この都市がおかしいのはどう考えても転生者が悪い! 作:あまねぎ
「これより、16名による第一回新人武芸者対抗、武芸テニヌ大会を始めまーす!」
ニャル子さんが宣言し、テニスコートからワーパチパチパチパチ――ッ! と拍手の音。
……帰りたいです。
なんでいきなり、テニス大会が始まったかと言うと、師匠が頼んだという、特別講師平等院鳳凰さんがいるテニスコートへ向かったら、私以外にも十数人の武芸者がいた。
話を聞いてみると、彼らの師匠も全員、会議に出ていていないからので平等院さんが師匠代行するというので集まったようです。それで平等院さんが「テニヌ大会をやるぞッ!」と言うわけでテニス大会が開催してしまったのである。
「実況兼選手を務めるのはいつもニコニコあなたの隣に這い寄る混沌、ニャルラトホテプ、です! そして」
『解説は私、電子の妖精こと念威操長ホシノ・ルリです。本日は会議のためテニスコートには来られず、代わりに念威端子越しで解説を行いたいと思います』
「いや、ちゃんと会議に参加しましょうよ!?」
私のツッコミになんでもないかのように―――昨日の汚染獣戦から仲良くなり名前で呼び合うようになった―――ルリさんが答える。
『念威操者に並列思考はお手の物です。現に私は今、複数の端子越しから会議、昨日、録画したアニメの視聴、ジャンプの閲読、十二面ルービックキューブを同時に行っています』
「念威操者すごッ!!」
ですが、全然尊敬できません。
私とルリさんの会話を見計らって、ニャル子さんがルール説明を始める。
「それでは、武芸テニヌのルールを説明しましょう! 基本ルールは通常のテニスと同じです。ですが、テニスラケットは使用せず、テニスラケットの代わりに自身の持つ錬金鋼を使用します」
「もうその時点でテニスじゃないですよね」
「だからテニスじゃなくてテニヌって言ってるじゃないですか、アインハルトちゃん」
テニヌっていえば許されると思わないでほしい。
「勝敗に関しましては相手より先に6ゲームを取る、または相手をKOするかで勝敗は決まります。ルールは以上です。何か質問はありますか?」
数人が手を上げて質問する。
槍を持った、幻惑剄技を得意とする赤い魔法少女訊く。
「相手への攻撃はどこまでありなんだ?」
「基本、テニヌボールに衝剄纏わせた攻撃なら大体大丈夫です。衝剄を放つとき、衝剄の中にボールがあれば有効ですし、散弾みたくボールの周りに剄弾でまき散らすこともありです。相手の攻撃に対し、迎撃で衝剄を放っても問題ありません。ボール越しじゃない直接攻撃は禁止、化練剄でボールを凍らせて脆くする等のテニヌボール自体を細工するのはルール違反とします」
『黒い悪魔』『カラヤ・アイン』などの異名を持つ、どう見てもパンツなズボンを穿くウィッチが訊く。
「銃弾でボールを打ち返すのは有効?」
「有効です。銃を武器にする人は銃弾でボールを打ち返したり、衝剄で作った翼、拳で打ち返しても問題ありません」
ペルソナ使いの木刀を持った、メガネを掛けた番長が訊く。
「原作『テニスの王子様』で行っていた二刀流を始めとしたルール違反等の扱いはどうなりますか?」
「『テニスの王子様』でやっていたルール違反、技の再現は全て使用オッケーとします」
その後もニャル子さんは転生者からの質問に答え続ける。
そして疑問、質問が終わり、始まる新人武芸者対抗テニス大会。第一試合は私。
当然やる気は起きません。……まぁ、適当にやって負けましょう。
そう考えているとルリさんが言った。
『そうそうアインハルトさん、なのはさんから伝言です。「負けたら72時間都市外組手ね♪」と』
「やるからにはやっぱり優勝を目指しましょう!」
一転。全力で勝つことにします。
72時間都市外組手。
それは長期汚染獣戦闘を想定した訓練のことだ。文字通り三日間、触れただけで皮膚を焼く汚染物質に満ち、傷一つで死に繋がる都市外で組手を行う。食事をしながら組手、錬金鋼が壊れても素手で組手、都市外戦装備が傷ついても応急スプレーで応急処置しながら組手、というまさに命がけの狂った訓練である。
死なないためにも、絶対に負けられません……!
そう決意してテニスコートに立つ。
相手は右目部分に∞マークの仮面を着けた剣を持ち、40枚のカードを差し込んであるバイクに乗っている男。……バイク?
