04/10 チーム結成
────これは、とある人物が大切な相手を得てしまう物語だ。
01
1203/04/10(金)
入学式も終わり、各授業のオリエンテーションで概要説明が済んで、新入生の大半がこれから本当にやっていけるのだろうかと不安になり、そうして無情にもライノの白い花が散り始める時期。
私は朝のHR終了後に、本日放課後に学院敷地の端の方にある旧校舎へ出頭するようにというお達しを担当教官から受け取った。そうして夕暮れに染まる道を歩いてそちらへ顔を出すと、既に数人が談笑をしていたのだ。遅れて入ってきた私の音に対してか、全員がこちらを見る。一応、全員顔と名前は知っていた。
「えっと……」
一番手前にいるのが、ハーシェルさん。学院切っての才女だとかで、既に先生たちの覚えもめでたいらしい主席入学者だ。この学年で知らない人間はいないだろう。
そのハーシェルさんに抱きついているのが、この中で唯一貴族生徒制服を着用しているログナー嬢。四大名門ログナー侯の一人娘であり、後継であると噂をされているが、噂の域を出ない。まぁそんな重要なことを学生生活の話の種で言うわけもないだろう。さもありなん。
その二人の対面にいるのがノームさんと、アームブラストさん。ノームさんは技術生枠で入った人材でまだ四月半ばだというのに制服よりも作業服で見かける回数の方が多いぐらいの人だ。アームブラストさんは他クラスの自分にもギャンブル話を持ちかけられたら断っておけという話が回ってくるほどの人物。それなりに腕はいいらしい。
まぁどれもこれも、差し障りのない表面だけさらったような人物評だけれど。共通するのは、誰も彼もそれなりに有名人だということだ。実技一年トップクラスと名高いログナー嬢とアームブラストさん。エプスタイン博士の三高弟と名高いシュミット博士の弟子であるノームさん。そして一年生だというのに生徒会入りを熱望されているハーシェルさん。
そしてどうやら談笑していた通り、四人はお互い面識がある面子らしい。けれどここに自分が追加で呼ばれる理由が全くもって分からないので、もしかして伝達される生徒が自分ではなかったのだろうか、と考え始めた。ところで。
「あら、全員揃ってるわね」
どうやら生徒では自分が一番遅かったらしく、後ろの扉からサラ教官とマカロフ教官が現れた。急いで退こうとして、とっととと、とすこしつんのめって歩を進めると、そっとハーシェルさんが隣を指し示してくれた。一緒に聞こうということだろうか。
「ありがとう」
小さく感謝を述べると、柔和な笑みが返ってきたので、つられて自分も笑ってしまった。壇上へ二人が昇り、表情を引き締めるとサラ教官が大層楽しそうに口を開く。
「さて、君たちに集まってもらったのは他でもない相談があるからなんだけど」
カツリ、カツリ、何だか嫌な予感がする。この二週間、あの笑みでロクなことが起きたような気がしない。
「とりあえず落ちてもらうわ」
ポチり。壇上の奥の柱あったらしい小さな蓋を開いた教官が何かのボタンを押した瞬間、私たちの足場から平衡さが消えた。強制的な急角度の坂の先、見えるのは真っ暗闇で、最後に壇上へ視線を投げたときに見えたのは変わらず楽しそうなサラ教官と、頭を抱えたマカロフ教官の姿だった。
「……あてて」
一応空気の移り変わりから底が近いと受け身を取ったはいいけれど、さすがに勢いを殺しきれなかったみたいで右肩をそこそこ強く打ってしまった。左腰ポーチに入っているカメラの破損は免れたと、思う、多分。免れていて欲しい。それに他の四人は大丈夫だろうか、と周りを見渡したけれど無情にも上は閉められたらしく生憎の暗闇であまり視界が通らない。
「あ、アンちゃん!? 下敷きにしちゃった!?」
「あぁ、トワは無事かい?」
