エ・ランテルの中でも、上から数えられるほど大きな店構えをしている道具屋。とはいえ大層な武具や防具、戦闘用マジックアイテムを扱っている訳ではない。至って普通の生活用品、生活用マジックアイテムを扱う店であり、高名な冒険者や高貴な者たちより、大衆に愛される。そんな店だ。
現在その店主並びに店員・受付嬢に至るまで、全員が緊張の面持ちで直立不動の体勢――意思とは関係なく身体は震えているが――を取り、思考は混迷を極めていた。
とはいえ彼らの
「ほう……。意図的に薄い鋼を破壊させ<
店のあらゆる商品を手にしげしげと観察を行うのは、アインズ・ウール・ゴウン魔導国魔導王陛下その人であり、護衛である天使隊と、御付きとして恐ろしいほど整った顔立ちをしたメイドを連れている。
正直店主としては街を巡回する強大なアンデッドたちを自ら生み出し、神の領域・御伽噺の世界である第八位階以上の魔法を扱えるであろう魔導王陛下が、何故この程度のマジックアイテムに興味を抱いているのか見当もつかない。
確かに魔導王陛下が手に取っているのはそれなりに値が張る富裕層向けの商品であるが、リ・エスティーゼ王国が統治していた時分であっても、王家へ献上できるような品物は取り扱っていない。
「ああ、店主。これとこれを1つずつ頂いていこう。チャッカ……点火魔法具の色は……無難に赤としておこうか。」
そう言って指さしたのは第0位階魔法の宿った回数制限付き点火装置と刻み時計。前者は引き金を引けば爪ほどの火が灯るだけの便利グッズだ。位階魔法を扱える
「フォアイル。既定の料金を支払っておけ。」
「畏まりました。アインズ様。」
「ま、魔導王陛下!!陛下から金銭を受け取るわけにはいきません!」
店主が我慢の限界とばかりに声を張り上げた。その言葉を聞いて魔導王陛下は眼窩を赤黒い炎で揺らめかせ振り向いた。
「料金が必要ない?【御用達】の看板や身分の保証でも欲しいのか?残念だが、貴殿の店の商品では我が王城に相応しい品を提供できるとは思えないのでね。」
「いえ、決してそのような……。」
「ならば金銭と商品の公正な取引を以って終わりで問題ないな。興が冷めた、お開きとしよう。」
そう言われればもう何も言えない。店主はただ茫然とメイドから渡された金貨を受け取り、店を出る魔導王陛下の背中に一礼をするほかなかった。
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「アインズ様、愚かなわたくしにひとつだけお教えいただいてもよろしいでしょうか?」
店を出て少し、本日のアインズ様当番であるフォアイルが不思議そうにアインズに尋ねる。……とはいえアインズは何を聞かれるか大体想像がついているので、事前に用意していた台詞を発する。
「どうしてあのような店に行ったのか。か?」
当たりのようで、フォアイルは深々と一礼をする。
「一国の王となった以上、民の生活水準を知る……。というのは嘘ではないが表向きの理由だな。技術の進歩とは国の発展のため大切なことであるが、同時に監視をしていなければ暴走する恐ろしいものでもある。」
「しかし、人間如き下等種……。」
「ではフォアイルに問うが、この着火装置と同じものをお前は造れるか?」
フォアイルは無言になるほかない。彼女のステータスではそのマジックアイテムに宿った第0位階魔法すら使えないのだから。
「…………意地悪な問いをしたな、すまない。だがこの品は今のナザリックでも造れない……いや、造れる環境が整っていないと言った方が正解だな。」
フォアイルの顔が驚愕に彩られる。同時に主が手にしている玩具に等しいマジックアイテムなど栄えあるナザリックで作る必要などないことに納得する。
「〝弱い魔法だから〟〝より強い魔法があるから〟と侮ることが一番危ない。例えば先ほどの店にあった〝燃えない布〟など、素材を吟味し第0位階~第一位階魔法を駆使し試行錯誤を重ねた品であるが、今すぐにわたしが同じ様なマジックアイテムを造り出そうとすれば第三位階以上の魔法は必要となる。このような創意工夫は弱者の武器であり、侮った者の末路は語るまでもない。」
「なるほど……流石はアインズ様です。」
実際、この世界の魔法の使い方はユグドラシルでは考えられない創意工夫や発明の連続であり、ユグドラシルでは見られなかった独自の進化を遂げた魔法もある。刻み時計に使用されている仕組みなど、おそらくアインズの頭ではデミウルゴスあたりに解析を頼み、いつもの方法で説明を求めなければ理解出来ないだろう。
(それにしても買う必要はなかったかなぁ。俺はもうモモンじゃないんだし、珍しいから買う癖止めないと……。コレクターって厄介だよ本当。)
特に使い道のない二つのマジックアイテムを見つめ、アインズはため息の真似事をした。