ウマ娘の世界で神眼チートしたら最強だと思ってた【異世界ジェネレーター】 作:伊吹キーブイ
「……んっ? 私?」
一心不乱におにぎりを頬張るオグリキャップがこちらの呼びかけに気付いて顔をあげる。
「そう、ちょっと聞きたいことがあるんだけど大丈夫? 食べながらで良いから」
「うん、食べながらで良いなら」
また違うタイプのマイペースだな……。
一応、拒否られはしてないみたいだからセーフか。
「ところでその、そっちの子は――?」
オグリキャップの隣にいる子。
水とおにぎりのおかわりを用意して持っているウマ娘は――。
「えっ、あ、私ですか? トレセン学園でスタッフ研修生をしてます、ベルノライトと申します。あの、私は、オグリキャップちゃんの応援と付き添いなので、どうぞお気になさらず」
みんなから『誰?』みたいな顔をされたその子、ベルノライトが慌てながらもオグリキャップに次のおにぎりを渡している。
なんだかやけに手慣れてる気がする。
「ベルノにはいつも無知な私を何かと助けてもらっている。ありがたい存在だ」
「最近はほぼ餌付けしてるだけな気がしてきましたけどね……」
なにやら哀愁を帯びている。
オグリキャップは、確かアニメだと食堂のシーンの背景でひたすら食べてた子か。
スペシャルウィークよりも多かった気がする。
ベルノライトはいたっけか……いたら分かるよな?
それに確か……あぁっ!
スーパークリーク、どこかで見たと思ったら!
オグリキャップとえー、何ちゃんだっけ?
なんか関西弁の子と大食い対決してた!
そんで勢い余ってオグリキャップの皿にドーナツふっ飛ばして反則負けしてた!
「ん? どうかしましたか〜?」
「あ、いや、なんでもない」
脈絡なく視線を向けられたスーパークリークが困惑している。
まあ、思い出したところで今の世界線だと何も関係ないしな。
アニメで腹ボテ姿見たとか言う必要もないしそんなの言えないし!
色んな意味で。
「ベルノちゃんはいつもオグリちゃんにお弁当作ってきてあげてるのよね〜。かわいいわぁ」
「知ってるの? マルゼンさん」
マルゼンさんはベルノにまるで近所の子供を見るような顔で頭をなでる。
いや、あなた同い年か下手したら年下なのでは?
確かに見た目違和感ないけども。
というか、いつもってことはこの人もいつもいたってことだよな。
「えぇ、選抜レースのあと、いつもお腹をすかせて辛そうなオグリちゃんにお弁当を持って来てるのよ。仲良くて微笑ましいわ〜!」
なるほど。
それじゃあ、もしかしたら……いや、流石にあるまい。
でもまあ一応聞いてみるか。
「あの、オグリキャップさん、ベルノライトさん。ちょっと良いですか?」
「む、なんだ……いや、そうか。なんとなくだが見ていた。チームへのスカウトだろう? 悪いが、それは無理だ」
「あ、いや、まあそれにも関連するんだけど、無理っていうのはやっぱり――」
食べる手を一旦止めてこちらを見据えた。
まだ食べてたいだろうに、いい人だ。
オグリさんは何か思うところがあるのだろう。
悲しそうな顔をして――。
「あぁ。私は、私は……そこまで胸が大きくないからな」
「いやいやいやいや別に胸の大きさが選定基準ですとかじゃないよ!? 言われるかなーとは思ったけども! たまたま! たまたま担当をしたいと思った子がそうだっただけで! こういう巡り合わせだっただけで!」
クソ真面目に悲しそうな顔をするから何事かとおもったら!
自分の胸をぺたぺたして一人ずつ見比べるな!
あと後ろの三人も「えっ、そうだったの?」みたいな顔でこっちを見るな!
自分の胸をむにむにするな!
他にもまだ人いるから!
見られてるから!
「えっ、そうだったの?」
マルゼンスキーさん!?
実際に言われたーッ!?
そういえばこの人はあとから合流したから二人の経緯知らない!
これはあとで話し合いが必要だな。
「しかし、私がだめとなると……」
オグリさんの目線が横に動く。
釣られて全員の目線が行った先には、きょとんとしているベルノライト。
「……えっ? なになになに?」
いきなり全員から見られたベルノライトがわたわたしている。
オグリの視線をさらに辿ると、それに釣られてベルノライトの胸部にその場の全員の視線が集まった。
集まりすぎて発火でもしそうなくらい。
「えっ? えっ? なんで全員からおっぱい凝視されてるの? 前世でどんな悪業したらこうなるの?」
大人しそうな印象の割に、意外と……ある!
「なるほど、ベルノの胸は合格ラインだったらしいぞ。良かったな。まさかベルノの胸が欲しいがためのおまけにされるとは思わなかったが……」
「さっき違うって言ったよ!? だからそっちの子らも『あれがアリなら私もいけるはず……!』ってガッツポーズじゃないから! そっちも『私のおっぱいは無理そう』って落ち込まなくてもいいから! まだ成長の余地あるからきっと! ていうか全員公衆の面前で自分の胸を触るな! どういう集団だよって絵面になるから! 男性トレーナーさんが目のやり場に困ってるでしょ! 女性トレーナーさん目が怖いです違うの通報しないで! あと無いには無いなりの良さとか多分あるから気にしないで!」
「「「うるさいよ!」」」
おっと、勢いで余計なことまで言った。
スレンダー勢から総ツッコミをもらってしまった。
あとガッツポーズ勢の人は個人的に名前を知りたいです。
あれ? 圧が三つに増えたぞ?
