警察に保護された俺は、実家へと送られる、ことはなかった。
俺がいなくなったことで、両親は警察の調査を受けた。その結果、虐待の疑いを持たれたが、当の本人がいないことで保留になっていた。だが、俺が証言したことで真実が明らかになり、俺は保護施設に送られることになった。親戚はいるみたいだったが、会ったこともないし、あの親の親類縁者など信用できん。
俺の要求は無事通り、保護施設で生活することになる。
そして10年の月日が流れ、俺は高校生となった。
平穏が戻っても、基本人格が出てくることはなかった。何度呼び掛けても応答はない。とはいえ、そばにいるという感覚はあるので、出てきたくなったら出てくるだろう。
「おーい、工藤。もう帰るのか?」
「島か。まあ、部活もやってないしな」
声をかけてきたのは同じクラスの島直樹。意外とコミュ力の高い男で友達は多いらしい。まあ、相手が友達と思っているかはともかく。
「それだよ!」
「どれだ?」
「部活だよ、ぶ・か・つ。暇なら付き合えよ」
そう言って島は俺の腕を掴むと、大股で歩き出した。
「強引だな。部活の勧誘か?」
「察しが良いじゃねぇか。聞いたぜ、おまえもデュエルするらしいな」
「まあ、それなりにな。……デュエル部?」
そのドアには間違いなく「DUEL CLUB」と記されていた。
「失礼しま~す。部長、入部希望者を連れてきました」
いつの間にか入部希望者にされてしまった。
「えーっと、一年の工藤翼です」
「入部希望者は大歓迎だよ。藤木くんもあれから来てくれないし。さ、入って」
部屋にいる部員は島を含めて6人か。これで全員とは限らないが、女の子も一人いるな。
「カード収納式のデュエルディスク。随分と旧型を使ってるのね」
「あまり裕福ではなくてね」
「あ……ごめんなさい。そういう意味で言ったわけじゃ……」
「いや、気にしてないさ」
俺がそういうと、栗色の髪の女の子は少しだけ相好を崩した。この子、同じクラスだったよな。名前は確か財前。
「そんなことよりデュエルしようぜ。新人の洗礼だ、おとなしく受けろ」
「やれやれ、工藤くん。申し訳ないが、島くんのわがままに付き合ってやってくれないか?」
「構いませんよ。じゃあやるか、島」
「おう、胸を貸してやるぜ。先攻でも後攻でも、好きな方を選んでいいぞ」
「そうか。じゃあ先攻をもらおう」
『デュエルッ!』
「俺のターン、スタンバイからメインへ。俺は《トリックスター・キャンディナ》を召喚する」
「……え?」
「おいおい、おまえブルーエンジェルのファンだったのかよ!」
「ふっ、だが俺のデッキはブルーエンジェルほど優しくはないぞ。キャンディナの召喚時効果を発動。デッキから「トリックスター」カード1枚を手札に加える。そしてその効果にチェーンして、手札の《トリックスター・マンジュシカ》の効果を発動。キャンディナを手札に戻し、このカードを特殊召喚する。さらにチェーンして《サモンチェーン》を発動。このカードは同一チェーン上で複数回同名カードの効果が発動していない場合、そのチェーン3以降に発動できる。このターン俺は通常召喚を3回まで行う事ができる」
「召喚権を増やすカードかぁ。そういえばキャンディナってカード名ターン1じゃないんだよな」
不穏な空気を感じ取ったのか、島の表情が曇っていく。逆順処理が始まり、サモンチェーンの効果が確定、フィールドのキャンディナと手札のマンジュシカが交代し、キャンディナの効果で2枚目のマンジュシカが手札に加わった。
「再度《トリックスター・キャンディナ》を召喚して効果発動。3枚目のマンジュシカを手札に加える。フィールドのキャンディナを手札に戻し、手札のマンジュシカを特殊召喚。
フィールドに3体のマンジュシカが並ぶ。これぞ最強の布陣、マンジュシカ・ジェットストリームアタック。
「続けて永続魔法《悪夢の拷問部屋》を発動」
「ご、拷問部屋? 確かにブルーエンジェルはそんなカード使ってなかったな」
アイドルが使うようなカード名じゃないしな。ファンのイメージは守らないといけないだろうし。
「カードを1枚伏せてターンエンド」
工藤翼 LP4000 手札2 モンスター3 伏せ1
□□■□悪
マ□マ□マ
□ □
マ:トリックスター・マンジュシカ 攻撃力1600
マ:トリックスター・マンジュシカ 攻撃力1600
マ:トリックスター・マンジュシカ 攻撃力1600
悪:悪夢の拷問部屋
■:伏せカード
――――――――――――
「すげー嫌な予感がするけど、ドロー」
「相手がドローしたこの瞬間、マンジュシカの効果が発動する。相手の手札にカードが加わる度に、加えたカードの数×200ポイントのダメージを与える。マンジュシカは3体いるので3回分だ。そして悪夢の拷問部屋の効果は、ダメージを与える度に発動する」
「つ、つまり、どういうことだ?」
「つまり
島直樹 LP4000 → 2500
「ぐっ、だがこの程度なら……あっ、伏せカード……」
「《トリックスター・リンカーネイション》を発動。相手の手札を全て除外し、その枚数分だけ相手はデッキからドローする」
「お、俺の手札は6枚……ぐあああああぁぁッ!!」
島直樹 LP2500 → 0
悪夢の拷問部屋は必要なかったな。
でもまあ、俺のデッキはブルーエンジェルほど優しくはないぞ(キリッ)と言った手前、違いは見せつけねばならんだろう。
その後、何故か妙に財前さんに絡まれた。