校内にチャイムが鳴り響き、授業の終了を告げる。
デュエル部の規則は基本的に緩く、参加したいときに参加してくれればいいというものだった。
だが新参者であるのだから、親睦を深める意味でも顔くらいは出した方が良いだろう。
「工藤くん、今日は部に行くの?」
「ああ、そのつもりだけど。財前さんは?」
「私は、今日は用事があるからパスかな。あ、これを渡しておくわね」
財前さんが鞄からデュエルディスクを取り出す。ツヤのあるそれは、見るからに新品そうだ。
「私の兄がSOLテクノロジー社に勤めてることは聞いてるよね。だから部には色々とサポートしてるの。遠慮しなくていいわ。初期設定も終わってるから、すぐに使えるはずよ」
「お、おお。ありがとう」
「どういたしまして。じゃあ、また明日ね」
一息に捲し立てて、財前さんは教室を出て行った。うーん、距離感が掴めねぇ。
「ようやくおまえも文明の利器を手に入れたか」
「島か」
「俺と同じタイプだな。ま、それもそうか。じゃ、いこうぜ。リンクヴレインズ」
島はニッと笑ってサムズアップをして見せた。
そんなわけで、俺はリンクヴレインズにやってきた。
リンクヴレインズとはVR空間の名称である。
ここではデュエルが盛んに行われているが、マスターデュエルよりもスピードデュエルが好まれている。本来はボードに乗って飛行しながら行うらしいが、今は安全上の理由から禁じられており、一部のマナー違反者を除いて地上で行われている。
「待たせたな、し……じゃない、ロンリーブレイヴ」
「おう。……ウィングか。ははっ、そのまんまだな」
島は口を開いて大きく笑った。
アカウント名は島の言った通りそのまんまだが、容姿は現実の自分とは正反対に作った。具体的に言うなら、金髪碧眼の英国人風で、ビジネススーツを着こんでいる。
「しかし、意外と人が多いんだな」
「おいおい、これでも減った方だぜ。最近はハノイの騎士なんてテロ集団が暴れてるからな」
「ハノイの騎士ねぇ。何が目的なんだろうな」
「さあな。テロリストの考えることなんて分かんねぇよ。そんなことより、この俺様がリンクヴレインズを案内してやるぜ!」
ロンリーブレイヴに連れられて、リンクヴレインズの各所を巡る。
リンクヴレインズの常連というのは嘘ではなかったらしく、解説も堂に入っていた。
かと思いきや、突っ込んだ説明を求めるとしどろもどろになる。なんか知識を詰め込んだだけっぽく見えるのだが、本当に常連か?
「そういや、おまえのデッキって、やっぱりアレか?」
「いや、変えたよ。流石にこっちであのデッキを使うのは悪目立ちするからな。ファンの奴らに絡まれても面倒だし」
本家よりかなり鬼畜なデッキ構成だからな。ファンや、もしかしたら本人に目を付けられる可能性だってある。
アイドルなんてのは、遠くから眺めて応援しているのが一番楽しいのだ。アイドルと付き合えるかも、なんて期待をするほど夢想家じゃない。そもそもアバターは可愛くても、中身がどんなヤツかは分からんし、もしかしたら男の可能性だってある。
「なるほど、ならデュエルだ! ルールはスピードデュエル。といっても、地上でだけどな」
「まあ俺もDボードは持ってないしな。いいぜ、デッキ調整には丁度いい相手かもな」
「抜かせ! いくぜ、ウィング!」
『スピードデュエルッ!』
「先攻はこの俺、ロンリーブレイヴ。まずは《魔獣の懐柔》を発動。デッキからカード名が異なるレベル2以下の獣族の効果モンスター3体をデッキから特殊召喚する。俺が選ぶのは《おとぼけオポッサム》と《素早いモモンガ》と《尾も白い黒猫》を効果を無効にして特殊召喚」
レベル2のモンスターが3体。来るかッ!
