ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】 作:伊吹キーブイ
この人数を予約なしで今からとなると、選択肢は必然的に限られた。
シャワーと着替えを済ませて向かったのは、広い座敷タイプの焼肉屋だ。
靴を脱いで上がるタイプで、高級志向というより庶民派な大衆向けの安いやつだ。
せめて安い食べ放題コースのやつで頼むと言われたので、真ん中の飲み放題食べ放題コースにしておいた。
流石に一番下では溜飲も下がらんし何より格好がつかない。
それはまあ良いのだが――。
「はい、おしぼりとお皿とお箸とお水どうぞ〜。タレは甘口と辛口どちらが良いですか〜? あ、店員さんもお気になさらず、そこにおいておいて下さい。私が渡しますので〜。あ、これもう焼けてますよ〜、冷めないうちにどうぞ〜」
「トレーナーさんたちが寮に連絡して下さったとはいえ、あまり門限を破っては寮長さんにご迷惑がかかりますから。きっちり90分で出られるようにしましょ〜! 注文は私がまとめますので!」
「うふふ、そんなところにひとりでいないで、私とお話しましょ〜? え〜? もう、気にしちゃダメよ? 誰の担当ウマ娘じゃなくても、それを承知の上で全員誘ったんだから。ここは遠慮なんてせずにちゃんと楽しんで、しっかり感謝してお礼言っておけば良いのよ〜」
着いて早々、うちの子たちが大活躍だった。
スーパークリークは世話を焼きまくるおかん状態だし。
エイシンフラッシュは注文もタイムスケジュールもきっちり取りまとめているし。
マルゼンスキーなんかはたまたまその場にいて、唐突に連れてこられたウマ娘たちに絡みにいってるし。
っていうか、普通に肉も食うんだな、まあそれはそうか。
白飯食べてる時点で今更だし、にんじんハンバーグみたいなのもあったはず。
しかし、網の上にはおおきな人参が結構な数を焼かれている。
網の上が赤すぎて肉なのかにんじんなのかもよく分からない状態に。
「……おかわり」
「オグリちゃんだけは、もうちょっと遠慮を……! っていうかさっきおにぎり食べたのにまだこんなに食べるの……!?」
オグリキャップとベルノライトも相変わらずだ。
っていうかすごいなオグリキャップ。
既にお腹が大きく膨らんでいる。
神眼で観てみると、食べた端から吸収されて血肉とエネルギーになっていってる……こわっ。
健啖家の割に太っていないというのは代謝がめちゃくちゃ良いかめちゃくちゃ悪いかのどちらかだからなあ……後者は健全じゃないし、一応確かめられて良かった。
その代償を払うのは俺じゃないしな。
ちなみに俺はというと、他のトレーナーたちと固まってビールを飲んでいた。
この世界に来る前は結構好きだったんだが……この身体だとまだその良さは分からないらしい。
個人差によってこんなに感じ方が変わるもんなのか。
新鮮なような、前の身体が懐かしいような……。
「あら、ビールはおくちに合わなかった?」
「あ、いえ、その……まあ、ちょっと」
そんな俺を見て苦笑しているのは、なんとあの東条ハナさんだ。
まあ、東条さんもアニメ時点でそこそこベテランみたいだったし、いてもおかしくはないか。
しかし、アニメで見たようなちょっと厳し目の印象よりは、若干優しいというか……いや、アニメでも別に優しくないわけでばなかったけど、もっとツンデレな印象が強かったような。
「なんだよー、飲まないなら俺が貰っちゃうよー? あ、こっちに烏龍茶とお肉頂戴ー!」
「ちょっと、まだ飲むつもり? あなた先輩なんだからもうちょっと――」
「あ〜もう、うるさいなあおハナさんは。良いだろ〜? タダで飲める機会なんてそうそうないんだからさ。今のうちに飲み貯めておかないと」
「なっ! 私はあなたの事を心配して……!」
俺と他にもうひとりの男性トレーナー……沖野トレーナーが東条トレーナー……おハナさんに叱られている。
そう、この人あれだ、スピカのトレーナーの人だ。
そんでこのやり取りを見ていて気付いた。
おハナさん、これ好きな人にはツンデレなだけで他の人には当たりが柔らかいタイプのやつだ。
言われてみれば、アニメでおハナさんが話してたのってトレーナーとかリギルの面子だけだわ。
後輩に対しては、案外こんな対応なのかも知れない。
「そーですよー! いやあ、私達までゴチになっちゃってすみませんね! あ、烏龍茶もう空じゃない、さあさあ、どうぞどうぞ!」
「あ、ありがとうございます」
そしてもうひとり、小宮山……という女性トレーナーさんを含めた、計四名がこの場に参加しているトレーナー勢となっている。
メガネの男性ベテラントレーナーが帰った辺りで他の人達もほとんどいなくなってたからな。
この小宮山さんというトレーナーも、俺の記憶にない、アニメでは見なかった人だ。
知的なインテリなイメージのおハナさんとはまた全然違ったタイプの女性で、バリバリの体育会系な快活なガテン系とも言える美人さんだ。
おハナさんがタイトスカートのスーツなのに対して、何故かツナギみたいなのを着て上着を腰に巻いている。
細いが引き締まっていて、身長やら何やらも色々とでかい。
声もな。
「いやー、私もトレーナーになってまだ間もないからさ、先輩なんて面できないんだよね! ほぼ同期みたいなもんだと思って、よろしくお願いね!」
「は、はい……」
どうしよう。
めっちゃグイグイ来る人だこれ……!
