蛇に転生した男 〜All For You〜 作:ヘビくんちゃん
藍染惣右介を発見した後、彼らに気付かれないように静かに家に帰った。既に日は暮れていて、辺りは真っ暗だった。
家の扉を開けると、乱菊は布団の中で寝ていた。相変わらずの寝相の酷さに少し笑ってしまった。寝ている間に吹き飛ばしたであろう掛け布団を起こさぬように優しくかける。
寝相が酷かったり、涎を垂らして寝ている乱菊の姿を見て、何故、こんな彼女を好きになってしまったのだろうかと思ってしまう。いや、違うか。こんな彼女だから好きになったのかもしれない。これもこれで乱菊の魅力の1つなのかもしれない。
……ごめん嘘。もう少しでいいから、慎みというか、そういうのを気にして欲しい。
寝ている乱菊の頭を優しく撫でる。きっとこの先、俺の手は血に濡れるだろうから、この手で乱菊を触るのはこれで最後になるかもしれない。
藍染に奪われた乱菊の物を取り返す為には、原作の市丸ギンのように藍染の仲間になる必要がある。そして、本人の口から聞き出すしかないのだ。【鏡花水月】の攻略法を。
【鏡花水月】というのは、藍染が持つ斬魄刀の銘である。斬魄刀というのは、特殊な能力を宿す刀の事であり、持ち手によって発現する能力は異なる。藍染が持つ斬魄刀の能力は完全催眠。ある条件を満たす事によって、何時如何なる時でも対象の五感や霊感を自由に操る催眠能力だ。ある条件というのも容易に満たす事の出来るものであり、作中に登場する能力の中でもその凶悪さは抜きん出ている。しかも、藍染自身の戦闘能力も同じ隊長格を瞬殺するレベルでヤバい。
だが、メタ的な事を言ってしまえば、BLEACHは漫画である。作品に登場する完全無欠の能力に見えるそれでも、何かしらの抜け道がある事が殆どだ。例に漏れず【鏡花水月】もそれがある可能性はある。そう仮定すると、【鏡花水月】の抜け道を聞き出すには、藍染の口から直接引き出す必要がある。
……もし、弱点とかなかったら終わるんだけど。
そういう訳で俺は藍染の仲間になる事にした。まぁ、とりあえずは藍染に俺の有用性とかを見せて、仲間にさせてもらう必要がある。どうやって、藍染に俺の存在を見出してもらうか。賭けの要素が大きいが、真央霊術院で優秀な成績を残して、俺が使えるという事を証明するしかないだろう。真央霊術院というのは、死神を育成する学校の事だ。
賭けというのは、俺が藍染に興味を持たれなければ、そこで終了だという事だ。藍染の仲間になる事も出来ず、【鏡花水月】の弱点も聞けず、乱菊が奪われた物も取り返せない。
ま、頑張るしかないか。努力が必ず報われるというのはありえないけど、そもそも努力しなければ報われる可能性すらもないのだから。
「おやすみ、乱菊」
──────────
乱菊が襲われてから1年程が経過しました。時間飛びすぎだろって? 全くもってその通りでございます。許してください。
だが、特筆すべきような出来事が無かっただけだ。俺がこの1年間でやった事と言えば、乱菊に隠れて真央霊術院に入って飛び級しまくって本当は6年かかる所を1年で卒業したというだけだ。あと、藍染の御眼鏡には
あれ、結構重要な事ばっかりだったか?
