ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】   作:伊吹キーブイ

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不正

 

「歩さんが、不正を?」

 

「そうだ。小川歩、お前の最終学歴を言ってみるがいい」

 

「学歴? えー……高、卒?」

 

 記憶を辿る限りでは、俺は今二十歳。

 そして高校を卒業してから今では、えー……なんだ?

 うちの実家で仕事の手伝い……か?

 

「分かったか! この男はトレーナーなどではない! ただの素人だ!」

 

 そう……なのか?

 俺は特に大して考えずに異世界ジェネレーターに二十歳でトレーナー、ついでに家が金持ち、と設定した。

 そうすると、異世界ジェネレーターはその設定に合わせて世界を創造する。

 辻褄が合うように。

 それがプレイヤーの都合に合うかどうかは考えない。

 ならば、そういうこともありうる、のか?

 いかんな、俯瞰視点で考えられるのは良いが、まだどうも他人事感が抜けない。

 

「まあ、今更学園を出ていけとは言わん。コネとはいえ、一度ライセンスを与えた以上、辞められては学園側としてもよろしくあるまい。何もせず大人しくしているか、何なら助手制度を使って、私のところで見習いから始めてみるのもよかろう。それでもトレーナー気取りでウマ娘たちを育てようというのなら……」

 

「なら?」

 

 ふん、と鼻を鳴らしたその男は、バカにしたように俺の首からかかっているライセンスカードを指で押さえつけてくる。

 

「明日も席が残り続けるなどとは思わないことだ」

 

 うーん、こいつムカつくなあ。

 でもなんか言ってることは正しいっぽいんだよなー。

 あまり悪役らしいヘイトキャラがいないウマ娘にしては珍しい嫌味なキャラだ。

 いや、もしかして向こうが正義でこっちが悪役なのか?

 ムカつくのはムカつくけど、言ってることは不正許すまじだし……いやいや、それはそれとしてムカつくわ。

 どうやら人間に対しては神眼も発動しないみたいだし、真意は不明だからな。

 

 でも、それならじゃあ結局俺はどうするのか……。

 選択肢としてはそうだな、学園をやめて実家に帰る、こいつの下は嫌すぎるけど誰かのところで見習いとして勉強する、もしくは――。

 

「つまりライセンス自体は本物なんですよね? なら、問題ないですね〜」

 

「関係ありませんね。私のトレーナーはこの方しか考えられません。私は歩さんについていきます。もしこの方が辞められるというのなら、私も辞めます」

 

 そんな俺と男性トレーナーの間に割って入るウマ娘がふたり。

 スーパークリークとエイシンフラッシュが庇うように立ちはだかり、男性トレーナーの手を押しのけた。

 

「ば、ばかな! 聞いていなかったのか!? その男は――」

 

「歩さんがどうやってトレーナーさんになったのかは知りません。でも」

 

 スーパークリークが男の言葉を遮り、ゆっくりと、しかし力強く声をあげる。

 

「さっき私、マルゼンちゃんが1位になったとき、言ったんです。お友達の私からマルゼンちゃんにお願いしてあげましょうかって。でも、歩さんは断られました。そんな横入りみたいな、不正みたいなことはしないって」

 

 男性トレーナーを見据えるスーパークリークには、確固とした揺るがぬ意思を、神眼を使うまでもなく感じられた。

 

「私が歩さんをどんな人だと思うのかは、私が目で見て、耳で聞いて、肌で感じたものを信じて、私が決めたいと思います〜。私は、私が信じたトレーナーさんと走りたいですから」

 

「うっ……」

 

 男性トレーナーがたじろいだ。

 顔を見なくても感じる、スーパークリークの圧力……向けられてるのが自分じゃなくて本当に良かったと思うほどだ。

 

「これを見てください」

 

 エイシンフラッシュがスーパークリークと並ぶように、男性トレーナーの前に進み出る。

 そして見せつけるように、何か紙の束を掲げて上げる。

 あれは……俺が持っていたウマ娘たちのプロフィールが書かれた資料!?