そんな声が聞こえてくる限り、あの二人は大丈夫だろう。わりと近くにいたのに離れているということから推測としては、坂道そのまま滑っていってしまい加速がついたハーシェルさんをログナー嬢が庇うために下へ潜り込んだとかそういったところだろうか。……噂通りの人物だ。
「あっ、一応みんなの無事を確認しておきたいな。トワ・ハーシェル、無事です」
暗闇の向こうからそんな声が聞こえてきた。なるほど。
「最後に校舎へ入ったセリ・ローランドに怪我はナシ」
「クロウ・アームブラストおなじく」
「ジョルジュ・ノーム、無事だよ」
「アンゼリカ・ログナーも五体満足さ」
「アンちゃん本当に怪我してない?」
「当たり前さ。勿論トワが私の体をくまなく確認したいというのならやぶさかではないけれど」
そんな戯言を聞き流しながら立ち上がってズボンの埃などを払うと、うっすら暗闇に慣れてきた視界と反響音などを鑑みて少し広い場所に落とされたらしいと予測を立てる。
『はぁい、それじゃ本題に入るわね』
こちらの無事を疑っていないのか、天井に埋め込まれたスピーカーから機械分解されたサラ教官の声が広場に響いた。
『君たちにはそこに置いてある武器と戦術オーブメントを今から使ってもらって、地上を目指してもらうことになるわ』
その声で、ぱっと一部に明かりがつき、壁際にある一つの台に視線が吸い寄せられる。
そっと各々警戒しながら近づいて行くと、それぞれが授業で使っているであろう学院側へ預けている得物と、その戦術オーブメントらしき端末を重しとして名札メモがともに置かれていた。
手に取って、ぱかり、と開いてみると汎用戦術オーブメントとは全く違う回路が組まれているのが見える。中心にはまっている一際大きな結晶回路を撫でると、瞬間、きぃん、と耳鳴りとともに端末が青く光り、『繋がった』感覚を得た。……これは。
『それは第五世代戦術オーブメント、通称《ARCUS》。ラインフォルト社とエプスタイン財団が共同開発したもので、君たちにはその試験運用を行ってもらいたいの』
その言葉にARCUSへ視線を落としていた全員が顔を見合わせる。
『どうして自分たちが、って言いたいところでしょうけど、適性があった。それが一番大きな理由ね。他の細かいことは後で説明するから、まずは一階まで上がってきなさい。以上』
言いたいことばっかり言って、プツン、とスピーカーからの音は途絶えた。と思ったら何かノイズがまだ聞こえ、あー、とテストするような男性の声が入ってくる。
『マカロフだ。補足しておくとだな、一応戦力として問題ないだろうと判断したチームを組んじゃいる。ただどうしても踏破が無理だと判断したら置いてあるメモの緊急連絡先に連絡を寄越すように。ARCUSには従来の戦術オーブメントにはなかった通信機能も組み込まれている。バッテリーを考慮して今回の連絡はスピーカーでやってるが、使えることは確認済みだ』
それじゃあな、と今度こそ静けさが訪れ、それにつられて天井へ視線を上げたところでいつの間にかうっすらと明かりがついていることに気がついた。
「えっと、どう、しようか」
全員が困惑の気配を出しているところで、ハーシェルさんが控えめに口火を切る。
「どうするも何も、文句を言うにしたって上に上がらなけりゃ話にならねえってことだろ」
「みたいだね。サラ教官もスパルタだ。僕はもう参加が決まってるのに」
「あぁ、ジョルジュは技術枠で参加の話が通っているのか」
「そういうこと」
そんな話を聞きながら、腰のポーチから導力カメラを取り出し点検する。うん、目に見える破損はない……と思う。薄暗くてよく分からないけれど。取り敢えずそれに頷いて、台の上に置いてあった片手剣とガード用のダガーを腰に差した。
「両剣使いか?」
「ええ。斥候兼ねて軽装めで。そういうそちらは……双銃ですか、格好いいですね」