じゃねーわ。
いつまでおっぱいの話してんだ。
ごほんと咳払いをして仕切り直す。
「いや、じゃなくてね。さっきのオグリキャップの走り、どうもトレーナーの指導と、なんていうかその人への信頼みたいのが見えたから。もしかして、ベルノライトさんが?」
「……っ!」
オグリキャップが目を見開いてこっちを見て……胸をどんどん叩きはじめた。
「あぁっ! おにぎりが喉にっ! お水お水! ……ごほん。オグリちゃんの指導をしたのは私じゃないですよ。靴とか蹄鉄とかのお世話はしてますけど……あっ、小川さんのところの製品、いつも使わせてもらっています。ありがとうございます」
「あー、いえ? こちらこそ、いつもうちの製品を使っていただきありがとうございます……?」
なのか? 受け答えの正解は。
目の前にメーカーの家の人がいても何か言ったほうが良いのか、何て言えばいいのか迷うよな。
「ふー……。さすがだな。天才っていうのは本当らしい。もしくは、北原のことまで調べてあったのか?」
キリッとこちらを向き直るが色々台無しだ……。
しかし、その人物は北原というのか。
また、アニメにはいなかったキャラだ。
いや、あまりメインの話はされなかったから、普通にいたのかも知れんけど。
やはり現実世界になると違うな。
どうも各キャラの時系列も変な感じだし、色々改変されてるのかな?
「いや、資料には地方からの移籍としか書かれてないな。その北原という人物が、オグリキャップさんのトレーナー?」
「ああ、笠松にいた頃のな。私に足首を使った走り方を教えてくれて、ベルノと北原とで一緒に東海ダービーというのを目指していた。だが、私はそれより前に中央にスカウトされてしまって……北原は中央のライセンスを持ってなかったんだ。迷ったが、行ってこいと、私が新しい目標だと、あとから追いかけると、背中を押してくれたんだ」
「えぇ……、それは、なんていうか――」
空気を読めてないな……誰だよスカウトしたの。
「……え、じゃあベルノさんは?」
「あ、私にはどうも才能がなくって……でも、オグリちゃんのサポートをこれからもしたいなって思って、スタッフ研修で」
ええー……北原さんとやら、ひとり置いていかれたのか……可哀想すぎんか?
「でも、やっぱりダメなのかも知れない……こっちで別の偉いトレーナーに指導をしてもらったりもしたんだが、どうもしっくり来なくて……。しばらくトレーナー無しでいたんだが、選抜レースに出て活躍しておかないと退学もあるっていうから。だから、選抜レースに出続けてるんだ」
意外と喋るなこの子……!?
いや、それだけ今の状態に思うところがあるのかも知れない。
「なるほど……いや、話は分かったよ。ちょっと待ってね」
俺はポケットを探して……あった、俺のスマホだ。
さっきは探してるところで中断されたが、スマホくらい持ってるよな。
っていうかガラケーじゃなくてスマホなんだ……まあ、スマホアプリだしな、もともと。
ずっと開発中だが。
スマホの電話帳から……うん、やっぱりあった。
「……あ、もしもし、たづなさん? お疲れ様です、歩です。今大丈夫でしたか? なんか後ろから理事長の怨嗟みたいなの聞こえますけど……え? 罰? たづなさんって理事長の部下じゃ……あ、いえ、なんでもないです。それよりですね、確か助手の制度があるって聞いたんですけど……はい、そうです。それでですね、地方の……笠松? から、ひとりスカウトしたいんですけど、そういうのって出来ます? あ、本人にはこれからなんですけど、その前に出来るか確認しておきたいなと……大丈夫? お詫びに最大限の便宜を図ってくださる? あ、分かりました、ありがとうございます。ところで後ろの声がヤバいことになってるんですけど……あ、はい。気にしません。はい、すみません。では、はい。失礼します……ふう。と、言うことらしいよ」
「理事長何させられてるのか気になりすぎて話が入ってこない……!」
またも総ツッコミされてしまった。
それはね、触れてはいけない何かだよ。
私は何も聞かなかった、いいね?
「えっ、っていうか、北原を……? 北原が……?」
「オグリちゃん落ち着いて」
オグリさんが目を見開いて期待した目で見ている。
「まあ、まだ本人にも聞かないと分からないけどね。あとで連絡先教えて?」
「あ、ああ……わかっ――」
グ~……という音がする。
え、今食べてたよね?
……と思ったら、ベルノさんが顔を赤くしている。
あ、そっちだったか、びっくりした。
まあ、確かに長々と付き合わせちゃったしな。
周りもなんとなく解散かーみたいな空気になってきた。
「そ、そろそろ行かないと学園の食堂閉まっちゃいますね」
「……ちょっと待ってね。オグリさん、まだ食べれる?」
「……余裕」
良い顔でサムズアップしてくる。
「よし、えーと……」
さっき電話帳で見つけた番号に電話をかける。
「あ、もしもし。父さん? 歩だけど、あ、うん、ありがとう。大丈夫だよ。ところでさ、さっき秋川やよい理事長から俺の面白い話を聞かされたんだけど……あ、うん、そういう話は当人同士でしてもろて。ところでさ、今周りにね、お腹をすかせたウマ娘とトレーナーがあわせて、えー……17? あぁ、ありがとうエイシンさん。17人いるらしいんだよね。……うん、そう。あ、良いの? ありがとう~、じゃあ予約よろしくね。お店の場所はあとで送っといて。あ、母さんにもよろしくね。埋め合わせを考えておいてねって。うん、もちろん別だよ? うん、じゃあまた連休には帰るから。はーい」
スマホを切ると、全員がこちらを見ていた。
「お前ら……タダ飯の時間じゃー!」
「「「やったーっ!」」」
一糸乱れぬ大歓声だった。