 そういえば手元にない!?

 いつの間に!

 

「これには、今日走った子たちのことがとても詳細に書きこまれています。実際にこの方が、歩さんが書いているところをこの目で見ました。脚質や走り方、長所短所、そして評価。もちろん、どこをカンニングしてもこんなにきっちりしたデータなどありません」

 

 いやごめん、ほぼ神眼チートをカンニングした結果……これってカンニングになるのか?

 まあ、否定も説明もできないしな。

 そしてぺらぺらとページをめくると、自身の……エイシンフラッシュのページを開いた。

 

「この方は、私の走り方を見極め、分析し、その上で長所と短所、改善点を指摘されています。しかし、そこに否定はひとつもありません。私を、私の走りを、受け入れて下さったんです。あなたのように、私の走りを言い訳だなんて一言も書いてありません。それとも、沢山のウマ娘の中のひとりに前回の選抜レースで言ったことなんて、覚えていませんか?」

 

 あー、なんか言ってたな。

 あれこのひとだったのか。

 

「あなたがどんな凄い方なのかはどうでもいいですけど――」

 

 エイシンフラッシュからも、スーパークリークに比肩する圧力を感じる。

 こっわ!

 

「あなたよりも、歩さんの方が何百倍も私の事を理解してくださっています。どんな経歴をもつ、どんな偉いトレーナーさんよりも、私は歩さんに担当してほしいと……そう思います」

 

 ふたりのウマ娘に睨まれ、いよいよ男性トレーナーがたじたじになってきた。

 あっちじゃなくて良かった、俺。

 

「傾聴ッ!」

 

 ひりついた空気を払うように、聞き覚えがあるような声が響き渡る。

 声がした方に全員が目を向けると、ぜぇはぁと息を切らした長髪の女の子が、たづなさんの横に立っていた。

 扇子を開いて取り繕っているが、よほど急いで来たのか汗だくになっている。

 

『ま、間に合った? 間に合ったよね?』

『とにかくこの場をなんとかしないと』

『えー、次はなんて言おう。こんな面倒なキャラにしなきゃよかった』

 

「諸君ッ! トレセン学園理事長の秋川である! 歩くん……歩殿、数日ぶりだな!」

 

 神眼さんがまた勝手に読む。

 っていうかその喋り方キャラ付けなんだ……。

 で、あー……なるほど、そういうことね。

 

「り、理事長! くっ、身内のコネトレーナーを庇いに来ましたか」

 

「だから、誤解だと言っておろう! 確かに歩殿は普通のトレーナーとは異なる手順で中央トレーナーライセンスを手にした! だが、決して歩くんがコネで入れさせてくれと言ったわけではない! むしろ逆なのだ!」

 

「逆?」

 

 その場のたづなさん以外の全員が頭に?マークを浮かべて首をかしげる。

 あ、俺も合わせてかしげといた方が良かったかな?

 タイミングを逃した。

 いや、まあ自分のことだし分かってましたって顔しとけばいいか。

 

「左様ッ! 断じて、歩殿はコネとお金で不正を行う意思などない! 私が、学園側からお願いして、彼に是非トレーナーになって欲しいと頼み込んだのだ! 本当は高校卒業してすぐにでも来てほしかったが、彼の両親の意向で成人するまで待っていたのである!」

 

 そう、トレーナーの学校とかに通ったりした覚えがないのは、それが理由だ。

 でも、それなら高校卒業してからでもトレーナースクール通えば良かったのでは?

 

「な、何故ですか!? この男にトレーナーとしての知識が不足しているのは明白! そこまでする理由は……!?」

 

「その答えは単純明快! 彼には、才能があるからだ! 君たちもトレーナーやウマ娘をしていると感じることがあるだろう、『天才』というものの存在を! 彼もまた天賦の才! 彼には、ウマ娘のことをひと目で見抜く『神の眼』があるのだ!」

 

 ええええええええーーーっ!

 バ、バレとるやんけーーーっ!

