蛇に転生した男 〜All For You〜 作:ヘビくんちゃん
転生。その意味は生まれ変わりである。死んだ後に新たな人としてこの世に生を受ける事を意味するその言葉。宗教によっては、転生を信じている者もいるが、誰もそれを証明する事は不可能だ。
誰が死後の現象を証明するというのか。そんな人がいれば、間違いなくノーベル賞ものである。
さて、そんな証明不可な無理難題を、俺は体験していた。
最後の記憶は、電車に轢かれた所で終了している。ブラック企業に就職して、日常と化した数時間残業が終わり、駅のホームに立っていたら立ちくらみを起こして、路線に真っ逆さま。それで電車に轢かれたはずである。
間違いなく、即死だったと思う。自分の体内から水が弾けるような、聞こえてはいけないような音がした後に俺の意識は落ちた。電車に轢かれたとしても、何とか一命を取り留めるような人間もいるけれど、あの時の俺は体はボロボロで生き残れるような状態ではなかった。
……なのだが、目が覚めたら、見知らぬ小屋で銀髪の子供になっていた。しかも、親のような人の姿は見えず。
夢か何かかな?
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あれから、20年程が経過した。事故に遭ったが、運良く生き残っていて、俺の体は昏睡状態で夢でも見ているのかと思っていた。だが、流石に夢にしては長過ぎる。つまり、これは現実という線が濃厚だろう。
出来れば、これは夢でいて欲しかった。死んだという事を認めたくなかった。だが、これは現実だと認める他あるまい。電車に轢かれて死んだ事に関しては、本当に俺は馬鹿野郎としか言えない。未練しかない人生だった。何故、創作物でよく見かける転生主人公達は、あんな風にすぐに転生を受け入れる事が出来るのだろうか。永遠の謎でしかない。
色々と後悔とかはあるけれど、どれだけ後悔したとしても過去は変えられない。出来る限りは前を向いて生きていこう。暫くは後ろ向きになりそうだが。
新たな人生を歩む事になったけれど、色々とおかしい所がある。
まず、俺の体が殆ど成長していない。20年も生きていれば、それなりに体は大きくなるはずなのだが、今の俺の体は精々小学校高学年程しかない。あまり身長が変わらない人もいるが、それにしても成長しなさすぎである。
次に俺の顔。どこかで見たような気がする。どこかで見たような気がするのだが、思い出せなかった。あと少しで思い出せそうなのに、思い出せないというあのもどかしい感じ。だが、それも俺が今いる場所の名前を聞いて思い出せた。
俺が今いる場所の名前は「尸魂界」。その名前を聞いて、ピンときた。ここ、BLEACHの世界やん。俺の顔、子供の時の市丸ギンやん。
BLEACHとか市丸ギンについて知らない人の為に簡単に説明すると、BLEACHというのは、人気漫画の1つであり、完結した今でも人気のある作品である。なお、俺は途中までしか読んでいない。主人公とその仲間達が友達を助けに行く「破面編」の途中までしか読んでいない。その後も読みたかったのだが、就活やら何やらで忙しく、いざ就職したらブラック企業で漫画を読む気力すらなかった。完結したという話も聞いて、どうせだし最後まで読んでしまおうと思っていた時に事故死したのだ。
いつかは読もうと思っていたのでネタバレに関する情報は極力仕入れないようにしていたから、その後にどのように物語が展開したのかは全く分からない。
そして、市丸ギンというのは漫画の中に登場する人物の1人だ。実は黒幕の仲間でしたという事は知っているが、結果的にどうなったのかは全く知らない。生きているのか、死んでいるのかすらも不明だ。それを知る前に俺は死んでしまったから。その後の事について知っているのは「13kmや」という発言がネタにされたという事ぐらいである。
まぁ、無駄に敵とか増やしたくないし、俺は黒幕の仲間になるつもりはない。そもそも、物語と関わる気がない。原作で登場したキャラクター達をこの目で見たいという欲はあるけれど、それ以上に誰かと真剣で戦うとか怖すぎる。誰かを斬る事も、誰かに斬られる事も絶対に嫌だ。
という事で、俺は平穏に過ごそうと思う。
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俺が何故か市丸ギンになってから、大体30年が経過した。その間に色々な事があった。興味本位で干し柿を作ってみたり、他にも幼女を拾ったりもした。干し柿は超美味しくて、俺の好物の1つとなった。最後の幼女拾った宣言は明らかな事案なのだが、これは訳がある。別に複雑な問題とかではない。
