「初めまして、だな。プレイメーカー、ソウルバーナー、そして炎のイグニス、不霊夢。私はウィンド。我が庭へようこそ、歓迎しよう」
「僕の庭だ。おまえは何もしてないだろ」
「ふっ、そうだったな。訂正しよう」
漫才じみたやり取りにも、プレイメーカーはにこりともしない。噂通り警戒心は強そうだな。
ざっくりとした状況はそれぞれのイグニスからウィンディに伝わっている。
サイバース世界が崩壊した原因は、外敵によるものだった。その敵はスキャンモード中の隙をついて侵入し、防衛プログラムの弱点を熟知しているかの如く的確に攻撃をおこない、あっという間にサイバース世界を廃墟へと変えた。その結果、不霊夢たちは逃走せざるを得なくなった。
結局サイバース世界を崩壊に追いやった犯人は分からずじまいに終わったが、聞いた感じだと手際が良すぎるな。
そういった場合、まずは内通者を疑うものだが、イグニスたちにその発想はないようだ。
プレイメーカーの目的は、彼の協力者である草薙翔一の弟、草薙仁の意識データを抜き取った奴の捜索。
この二人が協力関係にあるのは、このふたつの事件の犯人が同一である可能性が高いからだ。
その理由は、どちらも「リンクマジック」という特殊なカードを使ったこと。
「なあ、イグニスが一緒にいるってことは、あんたもその、ロスト事件の被害者なのか?」
ソウルバーナーが腫れ物を触るような感じで訊いてくる。そこまで気を遣わなくてもいいのに。
「ああ。つまりキミたちと同年代だ。そう畏まらなくてもいい」
「落ち着いているな。ソウルバーナーとは大違いだ」
「さり気なく俺をディスるな!」
あの二人もいいコンビだな。まあイグニスの元になった人間だからな、それも道理か。
「おまえたちに3つ質問がある。1つ、草薙さんの弟のパートナーイグニスについて、2つ、俺たちが追っている奴、ボーマンについて。3つ、おまえたちの目的はなんだ?」
「ふ~ん。まあいいか。順番に答えてやろう。ペアのイグニスについては、本人しか知らない情報だ。だがここに3人いるんだ。後は消去法だろ。地か光だな」
「待て、水のイグニスの可能性は?」
「不霊夢、おまえはこっちに来てまだ浅いから、人間についてよく知らないんだろう? 水のイグニスのパートナーは女だよ。あいつの思考パータンは俺たちとは一線を画していただろ?」
「ムムム、言われてみれば確かに」
女の子が被害者にいたのか。あの生活は女の子にはキツいよなぁ。トラウマになってなきゃいいけど。
「次はボーマンだっけ? それは丸っきり分からん。最後は僕たちの目的か。今のところは静観だ。人間と共存すべきか、それとも敵対するべきか、まだ答えは出ていない」
「えっ!? おまえ人間と敵対するかもしれないのか!?」
「そんな驚くことか? おまえだってプレイメーカーから、ハノイの奴らを引き寄せる囮だったり、人質にされてたりしてたじゃないか」
「いやそりゃ、最初の頃はそうだったけどさぁ、今じゃ俺たち親友だぜ。親友と書いてマブダチって読むくらいの仲だぜ。なあプレイメーカー!」
「…………」
「ほらな! それに俺を囮にしてたのはおまえも同じじゃねぇか!」
「あれはおまえが望んで囮になったんだろ。自分にハノイを引き付けることで、サイバース世界を守ろうとした。意外と熱いやつだよな、おまえ」
「ちちち違うし! 俺がそんな自己犠牲精神に溢れてるわけないだろ! おまえそんな風に思ってたのッ!?」
「って水のイグニスが言ってた」
「え? 水のイグニスが? ほうほう、何だ、やっぱりあいつは俺のことを……ぐふふふ」
「おまえはどう考えているんだ? ウィンド」
「相手が握手を求めてくるなら応じるし、拳を振りかざすなら応戦するまでだ」
「……そうか」
俺の返答を聞いて、プレイメーカーは考え込む。俺もウィンディも、個人はともかく「人間」という種そのものは、あまり信用していない。共存するとしても、100%信用はしないだろう。
「さて、もう少し談義したいところだが、どうやら招かれざる客が来たようだ」
