ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】 作:伊吹キーブイ
この世界が五分前に、それまでの記憶や歴史を『持った状態で』生成された可能性を否定することはできないという思考実験である。
設定の入力が完了し、異世界ジェネレーターが起動した。
世界が創造され、形作っていく。
まるで最初からそこにあったかのように、当たり前の顔をした風景が広がる。
「ん……おお!」
意識が覚醒すると、自分がどこか野外の……舗装された道のベンチに座っていた。
どうやらここがスポーン地点らしい。
座ったまま、軽く身体を動かしてみる。
首や腕が思うように動くことを確認して、自分の手や服装を見てみるが、まるで見覚えのないすらっとした体、いかにも新卒ですみたいなパリッとしたスーツ。
しかし、夢でも幻でもなくこれが今の自分自身の身体であることを、この現実感が確信させる。
これが異世界生成……流石に感動するな。
ジャケットを見ると、首元から何かがかかっている。
それは、顔写真付きのライセンス証だった。
「日本ウマ娘トレーニングセンター学園、中央トレーナー、小川……歩」
うお、良い声。
自分の口から出る声が良い声すぎて違和感がすごいな。
隣の芝生は青いってのもあるのかな……隣の芝は自分だけど。
おがわ、あゆむ。
それが俺の名前らしい。
まあ悪くない名前じゃないか?
アニメでは聞き覚えのない名前だ……オリジナルの人物ってことか。
まあ、ここは現実世界。
当然アニメに出ていた以外にもたくさんの家族や関係者の人間やウマ娘がいて然るべきか。
ふと、ポケットに何か入っているのに気付く。
取り出してみると、それは名刺の束だった。
そういえば、ライセンスを受け取るときにはもう用意されていたから、とりあえず使うかも知れないと思って持って来てたんだったか……と、今のは?
この身体の記憶?
徐々に、自分がここに来るまでの来歴を『思い出して』くる。
トレセン学園理事長、『秋川やよい』氏のこと。
自分の母の姉……つまり伯母にあたるその人に、小さい頃から何度もウマ娘レース場に連れて行ってもらったこと。
そして――。
「すみません、歩さん。お待たせしてしまいましたでしょうか?」
顔を上げると、緑のぴっちりした事務服を着た女性が。
自分の『記憶』によると、ほんの数度だが顔を合わせたことがある。
「い、いえ! 大丈夫です! ええと、お久しぶりです。たづな……さん」
「ふふっ、覚えていてくださったんですね、嬉しいです! 改めまして。ようこそ、トレセン学園へ! 理事長秘書の駿川たづなです。今日からよろしくおねがいしますね?」
慌てて名刺を仕舞い、立ち上がって頭をさげる。
だんだんと、魂の記憶に肉体の記憶がフィックスしていく。
特別に受けさせてもらった中央のトレーナー資格試験に合格し、今日がトレーナーとして活動を開始する、その初日だった。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
「トレーナー資格試験の合格発表通知のとき以来ですね。あの小さかった子が、まさかトレーナーさんになるだなんて……感激です!」
「いえ、そんな……ありがとうございます」
記憶では、あまり多くはないが確かに小さい頃から何度か伯母の理事長の繋がりで顔を合わせたことがある。
そしてその時も――。
『好意』
『親愛』
『恋愛感情なし』
『親戚の子供感覚』
『親目線』
『恋愛感情なし』
『期待』
『不安』
『ちからになってあげたい』
『恋愛感情なし』
「うっ……!」
無意識に注視していたたづなさんから、思わず目をそらしてしまう。
今のは……まさか神眼チートか?
えっ、俺のチート能力ってこういうやつ?
「ふふっ、歩さんは相変わらずですね。小さい頃から、じっとこちらを見つめては照れて顔を逸らして」
「い、いやあその……あはは」
見たら状態が分かる能力……って、読みすぎて読心術まがいのことができてんじゃねーか!
そりゃあ言われても変な愛想笑いしか出ねーわ!
しかもこの記憶……俺の初恋ってたづなさんかよ!?
いや、分かる。
こんな美人で優しい人、好きになるのは分かるけども!
