ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】 作:伊吹キーブイ
結局最後まで潰れたままだった小宮山さんを背負うことを、タマモクロスが何故か断固拒否したため、タクシーを呼んでおハナさんに連れて帰ってもらうことにした。
スーパークリークあたりに絡まれる度にこっちを向いて血の涙を流していたので、タマちゃんさんには強く生きてほしい。
色々当たるのは分かったけど、その件に関して男からは口を出すことが出来ないのだ。
ウマ娘たちは下手な車より早く走るため、タクシーも何もあったものではなかった。
一応こちらは年長組に任せて、俺らも帰路についた。
記憶によると、どうやらこの辺りに部屋を借りて住み始めたばかりのようだ。
最近引っ越したばかりの若干お高めのマンションらしく、広々としてなかなか良い部屋だった。
流石に選抜レースの次の日というのはどうかということで、数日後に入部テストを行うことになった。
それまでの間は準備期間として、こちらも色々と手続きやら買い物やらでバタバタした。
たづなさんに連絡して申請のやり方を教えてもらい、各自に連絡して……そんなこんなをしてる間にテスト当日になった。
天気は快晴。
バ場の状態良し。
賑わう人々、響き渡るアナウンス。
「さあ、やって参りました! 新人トレーナー、小川歩さんの入部テスト! 司会は私イナリワンがつとめさせていただきます!」
「は?」
そこには、大勢の見学ウマ娘たちと実況テント。
なんか見学席向けに焼きそばとかジュースとか売ってる。
祭りか?
「いやあ、なんか折角やから盛り上げたろ思たら予想以上にオオゴトになってなあ」
「お前の仕業かい!」
「せやから勘弁やって、ほら、こうして無給で手伝ったるさかい、な?」
悪い悪いと手を合わせて苦笑いのタマモクロス。
お詫びのつもりなのか、色々と準備を手伝ってくれている。
他にも沖野トレーナーと小宮山トレーナー、あとたづなさんにもお手伝いをお願いしている。
おハナさん? あの人を使う勇気無いです。
ちょっと不機嫌そうな表情でこちらを見ているけど、あの人に限って仲間はずれにされて寂しがって不貞腐れてるなんてことはあるまい。
たづなさんにはいらないと言われたが、あとのふたりは日給制だ。
「でもタマちゃん、集めた人に色々売って儲けるんでしょ?」
流石は担当トレーナー、小宮山さんがタマモクロスのことをジト目で見ている。
下手な口笛で誤魔化しながら顔を背けるタマモクロスは放っといて、肝心の出走者たちのところに顔を出す。
全部で五人。
オグリキャップはどうなるか不明なので観客席でベルノライトと何か食ってることだろう。
忙しくしてたのと不公平が出るといけないので、スマホで連絡はしているが、会うのは全員あの日以来だ。
「みんな、調子はどう?」
「あ、歩さん!」
各々ストレッチ等をしていたが、スーパークリークを皮切りに俺に気付くと素早く集まって、何も言わなくても整列してくれた。
こう見ると既にチームっぽい雰囲気がある。
と、聞いたものの、大体の様子は神眼でサングラス越しに入ってくる。
しかし衣服の上からでは神眼があまり効果がないらしく、できるだけ肌……というより筋肉の動きが見えやすい必要がある。
そこで、全員ブルマでへそ出しにしてもらった。
ゼッケンは無くても分かるので必要なし。
布は少しでも少ないほうが良いからな。
真面目にきちんと筋肉と骨と諸々の全てを観ようと思うと全裸で走ってもらう必要が出てくるが、まあ一番妥協した結果がこの格好だ。