「主は1人で何を考えているのだ……」
目の前には、呆れた様子の黒髪黒目の袴姿のショタがいた。誰あろう、シン君である。
「シン君言うな。儂には、【神鎗】というちゃんとした銘がある」
見た目はマジのショタなのに、口調は爺のそれである。ショタジジイというのは、一部の人の性癖には刺さるのだろうが、俺には全く刺さらない。残念だったな。目の前のショタジジイは、自分の事を【神鎗】と言っているが、それはちゃんとした正式な名前で間違いない。キラキラネームを付けられた子供とかいう訳ではない。目の前のショタジジイは、俺の斬魄刀である【神鎗】の姿である。ここは精神世界で、その中で【神鎗】と話をしているのだ。
俺の斬魄刀の為か、俺の考えている事は全てお見通しであり、プライバシーもへったくれもない。俺が女性で、斬魄刀の中身が男だった場合、セクハラとかで訴える事が出来るのではないだろうか。斬魄刀を訴えるというのも、それはそれでヤバい人でしかないのだが。
「それにしても、随分と余裕だな。これから主は殺し合いをするというのに」
…………………大丈夫だ、問題ない。
「…………本音は?」
「ごめんなさい嘘です。めちゃくちゃ怖いです」
無言の圧力というのは、目に見えぬ力を持っているに違いない。即行で前言撤回する事になった。てか、俺の心が筒抜けなんだから、嘘か本当かなんて、聞かずとも分かるだろうに。
自分の手を見てみれば、微かに震えている。それに声も若干上擦っている。真央霊術院で虚の退治ぐらいは何度もした事はあるが、同じ死神と殺し合いをした事なぞ一度もある訳がない。そして、今回の戦いで完全な悪はこっちで、むしろ相手は被害者だ。その被害者を俺を殺す事になる。
いやぁ、普通に怖い。前世では平和な日本に住んでいた俺が、真剣で誰かを殺す事に恐怖を覚えないようなサイコパスになった覚えは無い。乱菊の為とかいう言葉を免罪符にする程、俺はクズじゃないつもりだ。まぁ、まともな人だったら、そもそも復讐なぞしないのだろうが。
これから死神を殺すのは俺の意思なのだから。好きなだけ恨んでくれても構わないとは思っている。それでも、俺には為さなければいけない事がある。藍染惣右介は手段を選んでいられる余裕があるような敵ではないというのは漫画を読んでいても分かっていたし、実際に会ってみてもよく分かった。
藍染への復讐。乱菊の奪われた物を取り返す。それが俺のやらねばならない事。その後は、出来れば乱菊とのんびり暮らしたいなぁ。
無理だろうけど。
深呼吸をして、覚悟を決める。こんな時が来るであろう事は分かっていたから、覚悟は1年前にしていた。頭の中で乱菊の顔を思い浮かべてみれば、何故か安心できた。再び手を見れば、震えは止まっていた。
さて、行くか。
──────────
「市丸ギン、準備はいいかい?」
目の前には藍染がいる。周囲は夜の森に囲まれ、他者の気配は感じない。ここにいるのは、俺と藍染だけ。今すぐに剣を抜いて斬りかかりたいが、黒い感情は俺の心の奥底に隠す。これを外に出すのは、その時が来てからだ。藍染を殺すのは、まだ早い。今この段階で藍染に俺の本当の目的を知られるのは流石にまずい。藍染を殺すその時まで己を偽れ。
「もう間もなく、ここに五番隊第三席が来て、君を殺そうとするだろう。君がやる事は、三席を殺す事だけだ。今は他に何も考えなくていい。三席程度に圧勝できないようなら、僕が君を殺すから、そのつもりでいてくれ」
不敵で不気味な笑みを浮かべて、無理難題をおっしゃる藍染副隊長。
「圧勝? 僕、ついこの前に霊術院を卒業したばっかりですよ?」
三席というのは、その隊の中で3番目に偉い人である。それに見合うだけの実力もあるという事だろう。対して、僕はつい最近に卒業したばかり。それなのに、三席に勝てと言う。しかも、圧勝という条件付きで。出来なければ、藍染副隊長に僕が殺される。いやぁ、鬼畜やわ。
「なに、君なら出来るさ。そら、来るよ」
謎の信頼の言葉を聞きながら、何者かの霊圧が近付いて来るのがよう分かる。霊圧を感じる限り、僕の敵ではなさそうやけど。初見殺しの斬魄刀とか持ってたら、ちょっと困るんやけど。ま、なるようになるやろ。
森の奥から1人に死神が現れた。黒色の死覇装に身を包み、腰には斬魄刀を掛けている一般的な見た目の死神や。相対して感じられる霊圧では、さして問題はあるように思えへん。藍染副隊長みたいに化け物みたいな霊圧を隠してるとかだったら、流石に僕泣くけど。
「藍染副隊長。こいつですか!? 平子隊長の命を狙っているという輩は!」
まるで親の仇でも見るような目でこちらを睨んでくる三席さん。ほんま怖いわぁ。おっかないなぁ。
「そうです、