道端で倒れていたから、助けただけという簡単な理由だ。全身傷だらけだったが、俺には医学の心得なんてものはない為、傷を消毒して包帯を巻くぐらいしか出来なかったが、何もしないよりはマシだろう。その後は、自分の家に帰ってもらうつもりだったのだが、いつの間にか俺の家に住み着いていた。
曰く、帰る家がないらしい。
そんなこんなで我が家の住人が増えた訳なんだが、その拾った幼女の名前を聞いた時、俺は驚愕した。それと同時に納得もした。その顔には何処かで見覚えがあるような気がしていたのだが、思い出せずに悶々としていたのだ。
その幼女の名前は「松本乱菊」。
もうね、俺、びっくり。松本乱菊という名の人物を知らない人の為に説明しておくと、BLEACHの登場人物の1人である。物語中で過去に同棲していたという事が明かされている。その時の俺は「おのれリア充め」とか思っていたのだが、その立場になってしまうとは。人生は何があるのか分からないものだ。
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乱菊が家に住み着いてから、10年程が経過した。最初は、女子と同棲するという経験が前世含めて一度も無かった為、色々と慣れなかったが、10年もすれば流石に慣れてくる。それに乱菊は明るい性格をしており、独りで静かだった我が家が良い意味で一気に騒がしくなった。誰かがすぐ近くにいてくれるのは、本当に嬉しい事なんだと初めて知った。
前世は、ちょっとした訳アリだった。家族はおらず、友人と言える人物は1人もいなかった筋金入りのコミュ障だった俺だ。
まぁ、つまりだ。乱菊は俺にとって、めっちゃ大切な人だ。これが家族愛なのか、友愛なのか、それとも恋愛感情的な何かなのかは未だに分からない。自慢にもならないが、そういったものを一切経験した事のない俺の鈍さは凄まじいの一言に尽きる。けど、乱菊が俺の中ではとても大切で、乱菊の隣が俺の居場所だと思えるのは確かだ。
……怠け癖が玉に瑕だが。最初は、その怠け癖をどうにかしようと思っていたのだが、諦めた。うん、あれは無理だ。
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今日は、ちょっとした私用で家を空けていた。乱菊に留守番を頼んでいたのだが、猛烈に嫌な予感がした俺は、駆け足で我が家に向かっていた。こういう嫌な予感は当たって欲しい時に外れ、当たって欲しくない時に当たるという経験をしたのは俺だけじゃないはず。前にもこういう嫌な予感が当たった事はある。それは、前世で俺が死ぬ日の朝。
要するに、こういう嫌な予感は馬鹿には出来ないというのを俺は身を以て知っている。
そして、その嫌な予感は現実となった。我が家があった場所にあるのは、家の残骸であろう瓦礫だけ。家なんてどうにも出来る。住人のいない家に住むでもいいし、金を稼いで家を建てるとか、どうにでも出来るのだ。そして、当たり前だが人に代えが効くなんていうのは有り得ない。
「乱菊ッ! 乱菊どこだ!?」
家の周辺を走り回っていると、家から少し離れた場所で倒れている傷だらけの乱菊を発見した。何故、傷だらけなのか。何故、家から離れた場所にいるのか。色々と疑問は尽きなかったが、乱菊は気絶しており、訳を聞く事は出来ない。
それに何故か、乱菊の何かが失われたような印象を受けた。長い間、一緒にいた俺だからこそ気付けたであろう違和感。尽きぬ疑問は後回しにして、乱菊を連れて風を凌げる場所に行く。ここらは治安が悪く、人が蒸発する事は日常茶飯事である。主のいない家もそこら中にある。
もしもの時の事を考えて、避難所として目を付けていた森の中にある小屋。そこに乱菊を運ぶ。前々から必要最低限の食料や家具、医療品などを運び込んでおいたのが功を為し、最低限であるが、傷だらけの乱菊への処置が完了した。処置と言っても、傷口を消毒して、包帯を巻いただけなのだが、何もしないよりは遥かにマシだろう。
布団に乱菊を寝かせて、俺はその傍らに座る。
そして、考えるのは乱菊が誰に何故襲われたのかという事だ。ここは治安が悪いからという事だけで納得は出来てしまうが、それでも納得できない部分がある。それが乱菊から失われたものだ。あくまで推測になるが、奪われたものは乱菊の持つ霊力だろう。