水着はまだ観たことがないから知らんが、まあこれも無理だろ。
選抜レースのときはほとんどが長ジャージで、あれでもざっくりとした曖昧なプロフィールしか観れていなかったが、足がまるっと出てる今なら筋肉の動きがよく観える。
おかげでかなり多くの情報が伝わってきて……うまく制御しないとこれだけで倒れてしまいそうだ。
ちなみに全員なかなかの露出度の高い格好にもかかわらず平然としている。
全員中等部という話だが、全体的に発育が良すぎて胸以外も色々ヤバい。
マンハッタンカフェあたりは恥ずかしがるかと思ったが、俺から連絡したら素直に従ってくれたので助かった。
みんな悪くないコンディションだ。
「ふふっ、がんばりますから、見てて下さいね〜? あ、喉とか乾いてたりしないですか〜? 今日も暑いですからお気をつけてくださいね〜?」
「大丈夫だから自分の走りに集中して?」
相変わらずの笑顔のスーパークリーク。
自分のことよりコチラの方が気になるようだ。
「私も、いただいたアドバイスを元に更に走りを研いで来ましたよ!」
「お、そうなのか。あれからまだ数日なのに、やるね。楽しみにしてるよ」
アピールに余念がないエイシンフラッシュ。
尻尾もパタパタして、ウマ娘なのに忠犬みたいにみえる。
「こんな面白そうなメンバーで走れるなんて、わくわくするわね! 私の活躍、ちゃーんと見ててね!」
「自信満々だなあ。心配しなくてもちゃんと見てるし、撮影もしてるよ」
「やったー! キレイに撮ってね?」
マルゼンスキーはわくわくした表情を隠しもしないで楽しそうにしている。
カメラにも物怖じしなさそう、どころかノリノリである。
「選抜レースでは負けちゃったけど、今日はそうはいかないよ! 勝負が終わったらまたご飯食べに行きたいな! 今度はラーメンにしよ!」
「もうご飯の話? ちゃんとレース頑張ったらね?」
「やった! 楽しみ!」
ファインモーションも負けず劣らず楽しそうにしている。
が、レースのことよりラーメンの事を考えてそうだ……いや、まさかこれ外堀を埋めに来てる……?
その狡猾さは是非レースで発揮していたたきたいところだが。
「私も……走りを見てもらってから決めて貰いたかったから……丁度良かったです……。あの……がんばります……!」
「そうだね、意気込みは凄いけど、やっぱり実際の走りは見ておきたいから。いきなりだけど、大丈夫?」
「はい……っ! あぁ、心配して下さって、優しい……!」
いちいち大げさに喜んで、今にも泣き出しそうだ。
マンハッタンカフェは神眼効果で最初からやたら好感度高いんだよなあ。
今は何を言っても好感度上がりそうまである……ボーナスタイムかな?
無条件ってわけじゃ無さそうだけど、ちょっと心配になるな。
走りについては完全に未知数だから、気になるところ。
みんな気合い十分……なんだが、うーむ。
なんだかんだで、実は入部テストとは言いつつ、もう五人全員担当にするつもりではいる。
テストという体で、全力の走りを見たかったのだ。
しかしそう伝わらないようにはしていたと思うのだが、どうやら見た感じバレてるようだ。
口にこそ出さないが、せいぜい「良いところ見せるぞ〜」くらいの気合いしかない。
少なくとも「絶対一位!」みたいな必死さは無い。
これでは、キャッキャウフフしたレースにしかならない気がする……それでは意味がない。
ここは一発ガツンと――。
「んん、まあ、あれだ……みんなの全力が見たいから、精一杯頑張って」
「「「「「はいっ!」」」」」
うん、ダメ……!
厳しいこと言うってどうしたら良いんだ……?
