音速を超えた突っ張りが空を切り、目にもとまらぬ諸手突きが肉体を
「うきぃ!最強の守護者としてペロロンチーノ様に創造されたわらわがこんな大口ゴリラに!」
「ふふふ、守護者統括……アインズ様の御傍で常に御身を護るこのわたしを舐めないことね、ヤツメウナギ!」
ガップリ四つに組み規格外の力と力が拮抗している。シャルティアが更なる突進の体勢を見せたのを察知し、アルベドが腰を割り、シャルティアの虚を突く形で地面から引き離した。そして力いっぱいにぶん投げ、しめ縄の円を軽く越え、壁まで激突させた。
「櫓投ゲ、勝者アルベド関!」
廻し姿に胸にはサラシを巻いたアルベドが軽く息を吐く。同じく廻しにサラシ姿のシャルティア――詰め物が無いので真っ平だ――は自らの不甲斐なさに歯を食いしばっていた。……ここは第9階層にある【スモウ部屋】。なんでも〝スモウ〟なるものはかつて日本の国技であったらしく、その再現をしたいと死獣天朱雀が過去の文献を基に作り上げた一室だ。
「ふむ、流石はアルベド。ナザリック最固を誇る守護者だ、そして負けず劣らずアルベドを土俵際まで押し出したシャルティアも見事といっておこう。見事な一戦……いや、スモウでは取り組みといったのだったか?見事な取り組みだった。」
アインズはリアルでスモウを見たことはないし、死獣天朱雀さんがこの部屋を作ったとき滔々と語っていたスモウの歴史についてもほぼ覚えていない。そんな9階層の一部屋で皆がスモウに興じているのは、ナザリックで〝魔法もスキルも用いないならば誰が一番強いのか?〟という議論があったためだ。
まさか闘技場で本当に戦わせる訳にもいかず、小考したアインズはこの【スモウ部屋】を思い出し、普段は忌避される守護者たちの娯楽・気分転換もかねて【ナザリック大ズモウ大会】が開催される運びとなった。
この手の議論で筆頭となるのはもちろんシャルティアだ。しかし、今の取り組みを見た通り、力はアルベドに勝っていても、ナザリック最固を誇る防御力で猛攻を凌ぎ戦術を駆使して好機を逃さなかったアルベドに軍配が上がり、シャルティアは苦汁を嘗める羽目になってしまっている。
(やはり戦術というのは大事なんだな。シャルティアもこれで学んでくれるといいけれど。)
「デハ、ツギノ取リ組ミ……西、アウラ関。東、マーレ関。」
おどおどとしながら廻し姿となっているマーレと対照的に、アウラは溌剌といった様子で四股まで踏んで笑顔を浮かべている。
「お姉ちゃんと戦うの……?ちょっと僕自信が無いかも……。」
「何言ってるのさ!わたしはビーストテイマーなんだよ!マーレの方が圧倒的に有利!でも負ける気はないからね。」
(アウラとマーレかぁ、そういえばちびっ子ズモウっていう大会が過去に行われるほど浸透した文化だって死獣天朱雀さんが言ってたなぁ。)
「デハ、ハッケヨイ……ノコッタ!!」
「うりゃあああああああああ!!」
「え、ええええええい!」
組み合おうと距離を詰めたアウラに対し、マーレは張り手を一突き半。その動作だけでアウラは縄の外側に押し出され、たたらを踏む。
「突キ出シ。勝者、マーレ関!」
「え……僕、勝ったんですか……?」
「見事な勝利だマーレ。どれ、残ったのはアルベドとマーレ、セバスか……一人欠員がでているな。どれ、わたしがセバスの相手、そしてアルベドかマーレ、勝者の相手をしよう。」
「そんな!アインズ様御自ら!」
「アインズ様の……お相手……?」
「構わん、<
もちろんアインズがそのままの姿では相手にもならない、それ故にモモンに姿を変え、自らをレベル100の戦士とする。
「フィース、わたしにも土俵に上がるに相応しい恰好をさせてくれ。」
「か、かしこまりました!アインズ様!」
本日のアインズ様当番であったフィースはアインズに廻しを着用させ……
「……フィースよ、この廻しの周囲や背中に背負っている巨大なしめ縄はなんだ?」
「はい!スモウの頂点、ヨコヅナはこのような衣装を着ると入口にございました死獣天朱雀様の揮毫なされた書物で学んだ次第にございます!正にアインズ様に相応しい装いであるかと!」
「う、うむ。」
甲冑姿に褌、更にしめ縄を纏うとは随分滑稽な格好に見えるだろう。だが
「西、セバス関。東、アインズ様。」
(たしかスモウってのはこういう恰好から始まるんだよな。)
アインズはセバスに対し
「セバス、構わん。全力で来るといい。手抜きは許さん。わたしに対する忖度など、たっち・みーさんへの無礼と知れ。」
「畏まりました。それがご命令とあれば。」
アインズの甲冑姿と違い、鍛え抜かれた身体を惜しげもなく晒し廻しを巻いているセバスは、極寒の瞳を主へと向け、同じく蹲踞の姿勢をとる。
「デハ、ハッケヨイ……ノコッタ!!」
(ぐっ!流石はセバス、強いな。)
蹲踞の姿勢から互いがぶつかり合い部屋を揺るがす衝撃波が走る。ガップリ四つを組んでの力比べでは流石にアインズは分が悪く、ジリジリと後方へ押し出されていく。膂力だけでは敵わない……そう考えたアインズは乾坤一擲の大勝負に出る。
「そりゃ!」
力を真っ向からではなく真横に入れ、互いがバランスを崩す。そのままアインズはセバスを抱きかかえ、共に土俵の外に転がりまわる。
「寄リ倒シ!勝者、アインズ様!」
「ふぅ……流石に御座います、アインズ様。全身全霊で当たらせていただきましたが、益々精進いたします。」
「うむ。」
重々しく頷いているが、アインズは土俵外の転がった先でどちらが上か下かなど計算していなかった。いわばコイントスに勝ったようなものなので、安堵の気持ちが大きい。
「デハ次ハ……ドウシタマーレ。」
「あのぉ……僕、棄権しようかなぁ……って思って……。」
「戦ウ前カラ勝負ヲ捨テルナド、アインズ様モゴ覧ニナッテイル中不敬ダ!」
「わ、わかりました!やります!」
「デハ、西、アルベド関。東、マーレ関。」
アルベドは陽炎のようなオーラを揺らめかせ、蹲踞の姿勢をとる。マーレはそんなアルベドに恐れ慄いている様子だ。
「ハッケヨイ……ノコッタ!!」
アルベドの放った張り手一発、その一撃はマーレを土俵の外へ軽々押し出した。
「張リ手一突キ!勝者、アルベド関!」
「マーレ、負けて早々悪いのだが、普段着に着替え力を万全に出せるようにしてくれ。」
そう言ったのは一回戦で敗退したデミウルゴスだった。勝利に狂喜乱舞しているアルベドをみて、軽くため息をつく。
「ソレデハ……」
「さぁアインズ様!土俵へお上がりください!いつまでも抱き合って……不慮の事故でそのままキス……そして押し倒され……ああ!!」
「う、うむ。」
アインズはそのまま席を立ちたくない衝動に駆られる。かといって一度口にしてしまったことを反故にはできないだろう。……そして大一番は始まり、アインズに抱き着いたまま動かないアルベドを引き剝がすのに、守護者総出で10分以上の時間を要した。