この都市がおかしいのはどう考えても転生者が悪い! 作:あまねぎ
「はぁ!」
拳撃とともに、剄で練った衝剄弾を幼生体にぶつける。その威力は幼生体の甲殻を砕き、後方にいた幼生体も巻き込んで幼生体の体液が巻き散る。
ベルカ古流武術
あれから数分後、こちらに来る幼生体の数も多少減り、少し手持ち無沙汰になっているとニャル子さんが声をかけてきた。
「アインハルトちゃーん! そろそろ母体討伐隊の母体討伐が始まりますからいっしょに見ませんか?」
「いえ、流石に観戦はちょっと……」
都市を守る武芸者として戦闘中(仕事中)に堂々とサボるのはまずいと思う。
「んもー、真面目ですねーアインハルトちゃんは。この都市に武芸者の誇り(笑)なんてないんですから、もう少しフランクになりましょうよ」
「いや……でも、いつ幼生体が来るかわかりませんし……」
『それならご安心を。念威端子で調べた所、次の幼生体がここに接敵するのは約7分後です』
「それじゃあ、それまで休憩しましょう! これ部隊長命令です」
「……はぁ。了解しました」
深くため息を吐く。
これ以上ごねると二人して私を脅すか、嫌がらせをするでしょうから素直に諦めることにしました。
私も城壁をジャンプして登り、ニャル子さんの隣に座る。
念威端子から送られてくる映像を見てみると、三人の武芸者が幼生体を倒しながら走っていた。高い反応速度持つ男は二刀流の剣で切り刻み、炎髪灼眼の少女は化練剄の炎を纏う刀で焼き切りながら、武芸者とは思えない体の細い白髪の少年は活剄と外力系衝剄に同時に行う技―――金剛剄の反射で幼生体を吹き飛ばしながら、と三人の武芸者は母体に向かって真っ直ぐ突き進んでいた。
それはいい。……ですが。
「なんですか? あの都市外戦スーツは」
画面越しに三人の武芸者を指さす。
一見、母体討伐隊の三人は都市外だというのに、都市外戦用装備の汚染物質遮断スーツを着ていないように見える。だが、一般人よりも眼が良い武芸者である私には彼らの動き、なびかない髪などの微妙な違和感から透明なスーツを着込んでいるのがわかりました。
ニャル子さんがまるでアニメの科学者のように告げる。
「ふっふっふ、あれこそ、我が再誕都市コルベニクの技術の粋を集めて作った光学透過都市外戦スーツ! 通称〝バカじゃなくても見えないスーツ〟です!」
『コルベニクの技術は世界一~』
念威操長が高らかに、それでいて棒読みで叫ぶ。
「ちなみにこの〝バカじゃなくても見えないスーツ〟バッテリー量々の都合で光学透過できるのは約15分です」
「……意味あるんですかそれ?」
『汚染獣戦闘の映像は汚染獣資料館に保管されたり、教材ビデオになったりします。つまり母体戦闘の資料ビデオの見栄えが良くなります』
「ほんっとうに! この都市の武芸者バカしかいませんよね!!」
と三人で漫才をしている間に、討伐隊が母体の元へ辿りつきました。
討伐隊の目の前には幼生体をはるかにしのぐ巨大な汚染獣――雌性体。……それが三体いた。
今まさに決戦が始まろうとしたその時、思い出したかのようにルリさんが三人に念威端子から話しかけた。
『あ、三人ともちょっといいですか?』
十代の武芸者の中でトップクラスの火力を持つ炎髪灼眼の少女――シャナさんが答える。
「なによ。ルリ、今から母体討伐って時に」
『いえ、ここにいる雌性体のうち、一体は剥製にして資料館に置きたいのでなるべく傷つけないで殺してください』
「はは、他の都市の武芸者が聞いたら発狂しそうな命令だな」
そう笑うのは
「ンじゃあ、剥製にする母体はオレがやるか。最近覚えた血流操作をやってみてェ」
そのひょろい体を維持するため、武芸者なのに筋トレを一切せずにこの都市一の金剛剄の使い手になったという恐ろしい経歴を持つ白髪の男――
「俺は右のやつをやる。一番火力の高いシャナはあの腹部の割れてないやつを頼む」
「まだ腹部割れてない……って、まだ中に幼生体が大量にいるやつじゃない!」
さり気に一番面倒なやつの相手を頼むキリトさんに文句を言うシャナさん。
「まぁ、いいわ。中の幼生体ごと燃やし尽くしてやるわ。二人とも行くわよ!」
シャナさんはそう言って、まだ腹部に幼生体を孕んでいるだろう母体に向かって駆け出します。同時にキリトさんと一方通行さんもそれぞれ相手する母体に向かって走り出しました。