意気揚々とスタート地点に向かうみんなを背に、とぼとぼと撮影地点に戻った。
「おいおい……トレーナーたるもの、ときにはもっと強く言うことも必要だぞ?」
始終を見ていた沖野トレーナーが相変わらず飴をくわえながら呆れた顔で顔を寄せてくる。
「まだ新人には厳しいかも知れないけどな、俺もいざと言う時にはガツンとだな……」
「うーん、あんまり酷いことを言って嫌われないかなみたいな気持ちが出ちゃって……分かってはいるんですけど」
「気にすんなって、普段はともかくこういう指導の場ではな! まあもちろん暴言なんかの類はダメだが、多少厳しく言ってもちゃんと分かってくれるもんだよ」
沖野トレーナーがしたり顔で腕組み同意を求めてくる。
「そんなもんですかね?」
「そーそー! まあ、俺もそこんところは出来てるかっていうと偉そうなことは言えないんだが……熱意を伝えるのは大事だぞ!」
「そうですよね……分かりました! 俺、ガツンと言います!」
「おう、その意気だ!」
こればっかりはやるまいか迷っていたが、今の言葉で覚悟は決まった。
先輩トレーナーを犠牲にする覚悟が。
「というわけで、先に謝っておきますね。今日も晩飯奢るので」
「はっ? えっ、何を――」
困惑する沖野トレーナーを尻目に、わざと大きな声で、爆弾を落とす。
「へー! やっぱり最初はひとりのウマ娘だけを担当した方が良いんですねー! なるほど勉強になるなー!」
ざわ……っ!
瞬間、どこか一緒に走ろうね〜みたいなぽかぽかした雰囲気だった場が、氷点下までひりついたような錯覚を覚えた。
色々察した沖野トレーナーが頬をひくつかせている。
「おい……あとで俺刺されないだろうな」
「みんな良い子ですから、人を傷付けたりするわけないじゃないですか」
「親バカめ」
「褒め言葉と受け取っておきます」
「はぁ〜……今夜は寿司だからな」
「了解です。回らないところ予約しときましょう。小宮山さんはどうします?」
「いや、私は今回は遠慮しておこうかな〜……あ、あはは……はぁ。うーん、こりゃ安請け合いしちゃったかなあ……?」
小宮山トレーナーも苦笑いしか出てこない。
たづなさんに至ってはちょっと呆れ気味だ。
というわけで、タマモクロスたちお手伝いウマ娘も仕事を終え、この場には俺の他にたづなさん、沖野トレーナー、小宮山トレーナーがいる。
三人も呼んだのは、レースの様子を撮影してもらうためだ。
たづなさんに最後尾、小宮山さんに中間と全体、そして沖野トレーナーには先頭を。
それぞれこの数日で買い集めてきたちょっと高性能なカメラで撮影する仕事を頼んだ。
ちなみにポケットマネーで買おうとしたらたづなさんに「領収書もらってきてくださいレシートでもいいので絶対ですよ!」との圧により経費になった。
一応俺のチームの備品という扱いになるらしい。
沖野トレーナーには、真ん中に置いてある台に登って上から撮影してもらう。
全員三脚を立てて置くから大丈夫だとは思うが、まあ危険な役は男の仕事だ。
ウマ娘の方が強いけどな、腕力とかは。
ちなみに俺はレースを見ながら神眼で観た情報を新しい資料に書き込むのに忙しい。
たづなさんは完全に善意だが、トレーナーふたりには日給の他に、このカメラをそれぞれレンタルする約束をしている。
給料分は頑張ってほしい。
空気がぴりっとしたのが伝わったのだろう、静寂というほど静かになったわけではないが、会場の雰囲気がどこか緊張したように感じる。
タマモクロスがジュースやお弁当を売る声がはっきり聞こえる……頼んだ仕事終わったからって何してんの?
ほとんどオグリキャップが食っとるやんけ。
ベルノライト涙目。
撮影準備が整ったことを伝え、スタート地点要因のウマ娘に指示をだす。
イナリワンも、雰囲気に飲まれないよう懸命に実況アナウンスに徹している。
「さ、さあ! 会場が何やら異様な雰囲気に包まれる中、トレーナー各位のカメラの準備も整ったとのことで……今、スタートですっ!」