ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】   作:伊吹キーブイ

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ヒーリングチート

 神眼を得て改めてウマ娘の身体を観たとき、疑問に思ったことがある。

 ウマ娘の、特に足腰の強靭さは常軌を逸している。

 目や内蔵なんかはともかく、少なくとも足に関しては、たとえ車がぶつかろうと多少変なコケ方をしようと、びくともしない。

 なら、何故ウマ娘は怪我をするのか?

 

 アニメ1期、サイレンススズカは言うに及ばず、グラスワンダーも足を怪我していたし、ちょっと調べれば足を怪我したというウマ娘は、多くはないが存在した。

 薄々勘付いてはいたが、この怪我をしたというウマ娘……ほとんどが、かなりの実力者に限定されていた。

 考えれば分かることだった。

 外部からの衝撃で怪我をしないのならば、ウマ娘に怪我をさせることができるのはただひとり。

 自分自身だけだ。

 

「う、あ……あああああああ!」

 

 決着を告げるイナリワンの実況もかき消すほどの絶叫が響き渡る。

 その主は、先程先頭でゴールを駆け抜けたマンハッタンカフェ。

 ゴールを過ぎた瞬間に倒れ伏し、足を抑えて身悶え苦しんでいる。

 

「たづなさん、俺をカフェのところまで! 早く!」

 

「は、はい!」

 

「小宮山さんは医療班! 沖野さんは俺の用意していたクーラーボックスを!」

 

「は、はいっ!」

 

「なんか分からんが、分かった!」

 

 たづなさんが俺を背負い、駆け出す。

 あとから思い返せば恥ずかしくなる格好かも知れないが、カフェの元に一瞬でも早く駆けつけるためならどうでもいい。

 たづなさんの背中から転げ落ちるように駆けつけ、カフェを囲みオロオロしながら声をかける面々を押しのけて、サングラスを外す。

 

 それを駆け寄ってきたエイシンフラッシュに預けると、神眼を開く。

 

「カフェちゃん! カフェちゃん!」

 

「あ、歩さん! カフェちゃんが……!」

 

「落ち着けマルゼン! クリーク!」

 

 ふたりとも、目の前で苦しむマンハッタンカフェにどうしたら良いかわからず狼狽えている。

 ファインモーションも、目の前のことが信じられないという表情で青ざめている。

 

「ファイン! マット借りてきて!」

 

「あ、う、うん……!」

 

 ウマ娘のスピードとパワーであっという間に届いたマットに、マンハッタンカフェをゆっくり寝かせる。

 

「クリーク、マルゼン。カフェの上半身を抑えておいて」

 

「えっ? は、はいっ!」

 

「わ、わかったわ!」

 

 何故とは聞かずに従ってくれる、ありがたい。

 

「おい、持ってきたぞ! クーラーボックスってこれだよな!?」

 

「よし、ありがとうございます。……エイシン」

 

「はいっ!」

 

「もし俺が途中で気絶なんてしてたら、ぶん殴ってでも叩き起こしてくれ」

 

「はい! ……えっ?」

 

 マットに寝かされてうめき声をあげているマンハッタンカフェの足を片方ずつ手に取る。

 ブルマを履いているおかげで、漆黒の髪と対を成すように真っ白な素足が、根本からよく見える。

 血が出ているわけではないから外からは分かりにくいが、神眼で確認できるのはボロボロになった筋繊維、ヒビの入った骨。

 本格的な骨折や外傷こそないものの、尋常ではこうはならない。

 だが、ゴール後すぐに倒れたのが良かったのか、あと一歩でも歩いていたら骨も砕けていただろう。

 

「い、いったい何を――」

 

「静かに」

 

 沖野トレーナーを制すると、クーラーボックスから取り出した保冷剤でアイシングをしながら、マンハッタンカフェの足に指を添えた。

 ここまで、特に出番もなく暴走もしなかった、神眼のついでとばかりに取ったもうひとつのチート能力が、私を使えと訴えかけてくる。

 

 ただし、これはどんな怪我でも問答無用で治癒する奇跡の御業などではない。

 ただ、疲労を癒やすことしか出来ない。

 よって、切り傷のような外傷や病気のようなものには無力だ。

 

