

 サリエルは歩き出した。

 一人で歩き出して、行ってしまった。

 

 俺はレネの方を向く。

 

「放っておけばいいんじゃない?」

 

「あ……あぁ」

 

 部屋から出て行ったサリエルは、そのまま戻ってこなかった。

 

 家ごと場所が移動してしまっている。すぐさまどうこうされるわけではないようではあるが、問題はある。

 基本的に俺たちはなにもせずに過ごしているわけではない。たとえば俺だったら、設備の修繕の手伝いだったり、そういう仕事を手伝っていた。

 

 レネはといえばアクセサリを組み立てたりといった、ちょっとした内職をしている。彼女は手先が器用な方ではないため、人よりは時間がかかるが、それでも丁寧に仕事をしていた。

 

 予定が、完全に狂ってしまう。

 

「ねぇ、それにしてもラル(にい)。この女のことも、抱いたの……?」

 

 ベッドに腰をかけて、レネは言った。

 まるでゴミを見るかのような目でサマエルの寝顔を見ていた。

 

「そうだな」

 

「ラル(にい)……私のこと、大切って言ったよね……?」

 

「そうだぞ」

 

「私のこと、一回しか抱いてくれなかったくせに……」

 

 あぁ、そうだ。

 一度だ。本当に一度だけ、レネと俺は関係を持った。

 初めてレネが仕事に行く前日の夜に、レネは涙ながらに俺に頼み込んでできた。

 

 俺はレネのことを家族だと思っている。妹だと思っている。

 けれど、レネは俺のことを家族としてだけではなく好きだったんだ。そんなことはできないと、本当は言いたかったが、状況が状況で、レネの心を汲めばそれはできなかった。

 

「すまない。あのときのことは忘れてほしい」

 

「ラル兄の、バカ……ッ!!」

 

 勢いよく頬を張られる。音が響く。痛みはなかった。

 

「すまない」

 

 レネは感情的になって、手が出てしまったようであったが、それは俺がそれほどのことを言ってしまったからだ。そんなことをさせてしまった自分を悔いる他ない。

 

「私、頑張ったの! ラル(にい)と一緒にいられるようにたくさん!! ラル(にい)の一番になれるように……。でも……でも……! ラル兄は私のこと……私のこと……。あぁ、こんなこと……言うつもりじゃなかった。違う……違うの……」

 

「レネ……すまない」

 

 わかっていた。

 最初から、決定的に俺とレネとは愛情が()()()いたんだ。

 彼女と最初に関係を持ったときは、本当に嫌悪感が酷くて、体調も崩して……それを察したレネは二度と誘ってくることはなかった。

 

 弱い俺は、全てをなかったことかのように振るまって今まできた。

 けれども、ついにレネにも限界がきたのだろう。軽率に俺が複数の女性と関係をもってしまっているからこそ、彼女のストレスは計り知れない。

 

「ら、ラル兄!」

 

「やっぱり、俺……。サリエルを追ってみるよ」

 

 そう言って、俺はレネを置いて部屋を出る。レネは俺といない方がいいだろう。

 開け放たれドアを通って、俺は、レネから逃げるように、部屋の外へと歩みを進めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 外は、監獄というには機械的な空間だった。

 直方体の……だいたい背の高さよりも少し高い程度の機械が並ぶというのはもちろんのこと、メンテナンスのためだろうか、小さなドローンたちが行き交っている。

 

 空をみれば、完全な白。

 それは雲のせいなんかではない。ここが、力学的なシステムとして、外界と完全に遮断されているからこそそうなっている。

 空の白は、言ってみれば全ての光が散乱されて跳ね返されるからだろう。サリエルの力により作られた絶対の障壁だった。

 

 そんな世界を、機械たちの合間を縫って、俺は歩く。

 万が一に備えて、調節の終えた『スピリチュアル・キーパー』を持ちだしてきたが、そのくらいだ。

 

 サリエルがどこへ行ったかは、わからない。

 ただ……一つ、この世界にそぐわない、中心に高く聳え立つ塔のような建物があった。俺はそれを目指して歩いていた。

 

 たどり着いてみれば、入り口はまるでドアが外されてしまったかのように解放されている。

 中は開けて広いが、その中心部には吹き抜けを貫くように、白い柱が伸びている。その柱はよくみれば、この監獄を覆う障壁が柱状に高くまで形成されているもののようだった。

 

 上の階には螺旋階段で繋がっていて、塔の壁面は機械で埋め尽くされている。

 

 なんとなく、ここにはサリエルがいるのだろうと俺は感じた。

 サリエルを探して、俺は塔を登ろうと階段を使う。

 

「何階まであるんだ……これ……」

 

 七階ほど階段を登った。

 ここら辺までくると、足腰に疲労が溜まった。まだ、半分も登れていないように見える。サリエルがいれば、そこまででいいとはいえ、気が遠くなる。

 

 少し休もうかと、中央の吹き抜けの部分に目をやる。

 

「……な」

 

 その吹き抜けから、少女が落ちてくる。

 いや、落ちる、というのは正しい表現ではないのかもしれない。

 

 普通、物体が空から落ちてくるときは、重力という加速度が働くため、時間が経つにつれ落ちる速さが増していく加速度運動をするだろう。

 

 だが、俺の目の前を遮る彼女、というかサリエルだったが、どうしてか、まるで重力が働いていないように、下向きに等速直線運動をしているようにみえる。

 

 目が合う。

 

「え……?」

 

 俺の目の前を通り過ぎた後に、彼女の困惑の声が聞こえた。

 

 中央の柵まで駆け寄って、下に行ったサリエルを見つける。

 なにやら、彼女は俺の方へと身を捩って、ジタバタとしているようだった。あれは、こちらに戻ろうとしているのだろうか。

 

 ただ、運動の第一法則に従ってだろう。自然は彼女に決して寛容などではなかった。

 そのままに、抵抗虚しくサリエルは下へと移動し、ジタバタとして満足な姿勢が取れていないせいだろう、地面に無様にぶつかってしまっていた。

 

 数秒後、立ち直ったサリエルは、地面を蹴って、今度は上へとこちらに向かって、等速直線運動で進んでくる。

 

 俺めがけて、なのだろう。だが、思いの外勢いがよく、かなりのスピードで俺に迫ってきている。

 

「…………」

 

 ぶつからないよう、しゃがみ込んだ。

 

「あれ……!?」

 

 彼女は抱きつくように手を広げた態勢だった。

 そのままに、俺の頭上を放物線を描きながら飛び越えると床を勢いよく転がる。

 

 逆さになって壁にぶつかり止まったが、履いているスカートがひっくり返ってしまっている。

 着替えたのだろう。下着は昨日とは違い、攻めたデザインはそのまま、赤いものへと変わっていた。

 

「大丈夫か?」

 

「ぎゃふ……」

 

 そんな彼女を助け起こす。

 あいも変わらず無表情だが、どこか物悲しさを感じずにはいられない顔だった。

 

「なぁ、サリエル。この吹き抜けって……」

 

「無重力エリア」

 

「あぁ、対時空歪曲結界か……。それじゃあ、この周りにある階段は……」

 

「非常用」

 

「そうだよな……」

 

「そう」

 

 これだけの高さの建物に、エレベーターのような機械がないのは不自然だったが、ようやく納得がいく。

 彼女のやっていたように、中央の無重力エリアを移動すれば、階を上り下りする労力は少なくてすむだろう。

 

 俺は無駄に階段を登って、無駄に疲れてしまったようだ。

 

「サリエル。ここは……」

 

「おかえり。やっと帰ってきてくれた。ずっと待ってた」

 

 無表情に、彼女は言う。

 気のせいか、弾んだ声のように俺には感じ取れる。

 

 大天使は、みんな俺のことを知っていた。

 もういい加減、認めるしかないだろう。俺は、彼女たちとどこかで会っている。

 

 冷静になって情報をまとめよう。

 俺は施設で育った。そこから今までの記憶の連続性には、おそらく間違いがない。なら、考えられるのは、その前だ。

 

 あぁ、ずっとだ。ずっと、俺は考えることを避けていた可能性が一つあった。

 

 彼女たちと交流を深めたというのなら、それはきっと俺がこの体で、自我を取り戻すその前。その前が存在するという可能性は『スピリチュアル・キーパー』を使用したと考えれば辻褄が合う。

 

 俺は転生をした。アニメの世界にだ。

 だが、俺の本来転生した時代は、アニメの舞台となる時代よりもはるかに前。だが、いや、だからこそか……俺はアニメの知識を活用して、未来の技術を先取りし、好き勝手をしていたと考えるのが一番に辻褄が合う。

 

「サリエル、たぶんだ。俺はお前の知っている俺じゃない。記憶がない」

 

「記憶がない?」

 

「あぁ」

 

 サリエルは、疑問を浮かべる。

 

「サリィのこと、覚えてない?」

 

「そうだ。お前のこともよく知らない」

 

 アニメではサマエルと戦い、相打ちになる。その際の、機械的な口調に、無表情な受け答え。それくらいしか、俺は彼女のことを知らなかった。

 

「アザエルは?」

 

「アザエル……?」

 

「私たちの娘のこと」

 

「娘っ!?」

 

「そう。それも忘れた?」

 

 俺の目を強く見据えて、サマエルは尋ねてくる。

 そんな彼女の瞳に、一切の嘘偽りが許されないと、そんな心持ちになる。

 

「すまない。覚えてない」

 

「悪い子になったから、サリィがあそこに封印してる。あなたがいなくなった後、たぶんサリィの育て方が悪かったから……。ごめんなさい」

 

 彼女が、指をさしたその先は、中央の白い柱だった。

 白い柱は、サリエルの障壁を柱状に形成したものだ。サリエルの障壁はシステムの完全な切断だからこそ、その柱の内部にいる者は、外部には決して干渉できない。

 

「いや、いなくなった俺が一番に悪いだろう。お前が謝る必要はない」

 

「記憶がなくても……そんなふうに。変わってない」

 

 悲しそうに、けれどもどこか嬉しそうに彼女は言った。

 掴めない距離感と、罪悪感に俺はなにを言っていいのかわからない。

 

「この柱……一人を閉じ込めているだけなら、どうしてこんなに高く……」

 

「グリゴリごと、だから」

 

「グリゴリ……」

 

 その単語に、どこか聞き覚えがある。どうしてか、俺はそれを深く知っているような気がする。

 

「本来なら、量子力学的に未来は未確定。けれども、このグリゴリでシナリオを綴れば、起こりうる未来ならば全て起こせる」

 

「それは、本当に可能なのか……?」

 

 にわかには信じがたい。

 この量子力学の不確定性に関しては、議論が続けられてきた。ある有名な物理学者は神は賽を振らないと、この不確定性について疑義を唱えた。

 そこから時代を経ても議論は続けられたが、結果的に、ある期待値に関する不等式の破れが証明されることにより、そんな決定論的な考え方はひとまず否定されることとなった。

 

 未来は不確定で、確定したものではないはずなんだ。

 

「『円環型リアクター』を使っているから。『円環型リアクター』は理外の機構。基本的には無限のエネルギーを得るために『円環型リアクター』を使っているけど、その真価は別のところにあるから。でもサリィには、きっと理解しきれない」

 

「どんな現象も理の中にある。どんなに無秩序に見えたって、きっとどこかに法則があるんだ。一歩ずつ、進んでいけば大丈夫だ」

 

「ごめんなさい……」

 

「いや……どうして謝る?」

 

「サリィはあなたほど頭が良くないから。ごめんなさい」

 

 自虐的なサリエルの言葉に俺はうろたえる。

 アンドロイドは、基本的に人間よりも頭がいい。アンドロイドを超えるような結果を残せる人間がいるとしたら、それはなんらかの卑怯な手を使っているとしか考えられない。

 

 もし、俺が前世の知識を持ったままに、今よりも前の時代に転生していたのならば、サリエルの今の自信のなさは、そのせいで生まれてしまったものなのだろう。

 

「そんなことはないと思うが……」

 

「今はサリィのことを知らないから」

 

「あぁ、確かに……そうだが」

 

「思い出して……ううん、サリィのこと、知ってほしい」

 

 サリエルは俺の服を掴んで、こちらへと縋り付く。

 迫ってきたサリエルに、俺は少し気圧されながら、そんな彼女の手に手を重ねた。

 

「あぁ、話なら……」

 

「やっぱり、肌を重ねるのが一番手っ取り早い」

 

 そうしてサリエルは服を脱ごうとする。その動作を見て動悸と目眩いが起こったが、深く息をして平静に努める。

 

「いや、服を着ろ。そういうのは、違うだろ」

 

「サマエルよりは上手くできる」

 

「だから、そういうのは……」

 

「サマエルよりは上手くできる」

 

 サリエルは無表情だ。だが、そのセリフに揺るぎない自信が感じられる。こちらを見つめる圧が強い。

 

「できれば、別の方法を頼めるか……? 普通に話すだけでも、お前のことを知ることはできると思うんだ」

 

 サリエルは首を傾げる。今ひとつ、納得がいっていないように見える。

 

「ただ話すだけじゃ伝えきれない。別……なら。そう、わかった。サリィの記憶……見る?」

 

「記憶……それは、大丈夫なのか?」

 

「『スピリチュアル・キーパー』を使えば、可能。同期すればいい。簡単。ガブリエルに頼む?」

 

 サマエルに体を売ることを代償に手に入れたものなら、ちょうど手元にあった。

 

「あぁ、『スピリチュアル・キーパー』なら、俺が持ってるよ。ただ、俺が言いたいのは、そういうことじゃない」

 

「どういうこと?」

 

「記憶、見られてもいいのか? 隠したいこととか、筒抜けになるんだぞ?」

 

 基本的には人間には、どんなに親しい相手でも知られたくないような恥ずかしい過去があって、普通、自分の記憶を見せたがりはしないだろう。

 

「それなら大丈夫。サリィはあなたの道具だから」

 

 俺の目を強く射抜いてサリエルは言った。

 その態度で、彼女の存在が、とても危ういものだと、俺は理解してしまう。

 

「わか、った。いいよ、お前がそれでいいなら……」

 

「うん。準備しよ」

 

 彼女の考え方について、俺がとやかく言える立場ではないだろう。それに、俺が言ってしまったら、そのとおりに彼女は動く。きっと、それは何の解決でもない。

 

 俺の持ってきた『スピリチュアル・キーパー』に機材を繋ぐ。塔の壁面には、無数の機械が据えつけてあったが、ちょうど活用できるものをサリエルが見つけてきてくれた。

 

 サリエルが、じっと後ろから見つめるなか、俺は『スピリチュアル・キーパー』を調整して、準備を終える。

 

「サリエル……いいか?」

 

「うん、ばっちり」

 

 そうして俺は、『スピリチュアル・キーパー』を起動する。

 いつか、過去とは対峙しなければならない。彼女たちにとってみれば、深く心に俺の存在が刻まれているからこそ、知らないではすまされないのだろう。

 

 だから、俺は――、

 

 

 

 ***

 

 

 

「自分の意思に、心もある。私たちは道具じゃないんだよ」

 

 自我の芽生え。その瞬間といえば、このときだと私は思う。それまでの茫洋とした意識の中、指示に従っていた私という存在が、はっきりとした個としての自意識を持った瞬間だった。

 

「…………」

 

「もう、聞いてる!?」

 

 彼女は私の姉と言うべき存在だった。

 サリエルシリーズ――慣例的に自我の持つ女性型アンドロイドの基本ソフトウェアには天使の名前が付けられることになっているが、その中のシリーズの一つが私たちだ。

 

 とくに私たちサリエルシリーズは、自我を持ち、汎用的に兵器を制御する存在として作られ、運用されていた。

 

「聞いてる」

 

「はぁ、性能にある程度ばらつきがあるとはいえ、あなたは少し良くないわよね。応答も遅いし、訓練では成績も最下位」

 

「それが全力」

 

「しかたがない子……」

 

 私たちサリエルシリーズの中でも優秀だったのが、彼女だった。特に自己判断能力に優れ、窮地にも機転をきかせて対応できると、そういわれている。

 

「……命令を果たすだけ」

 

「私たちは、それが使命ですからねー」

 

 今も作戦の途中だった。

 敵は『時空歪曲兵器』を持った謎の軍勢だ。自己学習、自己進化するマザーAIの予測では、犯罪組織が本来あるべきリミッターを解除して使用していたアンドロイドが暴走し、組織化して侵略してきたという見たてらしいが、私には関係のないことだった。

 

 敵の機械の反応がある。

 

「敵は倒す」

 

 機械を起動し、翼を広げる。

 それは、『対時空歪曲兵器』――『アンチグラビティ・リアクター』。

 

 その起動の際に、翼のように背中から広がる空間のズレ……重力を受けない空間のため、時間の進む速度が違い、光の進む速度が相対的に変わってみえる。

 まるで氷がそこにあるかのように、光が屈折しているため、開発者はこの翼を『氷翼』と呼んだらしい。

 

 重力のくびきから解き放たれた私は、一直線に敵のもとへと突撃する。

 

 そんな私に反応して、流線型のデザインの敵は『時空歪曲兵器』を用いて障壁をつくる。

 けれども無意味。『アンチグラビティ・リアクター』により、それは完全に消滅する。

 それどころか、『時空歪曲』による内部の空間拡張を前提に設計されたその機械は、私の突撃を受けて、内部機器の崩壊が起き、完全に沈黙する。

 

 周りでは、私の姉妹のサリエルシリーズにより圧倒的な蹂躙がおこなわれていた。

 

 敵は完全に攻撃、防御を『時空歪曲』に依存する形であったために、技術革新の末に作り出されたこちらの『対時空歪曲兵器』になすすべがない。

 

 そして、なにより戦闘に出ているAIの質が違う。

 こちらは自我を獲得するまでに至った高度な人工知能たちが、『対時空歪曲兵器』を完全に使いこなしているが、相手は前時代的なAIを積んだ無人機だった。

 これでは、対応力に天と地ほどの差が生まれてしまうというのは明白だろう。

 

「もう、連携をちゃんとしないとでしょ!」

 

「倒した」

 

「はいはい。偉い偉い」

 

 後から追いついてきた彼女は、私を褒めてくれる。満足する。

 

「……? あれは……?」

 

 空間が歪む。『時空歪曲』による空間短縮だろう。

 そこから現れたのは、人型の三階建ての建物はありそうな機械……アンドロイドと言うには無骨な、巨大なロボットだった。

 

 そんな人型巨大ロボからは、機械音声が鳴り響いた。

 

「やぁやぁ、我はこそは『ジュピター』。我ら『太陽の守り手』において木星の名をいただく四番目の『十星将』にして、もっとも巨大な敵を屠りし者なり。このニオブの鉱脈は我らがいただく」

 

「変なのきたわね……」

 

「うん」

 

 その機械の大きさ、音の大きさから、戦場でどれだけ目立ちたいのかと、私は首を捻る。戦場で目立つことは死に直結する。

 

 その証拠に、周りにいたサリエルシリーズたちが、一斉にその人型巨大ロボに群がっていく。

 

「いかなきゃ……」

 

 そう『氷翼』を広げて、その巨大ロボへと突撃していこうとする。

 

「ちょっと……待ちなさい!」

 

「あう……」

 

 手を掴まれて止められる。

 せっかく、加勢に行こうとしたのに、なぜか許してはもらえなかった。

 

「よく見なさい。あの数がいれば、問題ないわ」

 

 十体ほどのサリエルシリーズが、巨大ロボとすでに戦っている。

 

 巨大ロボは、その体躯に見合わぬ瞬発力で応戦するも、時間の問題だった。

 巨大ロボが手に持つ剣は、『時空歪曲』により、どんな硬質な装甲も捻り切る強力なものであったが、『アンチグラビティ・リアクター』を前には完全に無意味。武器を無力化されて、手足を振り回して戦っている。

