ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】   作:伊吹キーブイ

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心通わせ

 

「革新ッ! ゆえに、我々が歩殿に期待しているのは、新しい風! 新時代の幕開け!」

 

「聞いて? ほぼほぼ初耳だったんですけど? ねえ」

 

 この身体の記憶を探っても、それらしい話は聞いたことがない。

 ただ、確かに言われてみればなんか誤魔化されたり隠されてるなーってフシがあるような……。

 

「現状ッ! 私たちは人間の陸上競技を元にして、トレーニングメニューを作成している! しかし、それがウマ娘に合っているのかどうかは定かではない! 自分の身体がちゃんと鍛えられているのか、自分のことが分かるのは自分ではなく医者や学者だけだからだ! そしてウマ娘の生態は未だ多くの謎に包まれている! それを打破するため、歩殿には敢えて既存のトレーニングについての知識はつけさせずに――」

 

「キャラ作りしてるのバラすよ」

 

「分かった待て落ち着け、ここでは話せないこともあるから、ね? あとでまた腰を落ち着けて話そう。お願い」

 

 これ勢いで誤魔化そうとしていただろ絶対。

 

「でもそういう事情とかって、事前に情報共有しておくものじゃないの? なんでスカウトだって伝わってないわけ?」

 

 話を聞いていて気になったのだろう、先程レースを走っていたウマ娘……マルゼンスキーさんが間に入ってきた。

 周囲の面々もそれもそうだと男性トレーナーおよび理事長に視線を向ける。

 

「否定ッ! 私は新人トレーナーがくるから手助けしてあげて欲しいと事前に通達を――」

 

「甥っ子が新人トレーナーとして入る。トレーナーの学校には行っていない。有名企業のひとり息子。手助けするように。こちらに来ていた連絡内容は以上ですね」

 

 ――沈黙。

 理事長が冷や汗をだらだら垂らしながら顔を背ける。

 確かに、それだけ聞いたらどんだけいけ好かないやつが来るのかと思うわな。

 

「理事長……」

 

「わかった、私が悪かった! 全面的に謝罪する! だからそんな目で見るな! 泣くぞ!?」

 

 たづなさんのジト目に涙目になる理事長。

 だいたいこの二人の力関係が見えてきたな。

 

「スカウトの雰囲気ではなくなってしまいましたね……申し訳ありません。選抜レースはあくまでお披露目の場であり、今すぐに担当を決めなければいけないというわけではないので、じっくりお考えください。それでは、失礼いたします」

 

「待って!? たづな!? 顔がこわい! 笑顔なのに圧が……ああ〜!」

 

 理事長が首根っこを掴まれて引きずられていった。

 大丈夫なのか、この学園。

 ただ、確実に悪い人ではないんだけど。

 大きな借りができた……いや…話が本当ならプラマイゼロか?

 

 本人に無許可だの何だのと自分に不利になるようなことまでぺらぺら喋ってたのは、自分を悪者にして場を収めるため。

 一連のどたばたも、俺にヘイトができるだけ向かないようにという思いが神眼さんを使わずとも伝わってきた。

 

 そういう意味では、たづなさんの引き際も秀逸だった。

 あぁいうのをツーカーの仲というのだろう。

 勉強になった。

 

 しかしまあ、せっかくのご厚意、無下にはすまい。

 無言でひとつ頭を下げておく。

 遠目に理事長が引きずられながらサムズアップしてるように見えた。

 

「ふー……。こうなった以上、私からは何も言うまい。しかし、私はお前を認めたわけではないからな」

 

「あ、はい」

 

 まだいたのかこの人。

 邪魔さえされなきゃ別にあんたに認められなくても……。

 いや、この人に何かお世話になることある……あるかなー?

 

「……よろしくお願いします」

 

「今、何か間があったのが気になるが、分かっているのか? 革新せよということは、誰にもやり方を教えて貰えない、手探りで未知の領域を試行錯誤せよということだぞ?」

 

 あれ、もしかして心配してくれてるのかなこの人。

 ……うーん、嬉しくないツンデレ。

 

「まあ、頑張ります」

 

「ふん、そんな実験体まがいのことをさせられるウマ娘がいつまで着いてくるか、見物だな」

 

 言うだけ言って、男性トレーナーはどこかへ行ってしまった。

 スカウトはもういいんだろうか。

 

 それを皮切りに、ぽつぽつと何人かは解散し始めた。

 新規精鋭のチーム入りを狙っているのか、情報収集か、まだ何人か残っているが。

 

「あっ……」

 

「うわっ、だ、大丈夫!?」

 

 レースの疲れが足にきていたのか、ふらついて倒れそうになったスーパークリークをふにょんと抱きとめて……慌てて腕を支え、ベンチに座らせる。

 違うんだ、どうしても腕より先に当たってしまうのは物理的に回避不可なんだ!

 気にしたら負けなやつだ!