「《素早いモモンガ》と《尾も白い黒猫》をリリースして《
あー、そっちかぁ。
「ベヒーモスの効果発動。リリースした《素早いモモンガ》と《尾も白い黒猫》を手札に戻すぜ。カードを1枚伏せてターンエンドだ。エンドフェイズに魔獣の懐柔の効果で特殊召喚した《おとぼけオポッサム》は破壊されるが、それがトリガーになる! ライフを1000払い、手札から《森の番人グリーン・バブーン》を特殊召喚。今度こそターンエンドだぜ」
ロンリーブレイヴ LP3000 手札2 モンスター2 伏せ1
□□■
ベグ□
□ □
ベ:百獣王ベヒーモス
グ:森の番人グリーン・バブーン
■:伏せカード
――――――――――――
「1ターンで最上級モンスターを並べるとは、やるじゃないか」
制圧効果は全くないけど。
「俺のターン、ドロー」
試しに組んでみたが、やはりメインモンスターゾーンが3カ所ってのは色々と窮屈だな。ま、やってみるか。
「《ワン・フォー・ワン》を発動。手札の《インフェルニティ・デーモン》を墓地へ送り、デッキからレベル1の《インフェルニティ・リベンジャー》を特殊召喚。続いて《精神操作》を発動。《百獣王 ベヒーモス》のコントロールをエンドフェイズまで得る」
「なにぃ!? だがそいつで奪ったモンスターは攻撃もできないし、リリースもできないぜ!」
「だがリンク素材にはできる。召喚条件はレベルが異なるモンスター2体。《百獣王ベヒーモス》と《インフェルニティ・リベンジャー》をリンクマーカーにセット。リンク召喚、《落消しのパズロミノ》!」
《落消しのパズロミノ》
リンク2/光属性/魔法使い族/攻1300
【リンクマーカー:右/下】
「カードを1枚伏せ、《インフェルニティ・ミラージュ》を通常召喚。手札が0枚なので効果が発動できる。このカードをリリースし、墓地の《インフェルニティ・デーモン》と《インフェルニティ・リベンジャー》を特殊召喚。そして《インフェルニティ・デーモン》の効果発動。デッキから永続魔法《インフェルニティガン》を手札に加える。さらに《落消しのパズロミノ》の効果発動。このカードのリンク先に特殊召喚された《インフェルニティ・リベンジャー》のレベルを7に変更する。さらにパズロミノの第2の効果発動。同じレベルのモンスターを1体ずつ破壊する。《インフェルニティ・リベンジャー》と《森の番人グリーン・バブーン》を破壊!」
「なにぃ!? 俺のエースモンスターがッ!」
インフェルニティ・リベンジャーが特攻してグリーン・バブーンもろとも爆発四散する。
「カードを1枚伏せて、バトルフェイズに入る。落消しのパズロミノでダイレクトアタック!」
ロンリーブレイヴ LP3000 → 1700
伏せカードは発動しないか。ならば――。
「続けてインフェルニティ・デーモンでダイレクトアタック!」
「ぐぁあああーッ!!」
ロンリーブレイヴ LP1700 → 0
「くっそー、また負けた。おまえホントにスピードデュエル初めてか?」
「まあな。なあ、伏せたカードは何だったんだ?」
「ん? ああ、これだよ」
島が提示したのは《幻獣の角》。自分のモンスターをパワーアップする罠カードだ。ドロー効果もある良いカードだが、モンスターがいなければどうにもならない。
やっぱマスターデュエルとは勝手が違うな。まあスピードデュエルの目的は時間をかけずに気軽にデュエルすることだから、仕方ないところではあるが。
スピードデュエル用に、別のデッキも作っておくかな。
原作ではスピードデュエルはデータストームを利用して行うデュエルであり、地上でスピードデュエルを行う描写はありません。
とはいえシミュレーションくらいはできるのでは? ということで、本作では可能ということにしています。
でも風に乗ってやる方が楽しいよね、ってことで違反者が出てるんじゃないかなぁと。