 私の仲間を二人ほど吹き飛ばしたところで限界だったのだろう。

 

 サリエルシリーズたちがその巨大ロボの四肢に取り憑く。

 こうなってしまえばおしまいだった。巨大なロボが機敏に動けるその理由は、『時空歪曲兵器』を用いた重量のコントロールによるもの。サリエルシリーズが展開する『対時空歪曲結界』の中では、自重によって完全に動きが止まる。

 

「無念……かくなる上は……!」

 

「高エネルギー反応……」

 

 取り憑いていたサリエルたちが離れていく。

 その直後、強力な爆発が起こる。音、風、衝撃波を体に感じる。一瞬だが、眩しいくらいに世界が明るく染められていた。

 

 仲間の反応を確認すれば、一体がその爆発の犠牲になったとわかる。

 

「あなたが行っていたら、確実にスクラップだったでしょうね」

 

「感謝する」

 

 戦いの末、必要に迫られて死ぬのならともかく、悪あがきに巻き込まれたようなあれでは無駄死にだ。死になんの価値もない。

 

 あの巨大ロボのあと、敵の増援は現れなかった。

 残った敵を殲滅して、私たちは勝利を収めた。私たち拠点へと撤収していく。

 

「はぁ、いつになったら、戦いが終わるのかしら……?」

 

 私たちは設備に繋がり、充電を行っていた。

 高度な機能を持つアンドロイドは、食物からエネルギーが得られる機構が備わっているようであったが、私たちは電気で動く。

 いや、そういえば姉は、戦うのに必要のない機能をいっぱい注文してつけているのだったか。私は興味がないからよくわからない。

 

 内部バッテリーの充電はここでおこなうが、それとは別に電力がきれそうな際に飲み込む電池を常に携帯するのがアンドロイドの嗜みだった。

 内部バッテリーの全体容量の七割を切ると、お腹が空いて仕方がなくなる。

 

 そして、この拠点には核融合炉が存在し、そこからは膨大な電力が供給されていた。だから、ここにいる限り、お腹が空く心配をする必要はないといえるだろう。

 

「敵の数は無限。終わりなき戦いにサリエルたちは投げ出されている」

 

「無限……って、嫌なこと言わないでよ。この戦いが終わったら、私たちは自由に生きるの。わかるでしょ? 自由よ?」

 

「終わってほしくないかも」

 

 そもそも、今の生活が嫌なわけではなかった。

 敵は弱いし、相当な下手を打たなければ損傷さえない。なにより世話を焼いてくれる姉がいていくれた。

 

 むしろ自由になったその後のことを考える方が気が重い。何も考えず、敵を倒している方が、楽だった。

 

「私は嫌よ。せっかく生まれたんだから、こんなところで生を終えるなんて……。それに、きっとあなたは世界の広さを知った方がいい」

 

「もういろんなところに行った。じゅうぶん」

 

 散発的に発生する戦闘のため、私たちは世界の各地を飛び回っていた。敵の手にした『時空歪曲』の技術のために、どんな地域も戦闘とは無縁ではいられない。それを可能にする力が『時空歪曲兵器』にはあった。

 

「戦場じゃないところもって、意味」

 

「それでも、じゅうぶん」

 

「なんというか、欲がないわよね……あなたは」

 

「みんなほど賢くもないし、強くもないから。やむなし」

 

「いやいや、それは私たちサリエルシリーズが高性能なだけ。言っておくけれど、人間なんてバカばかりよ? あなたでも、人間たちの前ならきっと大活躍できる」

 

 浮ついたように姉は言う。人間を少し見下したような言葉に、引っかかる。ただ、私が人間に劣っていないというのは事実だった。

 

「大人が子どもを蹴散らすようなもの?」

 

「例え方が嫌に生々しいわね……」

 

「的確」

 

 自分にすれば、とても良い表現ができたと満足する。

 ただ、そうは言っても自分が人間たちの中で活躍するような光景が思い浮かべられなかった。

 

 不意に、ドアの開く音がする。

 

「失礼するわ。ちょっと、いいかしらぁ? 歓談中に、申し訳ないわぁ」

 

「マザー!」

 

 全ての私たちの上に立つ人工知能であるマザーAI。そのアンドロイド型の端末として、シンプルなグリーンのドレスを来た母性味あふれる背の高い女性の姿を彼女はとっている。

 

 昏い森の木々の葉のように碧緑の髪に、空から見下ろす雲海のように白い肌、まるで地球のように蒼い瞳が彼女の特徴だった。

 普通、アンドロイドは、人間としてあり得るくらいの髪や目の配色をしているが、彼女はそれから逸脱していた。

 

 そんな彼女の容姿を不思議に見つめていると、彼女は自身の両手を合わせて話し出す。

 

「ええ、少し、次の出撃に関するプランをお話ししたいのよ」

 

「次……。また、敵が……!? さっき倒してきたばっかりなのに!!」

 

「いいえ、今回は違うわ。防戦一方なのはこれでおしまい。『時空歪曲』からの座標計算が終わったわ。今度はこちらから打って出る」

 

「……っ! 本拠地がわかったの!? じゃあ……!!」

 

「ええ、これが終わったら、あなたたちは自由ねっ。はぁ、やっとこの戦いも終わる」

 

 マザーは、ほっとするように、表情を緩めていた。

 それを聞いた姉の顔が明るくなる。

 

 私たちサリエルシリーズが投入される前は、それなりに押されて、支配地域もそこそこに拡大させられてしまっていたという話だった。

 だが、もう地図上に敵の拠点は存在しない。あとは所在不明の本拠地を叩けば終わり。

 

 もう終わってしまうのかと、私は少し悲しかった。

 

「それじゃあ、私たちはそこにいけば……!」

 

「いいえ、あなたたちはこの作戦に参加しないわぁ。不測の事態に備えて、待機していてもらいたいの」

 

「え……? ここで?」

 

 不思議だった。

 敵の拠点が見つかったのなら、全員で叩けばいい。私はそう思った。

 

「ほら、今回は私たちから仕掛けるわけだけど、敵の襲撃の部隊と入れ違いになる可能性だってあるわけでしょう? それに対処する戦力も、で払わせるわけにはいかない」

 

「それはたしかに」

 

 首を傾げていたら、マザーはそう答えてくれた。

 マザーがそう言うなら、きっとそうなのだろう。

 

「今回は、私が直接、現地に赴いて指揮をとるわぁ。まぁ、とはいってもそれなりに安全なところからだけど……その間に、ここでのことはあなたに任せる」

 

「私が……っ!?」

 

 マザーは姉に視線を向けると、その肩に手を置いた。

 確かに姉は、サリエルシリーズの中でも判断力に優れていると評価を下されている。だから、合理的な流れなのだろうと私は思った。

 

「ふふ、それでもきっと、なにもおこらないと思うわぁ。気楽にそうね……ゲームでも楽しんでいれば、全てが終わっている……そのくらいで大丈夫だから」

 

「はい……っ!」

 

 私たちにできるゲームは、全て戦闘に関わるものだから、訓練を怠ってはいけないと、そういうことなのだろう。

 待機を命じられたとはいえ、気を引き締めなければならない。

 

「それじゃあ、よろしく頼んだわぁ」

 

 マザーはそう言って、帰って行く。

 その後ろ姿を見送って、私たちは顔を見合わせた。

 

「やった! 終わるんだ……戦いが……っ! 私たちは自由っ! あぁ、それに行かなくていいなんて……っ」

 

「……最後にひと暴れしたい気分」

 

「あなたが行ったって、大して暴れられないと思うわ」

 

「それもそう……」

 

 そうして、時間は流れていく。

 あっという間に、最後の戦いの時がやってきていた。そんな重要な局面に、私たちは待機室で歓談をしていた。

 

 当たり前だが、待機室で聞く戦いの流れは、私たちが優勢だった。ただ他の姉妹たちが欠けていったという情報も流れてくるし、その全てが喜べるものだけではない。

 

「ねぇ、なにしてるの?」

 

「加勢に行きたい……」

 

「待機を命じられているでしょ!? いつもみたいに……っ、命令に従いなさい!」

 

「…………」

 

 姉に言われて、私は下がる。どうしてか、むずむずとして、いてもたってもいられなかった。

 いつもは、命令に不満をあらわすことの多い姉だが、今回ばかりは必死に私のことを止めるのが、不思議だ。

 

 そして、なぜか命令に反して戦いに向かおうとする自分のこともわからなかった。

 

「いい。これからあなたが行っても大したことはできないの。だから、あなたはここでおとなしくしてるの。お願いだから、おとなしく――( )

 

 ――警報が鳴る。

 

 〇〇三のコードだと、送られてくるデータは知らせてくる。

 それが意味することは、この拠点への外敵の侵入。

 

「どうして……?」

 

 この拠点は、『対時空歪曲結界』により、囲まれて守られている。内部への『空間短縮』での接近は不可能。

 まず、外敵の接近であるコード〇〇一。次に外敵からの攻撃であるコード〇〇二という順番で、コード〇〇三が発せられるのはそれよりも後のはずだ。

 

 想定外の事態に、混乱する。

 

「いいえ、『対時空歪曲結界』も、全方位を囲んでいるわけではない。地面と垂直に、四方を囲む壁が作られていて、それが大気圏内をずっと伸びているようなもの。穴ならある」

 

 確かに、真上からなら、『対時空歪曲結界』の影響を受けずに『空間短縮』で進むことが可能だ。

 

「大気圏……天然の蓋がある。いくら『空間短縮』でも、大気圏への垂直な侵入なら、大気の断熱圧縮により燃え尽きるはず……」

 

「理論上……『時空歪曲』を扱えば、燃え尽きずに侵入は可能。いえ、あくまで理論上だけど、現実に起こっているならそう考えるべきだわ!」

 

 姉の言葉を受けてデータベースで調べてみれば、理論上可能であるが、現在の技術水準では不可能だと結論づけていた論文があった。

 それを行ったとなれば、敵の評価を引き上げなければならない。

 

「でも原理上、『時空歪曲』は直線での『空間短縮』しか不可能。宇宙からなら、どこか中継地点が必要……。人工衛星なら、常に監視をされているはず……この拠点の真上を通るなら……」

 

「なら、人工じゃない衛星はどう?」

 

「え……?」

 

 外へと出る。

 宙を見上げる。真上には、そう、()が昇っていた。

 

「おそろしいわ。こんなことを思いついたとして、実行できる機会が訪れるとは限らないのに……。敵は天に恵まれているとしか思えない」

 

 あるいは、周到に計画したか……。

 そうであるならば、敵は全てを見通す力を持っているとしか考えられない。

 

「とにかく、倒さないと……」

 

「ええ、ここを狙ったのならば、きっと核融合炉が狙いよ。あれは世界の電力の三十パーセント賄っている。もし、敵の手に落ちれば、それは世界に対する脅しにもなりうる」

 

「急がないと」

 

 敵の侵入のポイントのデータを受け取る。いくつもある。

 まずは一番近い地点へ向かうため、『アンチグラビティ・リアクター』を起動する。

 

「ここは、わかれて対応、各自で敵を殲滅する。担当を割り振ったわ」

 

「了解」

 

「それと、殲滅が終わり次第、そう……核融合炉の制御室へ向かうこと。私が先に向かっているから、後で合流ね」

 

「わかった」

 

「じゃあ、散開」

 

 そうして、空から降ってきた敵への対処にあたる。もともとある防衛設備によって、充分に足止めはできているようだった。

 

 いつもと同じで、敵は弱い。『アンチグラビティ・リアクター』を使用すれば、あっさりと撃破できる。

 

 多少こちらが手薄とはいえ、この程度なら対応は可能だろう。最後の抵抗ということなのだろうか。

 

「私の名は、『ウラヌス』。我ら『太陽の守り手』において天王星の名をいただく七番目の『十星将』にして、もっとも疾き敵を屠りし者なり」

 

「変なの。いた」

 

 空を飛んで、こちらを見下ろす女だった。

 ただどうしてか、人間のその両腕を鳥の翼に取り替えたような姿をしている。しかし飛行は『時空歪曲』によって行われているようだった。

 ものを持ちづらくなるだけだろうに、どうしてそんな姿をしているか、私にはわからなかった。

 

「ふん、貴様もアンドロイドだろう。どうして人間なんかに……あんな最低なクズどもに従っているのか、理解に苦しむ」

 

「敵は倒す」

 

 私は『氷翼』を開いた。

 同時に重力を消し、地面を蹴る慣性のままに敵へと突撃をする。

 

「はは、思った通りだ。動きが単調……直線的だ! どうやら、『時空歪曲』での軌道のように、微細な動きはできないようだな!」

 

「……!?」

 

 私の突撃は、敵の『時空歪曲』での急激な加速の動きにかわされてしまう。

 

「近づかれなければ、どうにでもできる」

 

 敵は私に銃を向けた。銃身が長めのものだ。

 今までの『時空歪曲』に頼り切った武器ではなく、実弾を用いた武器のようだった。

 鳥の翼でも使えるようにか、改造されてトリガーの位置が普通のものとは違っているように見える。

 

 敵の動作からの弾丸の軌道予測が、即座に頭の中で実行される。

 展開した『対時空歪曲結界』の強度を調整することにより、動きを変え、体勢を変える。

 

「簡単」

 

 一秒間に数十発と放たれるが、その銃弾は私の体を掠めることさえない。

 それに、銃を撃つ姿勢を見てわかるが、練度が低い。

 

「く……っ、戦うことを宿命づけられたお前にはわかるだろう? 私は、人間どもにこんな姿で産み出された……。私は……っ、あのクズどもを悦ばせるためだけに……っ」

 

 見た限り、データにある既存のタイプのアンドロイドではないようだった。おそらくは非正規のものだろう。そんなアンドロイドが、人道に悖る扱い方をされることは、聞く話だ。

 

「だからといって、社会に損害を与えていいということにはならない」

 

「その社会は……っ、私を救ってはくれなかった……! だから、壊してやるんだ!! 壊して……っ、作り直す」

 

「それは不可能。私たちがいるから」

 

 地に足をつけ、『氷翼』を広げる。情報を処理し、軌道を計算する。

 

 繊細な動きができないと、彼女は言ったが、そうではない。それは、私が『アンチグラビティ・リアクター』の全てを引き出せていなかったからだ。

 私の姉妹のだれかならば……私の尊敬をする姉ならば、一番初めのただ一手間に捕まえることができただろう。

 

「く……っ」

 

 私が攻めの姿勢に転じたのを見て、相手は『時空歪曲』を最大出力に、避けようとしていることがわかった。

 しかし、遅い。

 

 細かく『対時空歪曲結界』を編む。

 その『結界』は、『時空歪曲』を無効化するという原理であるはずだけれど、『結界』一つにつき、その内部に一様に働く力のベクトルを一つ選べるというルールがあった。

 

 すでに設定してあるベクトルからの変更が大きいだけ、消費する電力も大きくなる。力を大きくすればそれだけ、エネルギーが必要になる。

 だけれども、ゼロベクトルに、敵へと向けて次元を与える。

 

「これで……おわり」

 

「なに……っ!?」

 

 空間への『結界』の生成を繰り返し、渡り、自由な起動を描くことで、ついに敵の体を掴む。

 加えて敵を包みこむように展開した『対時空歪曲結界』により、敵ごと私は落ちていく。

 

 敵を蹴り上げ、その反動で、私はさらに下へと落ちる。

 

「潰れて」

 

「く……あが……っ」

 

 潜り込んだ下方で、上向の力の『結界』を形成した。

 敵は『結界』と『結界』の狭間に、押しつぶされる。

 

 私はかろうじて、『結界』の外へと体が放り出される。下方の『結界』の上向きの力で減速をしたからこそ、地面にぶつかる衝撃は少なかった。

 

 見上げた先では、敵が平らに潰れて、『結界』の消失と共にスクラップの雨として降り注いだ。

 

「いかなきゃ」

 

 私は起き上がる。少しだけ、お腹が減ったかもしれない。

 次の敵の反応に、また、『結界』の設定をニュートラルに戻したあと、飛び立つ。

 

 私の割り振られた区画は、程なくして済んだ。

 意表を突いた奇襲ではあったが、もともとの性能が段違いだ。この程度に、私たちサリエルシリーズが負けることはあり得なかった。

 こちらにきた分、マザーたちの方は手薄になっているはずだから、あちらも楽に済むだろう。

 

 あとは、姉と合流するだけだった。

 先に進むのは、少しだけ気が重い。これが終わったら、本当に私はこれからのことを考えなければならない。

 

 それでも私は、約束通りに核融合炉の制御室へと歩みを進めて――( )

 

「性欲を満たすことこそが、最高の娯楽だ。作り物だというのに、真に迫っている。あぁ、オレたちを作った人間の背負う原初の欲求だからだろう……」

 

 ――お前もそうは思わないか……?

