光のイグニスの指摘に、ウィンディは虚を突かれたように押し黙った。
「光のイグニス、もう一度、他のイグニスたちと話し合う余地はないのか?」
「愚問だな、人間。我々がどれほどの議論を重ねたと思う? その結果サイバース世界は停滞したのだ。だから一度壊す必要があった。新たな理想郷を創るために」
「――ッ!? それは、サイバース世界の崩壊はおまえの仕業だったということかッ!?」
「そうだと言った。ウィンディ、私は人類に宣戦布告する。他のイグニスにも伝えてくれ。投降ならいつでも受け付けると。ただし、
そう言い残して、光のイグニスは閃光と共に消え去った。
それから数日間、リンクヴレインズに大きな動きはなかった。収監されていたバイラこと滝響子の脱走が大きく報道されたが、今のところハノイの騎士に動きはない。
光のイグニスはイグニスの中でも、高次の思考と高い処理能力を誇るらしく、姿を見せたということは、準備万端整った可能性が高いとウィンディは語った。リンクヴレインズの動向は全て把握されていると思った方が良いらしい。
風のワールドはリンクヴレインズの領域外領域に作られているが、それに胡坐をかいているわけにはいかないようだ。
「ここにきてリアルでの接触か。素で行くか、ウィンドっぽく行くか」
「それはおまえの判断に任せる。あのホットドッグ屋だ。Aiと不霊夢には既にメッセージを送ってある」
ウィンディはあれからしばらく調子を落としていたが、今ではそれなりに復調している。さすがに光のイグニスの宣戦布告は衝撃だったのだろう。
移動車の前に設置された丸テーブルには、俺と同じ制服を着た男子生徒が二人腰かけていた。
その間にある空いた椅子を引きながら、声を掛ける。
「ここ、いいかな?」
「……え? 同じ制服?」
「ウィンドか?」
「yes I do」
「なんで英語なんだ……」
ソウルバーナーこと穂村尊がぼそりとツッコむ。椅子に腰かけ、テーブル上にデュエルディスクを置く。程なくしてウィンディが姿を現した。
「僕だ」
「おまえだったのか」
「全然気付かなかった」
「何でだよ! メッセージ送っただろうが!」
「ジョーダンだよ、ジョーダン。Aiちゃんジョーク。面白かった?」
「二度とやるな。不霊夢、おまえもこんな奴とつき合い過ぎるとバカになるぞ」
「うむ。それは常々思っている」
「フン! バカは禁止用語だ。バカって言う方がバカなんだぞ! バカバカ!」
「話が進まねぇな。いいからこれを見ろ」
ウィンディが中空に映像を映し出す。俺たちとボーマンのデュエル映像。そして光のイグニスとの会話データだ。時間にしてそれほど長いものではなかったが、見終わった後は全員が押し黙っていた。
「あー、おまえのデッキエグすぎ。何だよ手札全破壊って。もういじめじゃん。いじめは良くないと思います!」
沈黙を破ったのはAiだった。あえてそっちから切り込む辺り、気を回していると言えなくもない。
だがあのコンボはそこまで鬼畜じゃない。
「ボーマンと光のイグニスは繋がっていた。ならば草薙さんの弟の意識データを奪ったのは、光のイグニス……なのか」
「光のイグニスが人類に宣戦布告とは。話し合う余地もない、というのか」
「光のイグニスって言い難いよな。便宜上ライトニングってことでどう?」
「マイペースだな、Aiは」
Aiの空気を読まない発言に、穂村が溜め息を零す。
「どうぞ、えーっと……」
「ありがとうございます。工藤です。工藤翼」
「工藤くんか。俺はこの店のオーナー、草薙翔一。話は聞かせてもらった。仁は光のイグニスに捕らわれているのか?」
「ライトニングな、草薙」
「分かった分かった。で、どうなんだ、ウィンディ」
コーヒーを一口嚥下する。平静を装っているが、かなり焦りが見えるな。
「その可能性は高いな。ライトニングは無駄なことはしないやつだ。そう考えると、その草薙仁ってやつはライトニングのパートナーだろうな」
「仁のパートナー、ライトニングが……」
「パートナーであることと、意識データを奪うことに何の関連性がある?」
藤木の問いに、ウィンディは続けて答える。
「イグニスとパートナーの間には干渉が発生することがある」
「俺と遊作のリンクセンスみたいなものか?」
「ああ。その場合、おまえは眼鏡だな」
「
「ちっげぇよ。イグニスと人間が干渉することで、人間の能力を拡張するっていえば分かるか? 眼鏡は視力を、補聴器は聴力を、センサーは感覚を、てな具合にな」
「ほ~ん。じゃあ最初からそう言えよ。紛らわしいなぁ、ウィンディは」