 まるで何も当たりませんでしたみたいな顔をしておこう。

 

「あ、ありがとうございます。ちょっと気が抜けてしまって……。あの、それで、歩さん」

 

「えっ?」

 

 スーパークリークが控えめに、何故か上目遣いで裾を掴んでくる。

 

「まだ、ちゃんとお返事をもらっていないので、その……どうでしょうか?」

 

 おっと、そうだった。

 途中で邪魔が入ったせいで有耶無耶になるところだったけど、スーパークリークに担当トレーナーになるよう申し込まれてたんだった。

 

「私の決意は、先程の言葉の通りです。私をあなたのウマ娘にしてくれますか?」

 

 言い方ァ!

 いや、もちろんもう自分の中では担当になってような気になってたよ?

 『不安』『改めて言葉にして欲しい』『お役に立ちたい』というなら言葉にするのも吝かではない。

 でも、この空気の中で言うの!?

 めっちゃ注目されてるんだけど!

 分かったから圧力をやめろギャラリー!

 

 もちろん受けるつもりだ、つもりだけども!

 一旦ちょっと質問して空気を変えておくか。

 

「決意――思いは分かった。でも、そもそもどうして俺なの? エイシンはまあ、なんとなく分かるけど、スーパークリークさんにはまだ何もしてなくない? むしろ、お世話になってばかりで……」

 

「ふふ、だからですよ」

 

「えっ?」

 

 スーパークリークは胸の前で手を合わせて物思いにふけるように目を伏せた。

 形がふにょんと変わっているそれはできるだけ見ないように頑張れ俺。

 サングラス越しでもある程度はバレるぞ!

 

「私、実家が託児所をしておりまして。だからかな? 誰かのお世話を焼かずにはいられなくて。でも、ここのトレーナーさんは皆さんとても優秀な方ばかりで、だからあんまりそういう機会は無くて」

 

 ん?

 なんか流れ変わったな?

 

「だから、あんなに弱った姿を見ちゃった歩さんの、これから大変そうな歩さんのお役に立てればなって」

 

「それって俺がしっかりしてないのが理由ってこと……?」

 

 くっ、しかしあんまり否定できない!

 開始からこの数時間で既に色々やらかしてるからなあ。

 

「あっ、いえ、決してそんな悪い意味じゃなくて……!」

 

 スーパークリークがわたわたと手を振って慌てる。

 

「歩さんはいきなり経験も何もない状態の中で、おまけに体調まで悪くしちゃって。そんな中でもずっと私たちの様子や選抜レースを一生懸命見ていて、途中でやめたりしようともしませんでした。ずっとずっと、私たちのことを考えて、私たちに気を使って優しくしてくださっていました」

 

 あー、途中でやめるって発想は無かったな、確かに。

 

「そんな歩さんと実際にお話していくうちに、優しくて思いやりがあって、責任感に溢れる方なんだなって……私はそう思いました。だから、何でもちからになってあげたくなっちゃうんです。そして――」

 

 スーパークリークは目を閉じて何かを思い出すように、もしくは祈るように顔をあげた。

 

「そんな歩さんの応援だから、レースのあのとき、頑張らなきゃ……いえ、頑張りたいって。この人のために勝ちたいって思えて……こんな気持ち、初めてだったんです」

 

 選抜レースのときの、あれか。

 

「最後、辛くて苦しくて届かなくてどうしようもなくなったときに歩さんの声が聞こえて、そしたら限界以上のちからが出て……最後まで頑張れたんです」

 

 そういえば、あのとき。

 確かに、何かが起きていた。

 あんなの、原作のアニメではなかったはずだ。

 まるで、俺とスーパークリークが通じ合って新たなちからとなったような……。

 

「まるで、私と歩さんが通じ合って新たなちからになったような、そんな感じがして。とても嬉しかったんです」

 

 同じこと思ってるー!

 嬉しいような恥ずかしいようなっ!

 

「だから、思ったんです。私のトレーナーさんはこの人しかいないって。この人の役に立ちたい、この人のために頑張ろうって。改めてお願いします。私のトレーナーさんに、なってくださいませんか?」

 

 相変わらずの甘い雰囲気だが、ことここまできてもう空気を誤魔化すのは不可能か。

 どのみち答えは決まってるんだ。

 だからそんな不安そうな顔をしなくてもいい。

 どれだけ通じ合ったと思っていても、相手は神眼を持っていないんだ。

 なら、ちゃんと言葉にするべきだろう。

 

「こちらこそ、そんなに思ってくれてありがとう。是非、俺の担当ウマ娘になってくれ。よろしく頼むよ」

 

 瞬間、わーっと盛り上がり拍手までしだすガヤたち。

 いいから散れ!

 見せもんじゃねーぞ!

 クリークが服を掴んでなかったら蹴りまわしに行ってたところだ!

 

 スーパークリークは顔を赤らめながらも、うっすら涙を浮かべて微笑んだ。

 

「はい。不束者ですが、末永くよろしくお願いしますね。歩さん」

 

 えっ、よろしくするのはトレーナー業だよね?

 他意はないよね?

 ずっと何も言わなかったエイシンフラッシュからの圧が増した気がするんだが?

 いくら通じ合ったとはいえ、流石にそれを口に出しては聞けなかった。

 

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