 だが、これはれっきとしたチート能力だ。

 逆に言えば、疲労によって起こされる事象であれば、どんなものでも癒せるはずだ。

 

 ヒーリング能力……【癒やしの手掌】。

 

「えっ!?」

 

 誰かが声をあげるが、構うことなくマンハッタンカフェの足に指を這わし、壊れた筋繊維を一本ずつ、疲労骨折した骨を隅々まで漏れなく、能力を浸透させていく。

 内ももの根本からマッサージをしていくと、みるみるうちに……というほどではないが、何日もかかる自然治癒と同様の修復がされる。

 

「あっ……あっ、あっ、あっ……あぁ、気持ち良い……」

 

 マルゼンスキーとスーパークリークに抑えられたマンハッタンカフェが、マッサージにより足を治癒されるごとに、うっとりとした表情で艶めかしい声をあげる。

 まだ痛みが全て消えたわけではないが、修復に伴う快感がそれを上回り打ち消しているのだろう。

 

「あぁっ……そこぉ……んっ、気持ち、良い……!」

 

 何も知らずに聞くと誤解されそうな声に、マルゼンスキーとスーパークリークが顔を赤らめるが……正直、治療を施している本人にはそれを気にするような余裕は全くない。

 何せチート能力を二つも発動しているのだ。

 ほとんど瞬きもせずに、まるで睨みつけるかのように目を見開き、必死にヒーリングマッサージを施していく。

 

 目に入りそうになる汗を、エイシンフラッシュがハンカチで拭き取ってくれる。

 ありがたい。

 このペースなら数分で片脚を治療できそうだ。

 だが、これは……エネルギーが、身体を形づくるための栄養素が足りない。

 

「誰か、クーラーボックスに入っているドリンクを俺とカフェに飲ませて! 無理矢理にでも!」

 

「は、はいっ!」

 

 ファインモーションが慌ててクーラーボックスからドリンクを取り出し、ストローになってる飲み口をマンハッタンカフェに咥えさせる。

 俺の方にもエイシンフラッシュが持ってきてくれて、マンハッタンカフェの足から手を目を離さないまま、ストローから吸い上げる。

 

 これは別に薬などではない。

 今回のレースが終わったら全員に配ろうと思っていた、プロテインやその他栄養素が入ったお手製のジュースだ。

 だが、下手な薬よりも今はこれがありがたい!

 

「んっ、んっ、ぷはっ」

 

 差し出されたドリンクを必死に飲んだマンハッタンカフェの足を、取り込んだばかりの栄養素が駆け巡り、修復のエネルギーとなる。

 人間ではありえないほどの代謝、これは大量に食べられるわけだ。

 先程よりもスムーズに筋繊維と骨が修復されていく。

 本格的な骨折までいっていなくて良かった、これくらいならなんとかなる。

 片脚が終わると、反対側にもマッサージ治療を施していく。

 内もも、膝、ふくらはぎ、足首……。

 

 しかし、マッサージヒーリングチートだけでは、こうはいかなかった。

 神眼により治療をするために刺激が必要な箇所を見極め、しっかりと治りきっていることを確認できる。

 どちらか片方ではどうにもならなかっただろう。

 神眼チートとヒーリングチートの組み合わせ、これ以上の……否、これ以外の組み合わせは不可能だったと確信できる。

 

「はぁ……はぁ……ん、えっ?」

 

 治療が終わるとマンハッタンカフェは、きょとんとした表情で自分の足を見て、すりすりとさすって痛みが無いことに気付いた。

 ジッと全身を観てみるが、異常は無し……むしろ、出走前より何倍も脚力が……足の筋骨が強まっている。

 本来は長い時間をかけてするはずの超回復を、無理矢理治してしまったがゆえだ。

 

「こ、これは歩さんが……? あ、ありがとうございま――」

 

 そのとき、ひとりのウマ娘がマンハッタンカフェに駆け寄ってきた。

 

「カフェ! 無事か、カフェ!」

 

「きゃ! ……タキオン、さん?」

 

「あ、あ……良かった……! 本当に……」

 