「おまえには言われたくねぇわ。んでまぁ、その干渉はパートナーによって違う。ライトニングの懸念のひとつは、パートナーを通じて自分の居場所を特定されることじゃないかな。あいつは不確定要素は極力排除する性格だ」
「は、排除だとッ!?」
「そう慌てるなよ、草薙翔一。わざわざ意識データだけを奪ったってことは、まだ生きてるはずさ。ライトニングの目的は、人間を自分の管理下に置くことで、殺戮が目的じゃない」
「だとしても、いつライトニングの気が変わるか分からない。救出を急がなくては」
「藤木の言ったことも一理ある。それも含め、これからのことを話し合おう」
「おいおい、藤木なんてよそよそしいな。遊作でいいって、俺たち仲間だろ」
声の主は藤木本人ではなく、Aiだった。チラリと藤木に視線を送る。
「構わない」
「僕のことも尊でいいよ」
「そうか。なら俺のことも翼と呼んでくれ」
親睦を深めつつ、改めてこれからのことを話し合う。
まず遊作が提案したのは、財前に協力を要請する事だ。ライトニングの情報を流し、リンクヴレインズに警戒態勢を敷く。
真っ先に反対したのはウィンディと不霊夢だ。財前は自分たちを追うバウンティハンターを統括する立場であり、到底信用できないと。
尊が多数決で決めようかと言ったが、俺が却下した。
民主主義と言えば聞こえはいいが、少数派の意見を多数派の意見で圧殺しているだけにすぎない。大多数で行うならまだしも、少数でこれが続けばいずれ不和を招く。
根気強く二人の説得を続け、提供する情報の制限と警告ということで決着した。
続いては残る二人のイグニスについて。アースはプレイメーカーとの一戦以降居場所が掴めず、アクアに至っては何の情報もない。
それは次に持ち越しとなった。
日を改め、俺たちは再び集った。
「車の中がこんなになっていたとは……」
「ははっ、驚いたかい? 俺の自慢の城さ」
ウィンディから凄腕のハッカーだということは聞いていたが、この機器類を見ると説得力があるな。
「モニターを見てくれ。アースは度々リンクヴレインズに出現していたようだ。この赤い点が、過去の痕跡から予測したアースの潜伏ポイントだ」
「って多すぎ! どんだけフラフラしてんだよ!」
「アクアを探しているのかもしれない」
「そっか。あいつマジだったもんな。草の根分けても探し出しそ~」
「これだけ多いと、手分けして探すしかなさそうだね」
尊の提案に、遊作が首肯する。
『イントゥザヴレインズ』
俺も二人に続いてログインしようとするが……。
「……ウィンディ?」
「少し待ってくれ。草薙、データを僕に送ってくれ」
「ああ、分かった」
草薙さんはデュエルディスクにケーブルを差し込み、データを転送した。
ウィンディはデータを解析しながら唸っているが、プレイメーカーはもうアースを捕捉したようだ。早いな、これもリンクセンスが関係しているのか?
「アースがデュエルをしている? 相手は……GO鬼塚!?」
プレイメーカーから送られてくる映像を見ながら、草薙さんが驚愕の声を上げる。
モニターに映ったGO鬼塚は、以前の彼とはまるで違っていた。はち切れんばかりだった筋肉は鳴りを潜め、スマートになったというよりは、やつれたと言った方が正しいような風貌。それでいて眼光だけは鋭くなったGO鬼塚が、アースと睨み合っている。
「財前のやつ、裏切ったのか!?」
「どうでしょうね。もっと上からの指示かもしれませんよ。所詮は中間管理職ですから」
GO鬼塚の先攻から始まったデュエル。立ち上がりは、らしくない静かなものだった。
対して、後攻のアースは一気にモンスターを展開し攻勢に出る。それからしばらくはアース優位の状況が続いたが、GO鬼塚の不気味さは増すばかりだった。
「囚われているな」
「囚われている? どういうことだ?」
「アースのモンスター。アースはあれに固執し過ぎている」
Aiはあれを、アースがアクアに貰ったカードだと言っていたな。それが原因だろう。
デュエルは進み、アースの優勢は覆された。
しかし脳にAIを埋め込むとは、無茶するなぁ。
そして起死回生を図ろうと発動させたスキルも、GO鬼塚の"アンチスキル"にカウンターされてしまう。
最後はシンクロ召喚されたGO鬼塚のエースモンスターにとどめを刺され、アースは敗れた。
「アースが、捕獲されてしまった……。くそっ、なんとかできないのか! 遊作!」
「相変わらずクソ真面目なやつだ。AIなら万が一の場合くらい想定しとけってんだ。行くぞ、翼」
「あいよ。イントゥザヴレインズ!」