話しかけられた相手──アームブラストさんへ視線を向けると相手も腰のホルスターに銃を収めているところだった。ちらりとノームさんへ視線を向けると、足元に置いていた大きなモノを見せてくれる。
「巨大重槌……まぁハンマーだね」
小回りは利かないけれど大きなダメージは期待できる武器、という認識で合っているだろうか。私のクラスにハンマー使いはいないので印象だけれど。
「私もクロウ君とおんなじ導力銃が武器だけど、基本的には導力魔法の方が得意かな」
台に残っていた銃を一丁、ハーシェルさんが手に取る。少し手に余るグリップのような気がするけれど大丈夫なんだろうかとぼんやり心配になってしまった。
「そしてこれは私のだね」
残っている籠手をログナー嬢が慣れた手つきで腕へと固定し、がん、と両拳を合わせて金属音が鳴る。拳闘士。完全な前衛だ。……なるほど。バランスを取った、なんだなぁ。一応取れている。
「えぇと、四人は友人同士……ということで?」
貴族生徒一人と平民生徒三人なんて、珍しいどころの騒ぎではない。取り巻きという雰囲気もないのだから尚更だ。
「まぁそんなようなものかな。私とジョルジュは元々知り合いで、他の二人とは出会ってからそこまで経ってはいないけれど……それにしても、セリ君と言ったか。君も大層美しい少女だね。他クラスにここまでの逸材がいただなんてチェックし損ねていた、ここでお近づきの印に」
言い寄られながらするりと取られた手を、握り込まれる前にするりと抜き、一歩さがる。
「おや」
「取り敢えずこの面子だと私が斥候役っぽいので、先に」
行ってきますね、と爪先の方向を変え離脱しようとしたところで、ぐい、とハーシェルさんが私の手を両手で掴んで引っ張った。
「あの、さっき安否確認したときに名前は教えてもらったけど、一応、改めて自己紹介してもいいかな」
健気さを思わせる金糸雀色の瞳が、真っ直ぐと私を見て、そんな提案をしてきた。自己紹介。それもそうだ。これから一応、最短でなら上階までだけれど、命を預け合う相手になる。それに斥候なんてそこそこ重要だろう職務だ。初めましてで挨拶も簡易に、というのはあまりよろしくなかっただろう。失敗。
「えっと、じゃあ、お願い出来ますか」
にこり、私の手を離して彼女は自分の胸に手を当てる。
「一年IV組、トワ・ハーシェルです。戦闘訓練は一通り受けてはいるけど、サポートがメインになると思います。よろしくね」
「それじゃあ次は私かな。I組のアンゼリカだ。あまり身分は気にせず接してくれると嬉しいな。君みたいな可愛い子なら大歓迎さ」
ぱちん、とウインクをされて、はは、と苦笑いをしてしまう。
「僕はIII組のジョルジュ。すこし話していたけどこの試験運用には技術支援として既に参加が決定してる身でね。でもチームを組むならこういう機会は貴重かなと思ってる」
「V組にいるクロウだ。まぁ二丁銃だが、ある程度ならアーツもこなせるからいざって時は中衛よりも後ろに下がることもある、ってくらいか」
次々に自己紹介をされていき、最後に私の番になる。いやこの面子、どうやってこの二週間で友人になれるのか全く分からない。不思議が過ぎる、と思いながら、少し咳払い。
「VI組のセリ・ローランドです。割と身軽なので偵察とか担当かなと勝手に思っています。一応前に出ますが、攻撃を受ける形の盾は不得意です。アーツは……あんまり適性がないので、その辺りはよろしくお願いします」
この二週間の模擬練で、アーツの適性が本当にないことがわかっている。私だって広域導力魔法を使ってみたかったけれどこればっかりはもう仕方のないことだ。
「うん、ありがとう。よろしくね、セリちゃん!」
セリちゃん。
「あっ、ご、ごめんね。名前で呼ばれるのイヤだったかなぁ」
「あぁ、いえ、別に。大丈夫です」
「というか女子でいいんだよな」