 いや、待て、まだ慌てるのは早い。

 まだちょっと目が良いだけって思われてる可能性が高い。

 少なくとも異世界ジェネレーターのことがわかるはずはない。

 

「彼がまだ五歳の頃だ。甥である歩殿を彼の母親のウマ娘……私の姉妹から、しばらく用事で家を空けるから面倒を見てほしいと頼まれ預かったときのこと。私は歩殿をレース場に連れて行き、ウマ娘たちの走りを見せたのだ。別段理由はない、ただ子供にナマでウマ娘たちを見せたら喜んでくれるかなーと思ってな。しかし、彼はいきなりその才能を発揮した」

 

 全員が息を呑み、理事長の話に注目している。

 でもこれ、自分の話をされてるんだよな。

 俺はどんな顔で聞けばいいんだ。

 何かした方がいいのか? わ、わからん……。

 この世界に来てから実際にはまだ数時間しかたってないんだぜ……どうにもこう、他人の人生を第三者視点で見ている感が拭えない。

 

「真剣にウマ娘たちを見つめる歩殿に、我はどのウマ娘が勝つと思うか、ほんの軽い気持ちで聞いたのだ。しかしその答えは、それぞれのウマ娘たちのコンディション、何が得意か、脚質は何でどう走るのがいいか、どう走るのがまずいのか。その上でのレース展開予想。もちろん、差しだの逃げだのという言葉は知らないのでそれっぽい言葉での拙い説明ではあったが、そこにいたウマ娘たちのデータを見切った上で完璧なレース予測をした。まあ、レースは時の運もあるからな、完全に一致とはならなかったが、ほとんど読み通りのレース展開だった。ちなみに、彼のお小遣いのほとんどはそれを聞いた彼の親がレース予想をさせて儲けたお金だ」

 

「ええええええ!? そうだったの!?」

 

 それは知らん! 記憶にない!

 思わず声に出して驚いてしまう。

 だって、記憶にもそんな情報なかったんだもの!

 

 何させてるんですか理事長とご両親……。

 その場の全体がそんな空気に包まれて居心地悪い。

 

『まあ、そんな小さな頃の歩さん……私もお世話したかったわ〜』

 若干一名感想がズレてる!

 

「し、しかしそんなことで……」

 

「否定ッ! それだけではない!」

 

 理事長が再び扇子を開いてドヤ顔を決める。

 

「今や当たり前となった、ウマ娘専用の競技シューズと蹄鉄。諸君らも購入し、使用しているな?」

 

 いきなり何の話かと思いつつも、皆が首を縦に振って肯定する。

 

「これを発明したのも、この歩殿なのだ!」

 

 えええええ!?

 そうなの!?

 

「理事長、本人が一番驚いていますが」

 

「なに、無理もない。初めてレースを見たとき、彼が言ったのだ。『靴が良くない』と! その当時、まだウマ娘たちはちょっと頑丈な普通の人間と同じ、競技用の靴を使っていた。しかし歩殿が、これこれこういう靴が良いと発案したのだ! そして彼の親がそれをそのまま商品化したところ、それまでの靴の破損や芝の滑りなどがまるっと解消された、安全で走りやすい、今諸君らが履いている蹄鉄付きのシューズが正式採用されたのだ!」

 

 あー、そうなるのね。

 確かに、芝やらゲートやらはウマソウルで出てきても、蹄鉄は元の動物の馬を知らないとどうしようもないからな……。

 

「その後、ウマ娘用の蹄鉄付き競技シューズはまるでこれをまっていたと言わんばかりにあっという間に普及! その後もウマ娘用の洋服、勝負服制度など、彼の発案を尽く採用していった結果、彼の実家は今や無くてはならないシェア率ナンバーワンの大企業になったというわけだ」

 

 完全にやってやったぜと言わんばかりのドヤ顔で謎ポーズ。

 扇子を閉じて、こちらを指す。

 

「ちなみに、本人には無許可だ!」

 

「おい」

 

 

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