ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】   作:伊吹キーブイ

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接戦

「上着を貸していただいて、ありがとうございました。寒くないですか?」

 

「いや、大丈夫だよ。気にしないで」

 

「お返ししたいのですけど、えっと、色々と汚してしまったので、クリーニングしてからお返ししますね」

 

「あー、だ、大丈夫だよ。気にしないで……」

 

 あの後なんとかスーパークリークのレースが始まる前に落ち着いたエイシンフラッシュと並んで見学しているのだが。

 

「お茶のおかわりはいかがですか? ホットもアイスもありますよ」

 

「あ、じゃあアイスで」

 

「はいっ、かしこまりました! どうぞ!」

 

「うん、ありがとう」

 

「他にして欲しいことはないですか? お身体が優れないようでしたらおんぶでも抱っこでも……」

 

「いや、大丈夫! 大丈夫だから、ね? ほら、レース始まるよ?」

 

 またやたらと懐かれてしまった。

 でもおんぶや抱っこは流石に勘弁して欲しい。

 落ち着いていた様子の先程までとは打って変わって、テンションが高い。

 神眼さんに頼るまでもなく分かりやすい態度だ。

 

『トレーナーさんになってほしいトレーナーさんになってほしいトレーナーさんになってほしい』

 

 だから分かっ……いやこわ!?

 どんだけ必死やねん!

 ひとりで許容量をオーバーする情報量になりそうだったので片目を隠してあまり見ないようにレースに集中するふりをした。

 

 とりあえず片目を瞑ると多少は負荷が軽減されるようなので、手で軽く抑えてレースを見る。

 スーパークリークは……お、いた。

 クリークの方もこちらを見つけたようで、ふりふりと手を振ってる。

 目を抑えてるのと逆の方で軽く手を上げて返しておく。

 

「スーパークリークさんと、とても仲良しなんですね?」

 

「えっ、いやまあ、そう、かな? でも、さっき会ったばかりだからそこまででは……」

 

「そうなんですか? じゃあ、私と同じくらいの長さということですね。彼女を担当されるおつもりで?」

 

「あー、まあ、走りを見てから、ね?」

 

「……あの、私は2番目でも大丈夫ですので」

 

 何が!?

 そして耳元でそんなことを呟かれた瞬間、スーパークリークからの謎の圧がかかった気がする!

 

『私の歩さんにちょっと近すぎないかしら?』

『でもお世話を任せちゃったし』

『早く終わらせて私もお世話してあげないと!』

 

 あ、神眼さんちっす!

 なるほど、あの闘志に燃えてるように見える真剣な表情は、そんなこと考えてる顔だったかー、そっかー……。

 何故だろう、嬉しいような冷や汗が止まらないような。

 

 ひとり気迫が違う中、スタートと書かれたプレートを首からかけたウマ娘が合図して、レースが始まった。

 

『好スタート』

『まずは足をためて』

『終盤に備える』

 

 流石にレースが始まるとそれに集中しているようで、しっかりと走っている。

 今は……5番手くらいか。

 作戦は差し……いや、あれは逃げを打つ先頭の後ろを狙っているな。

 先行か。

 なるほど、エイシンフラッシュとはタイプが違うが、彼女もスタミナキープが得意なようだ。

 ふと、位置の関係でスーパークリークの表情が見えたとき、ちらっと目があった気がした。

 

『負けない!』

 

 最終コーナー前の直線でスーパークリークが仕掛けた。

 エイシンフラッシュにはない加速力で、あっという間に先頭の真後ろに躍り出た。

 なるほど、おっとりしているようでなかなかの負けん気。

 その闘志は他の子たちと比べても抜きん出ている。

 

 ――いや。

 もうひとり、遜色ない闘志のウマ娘がいる。

 先頭を走り、スーパークリークと競り合っているあれは……オグリキャップ。

 スーパークリークと同じタイミングで仕掛けた彼女は、凄まじいちからで地を蹴り、後ろのスーパークリークに土をかけてるんじゃないかというくらい激しい。

 それをかわすように進み出て、スーパークリークも追いすがる。

 

 これは……凄いな。

 オグリキャップのあの力強い走りの秘訣は、下半身――特に足首の柔軟性によるものだ。

 

『地面を蹴るときの足の形が他と明らかに違う』

『ただ地面に置いて浮かすだけじゃない、最後までキックして爆発的な推進力を生み出している』

『しかしそれを可能にしているのは鍛え上げられた体幹、そして足首のパワー』

『柔軟性だけがあってもそれを活かす筋力がなければ宝の持ち腐れ。明らかにその弱点を補うべくトレーニングと指導がされている』

『オグリキャップの走りの中にも誰かトレーナーの意思がみえる。そして本人もその教えと共に走っている』

 

 既に指導を受けている?

