オレは藤田稔、二九歳。バキバキのアラサー。そんで元男。
というのも、かれこれ二年前にちょっと遅めのTS症候群にかかってしまい、性別が変わってしまったからだ。この病気、普通は思春期くらいまでに発症することが多いらしく、病院のお医者様もこの歳でこんな完璧にTSするなんて珍しいとお目々をキラキラさせていた。最悪の場合どこかしら障害が残ってもおかしくなかったらしく、そこら辺は幸運というべきか何というか。当初、なんかヒゲが薄くなってきたヤッターとか言っていた能天気な自分を責めたいがもう遅い。
それはともかくとして、こうしてどこに出しても恥ずかしい独身アラサーTS済みOLの出来上がりって訳だ。人生って哀しいね。
ただ、生憎と世の中は予想外に長期化している某新型感染症パンデミックの真っ最中。出来る限りのテレワークや外出自粛の風潮は大歓迎だ。一々めんどくさい服の着回しや化粧から解放されてお肌の調子もすこぶる良い。ずっとこのままの社会でいて欲しいもんだぜ。一応社会人としてそろそろ中堅、外面を繕うのは慣れっこだが、やらなくていいならそれにこしたことはないし。
しかし、好きに飲みに出歩けないのだけはいただけない。これまでは隙さえあれば飲みに出掛けてたのに、そういうのが出来ない世の中になるなんてびっくりだぜ。
と、愚痴はここまでにして。テーブルの向かいに座る高校時代の友人、伊藤颯斗とビールの缶をぶつけ合い、「おつかれさん」と乾杯を交わした。
「ッんあ〜〜〜! ようやくキンタマキラキラできるわあ……!」
喉を鳴らして缶ビールを流し込んだ颯斗が、平日の疲れをくだらない言葉とともに吐き出した。少し面長で、人畜無害な草食動物みたいな風貌なのになかなか言ってる内容がひどい。人の良さがにじみ出ているような印象とのギャップってやつか。オレは嫌いじゃないぜ。
そしてざんねん、オレにはもう付いてないんだゴールデンボールは。「オレの分までキラキラさせといて」オレは片手をヒラヒラさせてそれを受け流すと、道中買ってきた牛丼を開封する。
「おっけーキンタマにグリッター塗しとくわ!」
「すっげえビカビカになりそう!」
酒盛り開始直後からフルスロットルのくだらなさにゲラゲラと笑い合う。
颯斗とは高校時代に仲良くなって、それなりに遊んだりした仲だった。しかし、大の仲良しと呼べるかは微妙なところで、大学はそれぞれ別々に進学して、学生時代は全くというほど関わりがなかった。だが奇妙な縁があるもので、就職のため上京してみればまさかの二駅違いのところにこいつが住んでいたのだ。とりあえず遊んでみると、お互い酒好きだということが発覚して、それ以来よく飲みに行くようになった。
意外にも長続きした交友関係だったが、オレが例の病気のせいで一年くらい酒飲んでる場合じゃなくなり、少し疎遠になったこともあった。そして、ようやく身の回りも落ち着いて来たと思った、そんなタイミングでこのパンデミックだ。夏の間もコンスタントに流行していて、大分肌寒くなって来た今、また酷くなる兆しすらある。こうなると会社の飲み会や各種懇親会も完全になくなり、いよいよ人に会わない生活になってしまった。
そんな時、颯斗から『宅飲みでもしようや』という誘いがあったのだ。どうやら颯斗もこのサツバツとした冷凍都市の暮らしに辟易していたようで『せや、ご近所に酒飲みがいるやんけ』と思い至ったらしい。これにはオレもニッコリ。電車で二駅くらいなら自転車でもあればあっという間だ。まあ気の知れた友人同士サシで飲むだけなら大丈夫っしょ、たぶん。