尸魂界内に存在する人は2種類に分けられる。霊力を持つ者と持たない者だ。霊力というのは、まぁ特殊な力の事なのだが、霊力をどれだけ持っているかによって、その者の強さが変わる。ドラゴンボ〇ルの気みたいなものだと思っていい。俺も乱菊もその霊力を持っている。霊圧というのもあり、それは対象の強さを調べるのに使える。同じくドラゴンボ〇ルで例えると戦闘力のようなものだ。
それで乱菊から感じられる霊圧が何か物足りないように思える。
確証もないが、案外正しいのではないかと思える。じゃあ、誰が奪ったのかという話になるのだが、それについてはさっぱり分かりません。すぐにパッと思い付くのは、尸魂界編で黒幕だと判明した藍染惣右介だろうか。何故と問われても、単純に黒幕だからというだけなのだが。
霊力と思わしきものを奪われて乱菊が目覚めないのではないかという嫌な推測が頭に思い浮かぶ。そんな事は無いと思いたいけど、俺はそこまで霊力や魂魄などに詳しい訳ではない。乱菊の重要な体の一部が奪われたようなものだ。影響が何もないというのは、逆にあり得ないだろう。
絶対にそんな事が起きませんようにと俺は願う事しか出来なかった。
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意識が覚醒する。目を開けると、窓から朝日が差し込んでいた。あ、乱菊の様子を見てる間に寝落ちしてた。
「乱菊……?」
そして、視界に映るのは布団から起き上がり、こちらを不思議そうに眺める乱菊の姿。目覚めた乱菊の姿に、思わず彼女の名を呼んでしまう。
「どうしたのギン? 死人でも見つけたような顔をして?」
そんなピンポイントな顔があるのかよと言いたいけど、喉が震えるばかりで口から言葉が出ない。昨日は「乱菊が目覚めないのではないか」なんていう馬鹿みたいな想像をしてしまったせいか、目の前に乱菊が起きている光景が夢なのではと疑ってしまう。
現実かどうか調べる為に自分の頬を全力で抓ると普通に痛かった。どうやら、これは現実らしい。乱菊曰く、死人でも見つけたような顔をしている俺が、急に頬を抓るという行動に乱菊に浮かんでいた戸惑いや疑問の顔は更に深くなる。
「本当にどうしたのギ──」
乱菊が何か喋っていたけれど、俺はその言葉を遮って乱菊を抱き締めていた。
「ちょっ!? 本当にどうしたのギン!? 何か変よ?」
「……もう少しこのまま……」
戸惑いの声を上げる乱菊にもう少しこのままでいてほしいとお願いする。乱菊の方は何が何なのかさっぱりの様子だったが、それでも何かを察してくれたのか、俺の背中に手を回してくれた。乱菊から感じる暖かさで安心する事が出来た。
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思い出すだけで顔が噴火しそうになるぐらいには恥ずかしい出来事の翌日の夜。俺は、1人で我が家があった場所まで来ていた。庭に干してある干し柿が無事だったのは昨日確認していたから、それの回収と家の残骸の中からまだ使えそうなものがあったら持って帰る為である。
干し柿やまだ使えそうな家具とかを持てるだけ持って、森の中にある小屋に向かう。乱菊を襲った人が近くにいる可能性がある為、素人ながら気配を消して帰っていると、誰かの話し声が聞こえた。ちょっとした興味で茂みで身を隠しながら、声がする場所まで移動する。
そこにいた人物の顔に思わず声が出そうになるが、何とか抑える。声を上げそうになった理由は簡単だ。知っている死神がそこにいたからだ。そこにいたのは藍染惣右介と死神と思わしき男達。
死神と思わしき男達の1人の手には桃色の何かがあった。それを見た瞬間、俺は直感した。
あの桃色の何かが乱菊から奪われた物であると。
今すぐあそこに飛び出して、乱菊が奪われた物を取り返したい。だが、そんな事をすれば一瞬で終わる。俺が死ぬという結果で。
俺がBLEACHの漫画を読んでいたのは途中までだが、その途中までで藍染惣右介の強さは十二分に分かっている。そして、藍染を直で目にした瞬間、体の震えが収まらない。あれに敵対してはいけないと本能が警鐘を鳴らしている。
それはきっと恐怖なのだろう。自分とは次元の違う生物を目の当たりにした事による恐怖だ。だが、それ以上に大きな感情が俺の中にあった。
それは怒りだ。
乱菊から奪い取ったそれを我が物顔で扱っている事への怒りだ。乱菊を傷付けた事への怒りだ。心地よかった乱菊との生活に手を出した事への怒りだ。
あぁ、認めるよ。俺は乱菊が好きだ。恋愛的な意味で好きだ。俺に笑顔をくれた彼女が好きなのだ。俺の好きな乱菊を傷付けたあいつらは絶対に許さない。
俺のこの手で絶対に後悔させてやる。そして、奪われた物を絶対に取り返すのだとこの瞬間、俺自身の魂に誓った。