ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】 作:伊吹キーブイ
『マッサージ等の効果を高め、疲れを癒やす能力』
それが神眼ではない方のもうひとつのチート、【癒やしの手掌】の能力だ。
ちなみに、こう書いてヒーリングチートと読むらしい。
異世界ジェネレーターさん……厨ニかな?
神眼でもそうだったが……使い方自体はなんとなくわかるものの、コストやらリスクやらリソースやら、色々と不明な点が多い。
効果にしたって、どこからどこまでがマッサージ等で、どこからどこまでが疲れに該当するのかも、よく考えたら謎だ。
実験するわけにもいかないしな。
という話を洗いざらい説明させられたのが、病室で目が覚めた翌日のこと。
もちろん異世界ジェネレーターだの何だのというのは伏せて、こういうこともできたらしい、というニュアンスで。
まあ、あれだけの衆目に晒された以上、仕方ない。
近くの大きい病院の個室で、詰めかけたスーパークリークたちウマ娘、秋川理事長、そして自分的には初顔合わせになる両親。
ひとまずば無事と分かると泣き出した面々を宥め、次の日に改めての事情聴取となった。
大きな胸にぎゅっと抱かれて窒息死するところだった……みたいな展開は無く、割れ物を扱うみたいに丁寧に丁寧に接せられたのが印象的だった。
どうやら三日眠り続けたらしいからな。
まるで漫画かアニメみたいだなと、他人事のように悠長に考えられるのは、本人だからこそかも知れない。
スーパークリークの胸で寝て起きたら病室って認識だからな。
緊張感がないのも仕方あるまい。
なんなら、感触を一瞬しか覚えていないのが悔やまれる。
ただまあ、流石にあれだけやっておいて後遺症なしとはいかなかったらしい。
うっかり「目が見えない」的なことを言ってしまった瞬間が、俺の知る一番の修羅場だった。
「先生! 先生ー!」と叫んだのは誰なのか、泣き崩れていたのが誰なのか、いまいちはっきり見えないせいで把握できなかった。
最初は寝起きでぼやけて見えただけかと思ったが、どうやら視力ががくっと落ちてしまったらしい。
メガネを作れば大丈夫そうだが、神眼による情報量が減って、かえって日常生活的には楽になったまである。
それまでは危険があるといけないとのことで、車椅子生活になったが。
少しずつ落ちたわけではなく、一気に視界が変わったからな。
慣れるまでには時間がかかるだろう。
今のところは特に他に問題があるわけではないので、あまり気にしていない。
ただ、何度も酷使すればどうなるかは……わからない。
ちょっと使うだけなら大したことは無いだろう、多分。
さて、事情聴取が終わると、誰もが気にはなりつつも空気を読んで聞けなかったであろう、入部テストの結果を言い渡した。
まあ、もちろん誰ひとり落とすつもりはなかったのだけど。
何も頼んでなかったのに、全員分の用紙を用意していたたづなさん……の、手柄を横取りする形になる秋川理事長。
病室の外で様子を伺いながらも、タイミングを見て理事長に用紙を渡すところも含めて、仕事ができる女性かっけーとなった。
チームの申請も、事前に用意してあったので、非常にスムーズに事が運んだ。
「というわけで、チーム『レグルス』、結成だ! これからよろしく頼む!」
「「はいっ!!」」
車椅子に乗りながらで格好はつかなかったが、すっと手を差し出して告げると、全員が手を重ね、一斉に声を揃えて返事をした。
その様子を秋川理事長がカメラに収めていたのが、気になったのは気になったが、ツッコめる空気ではなかった。
その理由はすぐに判明した。
理事長が懇意にしている、信頼の置ける記者にその写真を渡し、記事にしてもらったのだ。
世間が見た、俺への評価は二極化していた。
ひとつは、「レースで負傷したウマ娘を治してしまった、奇跡の天才トレーナー」。
とはいえ、改めて精密検査した結果、マンハッタンカフェの足は完全には治りきってはいなかったようなのだが。
それも俺が目覚めるより先に完治したらしい。
