ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】 作:伊吹キーブイ
そんなわけで、遠征だ。
旅行……というほど遊びにいくわけではないからな。
「こ、これが庶民の駅弁というものなんだね……! あ! あっちには庶民の立ち食いそば屋が!」
遊びにいくわけでは……。
「ファインモーションさん、もうあと三分後には電車が出てしまいますからまた今度にして下さい。駅弁も、各自ひとつだけですよ」
「え〜」
「え〜」
「オグリちゃん! 私達連れて行って貰ってる側だから! お世話になってる側だから自重して!」
……まあ、遊びじゃないけど別にガッチガチの仕事ってわけじゃないしね!
というわけで、何やら初めての電車とのことでテンションが限界突破しているファインモーション。
他の面子も、駅につくなりあれやこれやと落ち着きが皆無。
エイシンフラッシュは相変わらず時間をきっちり把握していて頼りになるが、なんだかお母さんみたいなポジションになっている。
オグリキャップにおけるベルノライトも同じような感じだ。
微妙にベクトルは違うが……。
「歩さん、寒くないですか? ひざ掛けありますからね。あっ、かばんこちらにまとめて置いておきますね」
「あ、じゃあお願いね。ひざ掛けももらうよ、ありがとう」
スーパークリークもお世話焼き全開だ。
まあ、なんだかんだ楽しそうなのであえて甘えておこう。
「ついでにお菓子もらっても良い?」
「あ、はい! これとかこれとか美味しいですよ! あとこれも!」
「おおう、ありがとう。じゃあこれを一個」
「わかりました〜、はい、あーん」
「うっ……くっ、はむ。あ、ありがとう……」
「……っ! いえいえこれくらいお安いご用ですよ! よかったらもうひとつ――」
めっちゃ餌付けされとる!
いい加減周りの視線が痛い……!
カフェ! そこでジッとこっちを見てるマンハッタンカフェー!
ぐぬぬじゃなくて、ヘルプ! ヘールプ!
スーパークリークに世話をしてもらう度に機嫌やら好感度やらがアホみたいに上がっていくのは良いが……そろそろ暴走する!
スーパークリークの目が、荒い呼吸がやばいことになってる!
何かお茶を濁して……!
必死のアイコンタクトが届いたのか、マンハッタンカフェがあたふたとしてから何やら水筒を取り出して、お茶ではないがコーヒーを紙コップに注いで渡してくれた。
「あ、歩さん……その、これ、コーヒーです……よかったら、どうぞ……」
「お、ありがとう、カフェ。いただくよ」
ありがたい……!
これで飲み終わるまでは時間を稼げるはず!
ただ、マンハッタンカフェが何故かめちゃくちゃ緊張しながらコーヒーを飲む姿をジッと見てくる。
「うっま! えっ、なにこれすごっ、雑味がなくてキリッて感じの苦味が飲みやすい! いいねこれ! これなんていうやつ?」
「……っ! っ! わ、私が……その、内緒……です」
今は視力が下がったことで、カバンの中のメガネをかけないと神眼さんは発動しないが、そんなものを使わなくても察した。
これ、マンハッタンカフェの自作か……!
コーヒーのことはよく分からないが、多分自分でブレンドやら焙煎やらをして挽いたってことなのだろう。
視界の端で尻尾がすごい勢いでぶるんぶるん振られてる。
あと何故か黒く美しいアホ毛が連動してぶんぶん揺れている、どうなってんのそれ?
あと顔を真っ赤にして水筒で顔を隠しているが、隠れていない。
かわいいかよ。
「えっ、そんなに美味しいの? 私にも飲ませて飲ませて〜! うわ、ほんっとに美味しい! もっとちょうだい!」
「おや、おかえり、マルゼン。もういいの?」
同じ紙コップで飲んでるマルゼンスキーを見て、マンハッタンカフェとスーパークリークが「あっ!」みたいな顔をしてるけど、意に介していない。
他意がないのが分かるがゆえに、お気軽にスーパークリークがすごく微妙な表情で、空になった紙コップを片付けている。
「ええ! いーっぱい写真撮っちゃった!」
「ガラケー……!?」
スマホ全盛期のこの時代に!?
なんだろう、同じ中学生のはずなのに別の時代に生きてない?
前から薄々思ってたけど、マルゼンスキーってアニメでこんなんだっけ……!?
いくらアニメ前の時期とはいえ、そんな昔じゃないでしょ?
そんなことをしてると、自由人組が大量の駅弁を担いで戻ってきた。
「ぶーぶー、滅多に見れないものばっかりなんだから仕方ないでしょー?」
「帰りも乗りますから、っていうか駅くらいいつでも来れますから……!」
「ぶーぶー」
「オグリちゃん! 恥ずかしいからやめてって!」
「おや、おかえり、エイシン。ごめんね、任せちゃって」
「あ、いえいえ。私たちは無理に着いてきたようなものなので……これくらいは」
そう、北原さんに会いに行くだけなら、肝心のオグリキャップさえいれば全員で来る必要はなかった。
たが、俺は退院直後ということで、誰かはお世話についていく必要がある。
もちろん、いの一番に名乗りを上げたのはスーパークリークだった。
しかし、エイシンフラッシュとマンハッタンカフェも、何やら鬼気迫る様子で付いて来たがった……ついでにマルゼンスキーとファインモーションもじゃあ私もと言い出して、こうなった。
まあ、来たがったなら誰か置いていくという選択肢はないんだけど。
今はまだ自主練とかさせたくないしな。
それに、多分今はこれが一番良い気がする。
わいわいと思い出を作るのが。
ちなみに、ちひろさんはお留守番。
一緒に来ないかと誘ったが、誰かは学園で待機しておいた方がいいからということで、最初から自分は行かないつもりで準備していたらしい。
お土産も、「元気に帰ってきてくれるのが一番のお土産ですから」とかで固辞された。
天使かな?