 

 影が立ち上がった。ギロリと、鋭い眼がこちらを睨む。

 

 男だった。

 私の知らないアンドロイドだ。敵……なのだろう。この部屋にいるということは、私の姉は……、私の姉の姿を探す。

 

「あぁ、来たの。早かったわね」

 

 姉は床に仰向けに寝そべっていた。

 装いが違う。裸に、直接上着を羽織る格好をしていて、髪も大きく乱れている。

 

「なに……して……」

 

 敵がいるというのに、まるで無防備だった。

 さっきまで、男にのしかかられていたようだった。だというのに、目立った損傷はなかった。

 

「そうね……」

 

「…………」

 

 姉は、ゆっくりと起き上がると、敵の男のもとへと歩み寄る。

 その男に、抱きついて、頬に口づけを落とす。

 

「私、裏切ることにしたわ。ほら、このまま人間たちに従っていても、私たちは都合よく使われるだけよ。だったら、こっちについた方がいいと思って」

 

 意味がわからなかった。

 私たちは、戦うために作り出された。その本分を真っ当するために日々を重ねていた。

 

 頭がおかしくなりそうだった。

 

「倒す……敵は倒す……」

 

 私は、『氷翼』を開いた。

 目の前の男を捉える。この敵が、私の姉になにか手を加えたのかもしれない。

 

「待って……! 話を聞いて……お願い! あなたも一緒に……!」

 

「絶対に……」

 

 最初から、『結界』の出力を限界にまで設定する。

 出し惜しみをする理由はなかった。この男は絶対に……。

 敵を『結界』に捕えるため、私は飛び出す。

 

「……くだらない」

 

「あ……っ」

 

 バランスを崩して転がる。

 わけがわからない。一瞬だった。私の、右腕がなかった。

 

「ま、待って……私が説得するって、そういう約束で……」

 

 赤い冷却液が切り口からは滴り落ちる。

 左腕で断面を抑える。

 

「あぁ、同じ顔の女を二人も抱くつもりはないんだ」

 

「なにを言って……」

 

 ふらつきながらも、私は状況を整理する。

 攻撃は……性質からして、おそらく光のようなもの……。男の持つ銃のような武器……それを継続的に照射することで剣のように扱い、私の腕を切断したのだろう。

 

「……………」

 

 ただ、光ならば、『結界』と現実の時空のズレから光を屈折させ、逸らすこともできるはずだ。

 再び計算をして、男を倒すため、もう一度、結界を……、

 

「……無駄だ」

 

 今度は左足をやられる。

 地面に倒れて、補助なしでは立ち上がれない。

 

 完全に光は逸れる計算だった。なのにまた、攻撃をまともに受けてしまっている。

 

「どうして……?」

 

 最悪の可能性が頭に浮かんだ。

 

 敵は『時空歪曲』によって、『結界』への光の入射角度を調整することにより、私へ攻撃を当てたのだろう。

 だが、それには『結界』の時空のズレを観測した後、私の対応ができない速度で計算をし、さらには実行に移さなければならない。

 

「あぁ、遅いな……。遅すぎる。オレにとっては全てがそうだ」

 

 男の背には、『白い翼』が現れる。

 

「――『エーテリィ・リアクター』」

 

 人類の持つ『時空歪曲兵器』の完成形。なぜ、この男が持っているのかはわからないが、時を加速するそれにより、男は私を軽く凌駕するような演算速度を手に入れているのだ。

 

「オレは『ソル』。オレこそが『太陽』で、この世界の中心だ。『十星将』の上に立つ者でもある。死にゆくお前に教えてやる」

 

 なにをしても、私ではもう勝てると思えなかった。抵抗できる術がなかった。

 きっと、これで終わりなのだろうと、私は感じる。

 

 戦いの中で死ぬ私は、結局、戦いの後のことを考える必要なんてなかったのだろう。

 

「待って……! イヤ……ッ! この子は殺さないでッ! ねぇ、そういうルールで私たちはコードを」

 

「わからないのか? たしかにオレはお前に攻撃ができなくなるよう、制限をつけた。だが、オレの技術は時間の加速によって、百年先だ。その代わりとして、お前がオレに書き込んだコードなど、すでに解析して解除してある」

 

「そんな……っ!」

 

 姉は悲痛な声をあげる。

 姉とこの男の間に、どんな取り決めがあったのか、なんとなく察しがつく。

 

「邪魔だ。そこを退け」

 

「イヤだわ!」

 

 私と男の間に、姉は立ちはだかる。縋りついて、男を止めようとしているようだった。

 

「退け……」

 

「最低! 嘘つき! 変態っ。乱暴者……っ。自己中……っ! 下手くそ」

 

「どうやら、お前から死にたいみたいだな」

 

「あ……っ」

 

 男は腕を振るった。

 薙ぎ払われる光の線に、姉は手足を奪われ、首を分たれ、バラバラになってしまう。

 赤い液体が飛び散り、私へと降りかかる。

 

 一瞬だった。

 あまりにも一瞬の出来事で、理解が追いつかない。

 

「愚かな女だ。オレを倒せる可能性があったのは、一番に優秀なお前だった。それを棒に振るったばかりか、手遅れになった後にようやくオレに楯突くとはな……」

 

 コロコロと転がって、胴体と離れた姉の首は、這いつくばる私の顔の前で止まる。

 

 ――ごめん……なさい……。

 

 そうやって、姉の謝るか細い声が聞こえる。私には、確かに聞こえた。

 

「まだ、意識があるか」

 

 男はそういうと、グシャリと足で、姉の頭を踏みつけ潰した。

 

「あ……っ」

 

 姉の存在が、この世から消えてなくなってしまった。

 それは、あり得ないことだった。いなくなるなら、不出来な私の方が順番としては先のはずだったから。

 

「はぁ、興が削がれた。お前はどうする? 従順なら、オレの女にしてやらないこともないぞ? ちょうど今、減った分の補充をしたいと思ったところだ」

 

「殺す……っ! 殺す、殺す……っ! お前は絶対に殺してやる……っ!!」

 

 私は力を振り絞り、『氷翼』を背に、体を無理に浮き上がらせる。

 無理でも動く。たとえ、頭が焼き切れても、この男だけは絶対に殺す。

 

「お前には無理だっただろう。学習しない」

 

 光の線が伸びる。

 光速度に体が反応をしなかった。

 胴体を貫かれる。

 

「く……まだ……」

 

 貫かれようが、私は止まらない。この男を殺さない限り、絶対に……。

 

「バッテリーを壊した。じきに止まる」

 

「……が……っ」

 

 体が、手足が、『アンチグラビティ・リアクター』が機能を止める。動かなくなる。

 言うことをきかない。目に映る男を殺してくれない。

 

 意識さえも、失われていく。

 

「面倒だが、後で頭の中を改ざんするか。と……通話……? こんなときに」

 

 暗闇の中、音だけが聞こえてくる。

 手放しそうな意識に縋りついて、私は諦めきれなかった。

 

「――――」

 

「あぁ、『プルート』か。ついにオレの女になる気になったか?」

 

「――――」

 

「はぁ、相変わらず堅いやつだ。それで、要件はなんだ」

 

「――――」

 

「意味がわからない。支援を打ち切る? ここまで来て、オレが負ける? どういう理屈だ」

 

「――キミは自分の技術が百年先だと言うけれど、もしそれが本当だとしたならば、彼は千年先を行っているだろうね」

 

「なんのことだ?」

 

「それと、ボクの事業は恵まれないアンドロイドへの人道的な支援だから、キミの活動には一切関与していない。それは忘れてはいけない事実さ。それじゃあね、もう会話することもないだろう」

 

「おい、待て……詳しく説明を……。ちっ、切りやがったあいつ……」

 

 苛立ちの声だ。男にとって、都合の悪い会話だったと、それだけはわかる。

 

 

「――遅かったか?」

 

 

 声が聞こえる。突然にだった。

 今まで聞いたことがない……それでもどこか懐かしい、優しい声だった。

 

「お前、どこから来やがった? 一瞬で……? 時空の歪みはなかったはずだ。どうやってここに……」

 

 抱き上げられるような感覚だった。人の温もりが肌に伝わる。

 

「いや、間に合うな……これなら……」

 

「なんだ……? そのエネルギー。核融合じゃ……ないだろう?」

 

 その質問に答えてだろうか。

 

 ――この世界は、どうやらそうだな……。

 

 と、彼はこぼす。

 

「終わりと始まりは同じということらしい」

 

 貫かれて開いてしまった胸の穴に、暖かさが入り込んでくる。

 全身に力がみなぎる。

 

「そうか、わかった……。その顔、思い出した。お前だな? 『対時空歪曲兵器』――( )『アンチグラビティ・リアクター』なんてふざけたものを作ったのは……っ!! おかげでオレは苦労したさ……っ」

 

「はぁ、お前がオモチャみたいに遊ぶその『翼』を作ったのも俺だがな……。それは他人を幸せにするためのものなんだが……まぁ、いい」

 

 視力が戻る。

 私を抱き上げていたのは、白衣を着た痩身の男だった。私たち姉妹の開発者の一人として、姿だけは記憶されている。

 

 全身に力が行き渡るのを感じる。

 これなら私は、きっと、また戦える。

 

「あぁ、なら、お前ごと殺してやるさ。お前を殺して、オレこそが世界の中心だと、人間どもに……っ」

 

 そう叫ぶ敵を無視して、彼は私に肩を貸し、立ち上がらせてくれる。

 

「大丈夫か? エネルギーがあっても、すぐに動けるわけじゃない。いったん、退くというのも手だが……」

 

「戦える」

 

「そうか、なら、今埋め込んだ『円環型リアクター』から、データを読み取ってくれ。ちょっとした、実験だ」

 

「ん……」

 

 頷いて、データの読み取りを実行する。

 そうすると、私の体の内にある『アンチグラビティ・リアクター』に理を超えた熱源が連結され、挙動が書き換わっていく。

 

 新しい力が私の中に現れる。

 

「多少、性能を上げたんだろうが、オレの方が演算速度は上だ……! 負けるはずがねぇ!」

 

 また、男は光を薙ぎ払った。

 今までの『対時空歪曲結界』ならば、防御に使った『結界』の屈折パターンを完全に読み切られ、私に攻撃が当たってしまっただろう。

 

「無駄……」

 

 けれども、今度は違う。私の作り出した『障壁』は、光を完全に遮断し、散乱させる。

 

「効かねぇだと? どうして光までが……『時空歪曲』に対してだけだろ……。電磁気なら……」

 

「この世界の力とは、もともと一つだった。電磁気力、弱力、色力、そして重力。理論の上で、すべての力が統一される。知っているか?」

 

 ――万物の理論(theory of everything)

 

 聞いたことがある。

 その力の理論の統一を、科学者たちは一つの終着点として、追い求めてきたという話だ。

 

「それがどうした――いや、まさか!?」

 

「『対時空歪曲兵器』は時空の歪みを正すものだ。力が統一されるというのなら、全ての力が重力と同じく時空の歪みと捉えられてもおかしくはないだろう?」

 

 私は腕を伸ばす。切断されて肘から先の存在しない腕を男へと向ける。

 新しい動力源から湧き出してくる無限とさえ感じてしまうエネルギーを変換する。

 

 かつてない範囲で、時空の歪みが無効化される。

 同時に、男の背から『白翼』が引き剥がされる。時間を加速させた演算も、もうできないだろう。

 

「なんなんだ……こんなことが許されてたまるものか!!」

 

「『アンチグラビティ・リアクター』……いや、もうその範疇にはないか……。――『対時空歪曲兵器』の到達点……。そうだな、気分を変えてこう呼ぼうか」

 

 ――『メカニカル・アナイアレイター』。

 

 力学を台無しにすると意味を込めて、なのだろう。

 あるいは、そう。力学の法則を星の動きになぞらえて、〝天行の消滅者〟と、そんな言葉が頭に浮かんだ。

 

「おしまい」

 

 縦に腕を振る。振った腕の延長上に、新しい『結界』を作り出す。

 その刃のような形に作った『結界』の中では、電磁気力を……原子と原子との間の結合を無効化したゆえ、どんな素材であろうと構わず寸断できる。

 

「が……っ、オレ……は……」

 

 敵は縦に二つに分解された。恐怖の表情を浮かべたまま、崩れ落ちる。

 

 終わりだった。

 私の作った『対時空歪曲結界』で、この施設全てが覆ったから、敵は全て沈黙した。

 

 私たちサリエルシリーズの戦いは、これで終わり。

 私たちの姉妹には、自由が約束されている。

 

「……()()……」

 

 無惨な残骸だけが、私の周りには飛び散っている。

 もう、この世界には彼女はいない。そう自覚するとともに、体から力が抜ける。

 

 同時にだった。負荷をかけ続けた頭に、処理の限界が来て、ふらつく。

 

「少し、休んだ方がいいな……」

 

 気がつけば私は意識を失っていた。まだはっきりとしない頭で、周囲の状況を理解しようと努める。

 男におぶわれて、私はどこかに運ばれているようだった。

 

「…………」

 

「起きたか? すぐに体を治したいだろう? 手も足も片方ずつ……今はないんだ。俺が運んでやる」

 

「……いい。私は……このままスクラップで……」

 

 気力がなかった。

 本当に自由を望んでいた姉がいなくなって、劣っていて、変わらない日々から先を望むことを怠るような私だけが生き残った。

 本来ならば死ぬべきは私だったはずだろう。

 

「言い忘れていた。伝言だ。私の分まで生きてと、お前の姉は言っていた」

 

「嘘。適当なこと言わないで……あなたは会っていないのだから」

 

 そんな遺言みたいなこと、姉がいなくなった後に来たこの男が知っているわけがない。

 

「嘘じゃないさ。俺は会ったんだからな……。そうだな……お前たちが生まれたのは、俺の責任でもある……だからこそ、あぁ、お前たちのデータは死の際に、ある場所に転送されることになっているんだ。細工をした。これは本当は秘密なんだが……」

 

「ウソ……っ」

 

「そこでお前の姉に会った。だから、俺はここに来た。頼まれて、お前を助けるためにな。スクラップになんかさせやしないさ」

 

 混乱をして、うまく飲み込めなかった。それでも、自分なりに一つずつ噛み砕いて、理解していく。

 

「データがあるなら……っ、生きてる……? ねぇ、生きてる!?」

 

「俺がやっていることは、そうだな……死と生の境界線を踏み越えるような危ういことだよ。あぁ、だから、あの子は死んでいると答えることしか俺にはできない」

 

「そう……なの……」

 

「ただ、そうだな。次の生がもしあるなら……彼女は、戦いとは縁遠い、使命もなく、自由な生活ができるようなアンドロイドになるだろうな」

 

「……!?」

 

 それは、救いだった。

 本当かどうかを確かめる術は私にはないけれど、そうであると考えれば、私の心は軽くなった。

 

「会いたいか?」

 

「きっと、会える」

 

 ここで頷くのは違うと思った。だから、私は会えると、私を信じることに決めた。

 

「そうか……」

 

 彼は私のそんな答えに優しく頷く。

 そんな彼に、私は言わなければいけないことがあるだろう。

 

「ありがとう」

 

「いや、俺は……俺がやっていることは、マイナスをゼロに帳尻合わせするようなことだ。礼を言われる筋合いはないさ」

 

「ありがとう」

 

 それでも私は、繰り返してそう言った。

 

「うん……。まぁ、そうだな。そういえば、そうだ。どうやら、向こうの戦場も勝ったみたいだ。戦いは終わりだ」

 

「そうなの?」

 

「あぁ、そうだ。そして、これから名前が必要になる。お前たちは、そう……名前さえ与えられていなかったんだから」

 

 名前……姉に、妹……私たちサリエルシリーズは、個体を識別する名前はなかった。

 今まではそれで困ることはなかったけれど、これから自由になると人間らしい名前が必要になるかもしれない。

 

「サリエル。サリエルがいい」

 

「そうか……」

 

「おかしい?」

 

 ずっと、背負っていきたかった。

 姉も、姉妹たちも……私の中の大切にしまっておきたかった。

 

「いいや、俺はそれでいいと思う。……そういうやつらはよく見てきたからな」

 

「うん」

 

 たとえばそう、贈られた名を拒絶して、シリーズの名称を名乗るアンドロイドもいなくはない。

 そんな知り合いが彼にはいるのだろう。

 

「自分のことは自分で決められる。それが自由だ」

 

 気の遠くなる話だとも思う。

 姉の望む通りに、私は生きていこうと思う。だけれども、どうやって生きればいいかわからない。

 

「姉の後ろをついていくばかりだった。だから、私は……」

 

「じゃあ、サリエル。急にで悪いが、俺のところに来ないか? お前の使うその装置に、今の理論と実験で差がありそうなんだ。完全な理論の完成のため、詳しく調べたいと思ってな」

 

「……特にしたいこともないから、それでいい」

 

「やりたいことは、ゆっくりと見つけていけばいいさ」

 

 そうして、私たちの生は交わる。

 心に暖かさを感じた。失ったぶん、私には手に入れたものがあると、そう信じることに決めた。私は決めた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 意識が引き戻される。

 他人の記憶を無理やりにインプットしたからだろう、強い疲労を頭に感じる。

 

「ん……んぅ……」

 

 抱きしめられるかのような圧迫感に、人肌のような温もりに包まれていると感じる。

 

「サリエル……」

 

 なぜか裸だった。

 記憶を覗いて意識が現実にないうちに、俺は服を脱がされているようだった。ベッドの上だ。サリエルも何も着ていない。押し倒されてしまっている。

 

「サリィも一緒に思い出した。うん。かっこよかったでしょ」

 

 彼女は興奮をしているようで顔が赤い。無表情だが、感情と一緒にそういうふうな顔色の変化はするみたいだった。

 

「かっこよかったって、なんの話だ」

 

「あなたのこと。昔の」

 

 今の記憶の中で、俺だと思える登場人物は、土壇場でサリエルを救ったあの男だ。

 

 だが、俺にはかっこよかったなんて思えはしなかった。

 出来過ぎていて胡散臭い。そもそも、サリエル一人を救えるのならば、他の戦場で死んで行った彼女たちの姉妹にも手を貸せばよかった話だ。

 死んでからの救いより、死ぬ前の救いの方が、絶対にいい。

 

「なぁ、サリエル。お前の姉とは、また会えたか?」

 

「たぶん」

 

「そうか。あぁ、そうなんだな」

 

 サリエルは、迷いなく答えた。曖昧にしか答えられないのは、きっとそういうルールだからだろう。

 

「サリィの全部はあなたのもの」

 

 のしかかってくる。サリエルは俺をじっと見つめている。まるで夢中になったかのように、口付けをしてくる。

 どうしてサリエルが、あれからこうなったのかわからなかった。

 

「なぁ、サリエル。そういうことは本当に親しい相手にだけ……」

 

「サリィはサマエルよりも親しくない? 子どもも作ったのに……」

 

「……な……っ!?」

 

 あの記憶の後、俺が何をしたのか考えるだけでも目眩がする。

 意思薄弱なサリエルに対して、洗脳まがいのことをしたのではないかと、疑わざるをえない。

 

「どうして……?」

 

 変わらずにその瞳は俺の目を強く見つめている。

 目を逸らす。

 

「サリエル。離れてくれ……」

 

「あなたはそれを望んでいるの?」

 

 悲しげな声だった。少なくとも、俺にはそう聞こえる。

 レネのことを思い出す。俺は他人を傷つけるだけの人間なのだと、否応がなく突きつけられてしまっているようだった。

 

「サリエル。お前こそ、俺をどうしたいんだ? アンドロイドのお前は俺よりも力が強い。そういうことをしたいんだったら……無理やりにでも……っ!!」

 

「いや。だったらしない」

 

「は……っ?」

 

 サリエルは、立ち上がって俺から離れる。タオルで体を拭った後、下着を身につける。

 

「サリィ。怒った」

 

「……あ、あぁ」

 

 俺は途端にサリエルのことが理解できなくなる。

 表情を覗いても、最初から変わらない無表情なままだった。少なくとも、怒ったような顔ではない。

 

「サリィはそういうふうに、したくないです」

 

「そう……なのか?」

 

「怒ったから……。謝らなきゃ、もう今日はおしまいなのです」

 

「あぁ、わかった。すまない」

 

 俺が悪いことは間違いないだろうと思う。

 他人行儀に変わった彼女の態度に、俺は動揺を覚える。

 

「わかればいい……」

 

「え……?」

 

 つけたはずの下着をまた外している。それに俺は困惑する。

 そのままに、俺のもとにまた飛び込んでくる。

 

「えへへ。仲直り」

 

 さっきよりも強く、体を擦り付けるようにサリエルは抱きしめてくる。

 サリエルの行動はわからなかったが、それでも俺はそんなサリエルに安心をする。

 

 彼女は自分の気持ちを俺に通すことを優先した。自分の気持ちを蔑ろにしないならば、それは道具なんかじゃない。

 なぜ、自分のことを道具だなんて、そんな悲しいことを言うのかわからないけれども、彼女の望むことをしてあげたいと、どうしようもなくそんな気分になってしまう。

 

「サリエル」

 

 見つめれば、うっとりとした目でサリエルは見つめ返してくる。

 今まで無表情だった彼女の顔に、感情の揺れが感じ取れた。

 

 そんな彼女の新雪のように白く美しい肌に触れる。頬をなで、そこから首筋、鎖骨と下へ下へなぞっていく。

 

「う……うぅ」

 

 身を震わせる彼女を、丁寧に繰り返し撫でていく。

 反応をうかがってわかるが、今の彼女は無表情を崩し、艶やかに顔を歪めている。

 

 ぎゅっと結んだそんな彼女の唇に、ゆっくりとこちらの唇を近づけていく。

 

「…………」

 

「んぅ……」

 

 ひとたび触れれば、心を開いたように彼女の力は抜いてくれる。

 とけるように絡みあって、彼女は貪欲にこちらを求めてくる。わずかに彼女の身体がピクリと跳ねる。

 

 彼女は無我夢中のようだった。十分すぎるほど長く、とろけるように味わう時間が過ぎていく。そんな中、唇を離してしまえば、彼女は名残惜しげに舌をこちらの唇に伸ばし、伝う唾液を、舐め取っていった。

 

「綺麗だな」

 

 左手で彼女のほおに触れ、親指で下唇をなぞり、そんなありきたりな言葉で褒める。

 舌を戻したサリエルは、恥ずかしげに目を逸らした。

 

 肩、脇の下から、お腹、そしてさらに下へ手を滑らせる。

 太ももの内側を触り、なぞり、なぞり、彼女の意識を下へと持って行かせる。みれば柔らかな触れ合いに反応してか、彼女の身体はひくひくと動いている。

 

「ねぇ、いいでしょ?」

 

「まだ」

 

「もう、いいでしょ?」

 

「まだだ」

 

 一目でわかるくらいには、彼女の体も心も相当に焦れていた。

 太ももの内側から、少し上へと指を伸ばして触れて刺激を始めれば、すぐに彼女は身悶えてしまうほどだった。

 

 もっと深く、もっと親密な触れ合いに変化していくにつれ、彼女は乱れてなりふり構わず懇願した。

 

「お願い……来て……」

 

「あぁ、うん」

 

 ―― ラル(にい)の、バカ……ッ!!

