遊戯王VRAINS 風翼のバディ   作:乾燥海藻類

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第19話 ハノイの騎士

ネット上に存在するうす暗い空間。秘密結社の指令室のような部屋に、むずかしい顔の5人が中央に集まっていた。

その5人が視線を注ぐ床はモニターになっており、そこには6人の少年少女が映っている。いずれもロスト事件の被害者だ。その内のひとり、黒目黒髪の少年の上にリボルバーは立った。

 

「工藤翼。この少年が風のイグニスのパートナーだ」

 

「さすがはリボルバー様。何の情報もない状況で、特定まで至るとは」

 

彼の側近のひとり、スペクターが恭しく頭を下げる。

 

「単なる消去法に過ぎん」

 

リボルバーはにこりともせず告げる。

彼の宿敵、因縁深い相手であるプレイメーカー、そしてソウルバーナーの素性は割れている。

杉咲美憂、草薙仁は両名とも入院中。残る二人のうち一人は、すぐ隣にいる。となれば、答えは明白だった。

 

「思えば不思議な子供でした」

 

当時を懐かしむように、赤髪の女性がつぶやく。鴻上博士の助手をしていたバイラこと滝響子は、イグニスプロジェクトに最初期から関わってきた。

強い感情を発露させるためとはいえ、子供を誘拐するという犯罪行為に加担した彼女に引き返す道はなかった。

毎日のように聞こえてくる子供たちの悲鳴に、耳を塞ぎたい気持ちを押し殺して、彼女はデータを取り続けた。その中で、極端に悲鳴や苦鳴が少ない部屋があった。時折、笑い声すら聞こえたこともある。最初は幻聴かと思った。あるいは、この状況に耐え切れず発狂したのかとも心配した。

だがそのいずれでもなかった。モニターに映るその少年は、純粋にデュエルを楽しんでいたように見えたのだ。

 

「あの状況を楽しんでいたとは、私と同類ですかね」

 

スペクターは静かに笑う。しかしそう言いつつも、この少年が自分とは違うということは分かっていた。あの時、スペクターはデュエル相手ではなく、その向こう側の人間を見ていた。だが翼は純粋にデュエル相手を見ていたのだ。人ともAIとも判然としない相手を。

 

「最初はひどく怯えていたんですが、ある時を境に変貌しましたね。まるで人が変わったみたいに」

 

「些細なきっかけで人は変わる。覚悟を決めたのだろう」

 

ドクター・ゲノムの言葉に、ファウストは片眼鏡をくいっと押し上げた。

 

「父はこのデュエルデータを元に、イグニスを作り上げた。そして最も覚醒が早かったのが、風のイグニスなのだ」

 

怜悧な風貌を持つ男、リボルバーは再びモニターへと視線を移す。ロスト事件の終盤、その時点で風のイグニスには明確な自我があった。自分の個体名(名前)を自ら決定するほどに。

 

「原因ははっきりしている。この少年、工藤翼だけがデュエル相手とコミュニケーションを試みていた」

 

何も分からない状況でデュエルを強要される。それを受け入れられる人間は少ない。だが翼は早くに順応した。それがAI(イグニス)の成長を早めたのだ。

 

「稀有な人間だ。ロスト事件を引きずっている様子もない。家庭環境に多少問題はあったようだが、ロスト事件以前よりの問題だった。それだけに読めない。何故イグニスと行動を共にしているのか」

 

「プレイメーカーやソウルバーナーのような、単純な復讐とは違うということですか」

 

さすがのリボルバーも、ノリと勢いとつき合いで手を貸しているとは想像もつかなかった。

 

「揺さぶってみますか?」

 

ファウストがリボルバーに提案するが、彼は首を横に振った。

 

「よもや同床異夢ということはあるまい。工藤翼と風のイグニスは良好な関係と見た。イグニス抹殺には反対するだろう」

 

「では……」

 

「第一目標は変わらない。まずは光のイグニスを叩く」

 

リボルバーはこのリンクヴレインズに多くの目と耳を仕掛けていた。特に重点的に仕掛けたのが、SOLテクノロジー社の目が行き届かない領域外領域だった。イグニスが潜み、暗躍するならばそこしかないと思っていた。

そこに予想以上のものが引っ掛かった。

光のイグニス(ライトニング)風のイグニス(ウィンディ)の会談だ。

 

「しかし、彼のデッキはサイバースではありませんでしたね」

 

リボルバーの中で、すでにボーマンとライトニングは繋がっている。そしてボーマンと戦った時、ウィンドはサイバースデッキを使わなかった。後に行われた会話を鑑みても、この時すでにウィンディはライトニングとの対立を視野に入れていたのではないかと、リボルバーは睨んでいる。

 

「……どんな理由があろうと、イグニスは必ず殲滅する。まずは人類(我々)に対して明確に敵意を示した光のイグニスからだ」

 

去り際に一瞬だが、ライトニングはこちらに視線を向けた。()のイグニスはこの仕掛けを、逆に利用したのだ。

ライトニングはウィンディだけでなく、ハノイの騎士にも宣戦布告をしていた。

 

「しかし、我々の誘いに乗りましょうか?」

 

皆が頷く中で、バイラが不安気にリボルバーに問う。

リボルバーはネットワークに潜む光のイグニスの根拠地をあぶりだすため、ハノイの塔を再起動、さらに改造し、リンクヴレインズ全域をスキャンする計画を立案した。だが時間も足りず、手も足りない。ハノイの塔再建には、イグニスアルゴリズムを扱える優秀なプログラマーが必須だった。つまりイグニスを有するプレイメーカーたちと共闘する必要がある。

 

「問題ない。理由は3つある。1つ、プレイメーカーは「自分の復讐は終わった」と宣言したこと。2つ、プレイメーカーはイグニスたちを使い、一度スキャンを行い失敗している。3つ、プレイメーカーは一刻も早く、草薙仁を救出したいと思っている」

 

「なるほど、呉越同舟ということですね」

 

「そうだ。プレイメーカーは感情で判断を誤るほど愚かな男ではない。受けざるを得ないのだ」

 

リボルバーはそう断言した。だが懸念はある。ソウルバーナーのことだ。ソウルバーナーはハノイの騎士に対して、自分に対して剥き出しの敵意をぶつけてきた。その理由もリボルバーは承知している。ソウルバーナーを外してプレイメーカーだけを呼び出すという手もあったが、彼の矜持がそれを許さなかった。その想いは自分が受け止めなければならないと理解していたからだ。だがそれを、ここで(おもて)に出すわけにはいかない。

 

「ひとつずつだ。この戦いに生き残れば、いずれ決着の時は来る。全てに決着をつける時が、いずれ……」

 

リボルバーはいっそう視線を厳しくして、ひそかに拳を握った。

 

 

 

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