「ふむ。まぁこんなものでしょうか。」
デミウルゴスは屍山血河と化していた瓦礫の廃墟、旧リ・エスティーゼ王国跡地を見回り満足げに頷いていた。アインズ様のご命令により、自身の守護階層にいる部下【紅蓮】の能力で生血は蒸発し、下等種も一部を除いて全て灰燼に帰した。これで疫病が蔓延することはないだろう。
しかし御計画を立てたアインズ様のためにも、デミウルゴスの嗜好としても、ただの瓦礫とするのはあまりにも趣が無い。
〝かつてここには偉大な国が確かに存在した〟という痕跡を残さなければならない。そうすることでどのような大国さえも、アインズ様へ首を垂れぬ愚者は同じ末路を辿ると示唆させる事が出来る。
そのため物陰に隠れ母親に抱かれた子供と母の白骨、我先に逃げ惑い将棋倒しとなって屍山となった白骨の山、絶望のあまり一家心中を決めた大小さまざまな白骨、火事場泥棒をしようとしたのか商会の金庫に入りそのまま出られなくなった愚者中の愚者の白骨などは灰にせず、あえてそのまま残している。
リ・エスティーゼ王国跡地は既に【遺跡】と呼んでもいいだろう。〝ナザリックに逆らう者がどのような末路を辿るか〟という事実を記した歴史的な遺跡として万年という単位で語り継ぐことが出来る。デミウルゴスはその出来栄えに満足しながら、【遺跡】のひとつひとつを歩いていた。
「……っ。」
そんな中、デミウルゴスはひとつの白骨を発見し不快気に眉を一瞬吊り上げた。
それは綺麗なほど真っ二つに……唐竹割にされた奇妙な白骨だった。恐らくはナザリックが進行した軍の誰かに頭のてっぺんから股先までを切り捨てられたのだろう。武器を持っていないのは紅蓮が焼き尽くしてしまったからだろうが、白骨の手の握りから剣かこん棒らしき武器を振るおうとしていた痕跡が見て取れる。
愚かしい。実に愚かしい。強大な力を前に、群衆でもなく突出した能力もない個に何が出来ると言うのだ。こんなものは、ただの自己満足だ。己の不遇や絶望に対し勇ましく吶喊し最期を迎えたという最期の自慰行為でしかない。そんなことをしても結末も未来も世界の
……見ていられない?デミウルゴスは自分の内心に去来した不可思議な感情に疑問を覚えた。
この白骨が残っているのは自分が紅蓮に〝無謀にも栄えある魔導国……延いてはナザリックへ反抗しようとした愚者〟の痕跡を残すよう命令したからに他ならない。実際いくつかそのような白骨は残っていたが、追い詰められて窮鼠が獅子を噛もうとするように無謀な突撃を行った白骨ばかり。
この者のように、目に見えて立ち向かってきた痕跡は見つからずにいた。デミウルゴスは自分の内心に渦巻く感情を持て余す。いっそのこと地獄の炎をもって灰すら残さず燃やし尽くしてしまいたい。足で踏みつけ粉々にしてやってもいい。
「全くもって不愉快です。気味が悪い。」
しかしデミウルゴスは内心に浮かぶ奇妙な心模様に翻弄されたまま、白骨を放置し【遺跡】を歩み始めた。
花があったならば