ドクター・ゲノムを倒し、無事除去プログラムを手に入れたまではよかったのだが……。
「まさか除去プログラムが役に立たないとはな」
「ドクター・ゲノムが敗北した直後に電脳ウイルスが更新されるとは、この僕の目をもってしても見抜けなかった」
「別に大元がいるのか? そいつを叩くしかなさそうだな」
と思っていたら、数日後のニュースで次々とアナザー患者が快復していると報道されていた。
「ブルーエンジェルのおかげかな」
ブルーエンジェルがハノイの幹部らしい女に勝利した。それが関係しているのかもしれない。
「しばらくは様子見でいいだろ。おまえのデッキは割れたが、僕の存在については、ハノイも確認は出来ていない。あいつも動いてるみたいだしな」
「あいつ?」
「古い知り合いさ。そうだな、そろそろ
「別にそういうわけじゃないが……」
「僕には分かる。僕のデータの根幹をなしているのはおまえだからな」
「どういうことだ?」
「今からそれを説明する。まあ、僕も全てを知っているわけじゃないけどな」
ウィンディはひどく人間らしい仕草でデュエルディスクに腰かけると、10年前の事件、ロスト事件について語り始めた。
その実態は、人類滅亡の危機に備え、人類の後継種となるAIを生み出すための計画だった。首謀者は鴻上聖博士。
博士は新たなるAI、イグニスを生み出すべく、6人の子供たちを誘拐し、閉鎖空間に隔離してデュエルを強要した。
この時点でちょっと意味が分からない。そもそも子供を攫うような強硬手段を取らなくても、孤児を引き取るなり、もっと穏便なやり方はあったと思うが。
デュエルの強要については、デュエルの思考がAIが人類を理解するのに最適だと考えられたためだとウィンディは言った。
OK、意味が分からない。だが、俺のデュエルデータがウィンディを形成したというのは理解した。
「攫われた子供が6人ということは、生まれたイグニスも6人か?」
「そうだ。風、地、炎、水、闇、光の6属性に対応している」
「ふ~ん」
結局その事件は内通者の通報により、半年で解決した。だが鴻上博士が逮捕されることはなかった。
その後、博士は子供たちのデュエルで得たデータからイグニスを完成させたが、何億回にも及ぶシミュレーションを繰り返した結果、「イグニスはやがて人類の管理を目論み、人類を破滅させる」という結論に辿りつき、これほどの事件を起こしてまで作り上げたイグニスを廃棄しようとした。
しかし、それを良しとしないSOLテクノロジー社の重役たちに博士は処分された。
「つまりロスト事件はSOLテクノロジー社の主導で行われ、その責任者が鴻上博士だったってことか」
「そうだ。SOLはイグニスを利用しようと考え、鴻上は廃棄しようと考え、対立した。そして鴻上の意志を継いだのが、ハノイのリーダーである「リボルバー」だ。あいつはイグニスを抹殺しようとしている。その結果、僕たちは双方から狙われることになった」
「穏やかじゃねぇな」
「その後、僕たちはネットワーク上に「サイバース世界」という独自の世界を作り出し、静かに暮らしていた。だがそれも長くは続かなかった。サイバース世界の場所を突き止めたハノイの騎士の襲撃に遭ったのさ。その場は何とか凌いだが、その時に外へと飛び出したのが闇のイグニスだ」
「もしかしてさっき言っていた「あいつ」か? プレイメーカーと一緒にいるんだっけ?」
「ああ。で、残った僕らはこれからの方針を話し合った。具体的には人間を信じて、自分たちの持つ技術を渡し共に道を歩むかという議論。だが何度議論を繰り返しても答えは出なかった。そして僕は「人間を知る」と言う名目で、サイバース世界から旅立った」
「ほう。で、おまえから見た人間はどう映った?」
「無駄は多いが、興味深いな。0と1の世界では考えもつかない行動をとる。論理的に動いていた人間が、直観というあやふやな理由で非効率な動きをする。実に面白い」
「おまえも実に人間臭いと思うがな。ところで、AIに向かって人間みたいだと言うのは侮辱になるのか?」
「はっ、それは、考えたこともなかったな」
俺が茶化すと、ウィンディはにんまりと笑った。
人類を破滅に導く存在だとは到底思えないような笑顔だった。