でもたづなさんの方は全くそういう目で見てねーし!
恋愛感情なし何回強調すんのさ!
完全に親戚の子供扱い!
勝手に好きになって勝手に心読んで勝手にフラレてんじゃねーか!
なんだこれ!
そりゃ照れ隠しですって言うしかねーわ!
もう一回、なんだこれ!
「それじゃあ、まずはトレーナー室の方からご案内しますね?」
「お、お願いします」
……やりづらっ!
たづなさんの人柄か、裏や嫌悪がないことが分かっているからか、居心地が悪いとかそういう事はなかった。
とはいえなんというか、気恥ずかしくなってしまうのは仕方ないだろ。
しかし……。
ちらりと、前を歩くたづなさんを観る。
『速力、パワー、全て高水準。スタミナはやや低下傾向。ほぼ完成された肢体』
『特にお尻は足を動かすことに使われる筋肉に必要十分以上のポテンシャルを保持』
『ただし、股関節の骨格に脚力が大きすぎることによる故障の跡あり。現在は故障自体は完治済み。再発の可能性あり』
『身長166。上から83・63・84。体重――』
バッと顔を逸して視界からたづなさんを外す。
あ、危ない……!
いや、別に大丈夫だとは思うが、何となく悪いことをしているような罪悪感が……!?
しかし、故障か……たづなさんも昔は走っていたのだろうか?
流石に聞きにくいな、興味本位でしかないしな。
ちらりとあまり身体を視界に入れないように横目で見る。
丁度こちらを見ていたらしく、目が合ってしまった。
思わずサッとまた目を逸らしてしまう。
幸い、たづなさんは何も言わなかった。
ただし、目は口ほどにモノを言う……特に俺の場合は。
『胸やお尻から必死に目を逸らして、かわいい』
『男の子だなあ』
『好意をもたれてるのは嬉しいけど、やっぱり親戚の子供』
『私がもうちょっと若かったらなあ』
うるせえな神眼!
俺がたづなさんの恋愛対象じゃないのは分かったから!
一瞬目があっただけでどんだけ読み取るんだ!
違うんです!
目を逸らしてるのは余計なプライベート情報を読んでしまいそうだからで!
確かに俺は大艦巨砲主義で大きいのも好きだしそういう子を担当したいなとか思わない事もないけど!
だけどそういう目で見てたんじゃないんだってマジで!
ところで神眼チートでも年齢情報出なかったけど何歳なんだこの人。
さんざん悩んだ結果、結局横に並んで歩くことで視界に入るのを防いだのは良いんだけど……。
まさかこれからずっとこれ!?
既にちょっと嫌な予感がしてきたぞ……!
しかし、ちらっと観ただけで色々と分かった。
なんだかんだ色々情報を読み取ったが、まだまだ表面上の浅いところしか読み取れていないようだ。
これはたづなさんがぴっちりした身体の線が出る服を着ているから、というのが大きい感じがする。
身体の線を隠す服を着ていたら見えないし、直接見たらさらに詳しく分かっただろうというのが感覚的に分かる。
折角のチート能力は使いこなしたいし、この辺は要検証だな。
「ここがトレーナーさんたちのお部屋です。基本的にウマ娘の子たちは立入禁止なので、コンプライアンス保護が必要なお仕事はこちらでお願いしますね。歩さんの席は……ここですね。申し訳ありませんが、PC等を使用される場合は個人でご用意をお願いします。ある程度は私物の持ち込みもOKですので」
「はい、分かりました」
そこそこの数のデスクが並べられている。
チームの部屋ではできないような事務仕事を行う場所、ということか。
しかし、その割には誰もいない。
「今は他のトレーナーさんたちは、皆さん外の運動場に出ていると思います。丁度入れ替わりの時期ですから。歩さんも、早速ご覧になられますか?」
「………? 今何かやってるんですか?」
「はいっ! 年に4回だけ開かれる、デビュー前のウマ娘さんたちのアピールの場――」
たづなさんが、何やら資料を取り出して手渡す。
「選抜レースです!」