 それなら何故選抜レースに?

 

 スーパークリークがオグリキャップに並ぶ、オグリキャップもまるでようやく気付いたとばかりの顔を見せ、さらに姿勢を低く加速する。

 ここから更に加速!?

 

『負けたくない! 負けたくない!』

『負けたくない! 負けたく……』

 一瞬一秒がまるで何十秒にも感じる。

 第二の加速を見せたオグリキャップによく食らいついているが、スーパークリークの足はもう限界だ。

 

「スーパークリーク!」

 

 きっと無意識だったのだろう。

 立ち上がっていた俺は、視界の隅で驚いているエイシンフラッシュのことも意識の外で、そもそも神眼でしっかり観ているときに余計なことを考えているだけのキャパシティはない。

 ならば何と声をかける。

 勝て、か?

 負けるな、か?

 否。

 

「いっけええええええ!」

 

 そのとき、スーパークリークのやわからい鹿毛につつまれた耳が、ピクリと確かに一度瞬いた。

 

「はい!」

 

 その時、スーパークリークの足が、雰囲気が変わった。

 

「あああああああ!」

 

 もうそんなちからは残っていないはずだ。

 既に最終コーナー。

 ラストスパート、その一番苦しいときに更に加速する化け物を追い越すだけのスタミナなど残っていないはずだ。

 それでも、チカラが湧き起こる。

 

『クリアハート』

 

 神眼から伝わるスーパークリークの心の声が、感情が消えた。

 頭は真っ白になり、ものを考えるチカラすらかき集めていく。

 

 ガス欠だったはずのスーパークリークの足に、チカラが戻る。

 ほんの僅かな、しかしここ一番で最も欲しかった微力だ。

 

 そして最終コーナーを抜けて二人が凄まじい嵐となり駆け抜けていく。

 ゴール直前のほんの一瞬、しかし明暗を分ける決定的な一瞬。

 

 二人がゴールした瞬間、ゴールと書かれたプレートをかけた褐色のウマ娘がびびり散らかしていたのも、そんな二人にその場の全員が飲まれていたのも無理のない話。

 とはいえ、それはそれ。

 決着は否が応でも着く。

 運営をしていたウマ娘たち、食い入るように見ていたトレーナーたち、その全ての目がゴール担当をしていたウマ娘に向く。

 

「ど、どっちが勝ったんだ!?」

 

「分からない。ほとんど同時に見えたけど……」

 

「ヒシアマゾン! どっちが勝ったんだ!?」

 

「判定を、ヒシアマゾン!」

 

 びびりまくってた褐色の――ヒシアマゾンと呼ばれたウマ娘が、レースを見ていたウマ娘たちに囲まれてわたわたしている。

 

「えっ、えっ、えっと、その……」

 

「一番近くで見ていたんだろう! どっちだ! どっちなんだ!?」

 

「ひ、ひええ!」

 

 まあ、写真判定なんてないからな流石にこんな場では。

 神眼チートさんも、レースの結果までは教えてくれない。

 この状況下で、結果気になるのはわかるが……どっちか決めろというのは酷か。

 

「ど、同着ー! ドロー! 引き分けー! 二人共一位! おめでとー!」

 

 ヒシアマゾンは両手をバタバタさせてよく分からないポーズを取っている、

 神眼さんがいうには、引き分けの合図のつもりらしい。

 周囲からぶーぶー言われている。

 しかしまあ、そうなるか。

 俺も立ち上がっていたベンチにゆっくり座り、息を吐いた。

 

「なんかどっと疲れた……」

 

「だ、大丈夫ですか? 確かに、凄いレースでしたね。選抜レースとは思えない、まるでG1のレースかのようでした」

 

 エイシンフラッシュが座り込んだ俺を慌てて支えてくれる。

 お礼を言いながら大丈夫だと伝えると、渦中のふたり、スーパークリークとオグリキャップを見る。

 案の定というかなんというか、両者共にたくさんのトレーナーに囲まれて勧誘の嵐だった。

 

 オグリキャップは変わらないような表情をしながら、しかしオロオロしている。

 スーパークリークも、スカウトをかけてくるトレーナーたちを無碍にできず、対応に追われている。

 あれはしばらく落ち着きそうにないな。

 

「歩さん」

 

 顔を上げると、たづなさんが困惑した顔で立っていた。

 

「選抜レースが終わる時間になったので理事長が呼んできて欲しいと。……あの、何があったんですか? トレーナーさんたちが、凄い騒ぎになってますけど」

 