「なぁ! このままただ傍観してるだけでいいと思うか!? プレイメーカーやブルーエンジェルはハノイの騎士と戦ってる!」
「せやな」
放課後、帰宅しようと廊下を歩いていたら、島に呼び止められて空き教室まで連れてこられた。その島が鼻息を荒くして、いかにも憤慨してますという感じで拳を握っている。
「今デュエル部は休部状態だけど、ここはデュエリストとして俺たちも戦うべきだと思う!」
「せやろか」
あれは部長の英断だろ。アナザー事件が解決したとはいえ、リンクヴレインズは未だ厳戒態勢が続いている。ネットの中では、ハノイの連中が跋扈しているらしい。
「だから一緒に戦おうぜ、工藤!」
「せやかて。ああ、一人じゃ心細いんだな」
「うぐっ!? おまえも藤木と同じこと言いやがって……」
核心を突かれたのか、島は胸を押さえて一歩下がった。てか藤木にも声かけてたのか。あいつは歯に
「くそっ! けど俺は……」
《新しいデータをダウンロードします》
「えっ!? なんだよ、ダウンロードした覚えなんてねぇ……って、《サイバース・ウィザード》? これってプレイメーカーのカードだよな?」
島のデュエルディスクにはカードデータが送られていた。プレイメーカーからのメッセージ、「サイバースと共にあれ」と一緒に。
プレイメーカーは孤高というイメージがあったが、そうでもないのかな。島は完全に舞い上がっている。ほっといたら一人でも行きそうだな。
「やはり俺はプレイメーカーに選ばれし存在。工藤、俺は一足先に行くぜ! イントゥザヴレインズ!」
「はぁ、仕方ねぇな」
何かあっても後味が悪いので追いかけてログインする。
そこで待ち受けていたのは、プレイメーカー狩りを行っているハノイの騎士と、そのうちの一人と対峙する島ことロンリーブレイヴだった。
「おまえらの狼藉もここまでだ! おまえの挑戦は、このプレイメーカーの親友、ロンリーブレイヴが受けて立つ!」
あいつハノイの騎士と戦うつもりか。
「おまえ、あいつの連れか? 丁度いい、私の相手になってもらおう」
何か別のハノイの騎士に指名された。今日はウィンディはいないが、まあいいか。
「オッス! お願いします!」
「……挨拶されたのは初めてだな。まあいい、行くぞ!」
『デュエルッ!』
「先攻は私だ。《暗黒界の取引》を発動。お互いに1枚ドローし、その後、手札を選んで1枚捨てる。私が捨てたのは《暗黒界の術師 スノウ》。このカードはカードの効果で手札から墓地へ捨てられた場合に効果が発動する。デッキからフィールド魔法《暗黒界の門》を手札に加える。そしてそのまま発動だ。墓地の《暗黒界の術師 スノウ》を除外して、手札の《暗黒界の狩人 ブラウ》を捨てる。その後、カードを1枚ドローする。そして《暗黒界の狩人 ブラウ》の効果でさらに1枚ドロー。続けて《トレード・イン》を発動。手札のレベル8《暗黒界の龍神 グラファ》を捨てて、カードを2枚ドローする」
相手は暗黒界か。なかなか良い動きだな。
「《魔界発現世行きデスガイド》を召喚して効果発動。デッキからレベル3の悪魔族《暗黒界の狩人 ブラウ》を効果を無効にして特殊召喚する。レベル3のデスガイドとブラウでオーバーレイネットワークを構築。現れろ、《虚空海竜リヴァイエール》!」
《虚空海竜リヴァイエール》
ランク3/風属性/水族/攻1800/守1600
「リヴァイエールの効果発動。X素材を1つ取り除き、除外されている《暗黒界の術師 スノウ》を特殊召喚。そしてスノウを手札に戻し、墓地の《暗黒界の龍神 グラファ》を特殊召喚。アローヘッド確認。現れろ、我らの道を照らす未来回路! 召喚条件はリンクモンスター以外のEXモンスターゾーンのモンスター1体。《虚空海竜リヴァイエール》をリンクマーカーにセット。リンク召喚、《グラビティ・コントローラー》!」
《グラビティ・コントローラー》
リンク1/闇属性/サイキック族/攻1000
【リンクマーカー:左下】
「《闇の誘惑》を発動。カードを2枚ドローし、その後、手札の闇属性モンスター《暗黒界の術師 スノウ》を除外する。手札の《ネメシス・コリドー》の効果発動。このカードを特殊召喚し、除外されている《暗黒界の術師 スノウ》をデッキに戻す。そして手札で雷族モンスターの効果が発動したことで、条件はクリア。フィールドの《ネメシス・コリドー》をリリースして、EXデッキから《超雷龍-サンダー・ドラゴン》を特殊召喚!」
