今日も今日とてデミウルゴスやアルベドから理解不能な報告を受け、書類にひたすらハンコを押し続ける
いつもは読んでも知識が右から左に流れるような小難しい本を読んで支配者然としたポーズをとるのだが、本日アインズが選んだのは転移の初期にあつめた現地の歴史書、
(この本なら『現地の歴史をより深く探るため』ってアピールも出来るし、支配者風カッコいい台詞集に使えるものもあるかもしれないからな。)
脳裏に守護者たちの前で知ったかぶりをして諺――愚者は経験より学び、賢者は歴史より学ぶ――の半分も出てこなかった苦い記憶が蘇る。
あの時はデミウルゴスが見事に勘違いをしてくれて結果『諸君、我々は歴史を作りあげる』というなんとも守護者たちの脳内アインズらしい結論に落ち着いたが、いつボロが出るかわからない。
それに郷に入っては郷に従えともいう――これも最近覚えた――。
ナザリックのNPCたちがアインズより優秀であることに疑いは無いが、それはユグドラシルという世界の知識に偏ったもの。NPCではないプレイヤーであったアインズならはの気づきもあるかもしれない。
そうしてアインズは現地の諺が記された書物のページをゆっくりと開いた。
【亜人は神を恐れないが、神を信じる人間を恐れる】
(これは何だかうっすら聞いたことがあるな。ぷにっと萌えさんだったか?亜人の代わりに入っていた言葉が……赤い人?え、赤い人って何だっけ?兎に角まぁ……熱心すぎる者はヤバイってことだな。)
この言葉はともすれば、この世界でアインズが一番身を以って知っているかもしれない。アインズの脳裏にNPCたちとあの目つきの悪い少女が一瞬過った。
アインズは感じるはずもない頭痛を覚えながら次のページを捲った。
【石を舞わせて木の葉を沈める】
(道理を無視して無茶苦茶なことをする……か。ちょっと俺の手に負えない話の時使えそうだな。「諸君の意見を嬉しく思う、しかしわたしは石を舞わせて木の葉を沈める真似は好まないな」あ!結構いい感じ!)
段々と楽しくなってきたアインズは軽快にページを捲る。
【
(直球だなぁ!?汚い身なりやメタボは良くないぞって意味なんだろうけれど、これはちょっと……ナザリックのみんなには言えないな、かなりショック受けるだろ。あ、逆に俺が言ったらジョークとして場が和むかも。使いどころに困るけれど、脳内にメモっとこう)
アインズは内心で苦笑をしながら、そのまま指を滑らせ……眼窩に炎にも似た光を走らせた。
【
意味は【無駄な努力】又はアインズでもふんわりと理解できる【パラドックス】と同義だ。問題はそこではない。ユグドラシル固有のアイテムの……それもポーションのように大量生産できるわけでも無い代物の名が現地で使われていることだ。
(どういうことだ?我々の以外にもユグドラシルプレイヤーが存在したことは確認済みだが、この本はナザリックが転移する前のもの……。一人一冊と考えればそこまで流通できるものでもない。いや、現地に百科事典そのものが存在するのはおかしくないが、偶然の一致と考えるにはあまりにも不確定要素が多すぎる。この本を翻訳してくれたエルダーリッチに詳しく……。いやそれだと俺が現地の言葉を理解できていないと宣言するようなものだ。)
そもそもエルダーリッチが翻訳したのならば現地の百科事典をエンサイクロペディアと訳した可能性もある。本当に現地で使われていた言葉なのか、それとも誤訳なのか確認する必要があるだろう。
もう【あ行】だけで手一杯となったアインズは、こんなときに仕事をしてくれない精神抑制を疎ましく思いながら次のページを捲った。その瞬間、アインズの無いはずの心臓が一瞬跳ねた気がした。
それは過去に起きた歴史的事実なのか、それとも人間の幻想なのか。もし前者だとすれば……
【終わりの神にも終わりがやってくる。】