「ナーちゃんどうしたんすか?そんな恰好して。」
「〝そんな恰好〟とは随分な言い草ね。弐式炎雷様がわたしの為だけに着用を許して下さった衣装、バカにするならあなたでも許さないわよ。」
ナーベラルは茶化してきたルプスレギナを睨みつけるが、ルプスレギナは悪童じみた笑みを絶やせずにいた。
普段のナーベラルでは考えられない、非常に露出度の高い衣装を身にまとっており、普段であれば威厳さえ称える大きな胸の谷間を惜しげもなくさらけ出して、長くきめ細やかな足は伸縮性を持たせた半透明の布地で強調され、扇情的としか言いようのない格好となっている。
更には姿を変える3つの魔法を発動させており、正直その姿でスゴまれても可笑しいだけだ。
戦闘メイドプレイアデスが一人ナーベラル・ガンマは至高の御方、弐式炎雷様より――
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――の3魔法が扱えるよう創造されている。ナーベラルは<ナーベ>としてエ・ランテルを警邏する中でラビットマンなる種族をみたことがあるが、自分の発動する魔法のような能力はなかった。何よりこの格好は上記の3魔法を同時に発動させなければ得ることの出来ない衣装なのだ、自分に賜った能力にはきっと深い御考えがあるはずとナーベラルは確信している。
「いや~~。別にバカにしてなんていないっすよ!?ただなんというか……」
「ただなんというか……の続きは何かしら?返答次第では……」
「あ!そう言えばユリ姉達何処っすか?いっつもわたしが最後なのに!」
露骨に話題を逸らすルプスレギナだが、ナーベラルは溜息を吐き、怒りを霧散させる。
「自慢していう事じゃないでしょう、全く。」
「ユリ姉様とソリュシャンとシズわぁ、ナーベラルのその衣装の意味を調べに
デミウルゴスの牧場で廃棄されたアベリオンシープをボリボリと貪るエントマが代わりに答える。そして同時に扉が開き、ユリ・アルファ、ソリュシャン、シズが戻ってきた。
「調べて来たわよ、ナーベラル。」
「ありがとうユリ姉様!ソリュシャン!シズ!」
「もー、自分で調べりゃいいのにっす。」
「ナーちゃんったら自分で調べようと努力したけれど、
「ちょっとソリュシャン!その話はいいでしょう!」
ナーベラルが赤面し同じ三女を睨む。自分が頭脳労働に向いていないことは百も承知だが、見せた失態は許されるものではない。
「はいはい喧嘩しない。……それでナーベラル。結論から言うけれど、わたしたちでも有益な情報は多く集められなかったわ。司書長が言うに、【検閲】が掛けられているんじゃないかという話。」
「【検閲】?」
「簡単に言うと焚書……言論弾圧のようなものね。ただアインズ様はたとえその知識が危険なものであろうと管理の徹底こそすれ、絶やす真似を好まれないので、他から圧力が掛かったと見るべきだわ。」
実際アインズはバハルス帝国を属国とするに際し、旧常識を記した書物の焚書を【本を燃やす者はやがて人を燃やし、最後には己を燃やす】という金言と共に禁止し、ユリはその慈悲深さに感銘を覚えたものだ。
実際は神話・歴史を愛するタブラ・スマラグディナや、自然を愛するブループラネットを代表に〝【検閲】や【焚書】といった言論弾圧に何かしら思うところがある面々〟――凝り性の集まりであったギルドのほぼ全員だが――が常々アインズに説いていた言葉の
「栄えあるナザリックが他勢力から言論弾圧を受ける?現実的とは思えないわね。」
「そうね。でもナーベラルの身にまとう衣装……【バニー衣装】というらしいけれど、その歴史や由来が鎖を断ち切る様に、不自然に途絶えているのは紛れもない事実よ。」
「となると、至高の御方々により封印される禁忌の情報となった……。という事かしら。」
「ソリュシャンの考えが現実的でしょうね。アルベド様やデミウルゴス様のお知恵をお借りすることも考えておくべきだわ。」
「…………御多忙を極めるお二方に?」
シズの指摘にユリは顔を曇らせる。確かにこの案件は解決を急ぐものでもなく、更に言うなら問題と言うよりも疑問だ。
「なら〝アレ〟の知恵を借りるのはどうかしら?」
「……ソリュシャン。アインズ様が〝領域守護者〟と定めた方を〝アレ〟呼ばわりするのは良くないわよ。」
ナザリックにやってきた二番目の現地人にして初の領域守護者。その智謀はナザリック1と御方より定められたデミウルゴス様と比肩するほどで、既に数多の功績を残している。……ただユリは庇護欲をくすぐるツアレと違い、彼女を何故か好きになれない。アンデッドであるユリを以って、不気味な印象さえ抱かせる正しく【精神の異形種】だ。
「…………この結論になると思って既にアルベド様から許可を得ている。じゃじゃーん。」
シズが棒読みの効果音と共に扉を開く。そこには笑顔を湛える〝黄金の姫〟とそのペットが居た。
「シズ!?いつの間に?」
「…………情報戦は速度が命。博士が言っていた。」
そういってシズは
●
お茶会の卓に案内され、少ない資料を読み終えたラナーは小考し、紅茶を口に含んだ。ペットである少年騎士は後ろで直立不動の体勢を取っている。
「それで……如何……ですか?ラナー……さ……ま…。」
「わたくしには敬語を廃して接してください。ラナーで構いません。」
ナーベラルの無理やり取ってつけたような敬語に苦笑しつつ、ラナーは手で制する。仮にも領域守護者と戦闘目的が主とはいえメイドでは上下関係は明確だ。しかし自分がナザリックでもろ手を挙げ歓迎される立場でないことを知っているラナーは気に留めない。むしろ無用な摩擦は避けるべきだ。