《超雷龍-サンダー・ドラゴン》
星8/闇属性/雷族/攻2600/守2400
「完璧な1ターン目だ。この勝負もらった! フゥーハッハッハッハッ!」
「フゥーハッハッハッハッ!」
「何故貴様も笑うッ!?」
「え、いや、つられて何となく」
「くっ、調子が狂う……。カードを2枚伏せてターンエンドだ」
ハノイの騎士 LP4000 手札2 モンスター3 伏せ2
■□□□■
龍□超□□門
グ □
グ:グラビティ・コントローラー 攻撃力1000
超:超雷龍-サンダー・ドラゴン 攻撃力2600
龍:暗黒界の龍神 グラファ 攻撃力3000
門:暗黒界の門
■:伏せカード
■:伏せカード
――――――――――――
「俺のターン、ドロー」
「この瞬間、リバースカードオープン。フィールドの《暗黒界の龍神 グラファ》をリリースし、《闇のデッキ破壊ウイルス》を発動。私は「魔法」カードを宣言する。さぁ、手札を見せてもらおうか」
「いきなりウイルスカードか」
俺はカードを見せるために手首を返す。実際は相手のデュエルディスクにカード情報が表示されているので、こんなことする必要はないのだが、雰囲気というやつだ。
《インフェルニティ・ワイルドキャット》
《インフェルニティ・ネクロマンサー》
《インフェルニティ・ジェネラル》
《インフェルニティ・デーモン》
《ダーク・グレファー》
《インフェルニティ・パラノイア》
「魔法カードは1枚だけか。ではそれを捨ててもらおう」
相手の指示に従い、手札の《インフェルニティ・パラノイア》を捨てる。
「そして自分フィールドの闇属性モンスターがリリースされたことで、手札のこのカードを特殊召喚できる。現れろ、《暗黒の魔王ディアボロス》!」
漆黒の龍が姿を消したと思ったら、すぐさま入れ替わりで別のドラゴンが現れた。リリースできず、対象にも取れないモンスターか。リリースはともかく、効果の対象にできないのは厄介だな。
「だがこのくらいならまだいける。手札の《インフェルニティ・ジェネラル》を捨てて、《ダーク・グレファー》を特殊召喚。続けて、手札の《インフェルニティ・デーモン》を墓地に送り、手札の《インフェルニティ・ワイルドキャット》を特殊召喚。アローヘッド確認。召喚条件はチューナーを含むモンスター2体。《ダーク・グレファー》と《インフェルニティ・ワイルドキャット》をリンクマーカーにセット。リンク召喚、《水晶機巧-ハリファイバー》!」
《
リンク2/水属性/機械族/攻1500
【リンクマーカー:左下/右下】
「ハリファイバーの効果発動。デッキから《インフェルニティ・ビートル》を特殊召喚」
「だがその効果で特殊召喚したモンスターは効果を発動できない」
「まあそうなんですけどね。でも問題ナッシュ! 《インフェルニティ・ネクロマンサー》を通常召喚。このカードは召喚成功時に守備表示になる。そして手札が0枚なので効果が発動できる。墓地の《インフェルニティ・デーモン》を特殊召喚」
効果で《インフェルニティガン》を持って来たいところだが、超雷龍がいるのでサーチはできない。なのでまずはあいつから処理する。
「レベル4の《インフェルニティ・デーモン》にレベル2の《インフェルニティ・ビートル》をチューニング。シンクロ召喚! 現れろ、《インフェルニティ・ヘル・デーモン》!」
《インフェルニティ・ヘル・デーモン》
星6/闇属性/悪魔族/攻2200/守1600
「インフェルニティ・ヘル・デーモンの効果発動。《超雷龍-サンダー・ドラゴン》の効果をターン終了時まで無効にする。そして、手札が0枚なので追加効果が発動。そのカードを破壊する」
「――チッ! やってくれる!」
「続けて墓地の《インフェルニティ・ジェネラル》の効果発動。このカードを除外してレベル3以下の「インフェルニティ」2体を効果を無効にして蘇生する。俺は《インフェルニティ・ワイルドキャット》と《インフェルニティ・ビートル》を選択。アローヘッド確認。召喚条件はカード名が異なるモンスター2体以上。《インフェルニティ・ネクロマンサー》、《インフェルニティ・ワイルドキャット》、《インフェルニティ・ビートル》、《水晶機巧-ハリファイバー》をリンクマーカーにセット。リンク召喚、《鎖龍蛇-スカルデット》!」