「も、もう。大丈夫ですから」

 

 困惑しながらも、抱きとめて頭を撫でる様子を見るに、仲のいい友達の子だったようだ。

 ようやくひと息入れ、周囲の様子が目に入ってきたとき……。

 マンハッタンカフェを抑えていた手を離したスーパークリークの胸元から、大きな胸の間にできた谷間が目に入った。

 

「歩さん、今のはいったい……? けほっ」

 

「クリーク!」

 

 慌ててスーパークリークを抱き寄せると、マットの上に無理矢理寝かせ、その上にウマ乗りになる。

 そして、首元から襟元を引っ張り、胸の谷間をあらわにする。

 

「き、きゃっ……え? はえ?」

 

「静かに! 大きな声を出すな! 肺と、心臓に負担がかかる!」

 

「えっ?」

 

 先程のレースの際、スーパークリークは無理矢理その心肺機能を回復させていた。

 つまり、心臓と肺に相当の負担がかかるはず。

 回復させているその瞬間は良くても、必ず反動がくる……その結果がこれだ。

 はっきりとは分からないが、それでも明らかに心肺機能に、地味だが小さくないダメージがある。

 

「くそっ、胸が大きすぎて肺と心臓が観えない……! 背中からは……ダメか、背骨がある。前からするしかない」

 

「えっ? えっ? するって、もしかして……」

 

「手で隠すな、観えない!」

 

「あっ、はっ、はい! ど、どうぞ?」

 

「マルゼン! エイシン! 抑えて!」

 

 胸を隠そうとしていた手を微妙にずらしただけのスーパークリークを、エイシンフラッシュは躊躇なく、マルゼンスキーは一瞬躊躇して、両手をマットに抑えつける。

 その間にドリンクの残りを飲み干すと、スーパークリークの胸元に手をあてた。

 

「ちょ、歩さ……あっ! こ、心の準備が……あっ、あぁ!」

 

 一度胸の上から手を当ててみるが、大きすぎて能力が届かない。

 そのため、谷間をなぞるように……大きなふたつのそれの付け根に指を這わせて、内臓に届くポイントを探っていく。

 へそ出しにしていたおかげで、服をめくらなくても布が押し上げられてよく見えるのが救いか。

 

「くっ、心臓の鼓動が早い! もっとゆっくり、深呼吸して落ち着いて!」

 

「む、無理です〜……!」

 

「まあ、無理よね」

 

「無理ですね」

 

「あ、あはは……」

 

「ファイン、笑い事じゃない!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

 くっ、周りの声が入ってくる。

 まだ集中しきれていない……いや、さっきのマンハッタンカフェので気力体力を使いすぎて、集中力が落ちてきてるのか?

 

 幸い、両足全体だったマンハッタンカフェと違い、肺と心臓というピンポイントなために、うまくヒーリングのちからを通せる地点さえ見つければ、治癒はすぐできるはずだ。

 

「見つけた、ここだ」

 

 これが疲労によるもので良かった。

 場所が場所だけに、ヒーリングチートの適用範囲外だったら、どうなっていたか分からない。

 ポイントを見つけたあとは、あっという間だった。

 どちらかというと心臓マッサージの要領に近い。

 ヒーリングにより、通常の何倍もの勢いでぐんぐん治癒された内蔵は、以前より格段に強靭になっていく。

 

「あ、あら? ゴールしたときからあった息苦しさと胸の痛みが……」

 

 しかし、脚という広い範囲に続いて、特に繊細な内蔵と、立て続けに力を使いすぎた。

 さすがにドリンク一本ではまかないきれないほどのエネルギーを使い尽くして……色々と、切れてしまった。

 

「あ、ありがとうございま……きゃっ! ……えっ? ちょっ……歩さん!? 歩さ……き、きゃああ!」

 

 ぽふんと柔らかい二つのクッションに顔から倒れ込んだため、頭をぶつけることはなかった。

 しかし、目と鼻から赤いものをたれ流していたために、白い肌にべっとりとつけてしまったのが、申し訳ないなと。

 心地いい感触の中、眠るように薄れ消えゆく意識が最後に覚えているのはそこまでだった。

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