「あら?インクリメント。本も持たずに食事をしているなんて珍しいわね。」
シクススはプレートから溢れんばかりのオムレツ、カリカリベーコン、腸詰、トリプルチーズに本日のスープを手に持ち、普段ならば静かに読書をしながら食事をしているインクリメントが他の一般メイド――それも派閥を超えたみんながインクリメントを中心に集まっているのも珍しい――と話をしている様子に思わず声をかける。
「あ、シクスス。おはよう。昨日はアインズ様当番だったのだけれど、アインズ様が不敬ながらわたしの頭では理解できないお言葉を仰っていたのでみんなに相談していたの。」
「へぇ、興味深い話ね。わたしにも聞かせてもらえる?」
シクススは空いている席に座り、智謀の王たるアインズ様がどのような御言葉を仰っていたのか食事が冷めるのも気にせずインクリメントに顔を向けた。
「えっと……。〝あ、マズい4時だ〟と。アインズ様にしては珍しく、少し切迫されたご様子だったわ。他のみんなにも聞いたのだけれど、早朝3時~5時の間に同じことをお聞きしたメイドが何人かいるみたいなの。」
……そのセリフに似た言葉はシクススも聞いたことはある。しかしシクススの場合〝忘れてくれ〟とご命令を受けたので、自分も聞いたとはいう事が出来ない。
インクリメントがアインズ様のご命令に反する事などありえないだろうが、不公平に感じてしまい思わず顔に不満が出そうになる。
「アインズ様はそのあと何と仰っていたの?」
「えっと……。〝何でもない。〟と咳払いをされ、再び読書に戻られていたわ。」
なるほど、それならば今インクリメントが話している事はアインズ様のご命令に反する事にはならない。しかし【忘れるようご命令を受けたメイド】は自分だけなのだろうか?確認すると同じ事を聞いたと公言しているメイドは3人ほど。中にはシクススのように【忘れるよう】又は【他言無用】のご命令を受けて話すに話せない者もいるのではないかと考えた。
「早朝の3時~5時の間というのは、アインズ様にとって何か……それこそ至高の御方々の交わされた
だとすれば自分たちが今このように考えていること自体不敬だが、アインズ様は常々【自分で考えること】の重要性を説いておられる。ならばこれは自分たちへの試練かもしれない。
……とはいえ。
「「「 う~~ん 」」」
答えなんて早々簡単に出るはずがない。
「そうだ!以前ヘロヘロ様の遺された文書の中に、〝せめて5時まで眠れたら、時間が無い〟と綴られたものがあったわ!」
「ヘロヘロ様は
「そうなのよね。であれば〝睡眠〟とは何かの隠語と考えるべきよ。でも〝睡眠〟そして〝時間が無い〟というのはまさか……。」
御隠れになった自らの造物主様にして神を思う。想像するのも恐ろしい最悪の想定が脳裏に浮かぶ。ヘロヘロ様やホワイトブリム様、ク・ドゥ・グラース様がナザリックを去った理由は自分たちに解るはずはない。しかし今の話を組み立てると、認めたくない事実が浮かんでくる。崩御なされたという救済の無い現実だ。
至高の41人の一柱たる御方がありえないと否定したいが、一番可能性が高い。普段は喧騒に包まれている食堂に静寂が走る。
「アインズ様が早朝の時間を気にされていたのはまさか……。」
去られた至高の御方々を見送られた、看取られた時間だったのではないか。シクススと同じ結論に至った者が何名か居たのか、嗚咽の声があちらこちらで聞こえ始める。
「アインズ様……なんと御労しい。それでもわたくしたちの為に……。」
メイドたちは自分たちのためナザリックへ残ってくれた慈悲深くお優しい主にますますの尊敬を募らせる。
「……いつまでも悲嘆にくれている場合ではないわ!アインズ様へ出来ることを一切の失態なく。わたしたちは栄えあるナザリックのメイドなのですから!」
誰が言った言葉だろう。しかし食堂に集まる一般メイドの総意だった。唯一従うことの許された至高の御方へ万全な奉仕が行えるよう食事が始まる。