そんなノリで、週末だったりにお互いの部屋を行き来するルーチンが出来上がったのだった。本日はキンタマキラキラゴキゲン金曜日、颯斗の部屋からお送りしております。
オレは紅生姜を適量乗せた牛丼を頬張ると、それをビールで流し込んだ。
「あぁ〜。今週もなんとか生き残ったわぁ」
思わず感想が溢れる。これこれ、これよ。仕事終わらせて速攻風呂入って酒持ってチャリでマッハした甲斐ありましたわ。トランクひとつだけで浪漫飛行負けじとリュックひとつだけで飲酒希望だぜオレは。
どうせコートとか着るからスウェットのままだし、ひとまず腹に収めるための飯は牛丼だしと雑さ極まりないけど、これがいいんすわ。月並みな表現だけど、小さな幸せってやつ? ほんと、一週間お疲れ様でした、すべての労働者よ。そして今も働いてくれている人、とてもありがとう。世界はみんなの仕事でできています。
「だなあ〜。ということで、今日は飲もう!」
「飲むぜ〜めっちゃ飲むぜ〜」
颯斗は笑って宣言すると、テーブルにラベルのほとんど貼られていない緑色の瓶をドガンと置いた。どうやら、一本目の缶ビールは速攻飲み終わったらしい。
「ハートランドか、いいね!」
「とりあえず一人一本な」
颯斗が早速栓抜きで王冠を抜いて俺の前にボトルとグラスを差し出して来た。なんか彼の背後から後光が射してる気がする、およよ……。
「今日はビールの日?」
「そうそう。駅から反対側で気がつかなかったんだけどさ、個人経営の酒屋さんあって。試しに入ってみたらなんかハートランドが目に入ってさ、久々に飲みてえなって思ったのよ。あと、ネットで色々クラフトビール買ってみた」
「えっヤバ。いくら払えばいい?」
「んーまあ、適当で」
オレが財布を取り出そうとすると、颯斗は顔の前で手を横に振り、後でなと言った。こんなの、絶対あやふやになるやつじゃん。いつもごめんなあ。
あなたは神を信じますか? の問いに今明確な答えが出たぜ。目の前にいるわ。どうしよう、オレ今日金麦と角瓶しか持って来てないんだけど。大丈夫? お布施足りる?
そんなオレの表情を見て、しばし考えを巡らせたような素ぶりをした颯斗が口を開く。
「んー、そうだなあ。じゃあ、ツマミ類、頼んだ」
手酌で飲み始めようとした颯斗のグラスへ、半ば無理矢理ビールをお酌してやると、彼は小さく礼を言って「冷蔵庫の中適当に使っていいから」と続けた。
「あいよ任された」
うむ。これならなんとか精神的な負い目はなくなったか? いや、食材とか結局は颯斗の使うわけだし、これじゃ同じか? ぐぬぬ、どうすれば、どうすればいいのか。
そうだ、とりあえずビールを飲もう。開封済みの金麦を一気して、ハートランドをグラスに注げば最高さ。きっといい案浮かぶっしょ。
++
「ぐあーよっぱらった」
俺の向かい側で、緩めのパーマをかけたボブカットの女——友人の稔だ——が座椅子に背中を預けてのけぞった。丸っこいクラシカルな眼鏡の奥の目はトロンとしていて、首から上は見事に真っ赤になっている。自己申告の通り、かなり酔っ払ってるんだろう。テーブルには、食べ終わった皿や空の缶・瓶が散乱している。
「んいぃ……煙草吸ってくるわ」
「おう」
稔はそう言うとリュックのポケットから喫煙セットを取り出し、ゆらりと立ち上がった。細っこい体格と女性としては長身な彼女が、ふらふらと窓の方へ歩いていくのを目で追う。
窓の外、ベランダに出た稔が夜の空気に身を震わせるのが見えた。そりゃあ、あんなスウェットだけで外に出たら寒かろう。それに、さっきから気になっていたが少し風も出てきたようで、稔はバタつく髪の毛を鬱陶しそうにしている。俺は煙草をやらないから、そうまでして吸いたいもんなのかなんて思ってしまった。