「あー……いや、ちょっとすごい期待の新人二人が白熱したレースをしたもので」

 

 たづなさんの視線の先には、相変わらず揉みくちゃになっている二人。

 

「な、なるほど。あ、これ、サングラスです。こんなのしかありませんでしたけど、よろしかったでしょうか?」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 たづなさんに手渡されたのは、陸上競技とかで使われそうな感じのスポーツサングラス。

 ためしにかけて、周囲のウマ娘たちをあまり注視せずに見回してみる。

 うん、大丈夫そうだな。

 

 ついでに目の前にいるエイシンフラッシュを注視してみる。

『サングラスをかけた歩さんも、格好いいです!』

『今度、私もサングラスをプレゼントしてみようかな』

 うん、だ、大丈夫そう、だよな? 

 誤作動とかしてないよなこれ?

 

「それで、歩さん。もうどの子を担当するかは決められましたか?」

 

 横でエイシンフラッシュが私、私ってめっちゃアピールしてる気配がする……!

 考える素振りをして露骨に目をそらす。

 サングラスかけても目をそらしてばっかりだな今日は。

 

「いやあ、素晴らしい子ばっかりで迷いますねえ」

 

「えっ、いやでも……」

 

 たづなさんが後ろでアピールしまくってるエイシンフラッシュを見て指さしてる。

 

「迷いますねえ!」

 

「そ、そうですか……。それでは、理事長室へ行くのはもうしばらく後にしますか?」

 

 慌てなくても大丈夫ですよ、と言外に気遣ってくれるたづなさんに感謝しながら、しかし理事長に呼ばれてるなら早く行くべきかなとも思う。

 

「いえ、行きます。エイシンフラッシュさんも、ありがとう。助かったよ。これ、俺の連絡先。もしその気があったら」

 

「は、はい! こちらこそ、ありがとうございます! 絶対にご連絡します!」

 

 勢い!

 

「う、うん……待ってるよ」

 

「それに、この上着も洗って返したいので……」

 

「あぁ、それは気にしないで。いつでもいいから。じゃあ、いきましょうか」

 

 スーパークリークにもひと声かけようかと思ったが……まあ、名刺は渡してあるしな、今エイシンフラッシュに渡したのと同じのを。

 お礼と別れを告げ、たづなさんと理事長室に向かおうとした、その時。

 

「あ、歩さん! 待って下さい!」

 

 聞き覚えのある声が、騒がしいその場の喧騒を引き裂いてはっきりと響き渡った。

 振り向くと、息をきらせたスーパークリークが、膝をがくがくさせながら走ってトレーナーたちの群れをかきわけてきた。

 慌てていたせいで転けそうになるスーパークリークを、思わず腕をとって支える。

 

「おわっ、大丈夫? まだ疲れが抜けてないんだから、無理しないで――」

 

「歩さん! 私の、トレーナーさんになって下さい!」

 

 縋るように泣きそうな表情で見つめてくる。

 神眼さんに頼らなくても、必死なのが伝わってくる。

 

「お願いします! レースの結果がご期待に添えなかったのなら、次は絶対に勝ちます! 悪いところがあったなら直します! だから――」

 

「ま、待って待って! 落ち着いて!」

 

 なんか知らない人が見たら別れを告げられた彼女と外道彼氏みたいになってるんだが!?

 視線が痛い!

 違うんだ! 俺は何もやってない!

 とにかく、スーパークリークを落ち着かせないと。

 

「スーパークリークさん、俺は――」

 

「その話、待ってもらおうか」

 

 俺とスーパークリークの間に、真っ黒いスーツを着たいかにもベテランですみたいな雰囲気のトレーナーらしきメガネの男が割って入った。

 

「君のような逸材を、この男に渡すわけにはいかない」

 

 眉間のシワを隠そうともせず、メガネをクイッと直してこちらを睨みつける。

 

「な、何故ですか? 確かに歩さんは新人さんかも知れませんけど、誰だって最初は新人です! トレーナーさんであることに変わりは――」

 

「そうだな。ただ新人だというだけなら、それでも意思を尊重しただろう」

 

「なら……」

 

「だが、その男はトレーナーですらない」

 

 まるで周囲に吹聴するように、こちらを指差して声を張り上げる。

 

「この男は! 正式なトレーナー育成も受けずにコネと金だけでトレーナー資格だけを手に入れ、まるで私はちゃんとしたトレーナーですという面をしてここにいる!」

 

 たづなさんが、エイシンフラッシュが、そして周りが息を呑む雰囲気が伝わってくる。

 

「小川歩! この男は、不正な手段でこのトレセン学園に潜り込んだ、卑怯者だ!」

 

 

 

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