一方通行さんが相手する母体はうめき声を上げながら自身の翅で彼を叩き付けようとする。幼生体よりも大きく、固い汚染獣の翅はそれだけで武芸者の体を傷つける十分脅威となる一撃。
一方通行さんはそれを―――
「わりィがここから先は一方通行だ」
正面から受け止め、通常の金剛剄の反射を上回る衝剄反射で翅を引きちぎりました。
活剄衝剄の混合変化 ベクトル反射
彼はそのまま、歩きながら母体の翅や脚の攻撃を全て反射して跳ね返す。母体に触れられるところまで行き、裂けた腹部に指を突き出して母体の内部に衝剄を注ぎ込まれる。
外力系衝剄の変化 血液逆流
一方通行さんの衝剄によって母体の体内は破壊され、内臓はぐちゃぐちゃ、赤い複眼や甲殻の隙間から体液が一気に噴き出して母体は無残に生体活動が停止した。
「剥製素材イッちょ上がりィッと」
そうつぶやく一方通行さんはまさに悪役の顔でした。
続いてキリトさんが討伐する母体を見ると、その母体は顎をカチカチと、殻と殻をカンカンとなる音に気がついだ。
私はその動作の意味を都市の資料で見たことがある。
あれは、仲間を呼ぶ予備動作……!
キリトさんもそれに気がついたのか、さらに加速します。
「モード……ALO」
そう呟いたキリトさんの背中に剄で作られた妖精の羽が生える。
羽が羽ばたくと同時に剄羽からの衝剄が噴射されて超加速で母体の頭部に向かって飛翔する。
音を超える速さで母体にたどり着いたキリトさんはその勢いに乗ったまま、黒の鋼鉄錬金鋼と白の白銀錬金鋼の二刀を構え、叫んだ。
「スターバースト……ストリーム!!」
アインクラッド剣術二刀流 スターバースト・ストリーム
討伐部隊最速の剣が母体を襲う。星屑のように剄が煌めき、空間を灼くかのように飛び散る光の二刀の剣は母体の甲殻をやすやすと切り裂き、甲殻を、腹を、羽を、脚を、肉を、骨を、と次々と母体の体積が減っていく。結果。残ったのは数十にも分割された母体の肉塊のみでした。
そして最後に、未だ腹の中に幼生体を残している母体を相手するシャナさんを見てみると、そこには圧倒的剄量の化練剄で紅蓮の炎を纏った巨大な腕を具現化させたシャナさんがいた。
自在法 真紅
「潰れなさい」
一言。
そう呟いて炎の魔神の拳で母体の腹めがけてぶん殴る。母体が絶叫する。
隣のニャル子さんが「妊婦に腹パンとかシャナさんマジ鬼畜!」とかつぶやいていますがそんなレベルじゃありません。
シャナさんの使った真紅で母体の腹を軽々と貫通しました。胎内に千体以上の幼生体が固まっているというのに。
真紅の拳を引き抜くと中に幼生体の姿はなく、ぽっかりと穴が開き胎内を炭に変えられた。
それでもこの世界の頂点に立つ汚染獣。母体の雌性体はまだわずかに息があった。
そんな死にかけの母体にもシャナさんは容赦しなかった。
彼女の手に持つのは紅玉錬金鋼の刀に火炎の炎を纏わせた大太刀どころではない―――それこそ汚染獣を真っ二つにできるほどの火炎の刃。
自在法 断罪
「死ね」
明らかにオーバーキルな一撃を振り下ろし、母体はただの炭素のかたまりと化した。
結果として、三人の戦闘時間はわずか数秒で三体の雌性体は三人と武芸者によって死に絶えた。
母体討伐の戦闘が終わり、魅入っていたニャル子さんがふぅ、と息を吐く。
「流石、電撃三人衆ですねー。十代前半の武芸者でこの強さとか、アインハルトちゃん並みにありえねー」
「……え、私、彼らと同じカテゴリ扱いですか?」
ニャル子さん、念威操長の二人が何言ってんだ、こいつ……という目で見てくる。
ニャル子さんが悟るように口を開く。
「……アインハルトちゃん。6歳で雄性体討伐部隊に参加してる人は普通じゃないの。電撃三人衆以上の人外なの」
『私も人のこと言えませんが、アインハルトさんも十分異常な武芸者ですよ』
「でも師匠は9歳で雄性体5期を単独撃破したって聞きましたよ?」
「……なんでそこでコルベニク最強の武芸者と比べちゃうんですかねー? ほんとアインハルトちゃんは天然というか残念というか……」
『都市戦争で天剣ごっことか言って、一人で他の都市の武芸者全員と
え、あの人そんなことしたんですか?