ただ、俺も結構酔いがキテいるようだ。思考がごちゃごちゃと長ったらしくなってきている。ここはちょっと夜風に当たって醒ますべきか。俺は飲みかけの瓶を手に取ると、浮ついた足取りでベランダへの窓を開けた。
「ん、どしたの」
「風に当たりに」
思っていた以上に風が冷たくて、思わず寒いと呟いてしまった。稔は耳聡くもそれを聞き取ると、なぜかドヤ顔で寒いだろお? とのたまう。君に言われなくても寒いってのはわかってたさ。俺はもう一足のサンダルを履くと、室内からベランダへ足だけを放るように座った。
窓から吹き込む風によって、篭った部屋の空気が攪拌される。それと同時に、稔が吸う煙草の匂いが鼻先をかすめた。鼻の粘膜を斬りつけるような冷たい風の中に混じる、独特の煙臭さ。正直に言えば、嫌いじゃない。胸のどこかが締め付けられるような、なんとも言えないノスタルジーを覚えるからか。
そんな感傷を肴にビールを飲もうと顔を上げれば、目の前に肉付きの良い尻がドーンとあった。どうやらその尻の主は、ベランダのフェンスに肘をついて、黄昏ながら煙草をふかしているらしい。つまり、俺の方に尻を突き出している格好だ。そのスウェット越しでもわかるボリューム感に、俺は思わず手を伸ばしそうになった。
(やっば。俺、今何しようとした?)
無意識とはいえ、しでかしそうになった事を自覚して冷や汗が背中に滲む。なんだかんだと長い付き合いの稔だとしても、やっていいことと悪いことがある。俺は若干酔いの醒めた頭を振ると、再び黄昏のポーズをとる稔を視界に収めた。
ふと、脳裏にいつかのワンシーンが蘇った。稔が女になって、一年くらい経った頃か? エスカレーターに乗った時、目の前に稔の尻があって、真っ黒なスキニーパンツにショーツのラインが浮かび上がっていたことがあった。その時は、こいつも馴染んでるなあとか、意外とちゃんとした下着履いてるんだなあとか、そういった感想しか浮かばなかった。当時は別段『そそられる』とかそういった感情は抱かなかったはずだ。確かに長いこと恋人だとかには縁遠く、それこそセックスなんて久しくしていないが、稔のことをそういった対象として見れなかった。
なにせ稔は乳がないからである。しょうがねえんだ、俺はそういう性癖の星の元に生まれたんだから。
……なのに、今のは一体なんだったのか。正に衝動的というか、意識の外で体が動こうとした。
そして、アルコールで口が軽くなっているのか、それとも自分自身の戸惑いを誤魔化すためか、俺はパッと頭に浮かんだままを口にしてしまっていた。
「稔、ケツでかくなった?」
「ッエホッゲホッ! な、なんだよ急に、デリカシー」
俺の発言と煙に咽せた稔が、顔を真っ赤にしてこちらに向き直った。涙ぐんだ目尻に赤い頬。濃い茶色の髪の束が数本顔にかかって、なんだか色っぽく見える。
ただ、言いたいことはわかるけど単語が足りてねえのよ、君。
「いや、そんなズボンパツパツだったっけって」
「……あー、うー、んなー」
彼女は若干唸り声を上げ身を捩ると遠い目をして、戯けたポーズをとりこう言った。
「自粛太りってやつ、だな」
「なるほど」
ここで俺はビールの瓶に残っていた分を飲み干すと、追い打ちをかけてみた。というのも、こいつはいつも適当なことを言ってヘラヘラしているので、苦虫を噛み潰したような顔をしているのが珍しいからだった。
「上半身はお変わりないようで」
「……ああね。うん。そういうのって漫画の中だけなんだわ。な」