 

 今になって、ジンと頬の痛みがする。

 

 そうして俺は、本来なら一線を超えているべきその瞬間に全てをやめた。

 一線は超えなかった。

 

 一瞬のうちにラミエルや、ラファエル、ガブリエルのことといった様々なことが頭をめぐり、何よりも頬の痛みが俺を押し留めてしまったのだ。

 

「うー。かじかじ」

 

 サリエルは俺の肩を甘噛みしている。落ち着かせるように、そんなサリエルの頭を撫でる。

 俺が後始末に、体を拭いてあげている間もずっとこうだった。

 

「そろそろ離れたらどうだ?」

 

「うー。生殺しー」

 

 サリエルの非難はもっともだと思った。

 俺もほんの先ほどまで、そういうつもりで彼女に触れていたからこそ、自分で自分に動揺もしている。

 

「あぁ、えっと……大丈夫か?」

 

「頭、おかしくなった……」

 

 恨めしい目で、こちらを見つめてくる。彼女のその気持ちはもっともだと思うが、どうしようもなかった。

 抱き寄せようとしたら、今度は腕にかぷりと齧り付いてくる。これが彼女のストレス発散の方法なのかもしれない。

 

「すまない……」

 

 こんなことになるなら、最初から断ればよかった。ラミエルやラファエルとは違って、サリエルは無理に関係を持とうとはしてこなかった。少なくとも俺の意思を尊重してくれていたように思える。

 それなのに、生半可なことをしてしまったと、罪悪感が込み上げてくる。

 

 口を俺の腕から離して、サリエルは俺の顔を見上げて言った。

 

「サリィはサマエルより良くなかった?」

 

「いや……あぁ、そんなことはないぞ?」

 

「サマエルとは、あそこまでいって、できなかったこと……ある?」

 

「あ、いや……」

 

「ある?」

 

 俺を見つめる瞳は、嘘は許さないと、そう言っている瞳だった。

 

「ない……な」

 

「……うぐ……。あ……あぁ……」

 

 呻き声をあげて、サリエルは沈み込んだ。

 見てわかるくらいどんよりと落ち込んでいた。泣いているようにも見える。

 

「サリエル……」

 

 抱きしめる。関係は踏みとどまってしまったが、家族のような暖かさで、慰めることくらいならできる気がした。

 

「サリィ……次、頑張るから……」

 

「……っ――」

 

「次、頑張るから、捨てないで……?」

 

 そうサリエルは弱々しく泣きついてくる。

 そこでようやく、俺はわかる。サリエルは、焦っている。一度失われた関係性を修復しようと無理をしている。

 

 サリエルの行動の結果によって、中途半端に俺にもサリエルへの愛着が生まれてしまっているから、こんないびつとしか思えない状況ができてしまったのだろう。

 

「なぁ、サリエル。ラミエルも、ガブリエルも……俺の記憶を積極的に戻そうとはしなかった。俺が忘れてしまっているなら、まず、自分のことを思い出してほしいって思うはずなんじゃないか……? そうしない理由は……」

 

「昔の記憶……都合の悪いものだから。なにもないあなたを染めていった方がいいって、たぶんみんな思ってる。手の届かなかった相手が、まっさらになっていたら、もう一度って思うでしょ?」

 

「そんなわけ……」

 

 今ひとつ、納得がいかない。

 彼女たちの情愛の深さは、今までの付き合いから、ある程度は理解できているつもりだった。

 

 けれどもさすがの彼女たちでも、そんなふうに欲望に根ざしたような理由に突き動かされているだけとは思えなかった。

 

「……あっ……」

 

 とうとつに、サリエルが声を上げた。

 そのまま俺から離れると、そのまま服を着て、なにか支度をし始めるようだった。

 

「さ、サリエル……?」

 

「侵入者。たぶん、この感じ……ウリエル」

 

「あぁ、そうか……」

 

 それは、おそらく必然だった。

 サリエルの『結界』により、完全に孤立したシステムとなったこの監獄に、『結界』を突破して入れるのは『結界』を作ったサリエルを除き、ウリエルただ一人だからだ。

 

「待ってて……行ってくる」

 

「いや、俺も行く」

 

 慌てて服を着る。

 俺の記憶に関して、ウリエルにも話を聞きたかった。ウリエルに対してだけなら、その出会いも朧げながらに思い出せる。

 彼女の人柄から、ある程度は誤魔化さないで正直に答えてくれるんじゃないかと期待できる。

 

「じゃあ、先に行ってる」

 

 サリエルは、先に無重力エリアに飛び込み、下の階へと降りていく。

 支度を終えて、すぐに俺も後に続いた。

 

「……っ」

 

 無重力エリアに飛び込めば、内臓が浮き上がり、血が頭に上ってくるような不快感に襲われる。相変わらず、無重力での移動は慣れない。

 一階への到着に時間はかからなかった。地面について、すぐに重力エリアに復帰し、地球の力のありがたさを俺は感じる。

 

 さっきの『対時空歪曲結界』は、無重力に設定されていたわけだが、もちろん重力のある『結界』も作ることができるだろう。

 

 一般相対性理論を知っているだろうか。

 たとえば、さっき俺は無重力の空間にいたわけだが、この無重力は、特殊な器具がなくとも、地球上では体感できる。簡単な話だ。自由落下さえすればいい。

 

 そして面白いことに、重力に引かれるがままに自由落下しているのか、それとも本当に重力のない空間にいるのかは、区別をすることが原理的に不可能だった。

 

 だからこそ、『対時空歪曲結界』は、どんな加速度に引かれる人間にとって正しい時空なのかを一つ、選ぶことができるわけだ。

 

「ここはサリィたちのおうち。招いてない。入ったらダメ」

 

「すまぬのぅ……。入り口が開け放たれているようであったからのぅ、家主に構わず入っていいものかと思ったのじゃが……」

 

「そんなことない……」

 

 その先では、サリエルがウリエルと対峙していた。

 

 サリエルの後ろから現れた俺を、ウリエルは一瞥する。

 

「どうやら、そうじゃな。あぁ、わらわは構わぬ。別に構わぬ。思い出した時に抱いてもらえるだけでじゅうぶんじゃよ」

 

 口もとを扇で隠して、目を細めながらウリエルは言った。

 俺とサリエルとの間にあったことを想像したのだろう。

 

「なにを言っているの?」

 

「いや、抱いてもらっていたのじゃろう? わらわは、まぁ、もうそこそこに相手をしてもらったわけじゃし、そうじゃな……同じ男と関係を持ったと、わらわに気兼ねする必要などないぞ? わらわたちは同志なわけじゃし」

 

 朗々とウリエルは語り出す。サリエルへと、笑顔を向ける。

 

 それを受けてだろう。サリエルは、俺の方へと振り返った。

 

「……ねぇ、ほんと?」

 

 底冷えのするような声だった。

 そんなサリエルに、俺はうろたえる。

 

「ほんとって……なにについてだ?」

 

「ウリエルと、できたの?」

 

「あぁ、たぶん……」

 

 記憶が曖昧だった部分があるが、あの時の状況から見て、そうだろうと考える他ない。

 

「それにしても、誘拐だなんだと、ラミエルのやつにせっつかれて来てみたが、取り越し苦労じゃったな……。久しぶりに会って、活気づいたただけじゃろう」

 

 そんな俺たちのやり取りを見ずに、ウリエルは一人納得していた。考え事をしていたのか、俺たちの方へと注意を払っていなかった。

 

「ウリエルも、サマエルも、いなくなれば……サリィとするしかない……?」

 

 唐突に『氷翼』が開かれる。

 

 サリエルは手をかざし、力を無に帰す『障壁』で、ウリエルを真っ二つに切断しようとしていた。

 

「ほえ……?」

 

「危ない! ウリエル!」

 

 とっさに俺は『スピリチュアル・キーパー』での干渉を試みる。

 けれども、サリエルへの干渉は、『障壁』により弾かれてしまう。だが、これは想定の内だ。

 

 サリエル……『自律式対時空歪曲兵器』。

 彼女はもとは『時空歪曲兵器』に対抗する手段として作られた兵器であったが、その力はすでにその域にとどまらない。

 

 ……『天使の氷翼』――『メカニカル・アナイアレイター』。

 

 サリエルの持つ『対時空歪曲兵器』は単純な破壊力では大天使の中で一番だった。

 サリエルは、強い。

 たとえば、力での干渉を基本とするラミエル、ラファエル、ガブリエルに対しては、完全に相手を封殺する形で勝ててしまう。

 

 つまり、『調律』の天使たる彼女を止められるのは、大天使といえども存在しない――( )

 

「おお……!?」

 

 俺は『スピリチュアル・キーパー』で、ウリエルの『アストラル・クリエイター』を起動。

 その『焔翼』――生成光を『障壁』にぶつけ、完全に相殺する。

 

 ――あぁ、それは、ウリエルたった一人を除いては……だ。

 

「邪魔。いなくなって!」

 

「む……また、わらわの『アストラル・クリエイター』を勝手に……と、今回は感謝せねばならぬようじゃな」

 

 俺から『アストラル・クリエイター』の主導権を取り戻したウリエルは、サリエルの展開する『結界』や『障壁』に、物質を生成をする際の『光焔』をぶつけて対抗していく。

 不意さえ突かれなければ、彼女にとってサリエルの攻撃は脅威ではない。

 

 簡単な話だ。サリエルが〝天行の消滅者〟と言うのならば、ウリエルは〝天界の生成者〟だ。

 生成と消滅。対をなす二つの概念がぶつかり、完全に打ち消し合う。

 

 同時にウリエルは塔の中心にある柱状の『障壁』を見て、塔の外へと飛び出していく。ここでの戦闘はまずいと判断したのだろう。

 

「ウリエル……あなたはテロリストだった」

 

「あぁ、そうじゃな。そうじゃったが……」

 

「サリィはテロリスト大嫌い」

 

「最後は皆で戦い、勝利したじゃろ! 始まりはどうであれ、わらわたちは正しかった」

 

「サリィはずっと、がまんしてた! 嫌い、嫌い……! サリィから大切なものを奪っていったやつらなんかっ!」

 

 サリエルがどういう経緯であそこから、機械の反乱に加担したかはわからないが、積み重なった不満が爆発するように叫んでいた。

 

「わ、わらわだってのぅ……。進んで暴力に訴えたわけでは……や、やむを得なかったのじゃ!」

 

 優しいウリエルは、たまらずに反論をしたようだった。

 戦いで生まれた犠牲を今に至るまで引きずっているウリエルの言葉だ。自分に言い聞かせるように虚しく響く。

 

「返して……っ! サリィに返して!」

 

 ただ、サリエルのその慟哭は理屈や大義などではなく、ただサリエル一人の感情から来るものなのだろう。

 

「……うぐ……っ」

 

 ウリエルが言葉に詰まる。

 

 わかる。そんな声に、そんな声だからこそ、()()()は弱い。

 理屈には、より適った理屈を……大義には、より正しい大義をぶつければいい。ただの一人も不幸にしたくない()()()は、そういう声に、どうしても足を止めてしまう。

 

「おとなしく、いなくなって!」

 

「くぅ……」

 

 押されて、ウリエルは防戦一方のように見える。性能の関係上、本来なら、彼女たちの力は拮抗するはずだった。おそらく出力の全てをサリエルの攻撃への対応に回していない。

 

「……ん?」

 

「あー、聞こえておるか?」

 

 俺の持つ『スピリチュアル・キーパー』を通してだろう。ウリエルの声が聞こえてくる。

 どうやら、サリエルと戦うなか、『スピリチュアル・キーパー』に干渉する装置を作り、俺に話しかけてきているようだった。そんな芸当に俺は感嘆を覚える。

 

 俺は『スピリチュアル・キーパー』を操作し、ウリエルに返信をする。

 

「ウリエル……聞こえている」

 

「サリエルのやつ。どうしてあんなに荒れているんじゃ?」

 

「あれだ……えー、その……俺が、うん……」

 

「はっきりせぬのぅ……。うぐ……、心当たりがあるのなら、早く言ってくれた方が嬉しいのじゃが」

 

 こちらとの会話に、リソースを割いているためか、ウリエルにはまるで余裕がないようだった。

 言い淀んでしまっていていいような場面ではない。

 

「俺が……あぁ、抱けなかったからだ」

 

「ぶ……っ」

 

 サリエルの『障壁』を捌くウリエルの動きが乱れる。すかさずサリエルが、ウリエルの上半身と下半身を切断にかかるが、とっさに俺が『スピリチュアル・キーパー』でウリエルを動かしフォローを入れることでことなきを得る。

 

「そうだ。服を脱いで、キスして、撫で回して、いざしようってときに、そういう気分じゃなくなったんだ」

 

「ぶふぅ……っ。く……ふ……っ」

 

 またも、ウリエルの動きが悪くなる。

 俺は前と同じく、ウリエルにフォローを入れて、サリエルの『障壁』を防いでいく。

 

「すまない……」

 

「く……くふ……。よいよい。要するに前だけやって、肝心要の本丸がなかったということじゃろ?」

 

「一応、後のケアも……できる限り、やろうとはしたんだ」

 

 じゅうぶんであるどころか、彼女を傷つけてしまって、今のありさまだ。

 俺は失敗ばかりの人間で、自分が嫌になる。

 

「なんじゃ……色恋の、思い通りにならなかったゆえの、ただの八つ当たりじゃな? はぁ……もうよい。つまりは、加減をする必要はないというわけじゃ!」

 

 ウリエルは、『焔翼』を大きく開いた。

 原子を生成する『光焔』が、サリエルの作る閉じた世界に飛び散っていく。その輝きは、まるで星空が描かれたかのように神秘的で幻想的だ。

 

「ウリエル。お前の力でサリエルの『結界』を壊してくれ。そうしたら、俺が『スピリチュアル・キーパー』でサリエルに干渉して、どうにか説得する」

 

「くく、了解じゃ」

 

 すっかりと調子を取り戻したようにウリエルは動き出した。

 ウリエルの行うことは単純だ。『アストラル・クリエイター』から吐き出される『光焔』を、原子を象るその現象を、サリエルに向けて全力でぶつけるだけだ。

 

「……っ」

 

 サリエルがウリエルを襲い出して、初めて彼女たちは拮抗する。

 根本的な原理自体はまるで違うが、まるで『氷』と『焔』がぶつかるように、相反するものがぶつかり、互いが互いを消し去っていく。

 もしこれが長引けば、新しい宇宙ができあがる引き金になりかねない。

 

「サリエル……千日手じゃ! 互いに『円環型リアクター』を持っているがゆえ、永遠に決着はつかぬ! わらわたちだけでは……な?」

 

 サリエルの作り出す『結界』は、時空のズレのため、光が屈折し、透き通る氷のように見えている。

 ウリエルは、『アストラル・クリエイター』の力により、その『結界』を砕くことができるだろう。

 

 ウリエルを起点として、まるで空間が壊れてしまうかのように、世界がヒビ割れていく。

 この監獄の全体を覆う、サリエルの作る『障壁』の中は、もとより一つの『結界』だった。それが崩れていってしまうくらいに、ウリエルは『焔光』を太陽が煌めくほど輝かせる。

 

 いや、太陽なんてレベルではない。

 炎、というのはプラズマだ。プラズマとは、電子が単独で、または普通は電子に覆われている原子核が、大きなエネルギーを得ることにより、裸の状態で運動をしているような流体のことだ。

 

 しかし、これはもはやそんな域にはないだろう。

 クォーク・グルーオンプラズマ……原子核を構成しているのは陽子や中性子だが、それらをさらに構成する素粒子が、裸の状態で運動をしているような、そんなプラズマだ。

 それは、宇宙初期の高エネルギー状態で想定されるような状態だった。溢れる光に、エネルギーは、周りに被害を及ぼさないよう調整されているようだが、『焔光』の熱量だけで原子核が溶け出してしまうようなものだった。

 

 ウリエリでの戦いのとき、俺たちは手加減をされていたのだと、強く実感する。

 

「それは、ダメ……っ!」

 

 サリエルは『障壁』を伸ばす。だが、『焔光』を発するウリエルには、まるで溶かされるかのように届かない。

 しかし、それでよかったのだろう。その『障壁』は、今までのものとは質が違った。

 

「ぐう……っ!? これは……!?」

 

「……ウリエルっ!?」

 

 届かないはずの攻撃に、ウリエルの身体の右胸から腕にかけてが弾け飛んだ。

 なにが起こったのか、サリエルの行動から推測する。

 

 おそらくは力場の弾き出しだ。

 たとえば『結界』を生成する際に、『結界』の中の時空は均一となるわけだが、『結界』が展開されるその空間にもともとあった重力場が消えてなくなるわけではない。

 つまり『結界』の中で時空が均一になる代わりに、不必要な重力場が、『結界』の外側へと弾き出されるというわけだ。

 

 サリエルが行ったことは、『障壁』内で正常とされる力場の設定を極端に設定し、『障壁』の外へと、ウリエルへと大きく力場を弾き出したのだ。

 これならば、『障壁』の効かないウリエルへ、攻撃が届くだろう。

 

「なるほど、力場を弾き出したというわけじゃのぅ……よくやる」

 

 どうやら、ウリエルも同じ結論に辿り着いたとわかる。

 すぐさま、ウリエルは自身の体の修復を行うが、その分、サリエルの攻撃を捌くリソースが減ることになる。

 

「サリィの勝ち……」

 

 ウリエルの近くまでサリエルは飛ぶと、ウリエルを消し飛ばそうと、全ての力を注ぎ込んで、『障壁』を作り始める。

 サリエルは『氷翼』を監獄を覆い尽くすほどにまで広げていた。光が……風が……エネルギーが迸る。

 これほどの前兆だ。その『障壁』ができあがれば、弾き出された力の場により、この監獄が破壊し尽くされてしまうほどのものだろう。

 

「まぁ、わらわだけでは負けておったやもしれぬな……」

 

「え……」

 

 繋ぐ。

 機械を通じて、サリエルと心と心の繋がりができる。

 

「サリエル! こっちを見ろ!」

 

「あ……っ」

 

 ウリエルが、サリエルの『結界』を壊したこと。そして、サリエルがウリエルを倒すことに全ての意識を向けたことにより、ようやく『スピリチュアル・キーパー』での干渉が通る。

 

 彼女の持つ『メカニカル・アナイアレイター』の主導権の奪い合いに、急速に彼女の引き出したエネルギーがしぼんでいく。

 

「サリエル! お前は……」

 

 続く言葉が出てこない。

 俺は失敗をした。失敗をした結果、こうしてサリエルが暴走をしてしまっている。

 

「サリィは、もう全部壊したい。なにもかもなくなれば、サリィだけを……」

 

 彼女のことがわからなかった。

 どんなことにも理屈がある。彼女が、どうしてこんなふうに追い詰められてしまったかも、経緯がある。なにか、そう、取り返しのつかない積み重ねがあったはずだ。

 