「そうですけど、何か問題でもありますか?」
「いや、スカートじゃないから一応の確認ってだけだ」
言われて、あぁなるほど、と思い至る。制服の上着は女生徒支給よろしく腰にリボンがついているものだけれど、下はスカートではなくズボンだ。選択制なので特に校則違反というわけではなく、まぁスカートが可愛いのであまりそれを選ぶ人がいないというだけで。実はネクタイもカラーバリエーションがあるので、士官学院というわりにあまりガチガチではないのが意外だったりする。名門ゆえの自由さと提携学用品店のセンスということだろうか。
「バトルスタイル的にそこそこ動き回るので、引っ掛ける可能性やその他考慮すべきことが多いスカートは不適当かなと」
というか、ログナー嬢も貴族制服且つズボンなので、実はこの面子だとスカートなのは一人しかいない。うっかりすると女性一人に男性四人の紅一点パーティに見えるかもしれないなぁ、とぼんやり思考する。まぁそれはいいか。
「取り敢えず、よろしくお願いしますね」
言いながら拳をすこし前に出すと、四者四様で返事をしながら拳をぶつけてくれる。
そんな姿を眺めながら、何となく、長い付き合いになりそうだとすこし楽しそうな予感を覚えつつ私たちは広場の扉へ歩を進めた。
全員武器を構えながら扉を開けてすこし進んだところで、左手を後ろへ出して止める。
「10アージュ先、飛び猫系統の魔獣二体」
すこし暗がりで見え辛いけれど、羽音や魔獣図鑑で見たシルエットから敵を認識する。もちろん完全に接敵・分析する前に確定するのは危ないけれど、それは全員わかっている。
「……射撃が弱点なことが多い魔獣か」
アームブラストさんがすこし私の横へ進みでながらくるりと片銃を掌で遊ばせたけれど、その横顔に笑顔は浮かんでいなかった。……いつも笑っているような雰囲気だったのに、こんな顔もするのかと勝手ながら思ってしまった。
「一応、僕が突っ込んで盾になりつつ撃破する案もあるけど」
重槌を両手で構えているであろうノームさんがしんがり方向から提案をしてきたけれど、それは私が否定する前にハーシェルさんが首を振った。
「相手が視認出来ていない状態なら、それを守るべきだと思う」
「まあ、要らぬリスクを抱え込む必要はないね」
話が早い四人だと思う。そして、作戦の最終的な決定権がハーシェルさんにある、と信頼を寄せているというのも大きいのだろう。そこにぽっと出の私が加わっているので、もしかしたらお邪魔かもしれないけれど。
「オレが右をやる。トワ、お前は左を狙えるか」
アームブラストさんは一丁だけ構えてそう言った。
そう。これは当たればいいわけじゃない。騒ぎを聞きつけて他の魔獣が集まってくるかもしれないことを考えると、同時に、静かに、絶対に逃さないという意志で以って倒さなければならない。つまりヘッドショットだ。
銃を構えるハーシェルさんが前に出てきたので、ちょいちょい、と片膝ついてしゃがんだ自分の肩を指す。意図が伝わったのか、それを支えにして彼女は銃を両手で構えた。うっすらとした闇の中に羽音だけが反響する場所で、自分の指サインによるカウントダウンのゼロと共に導力銃が起動し、飛び猫二体を無事葬り去り、魔獣は光となった。
「ナイスです」
立ち上がりながら親指を立ててハーシェルさんへ示すと、彼女は嬉しそうに手を同じようにしてこつんと当ててくれる。
事実、アームブラストさんと私は、ハーシェルさんが外した時の追撃をする準備がおそらく出来ていた。仲間を呼ぶ隙を与えないというのが大前提だったので、もしもを考慮するのは大切だ。ログナー嬢もその可能性には気が付いていただろうけれど、ハーシェルさんを信用しているからかそういったそぶりは見せなかった。