以前よりも足の調子が桁違いに良くなったと、マンハッタンカフェからの視線に更に熱を帯びてしまったが。
そして他方、もうひとつの評価は……「ウマ娘をオーバーワークで怪我をさせた上に、治療にかこつけて足や胸を触りまくったセクハラブラックトレーナー」というもの。
「……そんなに間違ってなくない?」
「全然違いますからね?」
ブラックかどうかは主観によるが、オーバーワークさせてしまったのも、治療のために触りまくったのも、事実だ。
まあ、後悔は微塵もしていない。
……思っていたより死力を尽くしたレースになってしまったことは、まあ、思うところがなくはないが。
「マスコミにはこちらで対応するので、歩さんは余計なことを言わないようにお願いしますね?」
「は、はい……」
たづなさんのあんな圧のあるすごい笑顔を、初めて見た。
完全にブチ切れている。
とはいえ、横に今にも殴り込みにいきそうなのが約五名ほどいるため、こっちを抑えるのが俺の役目だ。
ちなみに、「タマちゃんが突撃しそう助けて」と小宮山さんからスマホにヘルプのメッセージがきていたのもたづなさんに丸投げしてしまったために、頭が上がらない。
何故こんなことになっているのかと言うと、あのときの様子の切り抜きが動画共有サイト……「ウマチューブ」にあがっていたためだ。
俺の用意していたカメラとは角度が違うし至近距離から撮られていたため、別の誰かがスマホか何かのカメラを使ったようだ。
「ウマチューブ……ウマチューブて。別にウマ娘以外も使うだろうに、どんな命名だ……」
この独特のセンスに疑問をもっているのは俺だけのようだが。
まあ、元ネタを知らずに最初からこの世界にあったものに疑問を持ちようはないわな。
しかしこう、自分のしたこととは言え、客観的に見ると……マジで事案不可避だなこれは。
声を荒げ、押さえつけさせ、足を撫で回し胸を撫で回し……こいつ早くとっ捕まえた方が良いのでは?
冗談はさておき、この病院にも最初は記者が押し寄せたらしい。
まあ、病院で騒いだ連中は流石に袋叩きにされていたが。
社会的な意味でも。
スーパークリークたちにも、最初からトレーナーが悪者と決めつけた記者が突撃してきたらしく、まあもちろんそんなことはないと、素晴らしいトレーナーだとついついコメントしてしまったらしい。
が、当人たちからの否定を「無理矢理言わされている可哀想なウマ娘たち」と解釈されれば、もう何を言っても無駄というもの。
ちなみにそのとき俺はまだ寝てたんですがそれは……。
結局、物を言うのは世論と財力権力らしく、俺が目を覚ましてからしばらくしたら、完全に鎮圧されたようだ。
両親のところにも、コネやら賄賂やらと色々言われたらしいが、なんか新しく雇った詳しい人に相談して、事なきを得たらしい。
ネットの書き込みを見てみると、「神の目を持つ男」だとか「治癒能力をもつ魔法使い」やら「巨乳が大好きなおっぱい星人」やら。
デマと誇張と尾ヒレが付いたような噂話か流れているが……ごめん、それ全部マジなんだわ。
逆にネタ扱いされて、ちょっと可哀想になる。
そんなわけで、しばらくは病院に缶詰めだったが、その間も同じく外に出してもらえない担当ウマ娘たちに、あれやこれやとちやほや世話してもらったので、なんだかんだ悪くなかった。
まあ、時々変なプレッシャーやらを感じることもあったが、俺が沖野トレーナーに「うちのウマ娘はみんな良い子だから誰かを傷つけるようなまねはしない」的なことを言ったのがどこからか伝わったらしく、その信頼を裏切ることだけはしない、みたいな協定が締結されたらしい。
直接聞いたわけではないので、あえて知らないフリをしている。
あれやこれやを終え、退院することになった日。
どうやら俺の作ったプロテインドリンクを商品化するらしい、商魂たくましく仕事場に戻っていく両親は、置き土産を残していった。
「社長より、我が社の特別顧問の小川歩トレーナーさんの専属アシスタントをさせていただくことになりました、千川ちひろと申します。精一杯頑張りますので、よろしくお願いします!」
えっ、出演する作品間違えてない? 大丈夫??