「なので、下半身とお腹周りばっかり増えていくと」
「……勘のいいおっさんは嫌いだよ」
「わはは!」
煙草の吸い殻を携帯灰皿にねじ込んだ稔が笑いながら、俺のことを半ば跨ぐように部屋に戻っていく。その、ちょうど俺の脇を通った時、普段は意識したことのない彼女の匂いを感じた。稔がまだ男だった頃、居酒屋で上着を預かる時なんかに感じていたのとおおよそは同じ種類の匂い。だが、これまでとは確実に異なる、女性特有の体臭と呼ぶべきか、そんなものが混ざっていた。
……やべえ、急になんかムラっときたぞ。
いやいや待て待て。冷静になれよ、俺。こいつとは高校時代から訳わかんないこと言い合ってた仲だぞ。流石に女になった時は驚いたし気の毒に思ったこともあるが、これまでも変わらず遊んでただろう。そもそも全然タイプでもなんでもないじゃないか。なのに、今日に限って”異性”として認識してしまうとは、あんまりだ……。
「颯斗見て見て」
もう少し夜風を体に取り入れて頭を冷やそうとしたら、背後から俺を呼ぶ声がした。
「なにさぁ……あ?」
「お腹やばくてクソワロタ」
そこでは、服をたくし上げて腹を出した稔が嫌にニコニコとしていた。なるほど、アルコールのせいで赤くなったところとそうでないところが斑ら模様になっているのか。まあそれはいい。問題は、腰パン気味のズボンのウエストから臙脂色したショーツが覗いていることだ。
「パンツ出てんぞアホ」
「出してんだよバーカ」
彼女はそう言ってケラケラ笑うと、座椅子へ腰を下ろしまた酒を飲み始めた。え、なんだ。こいつ急に露出癖に目覚めたのか、やべえな。
稔の奇行によっていい感じに熱が冷めたから、俺も窓を閉め席に戻ることにする。しかしこの両目には、しっかりと先ほどの光景が焼き付いてしまっていた。思っていたより柔らかそうな彼女の身体を目の当たりにして、初めて理解させられた気分である。あれは、まさしく女性の身体だ。
大変参ってしまったぞ、これは。見た目は変わっても、ただの気の合う友人だと思っていたのに。こう、見せつけられると、どうしても意識せざるを得ない。こんなしょぼくれたアパートの部屋の中、俺は今異性と二人きりでいるのだということを。
何度でも言うが、これはあれだ。大変よろしくない。自分の部屋のはずなのに、急に居心地が悪くなってきた。急激に喉が渇く。俺は新しい瓶を手にすると、焦るようにその中身を流し込んだ。するとビールの苦味が口の中に広がり、同時に嫌な思い出も蘇ってしまう。
「おうおうおう、どうしたよ颯斗くん。急に黙っちゃって、あれかな、セカンド童貞には刺激が強かったかな? うん?」
「うっせえ。君も似たようなもんだろ」
上体を起こした匍匐前進のような動きで、稔が隣にやってきて変なことを言うので、とりあえずチョップしておいた。
すると彼女は痛ー! と声をあげ、破顔しながらあぐらをかいた俺の脚の上に崩れ落ちた。
「なあ、リハビリがてら、オレのケツ揉んでみるか?」
「なんでケツなんだよ」
くつくつと笑う稔が、俺を見上げてそう言う。酩酊によって音量ばかり大きくて呂律の怪しい言葉だったが、彼女の俺を心配する気持ちが本物であることはよくわかっていた。——こう見えて普段から、友人想いでそこそこお人好しなのだ、稔という人間は。
そんなことを考えつつ脚の上から稔をどける。すると、おまえはおっぱい星人だけど、いきなりおっぱいはハードルが高いかと思ってな、とか。形的にはケツもパイも同じようなもんだろ、とか。そんな甘言を述べながら彼女は姿勢を変えた。ちょうど、俺の左半身にしなだれかかる具合だ。