《
リンク4/地属性/ドラゴン族/攻2800
【リンクマーカー:上/左下/下/右下】
「リンク4か。中々やるじゃないか」
「4体のモンスターをリンク素材にしたことで、スカルデットの全ての効果が発動できる。まずはデッキからカードを4枚ドローし、その後手札を3枚選んで好きな順番でデッキの下に戻す」
このドローカードも確認されるが、残った1枚はモンスターカードなので破壊はされない。まあこの状況下で魔法カードを残すマヌケはいないだろうが。
「スカルデットの更なる効果を発動。このカードのリンク先に、手札のモンスター1体を特殊召喚できる。《インフェルニティ・ミラージュ》を特殊召喚し、効果発動。このカードをリリースし、墓地の《インフェルニティ・デーモン》と《インフェルニティ・ネクロマンサー》を特殊召喚。《インフェルニティ・デーモン》の効果でデッキから永続魔法《インフェルニティガン》を手札に加え、そのまま発動」
「それを見過ごすわけにはいかん! 速攻魔法《サイクロン》を発動。そのカードを破壊する」
「やりますねぇ。でも俺は止まらねぇからよ! 《インフェルニティ・ネクロマンサー》の効果で墓地から《インフェルニティ・ビートル》を特殊召喚し効果発動。このカードをリリースして、デッキから同名カード2体を特殊召喚する。レベル4の《インフェルニティ・デーモン》にレベル2の《インフェルニティ・ビートル》をチューニング。2体目の《インフェルニティ・ヘル・デーモン》をシンクロ召喚。効果で《グラビティ・コントローラー》の効果を無効にして破壊する」
残るモンスターは1体のみ。伏せカードもなくなった。
「レベル6の《インフェルニティ・ヘル・デーモン》にレベル2の《インフェルニティ・ビートル》をチューニング。飛翔せよ! 《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》!」
《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》
星8/風属性/ドラゴン族/攻3000/守2500
「スカルデットのリンク先に召喚・特殊召喚されたモンスターは全て攻守力が300アップする。バトルだ! 《クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン》で《暗黒の魔王ディアボロス》に攻撃!」
白銀の翼と漆黒の翼が交錯する。その二色が激突する瞬間、さらに別の黒い影が横切った。
「ダメージ計算前に、手札から《ダーク・オネスト》を墓地に送り、効果発動! 貴様のドラゴンの攻撃力を――」
「クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンの効果発動。そのモンスター効果の発動を無効にして破壊する!」
「くっ、ダメステでもお構いなしか!」
黒い影が白い翼によって撃ち落とされる。ハノイの騎士はその光景を歯噛みしながら見送った。
「さらに破壊したモンスターの攻撃力をこのカードの攻撃力に加える。続けてダメージ計算時、クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴンの第2の効果が発動。ディアボロスの攻撃力をこのカードの攻撃力に加える!」
クリスタルウィング・シンクロ・ドラゴン 攻撃力3300 → 4400 → 7400
「ぐぁあああぁあぁッ!!」
ハノイの騎士 LP4000 → 0
「ここまでやる奴が、まだ残っていたとはな……」
「対戦ありがとうございました。中々楽しかったですよ」
「……本当に変わったやつだな」
なんとか勝てたとはいえ、やっぱ妨害が入ると崩れるな。事故る時は事故るし。スピードデュエルでは展開力を活かせないし。
ロンリーブレイヴも勝ったようだ。
激闘の末にハノイの騎士を下したロンリーブレイヴは、ロンリーの名を捨てブレイヴ・マックスへと進化した。
そして勝利の余韻も冷めやらぬうちに、観衆に見送られてログアウトした。