デミウルゴスとセバスは佇立したままお互いをみつめ、片や猛禽類を思わせる眼差しで、片や意地の悪い微笑を浮かべていた。
「いやぁ、セバスの下等種に対する慈悲深さは本当に素晴らしい。わたしには真似できない。尤も、それで至高の御身を煩わせた言い訳になるかは置いておいてね。」
「そういうデミウルゴス様……いえ、デミウルゴスもその智謀はわたくしの届く限りではございません。ナザリックで最も忙しい男という名は伊達ではないですね。ですがアインズ様の神算鬼謀に手が届くなんて言う戯言……手違いにより業務が空回りしないことを日々お祈りしている次第ですよ。」
「余計なお世話……心配いただき幸甚の至りだよ。君もツアレなる下等種を立派なメイドに仕上げた手腕はアインズ様も賛美なさっていた。このまま下等種と子を成すのかい?随分とゲテモノ好き……いや、新たな実験体となってくれて素晴らしい。」
「デミウルゴスこそツアレを可愛がってくれており嬉しい限りです。前にデミウルゴスが運営する牧場に連れていきたいと聞いたときは本当に殺意を覚え……いえ、そのご慈悲に感銘を受けた次第です。」
二人の間には
【 お互いの良いところを10個褒め称えよ 】
……と。
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「至高の御方々が直々に鍛錬をなさったお部屋に御座いますか!?」
ナザリック第九階層にある部屋のひとつ。ギミック管理を任されているシズ・デルタからその部屋は異様なほどの力を宿しており、シズでもギミックの全調査に長時間を要すると聞いたアルベドとデミウルゴスは一体どのような意図から作成された部屋であるかを至高の御身、アインズ・ウール・ゴウンに問うていた。
「ああ、ガーネットさんが最初に造り……その後ヘロヘロさんやホワイトブリムさん、ク・ドゥ・グラースさんも参加し、面白……非常に興味深いと他のみんなも意見や技術・叡知を集め、その部屋は100を優に超える。そうだな、【試練の部屋】とでも名付けようか。」
アインズはそんな適当なことを言ったが、元はといえばガーネットが作り上げた【リアル脱出ゲーム】を行う部屋であり、先に言ったように他の皆も面白がり意見を出し、中々巧緻な造りとなっている部屋だ。謎解きの部屋からモンスターの湧きだすダンジョンのような部屋、仲間と協力し特定の条件を満たさなければ出られない部屋、果ては課金を求められる意地悪い部屋など様々な【試練】がある。
アインズはかつての仲間たちとの思い出を追想し、温かな思い出が胸に蘇るが……
(くそがぁ……)
瞬時に沈静化され、脳内で悪態をつく。そしてアインズは少し思考を巡らせる。
「そうだな……。なんならばお前たちも……いや、守護者で手の空く者を集め行ってみるか?ちょうどわたしたち……レベル100のプレイヤーを想定して造られた部屋だ。お前たちであればどんな部屋が出てきても死ぬことはあるまい。」
アインズは守護者たちに〝休暇〟を取らせたいと考えているが、その試みは頓挫する一方だ。だがこのように理由を作れば守護者同士が交流し仲を深める好機なのではと考えた。一方のデミウルゴスは恐れ多さと激情でぶるりと震える。かの至高の御方々が直々に鍛錬をなされた部屋、その重責を担える幸甚と恐縮が同時に襲い掛かる。ちらりとアルベドを見ると、彼女はデミウルゴスと違う感情を宿しているように思えたが、何であるかわからなかった。
「畏まりました、アインズ様!このデミウルゴス、至高の御方々に恥じぬよう、試練の部屋を見事突破してみせます!」
……その後、くじ引きでペアの相手がセバスとなったデミウルゴスはひどく絶望することとなる。
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【 この者を飢えと渇きから解放せよ 】
部屋の中央には沼があり、その周囲は樹木で覆われている。その中心には人間種と思わしき人物が縄で樹木に縛られ苦悶の表情を浮かべている。そしてその沼の周りには明かりで照らされた何百もの金属製の箱があった。
「……これは、〝自動販売機〟だよね。金貨を対価に飲み物や食べ物を自動で供するマジック・アイテム。他の九階層でもみたことがある。」
「わらわも目にしたことはありんすが、使ったことはありんせん。そもそも金貨など手持ちにないでありんす。アウラは?」
「わたしだって持ってないよ。でもあの箱見て!」
そこには【金貨10枚50円】と書かれた小さな箱があった。
「〝50円〟ってシズが持ってる1円シール50枚ってこと?」
「それこそ手持ちなんてないでありんす!ああ……わらわたちはどうすれば。」
「待って、箱の取口に10枚の金貨がある。これで自動販売機を使えばいいんだ!」
「それにしても10枚……。自動販売機とやらはひとつの箱だけでも20種類以上……。2000個以上ありんす。たった10枚で当たりを引けということでありんすか?」
「バカだなぁシャルティア、至高の御方々が御造りになられた部屋だよ?頭を使ってどの品が当たりか考えなきゃ。」
「それもそうでありんすね。飢えと渇きを癒せというからには大きな品がいいでありんしょう!」
あまりにも安直な考えのシャルティアにアウラは呆れたため息を吐く。しかしシャルティアは意にも介さず自動販売機の中でも一番大きな瓶の飲み物と量の多い食べ物を買っていた。
「貴重な金貨が2枚も……。まぁいいや。こいつの口にいれてみよう。……ってあれ!?」
アウラは樹木に縛られる人間の口に飲み物を入れようとすると、一陣の風が吹き、飲み物を跡形もなく消し去ってしまった。それは食べ物も同じで、アウラとシャルティアは様々考えたが手持ちの金貨10枚はあっという間に消えてしまった。
「ああもう!しゃらくさい!泥水でも飲みなんし!」
シャルティアは人間種の頭を掴み、床の泥に顔を付けようとする。すると引き潮のように泥水が引いていき、口に入ることはなかった。
「もう何がどうなっていんすか!?」
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(アウラとシャルティアはかなり難易度の高い謎解きの部屋か、攻略は無理だろうな。)
アインズは
まずアウラとシャルティアの入った部屋だが神話の知識が必要となる。アインズも名前は忘れたがこの男は神々を怒らせ飢えと渇きの罰を与えられた不老不死者であり、攻略するためには不老不死を解く蜘蛛の毒――自動販売機にひとつだけある――を身体に針で刺し、その上で男を殺さなければ扉は開かない。
その他の食べ物や飲み物はすべて欺瞞であるし、〝渇きを癒せ〟ではなく〝渇きから解放せよ〟という文面にも注目しなければならない。
一方セバスとデミウルゴスであるが、不毛な口論が続いているようでこちらも一向に扉が開く気配はない。アインズはかつてたっち・みーさんとウルベルトさんが同じ状況になったことを想起し笑いがこみあげてくる――もちろん沈静化されたが――。
(問題は……。)
「至高の御方々が与えたもう試練さえ乗り越えられないなどまさに不敬!アインズ様、どのように処罰を?」
アインズと共に守護者たちの試練を見守るアルベドだ。守護者統括として自分は観察の立場にあると言い、リアル脱出ゲームには参加していない。
(守護者たちも罰をとか言い出すだろうなぁ。何て言い訳しようか……。)
こうしてアインズの守護者たちの仲を深めようという構想は失敗に終わり、絶対支配者はため息の真似事をした。
・俗にいう【何かしないと出られない部屋】を書いてみたかったです。登場させられなかった守護者たちもいるので少し残念。