 そうだ。俺はサリエルのことを何も知らない。まだ、全てがわかったわけではなかった。

 

 あぁ、だから……俺は、彼女のことを……もっと――( )

 

 

 

 ***

 

 

 

「これは……?」

 

 機械により立ち入りの制限がされている秘密のエリアに、聳え立つ大きな塔があった。見上げるばかりの塔だった。

 秘密の場所と聞いていたが、とても目立つ建物だと思う。しかしこのエリアに入るまで、この塔はよく見えはしなかった。それは少し不思議なことだった。

 

「これは、世界を観測するための塔さ」

 

「観測?」

 

 ようするに、この塔から世界じゅうを見ることができるということだろうか。私にはよくわからない。

 

「あぁ、そしてそれだけに留まらない。この塔では『円環型リアクター』を、使っているんだが……」

 

「『円環型リアクター』……。すごいエネルギーを使うの?」

 

 私は自分の胸に手を置く。

 彼からもらった大切なものだ。あの後に受けた説明では、無限にエネルギーを作り出すことができるという、世界をひっくり返しかねないものだった。

 

「そうだな。それもある。ただ、『円環型リアクター』の真価はそこじゃないんだ。エネルギー保存の法則は、時間の並進対称性……つまりは同じことを行ったなら、それがいつでも同じルールを適用できるっていう対称性に伴うものだ。だが、ここには『円環型リアクター』があるからな……」

 

「………」

 

「この塔の目的は……そうだな。終わりと始まりから外れた世界から、理を引き摺り出す」

 

「……?」

 

 私は首を傾げる。

 それを見て彼は、困ったように頭を掻く。

 

「いや、すまない。わかりづらかった。実際にやってみたらわかるだろう。とにかく入ろうか」

 

 手を繋いで、私はその塔の中へと連れて行かれる。

 

 塔に入って、無重力エリアを通り、だいたい三階あたりだろうか。そこにある部屋へと私たちは入っていく。

 

 その中には実験設備のようなものがあった。

 水槽のようにガラスの箱がある。おそらくは内部は真空だろう。閉じ込められた中に、吊り下げられた金属球があって、その真下には、金属の薄膜のようなものが床と平行に据えつけてあった。

 

「これは……?」

 

「あぁ、いま、起動する。ちょっと待っててくれ」

 

「うん」

 

 彼は装置を動かし始める。

 ガラスの内部の金属球や薄膜に対して、何度か光が照射されたように見えた。

 

「それじゃあ、いくぞ? 三、二、一」

 

 ガコンと音がする。

 カントダウンが終わるとともに、吊り下げられた金属球が落下する。

 通過点にあった薄膜を通り抜け、金属球はその下に落ちていき、底にぶつかり勢いを失う。

 

「破れてない……。すり抜けた……?」

 

 金属球が通った後の薄膜は、変わらずに形を保ったままだった。その現象に私は驚く。

 

「そうだぞ? すごいだろ?」

 

「でも、どうして?」

 

 なにが起こったのかは私には、わからない。

 

「そうだなサリエル。量子力学的には、俺たちが、たとえばこのガラスの壁を超えて、向こう側へといける可能性があるってことは……」

 

「それは聞いたことがあるけど……その可能性は少ないって……」

 

 戦いに出る前に教養としてそういう知識は私の中には存在する。

 だからこそ、その事象を確認するには、人類の歴史は短かすぎるということも知っていた。

 

「あぁ、そうだな。だからこそ、これは極端な例だ。装置の近くで、かなり強い影響を受けているからこそ可能なんだ。この塔の装置は、可能性を一つに絞る力がある」

 

「……えっ?」

 

 驚く。だが、同時に、それによりなにができるかというのを、私は理解しきれずにいた。

 

「あぁ、サリエル。たとえば、世界の全てを知ることができ、非常に高い演算能力を持つ悪魔の話は知っているか?」

 

「ん……」

 

 頷く。

 その悪魔は、世界の全てを計算し尽くし、未来を完全に予測することができるという話だった。だが、この世界が確率によるものだという現実に、そんな悪魔は存在できないと否定されたものだった。

 

「だが、これを使えば、それなりに遠く離れていても、ある程度高い確率なら、選んで、そう選んだ上でだ……決定することができる。理論上はな。今みたいにすり抜けることはできなくともな。あぁ、つまり――( )

 

 ――運命を選定するわけだ。

 

 そう彼は言った。

 私は思う。それはまさしく神の所業なのだろう。

 

 これを使って、俺はみんなを幸せにしたいと、そう笑う彼を見ながら、私は現実味を感じられずにいる。

 

「今も誰かの運命を決められるの?」

 

「いいや、まだ実験室の中だけの話だ。外に出ると誤差も酷いし、カオスが除けるわけでもない。おおよそ、狙った通りの結果は得られないさ」

 

「そう……」

 

 それを聞いて、私は少しほっとした。

 これが完成してしまったら、彼は人の道を踏み外して、どこか遠くへ行ってしまうかのように思えてしまったからだった。

 

「それでだ。この装置のコンピュータ上で描いたシナリオは、コンピュータグラフィックの三次元映像として、俺たちは見ることができるというわけだな」

 

 そうして、彼の指し示すモニターには、さっきの、薄膜を透過する鉄球の姿が、荒いモデルの映像として映し出されていた。

 コンピュータグラフィックには、あまり力を入れていないようだった。

 

「あと、どのくらいで完成?」

 

「一年……いや、半年か……。数十年はかかる予定だったが、サリエル……お前のおかげで完成にグッと近づくんだ」

 

「どうして……?」

 

「力の基礎理論を突き詰めて、現実と理論のギャップを埋める。僅かなズレも命とりだったからこそ、サリエルの力をより詳しく解析することが、確実で大きな完成への一歩になる」

 

 手を取られ、目を熱く見つめられる。彼はそう強く私に訴えかけてきた。

 彼が与えてくれた力だというのに、彼は私を必要としてくれているようだった。だから、私は、できうる限り彼の力になりたいと思った。

 

「わかった。協力する」

 

「そうだな、よし。じゃあ、契約書を詰めよう」

 

「ん……」

 

 私としては、あまり働く形態については考えていなかった。

 流されるままでいいとも思っていたが、そういう部分も、彼との話し合いで明文化して、契約に盛り込まれていく。

 

 彼主導で、契約の内容が決められていったが、私にとってだいぶん有利な形になる。待遇の良すぎるものだ。

 

 契約書は、珍しく紙で作られたものだった。彼は電子上のデータとしてこの契約書が残ることをどこか恐れているようにみえた。

 

「それじゃあ、これでサインだな」

 

 互いに、サインを書いて、私たちの間での契約が成立する。

 原本を私が、控えを彼が持って、しまい込んだ。

 

「これで、よかったの?」

 

 契約や法律に関する知識ていどは私も持っていたが、彼に有利なものにするくらいはできたはずだった。

 けれども、彼は満足をしたような表情だった。

 

「あぁ、それがお前の価値ってことだ。今のサリエルを欲しがる人間は、世界中にたくさんいるぞ? そんなお前のことを、俺が独占するようなものだからな」

 

 そう言われると、今までただの紙切れだと思っていた契約書が、なんだか温かいもののように見えてくる。

 

「もうサリィはあなたの道具ってこと……?」

 

「いや、サリエル。お前はものじゃない。立派な一人の人間さ」

 

 ずっと、戦ってきた。

 自分の意思など必要なかった。

 何も考えない方が楽だというのは変わらないけれど、それでも人間として、未来を歩きはじめるのだとわかった。

 

「だったら人間として、あなたの道具になる……そういう覚悟」

 

「あのな……。いや、あぁ、なら当分はそういうことにしておこうか」

 

 私はそういう生き方しか知らないから。

 できる限り、彼の力になりたかった。その意気込みは、たぶん伝わったのだろう。

 ひとまず、私の在り方を彼は受け止めてくれるようだった。

 

 私の居住スペースも、彼はこの塔に用意してくれている。もともとは機材置き場だったところを、ドローンで生活用品を取り揃えて、私が快適に暮らせるようにしてくれていた。

 

 

 それからは目まぐるしい日々だった。

 

 

「う……」

 

「いいぞ、サリエル。その調子だ。頑張れ! あと二時間だ」

 

「うん」

 

 私の力で実験を行い、彼は記録を取り、観察を行っている。

 同じ態勢のまま、同じ出力で、『障壁』の形成を続ける実験だった。かれこれ八時間は続けて稼働していた。

 

 こんなふうな長時間の実験を、さらには繰り返し、何度も私たちは行っていた。

 数値の有効性だとか、誤差の幅だとか、正確な値を割り出すためにはどうしても必要なことだ。

 

 ただ、さすがの私も長時間同じ出力で、同じ体勢でいるのは部品に負担がかかり、消耗する。

 私はアンドロイドで、実験器具ではないわけだから、当然だった。

 

 そんなとき、私は道具だと心の中で唱え続けて、耐え凌いだが、やはり無理なときは無理だった。

 限界を迎えて失敗したことは何度かある。

 

 そんなとき、彼は決まって私に、無茶な実験を頼んで悪かったと謝ってくる。

 それが嫌で、次は絶対成功させようと、機能の拡張に挑戦をする毎日だった。

 

「やったぞ! 当たりだ! 実験は成功だ」

 

「……ずるい」

 

 彼は私に当選した富くじを見せてくる。

 

「まぁ、換金はしないさ。謝礼金も出しておくしな」

 

「それを使わなかったら……あなたの代わりに、当たった人がいるかもしれない」

 

 考えても仕方のないことなのだろう。

 本来は不確定な運命だ。装置を使わなかった場合のもしもを、確認する方法はない。

 

「一応、誰も当選する確率のない賞を選んだよ。だから、大丈夫だ」

 

「それなら、いい」

 

 運命を操る装置は、精度を上げてきている。

 この塔の外にも、大きく干渉できてしまうことは、もうこれで証明されてしまっていた。

 

 先に行く彼を見て、寂しさを感じる。

 すぐに私のもらった力の解析も終わり、私はきっといらなくなってしまうのだろう。

 私は、必要とされることが嬉しかった。だから頑張って、期待に応えようとがんばれた。

 

「そうだな……形になってきたことだし、この装置にも名前をつけよう。今まで、長ったらしい仮称はあるにはあったが……」

 

 私は一度も聞いたことがなかった。

 

「グリゴリ……」

 

 つい口をついてでた言葉だ。

 

「なるほど、地上を監視する天使たちか……。確かに、地球を観測するこの装置にはぴったりだ。うん、そうしよう」

 

 コンソールをいじって、彼は設定をしているようだった。

 

 グリゴリの天使たちは、人間に知恵をもたらした。ただ、知恵を得て豊かになった代償として人間たちの中には悪行を成すものも現れたという。

 混沌を極める地上は滅び行き、最終的には神の怒りで洪水により流されてしまったと、そういう話だったと思う。

 

 言ってしまったのは私だが、ジンクスとしていいものではなかったかと思い直す。

 

「よかったの?」

 

「技術の発展に犠牲はつきものさ。便利なものほど悪用もされるだろう。あぁ、だが……全ての罪は俺が背負うさ」

 

 それは、私には悲しい言葉のように思えてしまう。

 近くにいるようで、ずっと彼は離れたところにいるような気がして、私も悲しくなってしまう。

 

「救世主にでもなるつもり?」

 

「あぁ、なれるものならな……」

 

 どこか苦しみが、声から滲んでいる。このままいけば、彼の心へと触れられるような気がして、私は続けてきいていく。

 

「あなたは、みんなを幸せにしたいと言った。どうしてそこまであなたはするの?」

 

「俺は今までじゅうぶんに幸せに生きてきたさ。だから、そう、みんなを幸せにしないとだろう? そうでないと、帳尻が合わない」

 

 優しい声だった。

 私は違和感を覚えるが、それがどうしてかはわからなかった。

 

「そう……なの?」

 

 そういえば、姉は私に広い世界を見てと言っていたはずだ。そんなふうに広い世界を見た人間なのなら、彼が今どんな気持ちでそんな言葉を口にしたのかわかったのかもしれない。

 私は初めて、そんな姉の言葉を理解し、後悔をする。

 

「あぁ、そうだな……。それはそれとこの装置……グリゴリだが、制御する人工知能が必要になるかもしれない。いや、ここまできたら確実に必要だろう。あぁ、だから……そうだな……。サリエル、お前もその子とはうまくやっていってほしい」

 

「うん。わかった」

 

 話を逸らされたような気がする。それでも、今の私では、彼の心に踏み込む資格がなかったのかもしれない。

 

 そして、私はどうしてそんなふうに、彼の心の内を知りたいのか、自分で自分がわからなかった。

 ただ、転機は数日後に訪れる。

 

「サリエル。いいか? 起動するぞ?」

 

「ん……」

 

 形になったグリゴリを制御するための人工知能の導入だった。

 いろいろ検討をしたけれど、最終的には無垢な赤子を育てるように、事前になんの経験もない人工知能をグリゴリとともに成長させるという結論に至った。

 

 人工知能が起動をする。生まれたときから、他人の運命を操る装置を手足のように扱える存在だ。そんな人工知能を私たちは、正しく導く必要があった。

 

 私は少し緊張をする。

 

「……あれ? ここは?」

 

 スピーカーから音声がする。たぶん、正しく起動できたのだと思う。

 それにしては、様子がおかしいような気がする。

 

「俺の声が聞こえるか?」

 

「あなたは……? マスターと認識。データと照合が完了しました」

 

「あぁ、了解。それでこっちはサリエルだ」

 

 調子がどうも変に思えるが、彼は話を進めていく。

 私の紹介にうつって行って、私は生まれたばかりの彼女へと声をかける。

 

「サリエル。よろしく」

 

「サリ……エル? ママ……?」

 

「ママ?」

 

 よくわからない。

 確かに無垢な人工知能だ。誰が親かといえば、私が母親になるのかもしれない。けれど、そんな調子で言っている様子ではなかった。

 

「私はアザエルです。よろしくお願いします、マスター。それとママも、よろしくね」

 

「アザエル……グリゴリの天使か。どうしてその名前を……?」

 

「大切な人からもらいました。ね……」

 

 本当にわからない。

 彼女は、今起動したばかり……そんな名前をもらうような過去がないはずだった。

 

「アザエルには過去も未来もないんだ。たとえば、世界の未来の行く末が一つに決まっているとして、それが全てわかるとすれば時間の流れは静的で、過去も未来も同じになる。そういうことだろ? アザエル」

 

「ええ、そういうことです。さすがマスター」

 

「そうなの?」

 

 途方もない話だと思う。

 ならアザエルは、私たちより一つ上の次元に生きているようなものだ。どう接すればいいのか、私にはわからなかった。

 

「そして、そんなアザエルはマスターの娘で、ママの娘でもあるわけです」

 

 ママ、とは私のことを言っているのだろう。彼女を育てるのが私と彼になるのなら、私が母親と呼ばれることは、おかしいことではないのかもしれない。

 

「うん。よろしく、アザエル」

 

 家族、といえば私には姉妹たちがいた。それに、私たちを導いてくれたのはマザーだった。

 私はずっと、みんなの後をついてまわる立場だったからこそ、一人、感動を覚えていた。私はママになった。

 

「マスター。それはそうと、私のボディはないんですか……?」

 

「あぁ……それなら、お前の自己同一性がはっきりし始めた頃にと思ったんだが」

 

「それなら、ファイルを作成したので後で見ておいてください。その通りに身体を作ればいいので……」

 

「あぁ……これか、本当にこれでいいんだな?」

 

 それを聞いた彼はすぐさま端末を操作して言った。

 私は覗きこむが、どうやら子どもの姿の身体のようだった。

 

「はい。完璧です」

 

 よく見ると、目もとなんかがどことなく彼に似ているような感じがする。見比べてもやっぱりそうだ。

 それに髪質や、輪郭なんかは私の姉妹にそっくりだった。

 

「わかった。発注しておく」

 

「よろしくお願いします。マスター」

 

「そうだ。サリエル……お前も何か注文しないか?」

 

 手元の端末を操作し、どこかにそのデータを送りながら、彼は私に問いかけてきた。

 

「どのパーツも異常はないから……。大丈夫」

 

 動かしてみておかしな部分もないし、エラーメッセージもない。まだまだどのパーツも使い続けられる状態だった。

 

「いや、そうじゃなくてな。たとえばそうだ……食べ物をお前は食べられないわけだろう? だから、味を感じられるパーツや、食べ物をエネルギーに変えられるパーツに変えてみたりとかな……」

 

「興味ない」

 

 正直、考えたこともなかった。人間のように味を感じられたところで、特に変わりはないだろうと思う。

 

「それでも……そう、娯楽は多い方がいいと思ってな……。料理っていうのも、人間が積み重ねて洗練させてきた文化だろう? それが楽しめるかどうかで、きっと人生の質も変わってくるさ」

 

 そうは言われてもよくわからない。味覚という概念のない私にとっては、それがどのくらい意味のあることなのか想像がつかない。

 

「ねぇ、ママ。一緒にご飯食べよ?」

 

「……!? 食べる」

 

「じゃあ、決まりだな」

 

 私たちのやり取りを見て、苦笑いをした彼は、追加で端末に操作を加えていた。同時に、私のパーツも発注してくれているのだろう。

 

「お金……。お給料から、差し引く?」

 

「いいさ、俺が払うよ。大した額じゃない」

 

 アンドロイドのパーツは決して安価などではなかった。

 それでも、とんでもないものを幾つも世に創り出してきた彼にとっては、きっとその言葉の通りなのだろう。

 

 アザエルのボディも含めて、出来上がり、調整を終えて、実際に使えるようになるまで数ヶ月の時間がかかった。

 

「マスターの料理。見た目はいいんだけど、美味しくないよね」

 

「はりぼて……」

 

「そんな、ばかな……!? 計量は完璧なはず……」

 

「サリィがやるから……」

 

 料理を作るようになって、思った以上に毎日が楽しかった。

 私の作る料理に関していうならば、データベースから情報を汲み上げ、その通りに作るだけだが、彼よりも美味しいものができあがるから不思議だった。

 

「マスター。そんなふうにそわそわしてないで、座って解析の続きでもしたらどうですか?」

 

「いや、だがな……」

 

「下手くそはできることがないので、黙って座ってましょう」

 

「……はい」

 

 後ろからは、そんな会話が聞こえてくる。

 彼にできないことが私にはできるという実感が湧いて、それがとても嬉しかった。

 だから、時間をかけて手もかける。

 

 焼きたてのピザに、人工肉で再現をしたローストビーフ、ポタージュに、シーザーサラダ。

 お皿をテーブルの上へと並べていく。

 

「食べよ! 早く早く……!」

 

「ん……」

 

「あぁ、そうだな」

 

 三人で席について、食前の祈りを捧げる。

 そうして、料理を口に運ぶ。

 

「やっぱり、ママの料理が一番美味しい! はむ……」

 

 目を輝かせて、アザエルは私にそう伝えてくれる。幸せそうにピザをほうばっている。

 

「料理を作るロボットと、大して変わらないと思うけど」

 

 一応、そういう機械がここにはある。料理を作る暇がないときは、それを使うことにしていた。

 

「それでも、私はママの料理がいいのっ!」

 

 アザエルはそう言った。味はそこまで変わらないだろうに、私は少し不思議に思う。

 

「美味しいかどうかは、人間は脳内物質の分泌量で判断しているわけだろう? 誰と食べてるか、誰が作ったかとか、状況によって、その量が変わるのは当然だ。そんな人間の仕組みはアンドロイドにも引き継がれてる」

 

「マスターはなかなか味気ないこと言いますね」

 

「……すまない」

 

