オーバーロード単発短編集   作:セパさん

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・新作15巻にて新たに判明した設定をもとに作成しております。未読の方はご注意ください。

・一部独自解釈が御座います。

・以上をご注意の上お読みください。


エルフメイドの幸せ

 ダークエルフの女の子―――にしか見えない男の子、マーレ・ベロ・フィオーレは布団の中で頭から音符が見え隠れするほど心を弾ませながら、【最古図書館(アッシュールバニパル)】で司書長にオススメされた冒険活劇の本を読みふけっていた。物語ももうすぐ佳境……そんな中だった。

 

「マーレ様。こんな夜中に寝室で本を読まれますと目を悪くされますよ。それに休日はあと8時間、いくら疲労無効のマジックアイテムをお使いといえど、業務に差し障りがでては大変です。物語は後日として本日はゆっくりとお休みください。」

 

「そうです。マーレ様にお疲れが出て万が一の事故があっては大変です!」

 

「え、ええ!この本だけ読み終えてから……。」

 

「御身体は資本です。しっかりと(しおり)を挟んで保管しておきますので、御身体をお休め下さい。」

 

 そういって無慈悲にマーレの手から本をとりあげるのは、元々ナザリックに土足で踏み込んだゴミにも劣る賊の奴隷(しょゆうぶつ)にして、現在アインズの慈悲にて第六階層でメイドをしているエルフたち。とはいえメイドと言ってもポケットの多い丈夫な生地で作られた作業着――園芸用に作られたサイズの合うものを適当に渡した――を着用しているため、使用人という言葉が適当かもしれない。

 

 マーレもアウラも何かにつけて世話を焼こうとしてくるこの3人には辟易(へきえき)としており、正直どこかに行って欲しいのだが、さりとてアインズ様のご命令を無視して無下に扱う訳にもいかず、こうして一方的に押し付けられる善意(おせっかい)への対応に頭を悩ませる日々が続いている。

 

「わかった、寝る。寝るから!み、皆さんも、あの、ほら、寝て下さい。夜、夜ですから!」

 

「いえ、マーレ様が休日をこの第六階層で過ごすとお聞きし、わたしたちは万全の準備をしております。ご心配下さりありがとうございます。」

 

 マーレはメイドエルフの言葉に何かを言いかけ、不貞腐れたように布団に寝そべってパタパタと足を動かす。そしてしばらく駄々っ子のような状態が続いたが、1時間もしたころには可愛らしい寝顔が月光に照らされ、マーレの美貌が夜の闇に燦然と煌めいていた。

 

「……美しい。」

 

 思わず吐息混じりで零れた一言は3人の内誰だったか。しかし総意であったことは間違いなく、他の2人も首が千切れんばかりに頷いている。

 

 〝自分はこの寝顔を拝謁するためにこの世に生を受けた〟そんな錯覚さえしてしまうほど3人にとって幸福な時間が流れていく。しかし何事にも終わりは訪れる。

 

「マーレ様、起床の時間に御座います。入浴の準備が整っておりますので、浴室へどうぞ。」

 

「やー、あと5分……。」

 

「整容はとても大切です。マーレ様の美しさが陰ることなどございませんが、最近のマーレ様の御仕事はドルイドの能力を使ったダンジョン作成と聞き及んでおります。その玉体が土や砂塵で穢されることを思いますと、お仕事での前後で御身体を清めることは必要不可欠な事であるかと。」

 

「わ、わかったよぉ。」

 

 

 

「何度もいうけれど、ぬ、脱ぐことは自分で出来ますから。」

 

「いえ、マーレ様の手を煩わせるわけにはまいりません。」

 

「身体も自分で洗うから!せ、せめて下だけは自分で!」

 

「いえ、マーレ様の手を煩わせるわけにはまいりませんので。」

 

「そ、その着替えだけでも……」

 

 マーレは言葉で心底面倒な様子で拒絶をするが、メイドエルフたちは聞こえないとばかりにテキパキと湯上りのマーレに着せ付けを行う。その後マーレに朝食を提供――デリバリーされたのものを卓に置くだけだが――し、出勤を見送る。

 

「マーレ様、本日も尊く美しく御座います。それでは、お仕事でお疲れのでませんように。」

 

「は、はい。いってきます。」

 

 仕事前からぐったりと疲れたマーレはそのまま指輪で転移し、第六階層からいなくなった。その瞬間、エルフメイドたちの表情が険しいものとなり、マーレの寝室まで3人が一目瞭然に走り出す。

 

「やったー!今日のお布団干し係はわたし!!」

 

 摩擦で火傷するのではないかというほどの滑り込みを見せて一人のエルフメイドが勝ち誇ったようにマーレの眠っていた布団の端を握りしめる。他の2人は苦虫を嚙み潰したような表情だ。布団を勝ち取ったエルフメイドはマーレの布団を抱きしめ、そのまま大きく深呼吸をしていた。

 

 まるで極楽に咲く蓮の(すい)かと思わせる芳醇な良い薫りが鼻孔をいっぱいにする。

 

「ちょっと!マーレ様に不敬でしょう!変態じみたことしないの!」

 

 負け惜しみである。自分たちが布団を手にしていたら絶対に同じことをしていた。というかいつもしている。

 

「そういえば今日の朝食おいしそうだったわね!お魚が生で食べられるなんて初めて知ったわ。」

 

「きっとここが特別だからよ。元居た世界で食べたらお腹を壊すか毒に当たるわ。」

 

 エルフの料理と言えば基本果物や野菜、そして狩りで得た肉だ。もちろん三人の好みも肉よりではあるが、ナザリックで出た食事で不満をもったことは一度もない。

 

 エルフメイドは基本アウラかマーレの食事と同じものが出されており――大体は世話をすることの多いマーレと同じものが多い――アウラはハンバーガーやピザなどを好んで食べるが、マーレは食に対する欲が薄いのか、ほとんどがお任せである。

 

「わたしたち……こんなに幸せでいいのかしら?」

 

 脳裏に蘇るも(はばか)る奴隷だった頃の自分。『天武』エルヤー・ウズルスに穢された身体と刻み込まれた心の傷は未だ彼女たちを悩ませる。奴隷であった凄惨な日々が終わったように、この素晴らしい日々も終わってしまうのか……。想像するだけで悪寒が止まらない。

 

「大丈夫よ!兎に角この素晴らしい時間が終わらないよう。わたしたちはアウラ様とマーレ様に命を懸けて尽くしましょう!」

 

「そうね!」

 

 そうして3人は改めて決意を固めた。……その様子を完全不可視しこっそりとみていたアウラは、〝これはダメだ……〟と言った様子で苦笑いしながら項垂れていた。

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