藍染副隊長に色々と吹き込まれて、僕という悪者を殺そうとしてくる三席さん。藍染副隊長によると、色々と仕込んで、僕が隊長を狙う敵と思わせるように仕組んだらしい。どうやったのかは想像はつかないが、藍染副隊長なら出来そうやなと納得してしまいますわ。
僕が悪者という事に間違いはないのだが、もっと悪者の黒幕がそこにいるんやけどね。黒幕の藍染副隊長は、先程までの悪者の笑みを消して、切羽詰まったような演技をしている。その演技力たるや、藍染副隊長が黒幕だと知っている僕から見ても、驚愕の一言である。
藍染副隊長の変わり様に少なからず驚いていると、藍染副隊長は何処かに行ってしまった。どうせ、これから起こる戦いを見ているんやろうな。下手な戦いをすれば、文字通り斬り捨てられかねない。
「護廷に弓引く反逆者め! 貴様は、この
そう宣言した三席さんは、腰に差してあった斬魄刀を抜き去る。抜いた刀の鍔の形が三角形になっとる。【浅打】の鍔は四角形であるから、恐らく始解は出来るんやろな。流石に卍解は出来へんやろけど。
「”吹き荒れろ”【
やっぱり。解号と共にその刀に変化が訪れる。刀身の見た目はそれ程変わっていないが、確実に変化はあった。その刀から風が吹いている時のような音がしている。目には見えないが、刀の周囲で風が発生しているのだろう。解号や斬魄刀の名前的に風に関系する能力なのは明らかや。
さて、どうしたもんやろ。相手の出方を見るか、それともこちらから仕掛けるか。僕の斬魄刀を考えれば、こちらから一気に仕掛けた方がいいのかもしれへんけど、藍染副隊長は「圧勝」と言うた。となると、相手の攻撃を真正面から受け止め、相手を潰すのが正解なんやろか。藍染副隊長の考え方は、僕と異次元過ぎて、よう分からんわ。
とりあえず、真っ向から潰す方針で行くのが正解やろ、多分。間違ってたら、その時は死ぬ時や。
僕の方も斬魄刀を抜いて、構える。
「子供だからと言って容赦はしない! 藍染副隊長の敵は俺の敵だ! 食らえ! 【
そう言う三席さんの言葉には、狂信とも取れる程の藍染副隊長への信頼が見えた。藍染副隊長の人心掌握の凄さがよう分かるわ。怖すぎ。
三席さんがその場で刀を振るうと、風の音がした。何か仕掛けてきたのは分かってるし、とりあえず避けてみようか。瞬歩でその場から離れると、僕が元いた場所の近くにあった木の幹に刃で切り刻まれたような跡が出来ていた。つまり、【風切】というのは風の刃を飛ばす技と考えてよそうや。
「まだまだぁ! 【風切】! 【風切】! 【風切】! 【風切】ィィイイ!」
何度も何度も風の刃を飛ばしてくるが、その全てを瞬歩で避ける。僕の瞬歩に目が追い付いていないようで、風の刃が僕に掠りもしない。僕が瞬歩で消えて現れて、風の刃が飛んできて、それを避けるだけ。その繰り返しである。ホントにそれを繰り返すばかり。
もう少し他の技は無いのだろうか。いや、始解が出来るだけで死神の中でもエリートの方ではあるんだよ。始解が出来ない死神の方が数は圧倒的に多いし。それでも藍染副隊長が僕にけしかけるぐらいだから、もう少し何かあるのではないかと疑っていたんだけど。
この分だと、何も無さそうやな。
終わりにしよか。
瞬歩を使って、一瞬で三席さんの背後を取る。
そして、お別れの言葉を口にする。
「ほな、さよなら」
ー”射殺せ”【神鎗】ー
──────────
僕の足元には頭に穴を開けた元三席さんが倒れとる。頭に開いた穴は、僕の刀で開けた穴や。僕の斬魄刀【神鎗】の能力は、刀身がめっちゃ速く伸びるという単純なものや。けど、単純だからこそ強い。僕にとって、相手との間合いはないようなものだし、奇襲もやり易い。
「期待以上の腕だったよ、市丸ギン。うちの三席はどうだった?」
藍染副隊長が現れて、そう言ってくれはった。どうやら、あんな感じで良かったようや。良かった良かった。それにしても、これが三席か……
「全然あかんわ。話にすらならん」
その強さは正直拍子抜けするレベルだった。僕がやった事は、瞬歩で攻撃躱して、後ろから頭貫いただけやし。始解すらする必要が無かった気がする。一応、藍染副隊長がいたから、有用性をその目で見てもらう為に始解はしたけどや。
表では何でもないように振る舞っているが、裏では吐きそうな程に気持ち悪かった。人の頭蓋骨を砕き、脳を貫いた感触が腕にこびりついて離れないや。初めて人を殺したという罪悪感が僕の心を圧し潰す。きっと、この先はこんな事を何度も繰り返すんやろう。
それでも僕は、俺は止まる訳にはいかない。
俺には果たすべき目的があるのだから。
「破道の百 大学課題消滅轟天大砲」なんていう破道が欲しいです。大学とか課題なんてマジいらないっす。色々とあるので投稿ペースは遅くなるのでご容赦ください。
以上、作者の愚痴でした。