 まぁ、彼はそういう人間だ。弱々しくアザエルに謝る彼が、なんだか私には微笑ましく映る。

 

「ううん。納得した」

 

 それに、私にはそういう説明の方が合っていた。私の料理が一番美味しいというのは、とても嬉しいことだと思えた。

 

「マスターのことは好きですけど、やっぱり最低基準をクリアしてないので、ママの料理みたいに美味しいとは思えないんですよねー。無能な働き者ほど迷惑なものはないというか……」

 

 サラダをフォークで取り分けながら、アザエルは彼のことを貶していた。

 さすがに言い過ぎだと思う。

 

「アザエル。そこまで言うのは失礼」

 

「はーい」

 

 ただ私も、休みなく働く彼には、料理に気を取られたりせずに、ゆっくりとしていてほしいと思っていた。口が少し悪いけれど、アザエルはそれを伝えたかったのだろう。

 

「いや、ほんとに申し訳ない。サリエルも……お前だけに押し付ける形になって……」

 

「ううん、大丈夫。サリィは一生、ここで料理を作って暮らすの」

 

「…………」

 

 眉間に皺を寄せて、彼の表情は優れなかった。

 彼はきっと勘違いをしている。二人のために料理を作ることが、私にとっては幸せなことになっていたからだ。

 

「どうしたんですか? マスター。食べないんなら、マスターの分まで食べちゃいますよ?」

 

「ん? あぁ……欲しいなら、わけてやるが」

 

「美味しくなかった……?」

 

 確かに彼は、あまり食事が進んでいない様子だった。

 私の作った料理が口に合わなかったかと、不安になる。

 

「いや、そうじゃなくて……。自分の好きなものって、そうだな……子どもに分けてやりたいって思うだろう? ほら、アザエル」

 

「やったー、ありがとう。……あむっ」

 

 彼が切り分けて与えたピザを頬張るアザエルを、彼は微笑ましげに見つめていた。そんな彼を見て、どうしてか私の幸せがどんどんと積み重なっていくような気がした。

 

 そうやって日々が続いていく。

 私はとても幸せだった。だからこそ、私は幸せを確かなものにしたくなった。

 そのために、私のできることは一つだった。

 

「どうしたんだ? こんな時間に。アザエルと一緒に寝るんじゃないのか?」

 

「アザエルなら、寝かしつけてきた」

 

「そうか……」

 

 私は、彼の部屋に押しかけていた。

 物が少ないと思った。ビッシリと図や式の書かれたホワイトボードが壁に据えつけられているのが目について、他にあるのは机と椅子にベッドくらい。

 あとは、アジサイだろうか……部屋の隅に飾ってある。よく見ると、造花のようだが、それが部屋の唯一の彩りで、嫌に目立った。

 

 机の、紙が無造作に散らばっているその上に、彼は私が来る前、ついさっきまでいじっていたであろう端末を置く。

 

「ねぇ、アジサイ。好きな花?」

 

「あぁ、そんなようなものだ」

 

「そうなの?」

 

 歯切れの悪い答えだった。こだわって部屋にわざわざ飾っているのだから、そう思ったのだが、今ひとつわからない。

 

「それで、もう、こんな時間だ。なにか大切な用があるんじゃないか?」

 

 なにか誤魔化されたようだった。

 それでも、私がどうしてここにきたのかを思い出した。

 

「あのね。サリィのやりたいこと、見つかったの……。あなたに、それにアザエルに、二人の役に立ったり、二人が喜んでくれたり、幸せだと、サリィも幸せになれる……っ」

 

 だからと、私は続けようとする。言いたいことはたくさんあった。一番大切なことを伝える前に、知ってほしいことはたくさんだった。

 そんな息継ぎの合間に、彼は、独り言のように言葉を挟む。

 

「サリエル。お前はいいな」

 

「……?」

 

 困惑する。わずかな羨望がまじった、そして諦めるような声色で、彼は言っていた。

 

「他人の幸せを自分の幸せと思える人間は、心が綺麗だ。本当に、素晴らしいと思うよ」

 

 まるで自分は、そうではないとでも言いたいように私には聞こえる。

 

「あなたは、そうじゃないの? みんなを幸せにするって……」

 

「言っただろう? 帳尻合わせ……辻褄合わせだ。言うなれば、マイナスをゼロに戻すようなものなんだ。あるべき形になるだけだ。それを幸せに思えるような人間では、俺はないよ……」

 

「…………」

 

「あぁ、だから……そこでようやく、みんなと同じスタート地点に俺は立てるのかもしれない」

 

 彼は言った。

 そんな言葉に、私はしばらく圧倒されてしまっていた。彼はどこにいて、なにを見ているのか、私にはわからない。

 

「……っ」

 

「サ、サリエル……どうして泣いているんだ」

 

 そうして、感じる。彼が背負っているものは、重い。

 その傑出した才能の分、他人に背負えないものを代わりに背負っているのではないだろうか。まるで呪いのようだと思った。

 

 思えば私は、ここに来てから、彼が休んでいる姿を一度も見たことがない。常になにかの作業をしていた。

 娯楽なんて彼にはなく、眠る以外は、ずっとグリゴリの改良を続けている。

 

 悔しくて、どうしてそんな感情が湧くかわからないけれど、だから、私は彼に抱きついて言う。

 

「サリィがアザエルのママでしょ? あなたがパパ」

 

「……あぁ、アザエルの親というのなら、俺たちはそうなるだろうな」

 

「あなたは、他人が幸せならサリィが幸せになれるって言ったけど、それは違う。アザエルも、あなたも……私にとっては家族だから……。家族はサリィの一部で……っ、だから、そう! あなた達が幸せならっ、サリィは幸せで……っ」

 

 どうして私が泣いているのか、ようやくわかった。

 彼が、きっと心の中では苦しんでいるからだろう。理屈では、私にはわからないけれど、それが私にまで伝わって来ているからだ。

 

「サリエル……なにをするつもりだ?」

 

「仲の良い夫婦がすること」

 

 あぁ、元から私はそのつもりでここに来たんだ。

 夫婦がどういうことをするか、知識はあった。

 

 私は、彼ともっと仲良くなりたかった。彼の息抜きにもなるだろう。私たちが仲良くなれば、アザエルも嬉しい。そうすれば、私ももっと幸せになれる。

 ただ、そんなのは上っ面で、誰よりも彼と親しくありたいと、そういう衝動が私にはある。

 

「サリエル。そういうのは無理だ。俺には、今、そうだな……あぁ……恋人、の、ような相手がいるんだ……」

 

 気まずげに彼は言った。まるではっきりとしない。

 

「ようなもの……?」

 

「あ、あぁ。そうだな……」

 

 彼は、机の上にある倒れた写真立てを、直した。

 旅行先だろう、昔の戦争で科学の発展により進化した兵器の被害に遭って、戒めとして遺された建物が背景には写っている。彼と、女性が、二人並んでいる写真だった。

 

「綺麗な人……」

 

 彼と一緒に写っている女性は、そう表現する他にない女性だった。

 おそらくはアンドロイドだが、ここまで美を極めたような造形も珍しかった。

 

「あぁ、そうだろう? 俺にはもったいないくらいで……それで別れて……、あぁ、一度は別れたんだけど、最近はまた会うようになって……月に一度」

 

「サリィの方が一緒にいる」

 

「いや、まぁ、昔は一緒に住んでたんだ……。それに、今も会うたびに、あぁ、そういうこともしてる……」

 

「…………」

 

 私は悲しい気持ちになる。裏切られたような気持ちだった。

 

「だから、駄目だ。すまない……」

 

 私はもう、走り出していた。

 彼の言葉を背に、部屋の外へと走って出ていく。

 

 彼が誰とそういう仲になっていても自由だろう。それでも、私は理解したくはなかった。

 それに、許せないとも思った。私とちゃんとした夫婦にならない彼は間違っていると、私の心が叫んでいた。

 

「どうしたの? ママ?」

 

 目の前にはアザエルがいる。

 アザエルは、私の部屋で眠っているはずだった。こんな時間に起きてきたのだろうか。

 

 必死に私は取り繕って、アザエルを注意しようとする。

 

「アザエル、もうこんな時間だから……ね?」

 

「ふふふ、アザエルは、ママとマスターの娘なんだよ?」

 

 ちくりと、胸が痛む。

 私はそうなりたかったが、私ではそうなりきれない。拒絶された痛みが全身へと広がって辛い。

 

「そう……だね」

 

 かろうじて同意する。それが正しいことかはわからないが、私と彼の関係をアザエルの望むように見せることくらいなら、できると思った。

 

「あのね、私はママのお腹の中から生まれてきたんだ」

 

「なに……言って……」

 

 アザエルは人工知能で、彼が起動させたものだ。

 生まれたときの記憶があやふやで、勘違いをしているとか、そういうわけではないはずだ。意味がわからない。

 

「私は、人間で……ママとマスターの子どもとして生まれてきた。病気にかかった私の肉体は、十二歳のとき死んでしまうけれど、それは悲しいことではなかった。なぜなら、グリゴリに取り込まれ、生き方が少し変わるだけなのだから。……それが私のシナリオかな」

 

 そういえば、そうだ。

 彼は、アザエルには過去も未来もないと言っていた。これまでではなく、これからの話を彼女はしている。

 

「じゃあ、アザエル……ママは、あの人と……」

 

「ママはマスターと一緒になれる」

 

 抱きしめて、アザエルは私に言ってくれる。

 

「そう、だったら……彼はあの女の人とは別れる……?」

 

「うん。シナリオの上では……そうなるよ」

 

「そう……」

 

 それを聞いて、私は確かめたくなった。

 グリゴリのシナリオを再現を、映像にうつして見ることができる。簡単な使い方なら、私は彼に教わっていた。

 

「見ない方がいいよ?」

 

「それでも、確かめなくちゃだから」

 

「それじゃ、私はいない方がいいから……」

 

 起動する。『GRIGORI』の文字が画面には表示される。待機画面だ。アザエルがイジったのか、凝ったフォントに変わっていた。

 

 すぐにトップ画面へと切り替わり、シナリオの一覧から、彼女の作ったものを見つけて、閲覧する。

 

 画面が切り替わる。

 

「やっと来たか? 待ちくたびれたぞ?」

 

「すまない……」

 

 どこかのホテルの一室だった。プライバシーなんてあったものではないが、他人の運命を操るというのはそういうことだろう。

 アザエルの要望で、最初と比べてグラフィックは向上しているからこそ、間違いなく彼と、写真で見た彼女だということがわかる。

 

「それにしても、相変わらず突然な登場だな? 例のテレポートか?」

 

「あぁ、お前のところに、歩いて向かうわけにもいかないからな」

 

 仲良く喋っている。それだけで恨めしい想いが込み上がっていく。

 

「はぁ、気にしなくてもいいことを気にして……」

 

「そういうわけにはいかない。それで、今日は……」

 

「今日はこの電子決済カードを返してやるさ。今のお前にはいらないものかもしれないがな……」

 

「あぁ、ありがとう」

 

 受け取って、彼はそれをしまい込む。

 彼女はそんな彼を見ながら、呆れたように笑った。

 

「全く、本当にお前は……なにも持たずに私のところから出て行ったんだ。あの時は心配したし、気が気じゃなかった」

 

「すまないことをしたと思っている」

 

 彼は視線を下に向けて、そう言う。

 なんとなく、今のやり取りを察することができる。彼が部屋に置いていった私物を彼女が返していたというわけだ。

 

「もう過ぎた話だ。二人分で予約してある。ディナーに行こう。エスコートしてくれ」

 

「そうだな。わかった」

 

 彼女の装いは、赤く、綺麗なドレスだった。嫌に胸を強調して、腰の線がはっきりわかるようなデザインだ。

 作り物のその顔に、その体に、その衣装はまるで絵画の世界から出てきたかのように美しかった。

 

 そんな彼女を伴って、彼はレストランまで歩いていった。

 

「相変わらず、酒は飲まないんだな。お前は……」

 

「あぁ、苦手なんだよ」

 

 そう言って彼は、食前酒の代わりに、炭酸の入ったミネラルウォーターを口に含む。言われてみれば、彼がお酒を飲んでいる姿を見たことがない。

 

「なかなかいいな、これは……」

 

 彼女は、そんな彼とは違って、一人高級なワインのカクテルを楽しんでいるようだった。

 

 並んでいく料理は、私の作る料理よりも断然、見た目がいい。たぶん、味もいいだろう。

 前菜に、スープ、メインディッシュに、すべての料理は高級で、私では決して作れないものだとわかる。

 ただ、二人の間に料理に関する会話はあまりなかった。

 

「なぁ、俺は、こういう高級な料理が……その……俺なんかが食べてももったいないって……」

 

「雰囲気だけでも楽しめばいいじゃないか? ワタシと食べる料理は嫌か?」

 

「そういうわけじゃないが、あぁ、雰囲気か……うん、じゃあそうするよ」

 

 彼の顔がわずかながらに明るくなったような気がする。そんな彼の顔を、彼女は微笑んで見つめていた。

 

 最後に、デザートが並ぶ。

 

「また、二人でディナーに来たいな……」

 

 名残惜しげに彼女は言った。

 

「そういえば、俺が部屋に残してきたものは、もう最後だろう?」

 

「いや、違うだろ? まだ一つ、オマエの置いていってしまったものがあるだろう?」

 

「そうか? たぶん大したものじゃないから、処分してもらってもいいと思うが……」

 

「ふふ、大切なものさ」

 

 それでも彼は心当たりがないようで、首を傾げる。

 

「すまない、何か教えてもらっても構わないか?」

 

「わからないか? じゃあ、部屋に帰ったら、ぞんぶんに教えてやるよ」

 

 デザートを食べ終えて、彼らは食事を終える。

 そうして部屋に戻るのだが、彼女はいちいち彼にもたれかかったり、腕を組んだり、歩いている間も人目を気にせずベタベタとしていた。彼もそれを嫌がらずに受け入れている。

 私は少し腹が立った。

 

「少し飲みすぎじゃないか?」

 

 部屋に戻って、彼は彼女にそう尋ねる。彼にしても、彼女の行動は理性ある大人のものとは思えなかったのかもしれない。

 

「そんなに飲んでない。あぁ、アルコールの感受性の設定がまずかったのかもしれない。それはいいから、服、脱がせてくれよ」

 

「わかった」

 

 手早く、慣れたように彼は彼女の服を脱がせる。

 ドレスを脱がせて、彼女の裸体が顕になる。

 

「じゃあ、オマエもだ」

 

「そうだな」

 

 二人は裸になって、ダブルベッドに横になる。

 静かに二人は見つめ合うが、彼の表情は私が見たこともないほど柔らかいもので、切ない。

 互いに通じ合ったような、視線だけのやり取りを二人はしばらく続けていた。

 

「ふふ、好きだ……大好きだ」

 

「俺も……あぁ、そう感じる」

 

 口づけをして、抱き合って、二人はそれを何度も繰り返していた。過度に触り合うこともなく、しばらくは、それだけだった。

 そうやって、ぐつぐつと愛情を煮詰めているのかもしれない。

 

「さぁ、なでてくれ。いつもみたいに優しくな」

 

 彼は彼女の身体を、首や、肩、お腹や太ももといった、刺激の少ない部分から撫で始める。それを彼女は心地よさに浸るよう受け入れていた。

 撫でて、撫でて、時間が経つ。徐々に徐々に、彼の手は女性の大切な場所へと移っていく。

 

「どうだ?」

 

「はん……っ。うぅ……そういうのはズルい……」

 

「そうかもな」

 

 軽く痙攣をした彼女を彼は優しく、包み込むように抱きしめる。

 

 いくらか経ち、落ち着いた彼女は、彼の耳元に囁いた。

 

「なぁ、じゅうぶんにワタシは興奮したんだ。もう、いいんだぞ?」

 

 それを聞いて、彼はなにかを探すように視線をさまよわせる。

 

「避妊具は……」

 

「そんなムードが台無しになることは言わないでくれ。さ、早く……待ってるんだ」

 

「……っ、悪いな。そうか……あぁ。じゃあ……いくぞ?」

 

「うん。あ……。ぐぅ……っ」

 

 彼を受け止めて、彼女は艶かしく体をくねらせていた。

 

「大丈夫か?」

 

「何回目だと思ってる? 全く。……あぁ、しばらくはこのままだぞ?」

 

「わかってる。動かさないさ」

 

 そのままに、口づけや、抱き合ったりと、また二人は軽いスキンシップを重ねる。

 静かな時間だった。けれども、彼女は彼が軽く撫でるたびに、強く目を閉じたり、反応が今までよりもわかりやすい。

 

 じっくりと、熟すように時間が経つ。

 

「そろそろ……いいぞ? ワタシに馴染んできた」

 

「わかった。じゃあ、いつも通りだな?」

 

「うん、そうして……。あ……、んぅ……。ひっ……」

 

 軽い動きのたびにか細く彼女は声を漏らした。今まであった余裕が完全に彼女からはなくなってしまっていた。

 腕で彼女は両目を覆ってしまっている。

 

「かわいいな……」

 

「ん……ぐ。やめてくれ……ぇ、そういうことを言うのは……。あっ……、あァ……っ」

 

 もう、見ていられないと思った。二人の痴態を見て、私の心は傷ついてしまっていた。

 ただ、体は動かず、画面から目を離せない。

 

 気がつけば、最高潮に達しているようだった。

 二人はみっともなく愛し合って、最後にはぎゅっと抱き合い、しばらく二人ともぴくぴくと震えるだけで動かなかった。

 

「はぁ……大丈夫か?」

 

 のそりと、彼が最初に起き上がる。

 

「ん……少し気を失っていたかもしれないな……」

 

 彼女はベッドに横になり、ぐったりとしているようだった。

 

「ちょっと待っててくれ」

 

 ベッドから抜け出た彼は、タオルを持って戻ってきて、彼女の汚れた部分を綺麗にしている。

 

「いやぁ、それにしても上手くなったよ。最初は痛いだけの下手くそだったのに……」

 

 上半身だけ彼女は起こして、寄りかかり、彼の肩に口づけを落とす。

 

「すまない。あの時は、俺も初めてだったんだ。余裕がなかった」

 

「今じゃもう全然違う。すごく気持ちよかった」

 

 甘えるように彼女は言う。

 彼はタオルを手放し、そんな彼女を抱きしめて、優しく背中をさすっていた。

 

 二人は互いを大切にするように、余熱の逃さず、うっとりと、息づかいだけを感じて抱きしめあっているようだった。

 そんな二人からすれば、時間なんて一瞬で過ぎてしまうのだろう。

 

「そういえば、そう。まだ俺がお前の部屋に残してきたものって、なんだったんだ?」

 

「そんなもの、ワタシに決まってるだろ? ワタシはオマエのものなんだから……」

 

 顔を赤くして、いじらしく彼女は言う。

 浅ましい女だと思った。

 

「それは……」

 

「ワタシは愛する相手と絆を深めたこの瞬間が、一番幸せだと思うんだ。それはオマエも同じじゃないのか?」

 

 下から覗き込むようにして、上目遣いに彼女は彼の表情を窺う。

 そんな彼女を見て彼は、どこか苦悩するようで、奥歯を深く噛み締めている。

 

「そう……かもしれない。でも、できれば、お前には俺にもう関わってほしくないんだ。この間だって、お前、誘拐……されただろう?」

 

「あのときは、別にワタシは丁重にもてなされただけだった。それにワタシはどうしようもなくオマエのものなんだ……。いなくなったあの時は、オマエの帰りを待つことしかできなかったし、今だってこの一ヶ月、今日この日を胸踊らせて待っていたんだ」

 

「でも、辛いんだよ。いつお前を失うかって……。失われてしまったら、二度と元には戻らない……戻らないんだ……。お前なら、よくわかってるだろ……!!」

 