「オレもなー、尻には自信あるのよ」
柔らかいぞー? と彼女は自身の臀部を撫でながら、俺から奪ったビールを飲んだ。
「お前なー。……俺が本気にしたらどうすんだよ」
俺は体の左側に感じる体温を、努めて意識しないよう心がけつつ、稔の手から瓶を奪い返す。
「オレだって友達の役に立ちたい気持ちくらいあるのさ」
すこし、寂しげな声音に思えた。
「いや! もうここは! 荒療治塩麹!」
優しく細められた瞳にハッとしたのもつかの間。やっぱダメだこの酔っ払い。
「君は無駄に韻を踏むなあ」
「いいからほら揉んでみろよぉ〜」
稔は俺の左肩に額をグリグリと押し付けてくる。なんだこいつ揉ませたがりか。
「そうだよ揉ませてえんだよ自慢させろよぉ」
クソ馬鹿だった。しかし、一度異性として見てしまった対象がこう迫ってくると、悲しいかな腹の奥がぐらぐらする。ヤニと彼女の体臭が混ざった甘い匂いがして、思わず生唾を飲み込んだ。
「ほ、ほんとにいいんだな?」
「漢に二言はねぇああい!」
稔は馬鹿高いテンションでそう宣言すると、横座りで俺のことを待ち構えた。眼鏡はずり落ちて鼻眼鏡になってるし、諸々の勢いとは裏腹に眠そうな表情をしている。くそ、なんだか無性にムラムラさせやがる……。
俺は居住まいを正すとビールを一口飲み覚悟を決めると、若干浮かせた彼女の腰に手を伸ばした。
「うわ、柔っこい……」
「だろお? 稔ちゃんのスペシャルロイヤルヒップだぜ、堪能したまえよぉ?」
女性経験は人並みだと自負しているが、稔の尻はまた格別だった。いや、そもそも彼女の肉質がこうなんだろうか。予想以上に全身の肉が柔らかい。どこに触れても、ふわふわとした柔らかさを感じる。色気のない鼠色のスウェットに詰め込まれた四肢に、俺はすっかりヤられてしまっていた。
「いやあ……すげえな……無限に揉める……」
無意識にそう呟いてしまった俺を、いったい誰が責められようか。
「おっぱい星人討ち取ったり、だな。エリア五一でたっぷり可愛がってやる」
「いやいやいや。まだ負けてねえから。とりあえずここまできたら胸もだな」
「えー、リハビリだってのに節操ねえやつだなあ! ……しゃあねえ、お前だけだぜブラザー」
「恩に着るぜメーン」
そういうや否や、まずはブラの上から揉んでみた。俺に半身を任せた稔は、やはり酔っ払ってトロンとした目を若干細めこそしたが、特に何も言わない。しかし俺は、いつもとさして変わらないようなその態度が、妙に愛おしく思えてしまった。
「どうよ?」
「……パッドしかわかんね」
「そんなはずねえだろ、よく探せ?」
探せときたか。そこまで言うならしょうがない。俺は空いてる左手を稔の背中に回すと、服の上からブラのホックを外した。これで障害は何ひとつない。素晴らしき無垢なる世界へ、いざ参らん。
「……どうした怖い顔して」
「……やっぱおっぱいないないさんだよこれ」
「ハァー!? そんなことねえし! 手のひらでよく感じてみれば揉めるくらいはあるからバーカ!!」
それは無いのと同じじゃ。そこまできたら四捨五入してゼロなんよ。これ以上生き恥を晒すな。
「うるせえ! なら決着つけてやろうじゃねえか! おらお前ザコチンコ出せよこのやろ!」
「言ったね!? 言ってしまったねそれを! もう怒ったぞう!」
最低ランクの売り言葉に買い言葉に合わせてパンツごとズボンを下ろしたら、半勃ちのマイサンが中途半端な勢いでボロンした。
「怒ったぞう! ぱおーん! うへへへへ!」
「ぱおーん! ワハハハハ!」
完全に学生時代の飲み会のテンションだ。よくいただろう、無駄にチンコ出したがるやつ。