ウィンディが指を鳴らすと、中空に映像が浮かび上がった。それはこのワールドの入口付近にある風の渓谷だった。そこには二人の女性アバターが映っている。
「ゴーストガール!」
「もう一人は誰だ?」
「警告は出したが、ログアウトする気配がない。ボードテクニックも中々のものだ。僕が本気を出せば追い出すことも可能だが、リアルにも影響が出るかもしれない。今は事を荒立てたくないんだ」
データストームの乱気流を叩きこめば、このワールドからは排除できる。彼女たちが危険を感じてログアウトしてくれればいいが、強制的にログアウトされた場合、意識領域に損傷を与える可能性がある。
「あいつらと会う気はない。少なくとも今のところはな。だからあいつらをデュエルで負かして欲しい。そうすれば安全に強制排出できる」
「ウィンドにやらせればいいじゃん」
「さっきも言っただろ。会う気はないし、会わせる気もない。あいつら、多分SOLの意向を受けてる。おまえたちが断ったら強制ログアウトさせるしかないな」
「分かった。俺たちが何とかしよう。ゴーストガールは共にハノイと戦った間柄だ。話せば分かるはずだ」
そう言ってプレイメーカーはDボードに乗って飛び出した。不霊夢に促されてソウルバーナーも後を追う。
「話せば分かる……か。古来より伝わる死亡フラグだが、上手くいくかね」
俺の不安は的中した。どうやら話しても分からなかったようで、デュエルという手段に訴えることになる。
第一戦はソウルバーナー vs ブルーガール。
「あの娘はブルーエンジェルか。大人っぽくイメチェンしたなぁ」
「そういや、おまえはブルーエンジェルのファンだったな。情報ならいくらでも調べてやるって言ってんのに」
「ネットアイドルのリアルなんて知らない方がいいんだよ。もし男だったら、俺はショックで死んでしまうかもしれない」
「……そうかい」
確かソウルバーナーのスキルはバーニング・ドローだったな。自分のライフポイントを100になるように支払い、払った数値1000ポイントにつき1枚カードをドローするスキル。
使いどころが難しいスキルだ。特にトリックスター相手では。
「相性の悪さをどうはねのけるか、見ものだな」
しばらくは一進一退の攻防が続いた。ソウルバーナーも自身のスキルを鑑みて、ライフ回復のカードを多く投入していた。
そして最後はソウルバーナーが勝負を決めた。
「相手のリンクモンスターを融合素材にする、か。なるほど、面白いカードだな」
続いてはプレイメーカー vs ゴーストガール。
とはならなかった。ブルーガールの
「あの二人のデュエルも見たかったが、仕方ないか」
ゴーストガールのログアウトを見届けると、プレイメーカーとソウルバーナーも、こちらを一瞥してログアウトした。
プレイメーカー、ソウルバーナーの二人と接触してから数日が経った。
SOLテクノロジー社はイグニス捕獲のためにハンター部隊を設立し、そのリーダーにGO鬼塚をスカウトした。
場所が割れたあのワールドは廃棄し、今は別の場所に拠点を作っている。いずれあの二人も招きたいと思っているが、今はマズい。追跡されればまた引っ越しをしなけりゃならなくなる。
ボーマンとやらも今は動きがないらしい。
どの勢力も凪の状態だ。
「あいつ、何考えてるんだ?」
「どうした、ウィンディ?」
「これ見ろよ」
目の前に映し出されたのは、匿名掲示板の画面だ。ここの書き込みは信憑性が皆無なので暇つぶし程度にしか覗かない。ここもウィンディの監視対象になっていたのは意外ではあったが。
「なになに。プレイメーカーに会いたい? 書き込んでるのは地のイグニスときたか。さすがに罠だろ」
「僕もそう思ったが、その下に文字化けしているレスがあるだろ? それはイグニスアルゴリズムで「居場所はどこだ」と書かれてあるんだ。これが読めるのはイグニスだけだ。その更に下には座標が示されている。このやり取りはイグニスにしか不可能だ」
「なるほど。で、行くのか?」
「……いや、呼ばれているのはプレイメーカーだしな。後からAiにでも事情を訊くさ」
ウィンディは肩をすくめて、やれやれといった風に首を振った。