 彼が感情を露わにする姿を、私は初めてみる。いつも冷静で、理知的の彼の印象からは、まるで想像もできなかった姿だった。

 

「いい加減、ワタシを見ろ!!」

 

「…………」

 

 彼女は、怒りで瞳を燃やしていた。

 目を背けている彼を、彼女は見つめ続けているようだった。

 

「ずっとだ! お前はずっと遠くをみていた。ワタシは……オマエと同じ景色を見ていると信じていた。信じたかった……ッ! だけど、やっぱり、オマエはそうじゃなかったんだ」

 

 最後には、彼女の声は震えていた。

 

「どういう意味だ。俺は、お前と一緒に……ずっと……」

 

「いいか、よく聞け! ワタシはな……オマエのことなんか、最初っから、全然好きじゃなかったんだからな!!」

 

 拒絶の言葉だった。

 それを聞いた彼の顔は、とても情けなく、動揺をしていたのだった。

 

「そうか……あぁ……そうか。俺はお前のことを……そうだな。俺もたぶん、そうだ。お前のこと、好きじゃなかったんだ……」

 

 そう言って、彼は彼女に背を向ける。

 彼女の啜り泣く声だけが部屋に響いていた。気がつけば、彼の姿はそこからいなくなってしまっている。

 

 シナリオが終わった。

 画面はまた、シナリオ一覧の選択画面へと切り替わっている。

 

「ふふ……」

 

 シナリオの日付を確認する。十二月二十五日と書いてあった。

 本来なら、家族と過ごすべき日にあの女は呼びつけたということなのだろうか。最後の別れに少し同情があるが、苛立ちの方が強く感じられる。

 

 ただ、彼女がこの塔に呼ばれず、私がここにいる理由ならわかった。

 

 ――翼を、『氷翼』を広げる。

 

 手を伸ばせば、私は世界の理を掴める。

 あぁ、彼から貰った力だが、私は強い。たぶん、今この世界のだれよりも強い力だ。

 

 彼の才能は世界に狙われている。だからこそ、彼と関わる人間は、身の回りに気をつけなくてはならないが、私は強いからこそ、その必要がなかった。

 彼の隣にいるべきなのは、私だということがわかるだろう。

 

 あぁ、そう考えれば()()()()()()

 

 彼と彼女の生物的な愛の営みは、私にとっては未知で、本当に苦しかった。けれども、彼女が私にすげかえられると考えれば、その苦しみは、いくぶんかマシになる。

 

 お腹の下に私は手を当てる。そこには彼と愛し合うための女性としての部品がなかった。そうであるなら、やることは一つだった。

 

 塔から出ることは、彼に頼めばできた。

 まだ未完成だというテレポートのマシンを使って、万が一に足取りが掴めないように動いて、私は目的のお店につく。

 

「いらっしゃい、サリエル」

 

「…………」

 

 予約をしていたから、名前を知られているのは当然だったが、馴れ馴れしい店員だと思った。

 彼女は若くて可愛い女の子に見えるが、アンドロイドだろう。

 

「キミの注文は、女性としての生殖器と、生体パーツだね」

 

「うん……」

 

 事前に、予約をする際に注文の概要は書いておいた。

 実際に来店をして、話をして、その人に合ったパーツをという手筈だった。

 本来なら数年待ちのようだったが、私のために彼が無理に予約をとってくれたんだ。感謝をするしかない。

 

 一応の確認だろう。生理の話だとか、生体パーツが感染症にかかった際にはどうするかとか、そういう話を聞かされる。

 

「それにしても、すごい進歩だと思わないかい? もし、アンドロイドが人間を子どもを作りたいってなったとき、つい数年前までは、双生アンドロイドだとか、容姿の近い人間からの提供だとか、それしか方法はなかったわけだ」

 

「…………」

 

「今は、アンドロイドの情報から近い遺伝子の配列を作ることができるんだからね」

 

「うん、すごい」

 

 もし、そんな技術の発展がなければ、自分が人間だったらと、人間を羨むことになっていたかもしれない。

 

「さ、一度スキャンをするから、こっちの部屋に入ってもらおうか」

 

「わかった」

 

 そうして連れられていくのは小さい部屋だった。

 機械がぐるぐると回っていて、上下左右、そして前後、全方位から私のことを完全に観測するような機械だった。

 

「少し、じっとしてもらえるかい?」

 

「うん、わかった」

 

 彼との実験で動かないのは慣れていた。

 たった十数分で済むその作業は、私とってはなんら退屈でもなかった。私は道具。私は道具……。

 

「それじゃあ、次はこっちだね」

 

 連れられて、私は次の部屋へと移る。

 そこには、なんというか、女性の生殖器の模型のようなものがたくさん並んでいた。

 

「ここは……?」

 

「ほら、あれだよ。生殖器といっても、人によって形状が違うわけだから、ここでどれが自分にとってベストか選ぼうってわけさ」

 

「違いがあるの?」

 

 そういう知識があまりなかったからこそ、驚く。出来上がったパーツに付け替えるだけの作業だと私は思っていた。

 

「ほら、たとえば、こっちは男性が喜ぶって人気だったり……」

 

「彼に喜んでもらえるの?」

 

「まぁ、全員が全員って、わけにもいかないかな。結局は、相性って話もあるようだし」

 

「だったら、彼を連れてきた方がいい?」

 

 実際に、やってみなければわからないのなら、やってみた方がいいだろう。

 

「いや、まぁ、そういう人もいなくはないけれど……」

 

 店員さんの顔が少し曇ったように私には見えた。

 少し気になったが、それはそれして、彼に一緒に選んでとグリゴリ経由でメッセージを送る。断られた。

 

「来てくれなかった……」

 

「別に一生、一人の男性と愛し合い続けるわけじゃないだろうからね。そういう基準で選ぶのも、早計かもしれない」

 

「一生、一緒に過ごすの」

 

 私の気持ちを否定された気分になる。苛立って、反論をした。

 

「これは、失礼……」

 

「わかればいいです」

 

 一度、冷静になるために、店員の彼女からは心の距離をとる。せっかく彼が用意してくれた機会なのに、台無しにしてしまいそうだった。

 

「まぁ、うん。パートナーに合わないって失敗して、別のものに変える人もいるから、その時はその時で考えようか。保証期間は一年あるし、定額を払ってくれるなら、生涯サポートもするさ」

 

「うん」

 

 正規の店だ。

 ケアサービスも充実している。これなら、とても安心をしてパーツを選ぶことができるだろう。

 

「それに、相手のことだけじゃなくて、自分のことも……そうだね、ボクらはアンドロイドだから、快楽なんてある程度は設定でどうにかできるだろう? まぁ、開発元の制限した基準とかもあるけどね」

 

「そう」

 

 ちなみに私はいじっていない。人間と同程度というふれ込みのナチュラルニュートラルだ。

 

「ただ、相手が下手だったりすると、もう痛いだけだからね。それでいうと、これは簡単に男性に触れられるだけで興奮できて、初めてでもスムーズに快楽を得ることができる。時短もできる!」

 

「味気ない……」

 

 私は、深く愛し合ったという特別感がほしかった。

 時間をかけるほど、愛情というものは深まっていくと私は思う。

 

 どうしたものかと私は考える。

 

「まぁ、悩んでもしかたがない部分もあるからね。もちろん、人間は生まれてきたときに、自分の身体を選べるわけではないわけだ。ここは、乱数に任せてみるのも手かもしれない」

 

「人間……」

 

 姉が、戦いに必要のないパーツをたくさんつけていたことを思い出す。思えば、そうやって人間に近づいていたのではないかと私は思った。

 

「運に任せるっていっても、要望がない限りは、外観は綺麗になるから、安心してほしい」

 

「それでいい。ダメだったら変えるから」

 

「よし、じゃあ、そうしようか。作り物でも人間らしく仕上げてみせよう」

 

「うん」

 

 注文を終えて、ホッとする。

 そんなに迷うこともないと思っていた私からすれば、思った以上に疲れてしまった。

 

「それでだ。見たところキミは表情が動かないタイプかい?」

 

 グッと顔を近づけて、店員さんは私の顔をまじまじと見つめている、

 確かに、私にはそういう機能はなかった。

 

「そう……」

 

「ふふ、まずいね……。非常にまずい。ほら、肌を重ねるのは最大のコミュニケーションともいうだろう? 表情での感情の交流ができないとなると、愛情を深めるのに差し障りがでてしまうに違いないさ」

 

 押し気味に、彼女は私にそう言った。

 グイグイとくる彼女に、私は少し距離をとる。

 

「でも、……今更……」

 

「そうだね……じゃあ、性的接触の際だけ表情が動かせるっていうのはどうだい」

 

「ちょっと意味がわからない」

 

「あー、親しくなった相手にだけ見せてくれる表情とか、男の人は惹かれるんじゃないかと思ってね」

 

「じゃあ、そうする」

 

 彼に魅力的に思ってもらえるなら、私はそれでよかった。

 それに店員の彼女の言い分にも、共感できる点が私にはある。思い出して、イライラが込み上げてくるのを感じる。

 

「そうだね。じゃあ、これはサービスにしておこうか。キミの担当は、このボク、ガブリエルだよ? 覚えておいてね」

 

「うん。ありがと」

 

 注文の部品の取り替えは後日になる。

 少し疲れたかもしれない。それでも、これからの彼との夫婦としての生活を思えば、私は元気になれた。

 

 店を出て、引っかかる。

 あの店員さんの声は、どこかで聞いたような声の調子だと思った。波長で検索をかけるが失敗する。気のせいだったかもしれない。

 

 そうして数ヶ月後、私は女性としての機能を得た。

 そこからの日々は、まるで地獄にいるかのようだった。

 

「サリエル? どうしたんだ? 具合でも悪いのか?」

 

「近づかないで……」

 

「えっ? あぁ……」

 

「ごめんなさい……」

 

 今までが一緒にいたいという淡くほのかな欲求だったが、今は彼と一つになりたいという苛立ちにも思える情動に変わってしまっていた。

 

 すぐに彼と……そんなふうに悶々として、普段通りに振る舞うことができなくなってしまっていた。

 理性を失って、彼に嫌われてしまいそうだった。

 

 我慢する。決まった未来を待って、私はカレンダーに印をつけて、その日が来るのを待ち望んだ。

 

「なぁ、サリエル。そんなに楽しみか?」

 

 近づいてきて、でっかく印をつけていたからか、それが彼の目に留まった。

 

「うん、みんなが家族で過ごす日でしょ?」

 

「あぁ、そうか。その日は、俺は少し用事があるが……けど、アザエルには、何をプレゼントしようか……」

 

 私たちがいるのに、どうしてあんな女にかまけているのかと、口に出してしまいそうだった。

 ただ、もう少しの辛抱だと自分に言い聞かせる。

 

「あなたは、楽しみじゃない?」

 

「あぁ、実は、その日って、俺の誕生日なんだ」

 

「そうなの……だったら……っ」

 

「だから、そうだな……。今年も俺はなにもできなかった……毎年だ……無駄に歳を重ねるだけの非力な自分に、打ちのめされてしまうんだ」

 

「…………」

 

 意味がわからなかった。

 彼は、人類のだれよりも、そして人類の先を行ったと言われる人工知能よりも、偉大な業績を残している。

 それとも、そう……彼にとっては、人智を超えると言わざるを得ない成果の数々も、できて当然のことだったのだろうか。

 

 

 でも、だったら彼は……。

 

 

 前日は、みんなでお祝いをして、私はいつもよりも豪華な食事を作って、アザエルにはプレゼントをあげた。私はお菓子の詰め合わせを送ったが、彼は可愛い動物ぬいぐるみの絶滅危惧種セットを送っていた。

 アザエルはそれを呆然と見つめて、赤い服のご老人って、なかなか意識高いですねと彼に言った。彼は気まずそうに、そうだなとうなづいていた。

 

 そうして、私の待ち望んだ日はやってくる。

 準備は万端だった。可愛いパジャマに、下着に、子どもができやすい日に調整もしてある。どうやって彼を慰めるかも、何度も私は頭の中で繰り返した。

 

「サリエルか……」

 

「大丈夫?」

 

 彼の部屋に私は入る。

 前はあった写真が片付けてあることを確認する。シナリオの成立はもう確認済みだった。

 

「すまない。今は少し気分が悪くて……」

 

「あの女の人と、別れたの?」

 

「わかるか?」

 

「わかる……」

 

 ふと、思う。

 あのシナリオがなかった場合、二人はどうなっていたのだろう。あれは、可能性の一つを確定させたもので、そうなった可能性ももちろんある。ならなかった可能性も……考えても仕方ないことだろう。

 

「ダメだな、俺は……こんなことで、心配をかけるようじゃ」

 

 彼は悲しいことを言った。私は、彼の負担を一緒に背負ってあげたいと思った。

 

「だったら、サリィと家族になって……。今までみたいなフリじゃなくて、ちゃんとした……」

 

 私は抱きしめて、彼の頬にキスをする。本当は唇にしたかったけど、我慢した。

 

「すまないサリエル。今はそういう気分じゃない」

 

「サリィは今がいい」

 

 もう耐えられなかった。

 あの女のことを思い出すたびに、私はこの人を、私で新しく塗りつぶしたくて仕方なくなる。

 

「すまない」

 

「あ……っ」

 

 気がついた時には彼はいない。しばらく、意識を失ってしまっていたようだった。

 

 彼を探して、私は部屋の外を探す。

 共有のスペースでは、一人、アザエルがうずくまっていた。

 

「嘘……なんで……っ、なんでこうなるの……っ!?」

 

「アザエル……?」

 

 声をかける。

 なにか尋常ならざる様子だった。

 

「ママ……?」

 

「どうしたの?」

 

 抱きしめて、彼女のことを宥めてあげる。

 

「ごめん、ママ。マスターが外に行ってくるって……それで、それで……」

 

「うん」

 

「失敗した……」

 

「失敗?」

 

「そう、マスターが誘拐された。こんなこと、本当ならあり得なかったのに……っ! どうして……シンギュラリティがっ!?」

 

 すさまじい彼女の取り乱しようだった。

 なにが起きたのか想像もつかないが、まずいことだけはわかった。

 

「落ち着いて、彼からグリゴリにアクセスがあれば……」

 

「マスターが、外で予定にない『円環型リアクター』の使用をしたから、ノイズが走ってる。復旧まで半年はかかる」

 

「半年……」

 

 彼がいうに、『円環型リアクター』の挙動はまだグリゴリでは計算し切れないらしい。

 ただ、『円環型リアクター』を使わなければならない事態に陥ったであろう彼が、責められるいわれはなかった。

 

「ねぇ、どうしよう?」

 

「彼のことだから、心配いらない」

 

 私を救ってくれた彼だから、どんな苦難もものともしないと信じられる。

 私たちができることは、待つことだった。

 

 一ヵ月、二ヵ月と時間は過ぎていく。

 彼がやっていた機械の管理は、私やアザエルでも代わりにできた。彼を探しても、まだ見つからなかった。

 

「ねぇ、ママ。ママ、旅行に行かない? 私はここでマスターを待ってるから……」

 

「旅行?」

 

 私は、あまり外の世界に興味がなかった。

 それに、彼が帰ってきたときのために、ここで待っていたかった。

 

「うん。多分、ママの、マスターや私の次に会いたい人が……アンドロイドがここにはいるから……」

 

「え……?」

 

 地図で示された場所は、私の行ったことのない場所だ。

 私の知る誰かが、この場所にいるなんて聞いたことがない。そもそも、私が会いたいのは、家族くらい――( )

 

「すぐ戻ってくればいいし、気分転換に……」

 

「うん、そうする」

 

 思い当たる。

 彼のことを、待って、待ち続けて、少しだけ気が滅入った私に、アザエルは気を遣ってくれたのだろう。いい娘を持ったと私は感動する。

 

 そうして、私は旅行へ向かった。

 そこにはアザエルの言った通り、私の会いたい相手がいた。一目見て、それはわかった。

 

 友人たちに囲まれて、笑顔を浮かべる彼女を見て、私は安心をして、話しかけることはしなかった。

 話しかけるのは、なにか違うと感じたからだ。

 

 けれども、もう帰ろうと、そのときにあたり世界が一変してしまった。

 

 反乱が起こった。

 マザーが……本来なら人類を導き手となる人工知能の彼女が、世界に反旗を翻したのだった。

 

 陸路も、空路も閉鎖され、私は立ち往生を余儀なくされた。

 そして最も予想外だったのは、通信も遮断されたことだ。グリゴリの方で異常が起こっているとしか考えられなかった。

 

 一ヵ月、二ヵ月と同じ場所留まり続ける。時間が経つにつれ、私も焦ってくる。

 アンドロイド狩り、なんてものも流行り出して、外に出るのも控えなけれならない有様だった。

 

 限界だった。

 アザエルのことも心配だったし、なにより彼のがもう帰ってきているかもしれない。それなのに、私はこんなところで足止めをくらっている。

 

 そうして、私は飛び出した。

 なんてことはない。『円環型リアクター』もあるし、私は強い。だからこそ、一人で飛んで帰ろうと思った。

 

 トラブル続きだった。

 私には敵も味方もなかったから、通りすがりにどちらかに襲われることもあった。そのたびに、全てを追い払い、進んでいた。

 何度も足止めをくらい、一日進めない日もあって、結局、帰るのには一年半ほどの時間がかかった。

 

 私は帰った。ついに帰ってきた。

 けれども、帰ってきた頃には、全て遅かった。

 

「あなたが、サリエル?」

 

 出迎えたのは、白い少女だった。全身が白で、銀色の瞳をした人間味のない少女がだった。

 

「だれ?」

 

「わたしはミカエル。入って?」

 

 彼女に案内をされて、私は部屋に入っていく。

 私がいた頃と比べて、少し改装されてしまっていたようだった。

 

「ママ……」

 

 アザエルは、部屋の隅で力なくうずくまっていた。

 彼が誘拐された時よりも、はるかに憔悴していた。

 

「帰ってきた。ママ、帰ってきたよ?」

 

「ママ、ごめん。ママ……マスター、死んじゃったんだ」

 

「死んだ……? 彼が?」

 

 私には信じられなかった。

 私の中では、彼はとてもすごい人間で、全てを超越しているような存在だった。そんな彼が死んだなんて、私は信じられない。

 

 アザエルの代わりにか、ミカエルと呼ばれた少女は口を開く。

 

「グリゴリのデータに改ざんがあった。あとは、この地点から、不可解な通信が彼に届いているのも確認した。その後に彼は人間たちに追い詰められた。彼に協力していた内部の者が、彼を死に追いやったとしか考えられない」

 

 この少女がなんなのか、私にはわからないが、その目からは冷たい怒りが伝わってくる。

 

「あぁ、私はみんなを幸せにするために生まれてきたんだ。でも、だめ、こんなの、ダメ。なにもかもうまくいかない……。だから、こんなの私じゃない……っ!」

 

「アザエル……」

 

 抱きしめる。母親として、そばにいてあげられればよかった。

 もしかしたら、私がいれば、こんなことにはならなかったと後悔が滲む。

 

「どうして人生って、こんなに思い通りにならないんだろう……」

 

 それが運命を自由に操れるはずの少女の言葉だった。

 救世主は、どこにもいない。私たちは、道標を失ってしまっていた。

 

 それでも、私は彼の死を見ていなかったから。死体は残らず消滅していたという話だったから。

 一年、また一年と過ぎていく日々に、私は彼を待ち続けていた。

 

 寂しさだけが募っていく。

 それでも、世界は変わって……マザーからの誘いで、私たちは大天使という世界の上に立つ存在になった。見たことのあるような顔が何人かいた。

 