と改めて、我が師匠の強さに戦々恐々しているとニャル子さんがゆっくりと息を吐いた。
「はぁ、みなさん武芸の才能があってうらやましいですよ。転生したばかりの頃は俺TUEEEEEEEEしてやろう思ってましたのにね……」
「どうしたんですか? ニャル子さんらしくない」
『ニャル子さんも11歳で戦名を授かり、同年代武芸者の部隊長に選ばれるんですから十分優秀な武芸者ですよ』
「いや……でも―――」
その時、母体討伐隊のサポートをしていた念威操者の声が、都市全体に鳴り響く。
『―――母体すべての生体反応が消失しました。武芸者さんはこれより、幼生体の殲滅班は殲滅作業に移行してください』
前線で戦っていた数人の武芸者たちの目がギラリと光り出す。
今まで幼生体相手にしていた一部の武芸者――殲滅班――が殲滅モードに変わり出す。
コルベニクでは複数体いる汚染獣の殲滅方法は二つあります。一つはコルべニク最強武芸者が広域殲滅剄技でまとめて殲滅する方法。もう一つは―――
「D4C!」
「ロッソ・ファンタズマ!」
「プリキュアシャイニングサークル!」
「
「
「一人でダブルスするよ」
「ディケイドイリュージョン!」
「多重影分身の術!」
「ゴッドシャドー!」
「ガードスキル ハーモニクス」
「
「七人卸先」
―――単純に物量で殲滅する方法です。
コルベニクの武芸者たちが化練剄による分身によっての数が数十倍に膨れ上がり、幼生体の数を上回る。
そして、質、量共に上回る武芸者たちによる幼生体の殲滅するための蹂躙が始まる。
「This way」
「食らえッ! 鋼糸による半径20メートルのエメラルドスプラッシュをーーーッ!」
「トランザム!」
「風遁 螺旋手裏剣!」
「ライダーキック!」
「超級覇王電影球!」
「フルパワー100%中の100%!」
「滅びのバーストストリーム!」
「マスタースパーク!」
「バオウ・ザケルガ!」
それぞれ、自身が持つ必殺技を幼生体たちに叩き付ける武芸者たち。
私たちはそれを仲良く三人で見ている。
……うわぁ、雪をバーナーで炙るような勢いで幼生体が減って行きます。
「あれらを見て私が優秀な武芸者だと思いますか?」
「……………………………………」
『……………………………………』
ニャル子さんの問いに私たちは何も答えられませんでした。
わずか数分で数千体いた幼生体がすべて死に絶え、再び念威操者の声が響く。
『幼生体の殲滅を確認しました。これより、幼生体の死骸撤去作業に入ります。武芸者のみなさんも参加してください。自分で遊んだ
武芸者たちが、うぃー、お疲れ~、あー楽しかった、今日俺、プリキュアハッピーシャワー撃てて満足だわ。と互いに健闘しながら自分たちが遊んだ
……この都市がおかしいのはどう考えても転生者が悪い!
そう思いながら私も死骸の撤去作用に入るのでした。
Q なんであんなに分身(千人衝)使えるやつが沢山いるの?
A 百数年前、NARUTOの影分身を使いたいという転生者がわざわざグレンダンまで行ってルッケンス流を習い、習得した後コルニベニクに帰って広めた結果がこれだよ!