「確かに【バニー衣装】だけを調べると不自然に情報が消された可能性が高いですね。<官能的>と判断されたのかもしれません。」
「官能的……?どういう意味かしら?」
ナーベラルは自分が御方より賜った衣装を下劣なものとバカにされた気がして声に嫌気が宿る。
「そのままの意味です。わたしも
……更に言うならば、政治制度、文化慣習、社会動向においても同様……もしくはそれ以上に秘匿が施されており、社会制度において性差や種族差を持つ者に対する情報にも何らかの強い規制が掛けられていた。
おそらくナザリックのあった世界というのは、独裁に近い過剰な専制君主制でありながら、公民権運動や社会運動が活発……又は活発だった、という大きな矛盾を孕んだ歪な世界だったのだろうと考察できる。
とはいえ、そこまでの情報を話すつもりはない。愛しのクライムがナーベラルの胸の谷間に目が行かないよう必死に己を律している姿を見て、ラナーは既に怒髪天なのだ。あとでおいたをした犬には、躾も兼ねて泣いても叫んでも喚いても許さないほどの愛情を注いでやらないといけない。
そんなにバニー衣装が好きならば、シャルティア様に相談してみようか?確かシャルティア様の部屋にも一着くらいあったような気がする。……もちろんその情報も伝えるつもりはない。
「あなた至高の御方の暗号を解いたというの!?」
しかし
そもそも鍵となる未知の言語――ナザリックで使用されているものではないようだ――が必要な他、幾多もの斬新なアイデアと数論やトポロジー・機密設計等々、多方面からの介入が必要で、ラナーが本気で0から解読を試みるなら2ヶ月は暗号だけに専念し、ようやく解読できるだろうという代物だ。
しかしこの地の神が創造した暗号を解いたという悪評のほうがマズいと考えているので、完全解読は諦め一部の解読に留めている。
「至高の御方が残されたヒントをもとに、本当にほんの一部だけですが。」
「話が逸れましたね。要するに【バニー衣装】だけ絞って調べても真実は見えてこないと言う事です。」
「それじゃあ
それがどれだけ途方もない時間を要するか計算する気にもならない。部屋が重い空気に包まれる中、屈辱的な一言が発せられる。
「わたくしの知っている範囲でよろしければお教えいたしますが?」
【精神の異形種】の太陽のような笑顔が、
●
アインズは一般メイドのによる半自動ドアを潜った先の光景を見て動転し、一瞬で沈静化される。そこにはいつものメイド服ではなくタキシード風の衣装に身を包んだ
「アインズ様、本日はわたしたちに御身へ興を献上する誉れを賜り幸甚の至りにございます。」
大きな胸が邪魔をしてタキシードがまるで似合っていないユリ・アルファが代表し臣下の礼をとって挨拶を行う。アインズは〝モモン〟扮するパンドラズ・アクターから最近ナーベラルの活躍が著しいという報告を聞き、褒美を与えることにした。
その内容は〝御身に興を献上したい〟というもので、褒美になるのか凄く迷ったが、珍しい事にその瞳には確固たる意志が感じられこうして時間を取った。
ここはナザリック第九階層【カジノ】、スロットマシンやルーレット、カードゲームや、トランプではバカラやブラックジャック、ポーカーの卓を初めとして、様々な設備がある広大な施設の割に、ナザリックで働く者が賭博に
……しかしアインズにとっては思い出の場所であったりもする。アーコロジーに対抗し造り上げたほぼ意味を成さない第9階層大半の施設と違い、全員が集合するまでの時間や暇つぶしに何度も仲間たちと遊んだことのある場所だ。
カードゲームではぷにっと萌えさんに勝てる者が誰もおらず、ウルベルトさんとたっちさんがポーカーで嫌味を言い合いながら火花を散らし、ガーネットさんがスロットマシンを前にして「もっと改良する点は……」とぶつぶつ呟いていた記憶が想起される。
「で、で、で、でわ、アインズ様。ご、ご案内をさせていただきます!!」
赤面しぎこちない動きでエスコートをしようとやってくるバニーガール姿のナーベラル。その姿はとても愛らしい。
同時にカジノでもハイリスク・ハイリターンな行為を好んだ忍者の姿が後ろに透けて見える。思わず笑いたくなるが、それは【アインズ・ウール・ゴウン】がすることではない。そこに一抹の寂しさを覚えつつも、ナーベラルの手を優しくとる。
「ああ、楽しませてもらおう。お前たちも参加しなさい。ディーラーはこちらで準備する。チップは各自200枚からスタートだ。相手がわたしであろうと接待はいらん。遠慮なくかかってこい。これは命令だ。最優秀者にはそうだな……」
正直いうとポーカーやバカラあたりはルールの記憶が既に危うい。ボロが出るかもしれないが、アインズはそれでもこの場を楽しみたかった。
「……アルベドをねじ伏せてでも望む褒美をなんでもくれてやる。もし思いつかないならば、受け取る事を躊躇うような褒美にもこちらには心当たりがあるからそちらにしよう。」
もし褒美を躊躇するならば階層守護者に渡したように、彼女らの造物主が遺していった宝を宝物殿からもってこよう。
普段のアインズならばあり得ない言葉に、本気の意思を感じたのだろう。アインズだって取り返しのつかない言葉を言ってしまった自覚はある。それでも過去の仲間たちとの思い出の場で燃えない勝負をするよりましだ。
なにしろアインズは、とてもワガママな男なのだから。