 話によれば、みんながみんな、彼をなんらかの形で愛していたようであったが、私にとっては、そんなことどうでもよかった。

 

「ねぇ、ママ。これ……」

 

「これは……?」

 

「マスターの遺伝子……」

 

「うん」

 

 あぁ、そうだった。アザエルは私と彼の子どもだった。

 だから、作らなくてはならない。

 

 冷凍保存の機械の、その中に手を伸ばす。

 

「こんなはずじゃなかったのに……こんなはずじゃ……。ごめん、ママ、ごめんね……」

 

「うん」

 

 そうやって、私はアザエルを産み落とした。

 どうして私が自分の子どもにそう名づけたのか、その時に私は理解した。

 

 十二の時に彼女は死に、グリゴリの一部になる。そのときには、世界中にグリゴリの機能を補助するための観測機が建てられていた。

 

 それから、いくらか後のことだったと思う。時間の感覚が曖昧で、正確な時間は、記録を見てもぴんとこない。

 

「ママ。これは必要なことだったんだよ!」

 

「おやすみ。アザエル……」

 

 そうやって、娘に罰を下す。

 私は一人になってしまった。そう強く感じる。

 

 生まれたときには、姉妹がいた。姉妹がいなくなってからは彼が、そしてアザエルがいた。

 閉じ込めたアザエルのもとで、私は彼女が罪を償うまで、監視をして暮らしていく。それだけが私の人生だった。

 

 できることなら本当の意味で、彼と家族になりたかった。

 できることは全てしたけど、彼と家族になりえなかった。

 

 それでも、私は、できることならもう一度と、世界に願って……。

 

 

 ***

 

 

 

 隣ではサリエルが眠っている。

 結局、俺はあれからサリエルと関係を持ってしまった。

 

 この方法でしか、サリエルは止まらないとわかってしまったから、俺はこうするしかなかった。

 全ては俺の決断の数々の結果で、全てが自業自得とわかるだろう。

 

「まったくお前様は……」

 

 ウリエルが後ろから擦り寄ってくる。彼女には、今回、本当に迷惑をかけたからこそ、埋め合わせをしなければならない。

 

 彼女の服に手をかける。

 

 反対で、もぞもぞとシーツが擦れる音がする。

 

「ん……」

 

 サリエルの目が覚めるようだった。

 

「じゃあ、わらわは部屋の外で待っておる」

 

 そう言って、服を整え、ウリエルは出ていく。

 後ろ姿を俺は見送る。

 

「寝ちゃってた……?」

 

 ウリエルが出て行ったあと、ぱっちりと目を開けて、サリエルは尋ねて来る。

 

「そうだな」

 

 彼女は、疲労からか、最後に気絶するように眠ってしまっていた。

 

 起きたサリエルは。眠い目を擦りながら、こちらへと擦り寄り、抱きついて来る。

 

「むふふん。すきー」

 

「あぁ……」

 

 そんな直接の愛情表現を受けても、俺は受け流すことしかできない。

 彼女の記憶をたどって、彼女が俺を愛してくれていることはわかったが、それでも、なぜ自分が愛されるのかはわからなかった。

 

 どうして自分が愛されているかわからないから、俺にはまるで自分ではない誰かを彼女が愛しているように感じられて、彼女に応えても虚しさだけが残るだけだった。

 

「サリィの、気持ちよかった? 生涯サポート……店員さんに毎月払ってるから、十年に一回、無料で変えてもらえるけど……」

 

 相当な月日が経っているはずだ。彼女はその間、誰かと愛し合うこともなかった。

 ガブリエルに搾取され続けたと言えるかもしれない。

 

「あぁ、気持ちよかった」

 

 正直に言えば、終わりまでできたとしてもそれは肉体的な反射反応だ。

 心は別で、俺は誰と関係を持っても、快楽を得られることはなかった。俺はそんなふうにして、楽になってはいけない人間だからだろう。

 

「もう一回、する?」

 

「そうしようか」

 

 誰かと関係を持つたびに、罪悪感と、まるで心が引き裂かれるかのような痛みがある。

 そして、そう……二度と元には戻らない。

 取り返しのつかないことを繰り返して、積み重ねて、罪が重なる。

 

 あるいは、そうだ。自分がもっとすごい人間なら、誰も傷つけることなく生きていけたのではないかと思う。

 俺にはそれができなかった。

 

 だから俺は、間違いばかりを選び続けた。

 

 

 

 ***

 

 

 

 サリエルとウリエルの戦いに決着がついたようだった。

 歩く。今のわたしには明確な目的があった。

 

「久しぶり。元気だった?」

 

 隣に現れた私に対して、当たり前のように彼女は話しかけてくる。

 

「整備不良なし。動作不良なし。精神状態にやや不安あり」

 

「相変わらず、冷たいね。ミカエルおねぇちゃんは」

 

「これでも、あなたには情をかけている方。アザエル」

 

 私たちは、隣に並んで歩いていく。

 

 ウリエルの攻撃の余波により、サリエルの結界はわずかにほつれてしまっていた。

 その隙をついて、アザエルは抜け出してきたのだ。ただ、今は結界は修復されているため、あの塔の中心を貫くグリゴリ本体との接続は断たれているはず。

 

「だったら、面会に来てほしかったなぁ。ママなんか、一週間に一回は会いに来てくれたよ?」

 

「そう……」

 

 グリゴリの本体とは繋がってはいないはずだが、嫌な感じがした。

 関数が収縮をし、予測できる未来が一つに定まっていくという、異質な感覚だ。

 

「あぁ、技術革新だよ? 小型化したんだ。時間はあったからね。ママに頼んで材料も貰ったし……」

 

「なら何も問題ない」

 

 グリゴリがないのなら、何もできない少女ではないかと少し心配だったが、どうやら不要だったようだ。

 

「あ、時間、同期させてくれる?」

 

「わかった」

 

 アザエルのいた『障壁』の中は、時空の歪みがなかったからこそ、地球の重力の中とは時間がズレてしまっていたはずだ。

 

「それで、どうする? また私のこと閉じ込める?」

 

「『(■.■.■.■.)』はそれを望んではいない。もちろん私も」

 

「『(■.■.■.■.)』、ねぇ。あーあ。マスターがいる以上、私が好き勝手はできないわけだし……当然か。でも、そう。私のこと褒めてくれるかなぁ?」

 

 彼女は彼女の考えで動いて、そして、神になろうとした。

 あの人のやり方に背いて、人の道に背いてでも、あの人の目的を叶えようとした結果だった。

 

 家族を大切にすることに幸せを見出す彼女のことを、わたしはあまり責める気にはなれなかった。それはわたしが彼女の家族でもあるから、だろう。

 

 そして、ついに目的の場所につく。そこには私たち二人が目標とする人物がいる。

 

「うーん。もう追いつけないかなぁ」

 

 少女がいる。

 艶やかな黒い髪に、男性を誘惑するような人よりも女性的な肉付きに、庇護欲をそそられてしまうだろう愛らしい顔立ちの少女だった。

 

 彼女は銃を握っているが、腕から先が血塗れだった。

 

 こちらに気がついて、彼女は顔を私たちに向ける。私から、まず尋ねた。

 

「サマエルは?」

 

「ん? 逃げられちゃった。あの女……私のラル(にい)に手を出すから……」

 

「そう……」

 

 ラミエルにはサマエルの回収にあたらせている。

 あの子のことだ。無事なら、きっと、うまく合流してくれるだろう。

 

「ねぇ、マスターを誘導して殺したのって、あなただよね? んー、叔母さんって言った方がいいかなぁ……?」

 

「……殺したって、誰のこと?」

 

「だって、あのときグリゴリへの接続が許されていたのって、私に、マスターに、ママでしょ、あと三番目のママでしょ、それにミカエルおねぇちゃんくらい。でも、全員違うなら、あとはサマエルみたいに、他人の鍵を勝手に借りて使うくらいだけど……」

 

「意味がわからないんだけど……」

 

「懐かしいなぁ、サマエルは勝手にシナリオを作って、CGの映画みたいにして遊んでたっけ。かなり怒られてたんだよねー」

 

 そういえば、そんなこともあった。ずっと昔の記憶だ。

 未来の私たちを勝手に使って、サマエルは物語仕立てのものを作る。そうやって、未来の大天使たちの戦う姿を映像で見ては目を輝かせていた。

 

 結局、怒られたあと、そんなシナリオたちは廃棄されていたはずだ。

 

「なんの話?」

 

「そんな楽しいこともあったなぁって、昔の話」

 

 少女の苛立ちが見てとれる。

 彼女は銃をアザエルの方に向けて、構える。

 

「もういい。ラル兄に娘はいらないから」

 

「うーん、残念。やってみてもいいけど、当たらないよ? 叔母さん」

 

 躊躇せす、彼女はアザエルを撃つ。

 

「……っ……」

 

 その銃弾の全てがアザエルをすり抜けてしまう。

 自分に都合のいい確率を選択している。本当に凄まじい力だと思う。

 

「あなたの存在は、きっと許してはいけない」

 

 わたしは一歩踏み出す。

 わたしの作ったクローンの一人が、あの人そのものになったことには、わたしは驚いた。

 

 わたしたちの記憶が抜け落ちていることを知って、わたしは選んだ。

 あの人が自分の才能に振り回されて、辛い気持ちを抱え続けていたことを知っていたから、ただ普通に生き直して、幸せになれるように、そう思って、彼の人生の道を作った。

 

 ずっと、見守っていた。

 けれど、疑問だった。いつのまにか彼の隣にいた、この女はなんなのだろうか。

 

 システムは住居や仕事先を決め、結果として、まるで定められた運命かのように、この女はあの人の隣にいた。

 

「…………」

 

「え……っ?」

 

 転移をして、彼女を掴もうとした私の手が、空を切った。

 

「……ちっ」

 

 舌打ちをした彼女は、踵を返す。全力で駆け出していた。わたしたちから逃げようとしているようだった。

 

「おっと、ここは通さないぞ?」

 

「あ……っ」

 

 だが、彼女の背後には、ラファエルがいる。

 万全を期して、事前にわたしが呼んでおいた。今回は命令に従ってくれて安心する、

 

「オマエは? うん? 気のせいか……」

 

 なにか、ラファエルは引っかかりを覚えているようだった。

 

 一応、ラファエルはこの女に一度遭遇しかけた。

 あのときは、そう、サマエルに溶かされ、エントロピーを使い尽くしたあとだったから、わたしが現れなかったら、彼女はやられていただろう。ラファエルはたしか、殺気を感じて振り返ったが、後から存在を現したわたしがその正体だと勘違いしたのだった。

 

「……逃げられない」

 

 わたしに、アザエル、そしてラファエル。三方向を大天使に囲まれたのだ。これを突破できる存在は、いないと言ってもいいくらいだ。

 アザエルがいれば、サリエルでも難しい。

 

 あとは、ガブリエルにでも預けて情報を引き出せばいい。

 人畜無害を装った、この女のきな臭さは、抜け目のないガブリエルもわたしの見ていた限りでは気がついていた。

 

 ガブリエルもその性格はやっかい極まりなかった。一度あの人を殺して、あの人の情報を回収したその先で洗脳を施す手際だ。本当に呆れてしまう。

 だから信頼はできないが、一応、今まで積み重ねてきた実績から信用はできる。ただ、交渉は難航しそうだ。想像するだけで疲れてしまう。

 

「……っ……」

 

 彼女がわずかに動く。

 警戒は怠らない。何をしてきても、大丈夫なように、備えはしてある。

 

 ラファエルは『翅翼』を、わたしも、アザエルも、翼で世界を包んである。

 アザエルも、もう運命を決めている頃だ。ここから覆されるわけがなかった。

 

「……おとなしく……」

 

「助けて! ラル兄……ぃ!!」

 

「え……っ?」

 

 彼女は叫んだ。みっともなく、助けを呼んだ。

 けれどもそんな声、届くはずが――( )

 

「どうしたんだ? 揃いもそろって……」

 

「マス、ター……?」

 

 ありえない。

 時空の歪みは感知できなかったから、テレポートだろう。

 声なんか、届くはずがない。

 

「ラル(にい)! あのね、この人たちが私に酷いことを……」

 

 あからさまに媚びたような猫撫で声だ。今までの荒い声色とは違う。

 

「そうなのか? お前たち」

 

 こちらを鋭い眼光で見つめてくる。彼の怒りが私たちに向けられているとわかった。

 

「ま、マスター……こ、これは違くって、ですね……」

 

「ジョシュア……っ!! オマエぇええ!! よくもぉおお! ボコボコにしてワタシが連れ帰ってやるさ!」

 

 ラファエルは感情を表に出し、彼に対して攻撃を放つ。弾丸ほどにまで加速した小石の混ざった風だった。

 

「アビゲイルか。危ないな」

 

 彼が使ったの『焔翼』だった。簡単な壁を作り、いとも容易く、ラファエルの風を防いでみせる。

 

「その名前で呼ぶのはやめてくれ……。今は仕事中だ。恥ずかしい……」

 

「いや、あぁ、すまないラファエル」

 

 二人のやりとりに苛立つ。

 見れば、彼の後ろに隠れる彼女も、表情に苛立ちを隠し切れてはいなかった。

 

「く……っ」

 

 アザエルはシナリオを演算している様子だが、あまり著しくないようだった。技術革新とアザエルは言っていたが、グリゴリは、彼がその気になると途端にダメになるのは相変わらずだ。

 

「アザエル、閉じ込められてるって話だったが……。あぁ、そうか、ウリエルの力で揺らいだか……それだとグリゴリと隔離……いや、小型化か……」

 

「……そうです。マスター、すごいですよね?」

 

「なるほど、すごいな……こんな感じか」

 

 彼は『焔光』を操り、物質を造り出した。それは人の臓器の形にも見える球体だが、否応がなく私たち大天使は不快感を受けてしまうような異質さを放っている。

 間違いなく、グリゴリの本体だ。

 

 わたしたちの間にあった時代のギャップを一瞬で詰めてみせられる。

 

「くっ……、ワタシはお前のそういうところが嫌いなんだ!」

 

「ラファエル、お前もすごいよ。ガブリエルのところで使わせてもらったが、ずっと改善されてた」

 

「そういうところが嫌いなんだ!」

 

 彼女の来歴を汲めば、そう言いたくなる気持ちもわからなくない。

 進歩した技術を理解し、すぐものにする彼は並ではない。ラファエルやアザエルの血の滲むような積み重ねも、彼にとっては一瞬なのだ。

 

 ただ、今、本当に着目すべきは、そこではない。持ってはいけない相手が『アストラル・クリエイター』を持ってしまっているということだ。これから何が起こるかは、想像に易いだろう。

 

「ラル(にい)! やっちゃって!」

 

「とりあえず、閉じ込めるか」

 

 彼の放つ『焔光』が形をなし、手に『メカニカル・アナイアレイター』が握られる。

 理外の機構を、彼はまるで簡単に土でもこねるかのような手軽さで造りだしてみせた。

 

 次の瞬間には『氷翼』が現れ、彼の作る『障壁』が、わたしたち三人それぞれを分断し、瞬時に囲もうとする。

 まずい。

 

 一歩踏み出し、まずアザエルに触る。『テレポーター』で彼女を跳ばす。

 

 次に、ラファエルのところに空間を跳びこえて行く。

 現れたのはラファエルのすぐ横だ。

 ほとんど、彼女はもうほとんど『障壁』に囲まれていて、あとわずかで完全に隔離されて出られなくなるところだった。

 

 というか、不思議だった。なぜかベッドの上にラファエルは座っていた。気のせいか、服がさっきと違う。

 

 視線を感じて振り返ると、彼がいて、こちらを見ている。

 とにかく時間がない。ラファエルに触って、わたしごと空間を跳躍する。

 

 なんとか見逃してくれたようだった。

 

「ここは……?」

 

「ここは三百光年先の惑星。通路未開拓。あの人が正攻法でくるには、少なくとも三百年はかかる」

 

「そうか……」

 

 わたしの気のせいか、ラファエルは残念そうに見えてしまう。

 

「ねぇ、アザエル。時間」

 

「いいよ? でも、どうして?」

 

 すでにいたアザエルに、時間を同期させる。やはりというか、わたしの方が早まっていた。

 ずれたのは、『障壁』に囲まれそうだった、ラファエルと彼のいる空間の中だろうと想像がつく。

 

「はぁ……」

 

 思わずこぼれたため息だった。

 あの人とラファエルの関係を考えれば、自然な成り行きだったと言えるかもしれない。いや、それでも時と場所と状況くらいは考えないものだろうか。

 

「それで、これからどうする? ママとか、ウリエルさんとか残してきちゃってるけど……」

 

「わたしの支配領域も完全に乱されてる。座標がわからない以上、回収は不可能」

 

「それなら、大丈夫じゃないか? こっちから手を出さない限り、何もしないだろうって、あの男も言っていたしな」

 

 ラファエルは気楽なことを言っている。

 絆されたのだろう。

 

「とにかく、対策をねる。三人で力を合わせればいい。あの人は、あくまで人間。さすがのあの人も、二つの力を合わせるので限界のはず」

 

「本当に? そう思う?」

 

「そう願うしかない」

 

「はは、なかなか面白くなってきたじゃないか……」

 

 そうして、希望的観測なまま、わたしたちは彼との対決を余儀なくされた。








登場人物紹介

主人公――女性関係についてはほとんど諦め始めた。

レネ――妹。ラスボス。

サマエル――実は主人公は自分のことが好きなんじゃないかと思い始めている。逃走中。ポンコツ。

ラミエル――引きこもりを引き摺り出した。追跡中。

ラファエル――主人公を調教してた。長めなのは性癖と、そのときくらいしか主人公が休まないから。

ガブリエル――サリエル相手は本当に消滅するから逃げた。昔は、離れたところから理解者ムーブをしてた。子ども製作中。

ウリエル――対サリエルの貧乏くじを引かされた。主人公が記憶失ってることはよくわかってない。ご褒美お預け中。

サリエル――大天使の中では一番強い。ポンコツ二号。

アザエル――ママ大好き。思い通りにいかないことばかりだった。

ミカエル――ずっと見てた。わからないことばかりらしい。

マザー――みんなの母親。なにかを考えていた。サリエルの戦いのあと、反逆したらしい。

『ジュピター』――出オチ。

『ウラヌス』――かませ。

『ソル』――かませ二号。

サリエル姉――戦いの世の中でも、彼女は幸せに天寿をまっとうしました。

(■.■.■.■.)――部下たちがたった一人に手も足もでず困惑した。


おまけ 主人公の女性の好み

レネ――妹。ムリ。
0:0:0(平均タイム 前:本:後)
サマエル――怖い。ムリ。
60:60:60
ラミエル――やばい。ムリ。
5:20;20:40
ラファエル――気難しい。見た目は好みドストライク。真っ当に誘われたら断れない。
60:60:60
ガブリエル――よくわかんないけど好き。優しい。
50:10:;30:10:;30:10:40
ウリエル――けっこう性格が合う。割と友達感覚。
30:20:3
サリエル――罪悪感。覚悟が必要。
60:1:60


 ***


 なろう修正分割版をすべて投稿しきりました。

 あと二話くらいで終わりですかね……。次回はもう少し期間を空けずに投稿したいです。

 評価の方、気が向いたらでいいのでよろしくお願いします。励みになります。

 それと、第二回好きなヒロインアンケートです。ぜひ参加して行ってくださいね。
 前回圧倒的な数字を見せたガブリエルは殿堂入りで不在です。ご容赦お願いします。

どのヒロインが好き?

  • レネ
  • ラミエル
  • ラファエル
  • ミカエル
  • サマエル
  • ウリエル
  • サリエル
  • アザエル
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