「……バイクって反則じゃないんですか?」
私の疑問にニャル子さんが答える。
「あれは武芸者専用の剄で動くバイク―――D(
「アッハイ」
もうこの時点で超帰りたくなりました。
だが、そんなことは関係ないとばかりにニャル子さんが試合開始の宣言をする。
「ではイリアステル三皇帝の下っ端プラシド対覇王イングヴァルトの末裔アインハルト・ストラトスの試合を開始します」
「俺は下っ端じゃない!」
「その呼び名恥ずかしいからやめてください!」
なんか最初からぐだぐだでした。
気を取り直してしっかりと相手を見る。
そして試合が始まる。
「ザ・ベストオブ1セットマッチ・プラシド、サービスプレイ」
「行くぞ! 俺のターン!」
プラシドさんが勢いよくデッキからカードを引く。
いや、俺のターンじゃなくてサーブしましょうよ。
「俺は手札から機皇兵ワイゼルアインを召喚!」
錬金鋼の記憶復元による形質変化により、プラシドさんの持つカード型錬金鋼が白い機械人形―――ワイゼルアインに変化し、姿を現す。
「プラシド選手、サーブ前にワイゼルアインを召喚したー! あれ、どうやって動かしているんでしょうか? 解説のルリさん」
『あれはグレンダンの名門ルッケンス流の剄技、流滴を応用した技です。剄を糸状に化錬変化させた
早速ニャル子さんたちが実況、解説を始める。
その間、プラシドさんはまだサーブをしません。
「俺はさらに永続魔法、
プラシドさんが器用にワイゼルアインを鋼糸で操り、サーブを放ち、私の真横に飛ぶ。
「15―0!」
……はっ! 目の前の光景のアホらしさ思わずフリーズしてしまいました。
バシン! と両手で顔を叩き目を覚ます。
負けたら地獄の特訓が待っている。負けないよう、しっかりしないと……!
二球目の、ワイゼルワインが打ってきたサーブを今度はきっちりと掌底で打ち返す。
「ほう、打ち返すか。ならばこれでどうだ!」
プラシドさんがボールに向かってバイクを超加速しながら、打ちだした衝剄と同時にワイゼルアインがボールを返す。
先ほどのサーブよりも速い打球……ですが。
「師匠の剄弾の方が速いですよ!」
打ち出された衝剄とボールを私の剄で包みこみ、そのまま投げ返す!
ベルカ古流武術
私の投げたボールはプラシドさんの横をすり抜け、コーナーぎりぎりのところに入る。
「15―15!」
「バカな、俺の
プラシドさんが驚き、今の一撃に実況席も騒ぎ出す。
「アインハルト選手お返しとばかりに旋衝破でポイントを返したー! ……しかし、今のボール掴んでましたけどルール的に大丈夫なんですかね? ルリさん」
『いえ、アインハルト選手はボールは掴んでいませんよ。アインハルト選手は剄を布状に展開してボールの勢いを逃さず相手に受け流して打ち返しました』
「なるほど。分かりやすく言うとバンジーガムでボールを包んで勢いを殺さずに投げ返したといことですか?」
『そんな感じです』
プラシドさんは私を睨みながら再びサーブの体勢に入る。
「たかが曲芸でオレに勝てると思うな!」
「いや、あなたの方が曲芸やってますよ」
そして始まるラリーの応酬。
プラシドさんは前にワイゼルアイン、後ろにワイゼルアインを操るプラシドさん、というダブルス陣形で守備範囲がかなり広い。
しかし、私は守備範囲をカバーできないスピードでボールを放ち続ける。
先ほどの旋衝破で流れを掴んだこともあり、プラシドさんからポイントを取る。……そして。
「はぁッ!」
「クッ!」
「ゲーム1―0 アインハルトリード!」
脚甲でボールを蹴り、コートに叩き込む。
「最初の1ゲームを選手したのはアインハルト選手!」
『さらに次はアインハルト選手からのサーブ。流れは完全にアインハルト選手に来てますね』
まずは1ゲーム先取。そして私からのサーブ。……一気に決めます!
ボールを上に投げ、剄を収束した手甲でボールに手刀を振り下ろす。
「覇王……断空拳!」
「15-0!」
覇王断空拳によって放たれたボールがプラシドさんとワイゼルアインの間に通過する。
それを見てニャル子さんが言う。
「アインハルト選手の覇王断空サーブにプラシド選手反応できない!」
「勝手に技名つけないでください!」
しかもなんかダサいですし。
プラシドさんは私のサーブに届かず、30―0、40―0と得点を重ねる。
そして、止めとばかりにワイゼルアインに向かってサーブを放つ。
ワイゼルアインはボールを両手で打ち返そうとするが、覇王断空拳からなるボールにワイゼルアインの体が耐え切れず、両手が粉々に粉砕されながら吹き飛ぶ。
「ゲーム2-0アインハルトリード!」
「………………ワイゼルアインが破壊されたことによって、永続魔法、
プラシドさんはデッキから出したカード型錬金鋼を取り出し、その錬金鋼を記憶復元させ、白い機械の卵みたいなものがプラシドさんの目の前に出現する。
そして、再びプラシドさんにサーブが移る。
「噂には聞いていたが予想以上にやるようだな。遊びはここまでだ。アインハルト、俺の本当の力を見せてやる」
そう言うとプラシドさんはDホイールから立ち上がり、腰に挿していた剣をDホイールに突き刺す。
瞬間、プラシドさんの剄が強く煌めく。
……来る!
どんなサーブが来ても対処できるように体全体に力を籠める。
そして、プラシドさんの剄の輝きが弱くなり姿を現したのは―――
「……は?」
思わず素っ頓狂な声を上げる。なぜならプラシドさんの姿が……。
「な、なんとー!? プラシド選手、Dホイールと合体したー!?」
ニャル子さんが言った通り、プラシドさんの下半身とDホイールが一体化して合体していた。
……なぁにこれぇ。
ルリさんが解説する。
『人馬一体ならぬ。人機一体。Dホイールの究極進化形態。プラシド選手のこの大会にかける思いを感じますね』
プラシドさんが私に向かって指をさす。
「さぁ、第二ラウンドの開幕だ!」
多分ルッケンス流の人がコルベニクに来たらサヴァリス以外発狂すると思う