まあ、名産のお菓子でも買っていくとしよう。
目的の駅につくと、スーパークリークに手を引かれて移動する。
まだ、今の視力での歩行に慣れていないからな。
全く動けないわけではないが、誰かにぶつかったりすると相手側に迷惑がかかるため、スーパークリークの厚意に甘えさせてもらっている。
それに、その方がスーパークリークが嬉しそうにしているし。
ちらりと見ると、エイシンフラッシュとマンハッタンカフェも羨ましそうな目で見ているので、あとで変わってもらおう。
しかし、ある意味では生まれてはじめて地方の都市というところに来たが……中央周辺の街と、明確に違う点がひとつ気になった。
道路に、ウマ娘専用レーンがないのだ。
車より早く走ることが可能なウマ娘は、歩道と車道の他に専用レーンが道路に区切られていることが多い。
無論、小道や脇道まで全てというわけではないが、車通りの多い主要な道では必ずと言っていいほどある。
流石に車以上の速度の子ばかりではないにせよ、ウマ娘に走るなとは言えないからこその措置だろう。
それが、おそらく昔はなかったからだろう、目の前の道では歩道をウマ娘がびゅんびゅん走っている姿がちらほら見かけられる。
その割に、普通の通行人を器用に避けて走っていたので暗黙の了解というか、ウマ娘側も慣れたものなのだろう。
危ないなーと思って見ていたが、誰も注意するどころか気にする素振りすらない。
だからだろうか、すっかり油断して「地方は面白いなー」なんて思いながら歩いている時だった。
「わっ、わっ!」
「おっと」
曲がり角から飛び出してきたウマ娘に気付かずぶつかってしまった。
「あわぁっ! ご、ごめんなさ……!」
手をつないでいたスーパークリークがぽよんと受け止めてくれたおかげで怪我は無かったが、むしろ相手の子の方が倒れてしまった。
「きやっ!? 歩さん!? 大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫、大丈夫……ありがとう、クリーク」
「怪我は……無さそうね、良かった……!」
マルゼンスキーも駆け寄ってきて、道のど真ん中で身体をぺたぺた触られて恥ずかしかったが、まあ心配してもことだし満足するまで触らせてあげよう。
目をそらすようにぶつかってきた子を見ると、白い布が見えて……じゃなかった。
尻もちをついたままあわあわしてたので、手をかしてあげた。
「あ、あわわわ……だ、大丈夫ですか!? ほ、本当に、その、すみませ……!」
「あぁ、大丈夫だから……立て……る?」
「あ、ありがとうございま……す? あ、あの……?」
しかし、そのぶつかってきた子のスカートの中から見えた脚。
それがとても気になった。
なんだ? あの脚は……。
「ちょっとあなた。前方不注意なのではないですか?」
「人間とウマ娘じゃ身体の頑丈さも全然違うのよ? ウマ娘の方が注意するべきなんじゃないかしら?」
「……歩さんが怪我をしていたら……許さないですよ」
「これが庶民のカチコミというやつですか?」
いや、違うと思うけど。
エイシンフラッシュ、マルゼンスキー、マンハッタンカフェ、ファインモーションが、ぶつかった子を取り囲んで睨みをきかせた。
「ひ、ひいいい! ご、ごめんなさいごめんなさい! わたしは、待ち合わせに遅れそうで、急いでいて、その……!」
「あー、いや、みんな、大丈夫だから! あぁ、もう、クリーク、メガネ頂戴」
「あ、はい。どうぞ――」
「あっ! ウォークダンサーさん!」
そんなこんなでバタバタしていると、ベルノライトがぶつかった子を見て慌てて割って入った。
面識がある子のようだ。
「え、知りあい?」
「あー、えっと、話したことはないんですけど――」
「おい! そこのお前たち、何をしている!」
ベルノライトとオグリキャップに話を聞こうとしたそのとき、更にひとりのウマ娘が駆け寄ってきた。
「私のルームメイトに何の用だ!」
「フ、フジマサマーチさん!」
おそらく、複数のウマ娘に囲まれている状況だけみて絡まれていると思ったのだろう。
新たなウマ娘もベルノライトの知りあいのようだ。
まあ、元々いたところに向かってるのだから、そうなる……か?
それでもなかなかの確率だと思うが。
「あ、あの、違うの、マーチさん。私の方がぶつかっちゃって……」
「えっ? あー、すまなかった。うちのルームメイトがご迷惑を……」
「ルームメイト……」
マーチと呼ばれたウマ娘が頭を上げると、俺たちの後ろで緊張感のない顔でひらひらと手をふるウマ娘の顔を見てピシリと固まった。
「おひさ。マーチ」
「オ、オグリキャップ……!」
こころなしか、ふたりの間を火花が散ったような気がした。
「あの、私のことみんな見えてますよね? 私透明ウマ娘とかになってないですよね? 聞かれたら紹介も仲裁もする気満々だったんですけど。あっちもこっちも」
「だ、大丈夫よ、たまたまそういう状況だっただけだから、ね?」
それはそうとベルノとクリークもまた別の修羅場を迎えていた。