元の世界でもそこまで人見知りだったりコミュ障ではなかったと自覚しているのだが、勢いに押されすぎて曖昧な返事しか返せてない。
あとめっちゃピアスとかして、パリピとまでは言わんが陽キャ感がすごい……!
「せやせや! 景気よくタダ飯振る舞うてくれるなんて、良い奴やんけ! 是非今後とも仲良うしましょーや!」
「あ、丁度良かった。小泉さん、紹介します! この調子のいいこと言ってる子が私の担当ウマ娘のタマちゃんです!」
烏龍茶片手にまるで酔っぱらいのようなテンションで、小柄なウマ娘が絡んでくると、小宮山さんが肩を掴んで差し出してきた。
「誰が調子良えやて!? 紹介するならちゃんと紹介せーや! タマモクロスや! ええい肩を掴むなや! 色々当たっとんねんケンカ売っとんのかワレェ!」
タマモクロス!
名前を聞いて思い出した、アニメでスーパークリークとオグリキャップと一緒に大食い大会やってた関西弁のウマ娘!
「いやあ、ウチは付添いでたまたまおっただけやのにゴチになってすまんなあ! なんなら偵察みたいなことまでしとったのに!」
「タマちゃん! しーっ、しーっ!」
ふむ、やはりこの子達はどこか惹かれ合い競い合う定めにでもあるということなのか?
ここでは親と子がほぼ同年代になってるようなのもざらだから、あまり史実やらの時系列は考えても仕方ないんだが……。
神眼的には――。
「………っ!」
こいつは……ヤバい。
「……小宮山さん」
「えっ? あ、はいはい。なんでしょ?」
きっと今のあの子たちじゃ勝てない。
「今はまだドタバタしていますけど、落ち着いたらウチの子達と……模擬レースとやらを、やってもらえませんか? もちろん、ハンデも手加減もなしで」
「……うちのタマちゃんと?」
だからこそ、大きな目標になる。
何か特定のレースを目指すのももちろんそうだが、具体的に誰かを……というのは、絶対に必要。
そのためには、遅すぎるのはもちろん、早すぎてもダメだ。
負けて当たり前、くらいのめちゃくちゃ強い子はもちろん他にいくらでもいる。
だが、それではダメだ。
練習のモチベーション、目標にするには、同じくらいの横並びの相手か、とても遠いけど、追いかけることができる……そんな相手が良い。
そのためにも、このタマモクロスは……すごくいい。
これはやはり、運命というやつなんだろうか。
「タマモクロス。まだまだ荒削りだが、すごい才能だ。今はまだ才能だけのうちの子たちに見せてくれないか? 努力した天才の走りというのを」
タマモクロスをひとしきり観たあと、小宮山さんをじっと見つめる。
小宮山さんは驚いたように顔を赤らめると、ごほんと咳払いをして見つめ返してきた。
「分かりました。こちらこそ、よろしくお願いします! 日程はまた調整しましょう」
「ありがとうございます。すみません、そちらには何も得がないのに受けてもらって」
「いえいえ、うちのタマちゃんにも、いい刺激になるはずです! それに、天才トレーナーさんが選んだ子達がどんな走りをするのかも見てみたいですからね!」
なるほど……一応どちらにもメリットはあるようで良かった。
「くぅ〜っ! めっちゃおもろそうやんけ! 楽しみにしとるで!」
タマモクロス本人も乗り気なようだ。
「さて……ほんなら他の子らにも礼と挨拶させたるから、よろしゅうしたってな!」
「あー、いや、堅苦しい挨拶なんかは気にしなくて良いよ?」
「おや、さよか? しかしまあ、礼と挨拶くらいさせたってや。奢られる方も、何も言わん方が気にしてまうって子もおるからなあ」
タマモクロスは人懐っこい笑みを浮かべながら立ち上がる。
完全におせっかいする気まんまんの顔をしている。
ポケットから飴とか出して渡してきそう。
見た目はもらう側だが。
「うーん、気にせず純粋に楽しんで欲しいんだけど……まあ、そういうことなら? 強制はしないで良いからね?」
挨拶回りだの何だので気を使わせる側には回りたくないんだよな。
でもまあ、しない方が気にするっていうなら本末転倒だし、良いか。
「分かっとる分かっとるて! ほんなら、どうしても来たいっちゅう子だけおったら連れてくるわ。ウチみたいなのとは違って、来たいけど来れんっちゅう子もおるからな!」
ふーむ、マルゼンスキーとは別の意味で面倒見がいいアネゴ肌って感じがするな。
ちなみに、小宮山さんは早々に潰れた。
弱いのか、タダ酒だからって飲みすぎたのか……両方かな?