お互い訳わかんないテンションで爆笑しつつ、俺たちはそのままベッドにもつれ込んだのだった。
++
朝目が覚めた時には、もうすっかり日が昇りきっていた。カラッと爽やかな秋晴れであることが、カーテンの隙間から差し込む日差しでよくわかる。それと、アパートの横を歩いていく子ども達の声。飲みすぎて頭いてえけど、なんて平和な土曜日なんでしょうか。太陽さんさんハッピーデイだわ。
——全裸で颯斗と同衾しているってのを除けばだけどよォ。
夢ならばどれほど良かったでしょうってか? ほんとその通りだわボケナス。
(やべえよやべえよ、ヤっちまったよ……)
二年前まで男だったオレが、ただの友人の颯斗とズッコンバッコンやってしまったのだ。あんまりすぎるこの現実せいで、鼓動に合わせてズキズキする頭痛が何倍もしんどく感じる。思わず、内臓を絞り切るようなため息が出た。
「あたたた……」
身を起こすと、体のいろんなところが痛む。だーめだこりゃ。いやあまあ昨晩は結構激しかったからなあ。普段しない体制とか、運動不足とか、そういうののダメージが如実に……。
ぐおお、今更になってクソ恥ずかしい……。やらかした内容がフラッシュバックして顔がバーニングダウンだわ……。やべえよ、ほんと。女としてヤるのは初めてだったのに、いろいろヒーヒー言わされてしまった訳だ、コイツに。うーわ、最悪だマジで。こんなやつに処女捧げるつもりとかなかったんだが? そもそも処女捨てるとか考えたことなかったけどさぁ。
(いやまあ、気持ちよかったといえばよかったんだけど……)
発狂しそうになるのを無理矢理押さえ込んでベッドから出ると、床に散らばった下着類を拾い上げる。頭痛に耐えながらショーツを履いて、ブラをつけるのに振り向いた時だ。
「うおっ……お、起きてたの……」
ベッドの中から、颯斗が真顔で天井を睨みつけていた。真剣な眼差しがなんかキモい。
「稔」
「は、ハイ」
颯斗はオレの名前を呼ぶと、のそのそと体を起こし、そのまま土下座の姿勢になった。
「……ごめんなさい」
「あ、あー……。いや、オレもなんか、完全に訳わかんなくなってたから……ごめん……」
「本当にごめんなさい」
「ま、まあ、お互い様ということで……」
「すまん」
はーあ。マジでやらかしてしまったなあ。いろんな意味で頭が痛すぎる。いやだって、なんかドギマギし出した颯斗が面白くてからかい出したのはオレが悪いし、結局最後まで本気で拒否しなかったのもオレだしなあ……。最悪だあ。
「よし、それじゃあ、この話はこれでおしまいということで。極力忘れような、な?」
「かたじけねえ……」
未だに土下座の姿勢を崩さない颯斗が蚊の鳴くような声でそう言った。
その後、微妙すぎる距離感で服を着て、二人して水をがぶ飲みする。二日酔いにはなによりもまず水分補給だ。キッチンに二人、死んだ顔で並んで立つ。
「んで、今日どうする……?」
虚無を眺めるような目をした颯斗が、コップを水で満たしながら呟いた。
「あー、あれ、とりあえず塩っけ欲しいな」
回らない頭で、何を食いに行くか考える。まず絶対重いのは無理だ。ピザとか食ったら胃が対消滅しそうだもの。それに水分はもちろん、全部の栄養素が足りてない気がする。ここは、そう。ラーメンとかいっときたい。それも、シンプルでオールドスクールなやつ。
「じゃあ、いつものとこ行くか」
「あー、アリ。超アリ。モハメドアリ」
オレたちはそれぞれガンガン痛む頭を労わりながら、徒歩三分、行きつけの町中華に足を向けた。よく澄んだ十月の日差しがちょっとしんどい昼前だった。
続く、かも