だからその追撃が要らなかったというのは大きい。そもそも私にとっては四人がどれだけの戦力なのか、というのはイマイチわからないというのもある。ログナー嬢とアームブラストさんの実技に関する噂は聞いてはいるけれど、他二人に関しては未知数だ。そして現時点から、丁寧に照準を合わせられるのなら彼女の腕はアテにしてもいい。
「お前さんもな」
ぐしゃり、隣から急に髪を乱される。
「……いきなり頭を触らないで下さい」
他人の急所を撫でていいのはとても親しい相手だけだ。私にとってアームブラストさんは特にそういう範疇に入っていないし、相手にとっても私がそこに入っているわけではないだろう。というか入っていたら怖い。
「おっと、悪い」
大して悪いとも思っていない、悪様に言うのであれば軽薄な笑いと共に両手を上げてすこし離れる。"そういうポーズ"を取る、お兄さんポジションでいたいかのような。……まぁいいか。あんまり他人を勝手に分析して決めつけるのも良くない。悪いクセだ。
「取り敢えず進みましょうか」
私の言葉へ特に異論は出ず、そのまま五人で連れ立ってまた歩き始めた。
「……5アージュ先の曲がり角を右に行ったところに、ドローメ種が複数いますね」
ぬちゃ、ぬちゃ、と粘度の高いこの音は特徴的だ。けれど音から属性を特定できるほど場数を踏んでいないのでそこまでにとどまる。ドローメ種は視認しないと数の特定がしにくいのが厄介だ。
「ドローメというと、ぬめっとした魔獣であっているかい?」
「はい。斬撃以外ほぼ無効なため、剣か魔法での攻撃が有効ですね」
突撃も射撃も剛撃もあまり意味をなさない。
「じゃあ接敵し次第、私がディフェクターをかけて分析するのがいいかな」
「いや、トワはアーツに集中してくれるほうがいい。分析は僕が請け負うよ」
ハーシェルさんの分析戦技は彼女のアーツの威力を後押しするけれど、その分本人のアーツ駆動が遅くなってしまうのが難点だ。もう一人アーツが得意な人がいたら生かせるのに。まぁ現状無い物ねだりにしかなるまい。
「今回は私も前に出るけれど、単純に引きつけるだけになるかな」
「そうですね。私と一緒に前へお願いします」
「ふふ、美少女の頼みなら是非もないさ」
……ぞわっとする物言いだけれど、ぐっと飲み込んで、代わりのように片手剣を両手で握り込む。粘性魔獣にはガードのダガーは効果が薄い。なら斬撃に力を入れた方が効率がいいはずだ。
「では行きます」
姿勢を低くし、曲がり角の直前まで呼吸を殺して近づく。三体。前衛二人が視認したところで、挑発戦技を使いつつ同時に踏み出した。奇襲された魔獣は体勢を整えようとするけれど、すかさずノームさんの分析戦技が割り込みその体勢をさらに崩す。
脳天を叩き割るように私の一撃が一体に入り、ログナー嬢が気を引いていた二体へハーシェルさんとアームブラストさんの魔法が入りその身体を燃やした。想定以上によく燃える。ランタンの火種にいいんじゃないだろうかと全く関係のないことを考えてしまうほどに。まぁ導力灯が普及した今、アナログな灯りの出番は殆どないけれど。
しかし二人のアーツも致命傷までにしかならなかったのか、最後の最後で悪あがきをしようとする気配を感じた瞬間、ノームさんが重槌をスイングをすることで一瞬だけ斬撃属性を作り出したのか全個体が無事に沈黙を果たした。
「……」
凄い。全員が全員、その場で出来ることを考えて、行動し、実行し終える。その精度が高い。
いや、こう表現すると何様だという目線になってしまうけれど、すこし、わくわくしてしまった。出来ることならもっとこの五人で戦ってみたいと。いろんな景色が、見られるんじゃないかと。……ログナー嬢の行動だけはどうにかするなり、自分が慣れるなりしなければならないけれど。
「セリちゃん?」
「あっ、すみません」
もうみんな次に進むことを考えて、私を待ってくれていた。
「いま行きます」
出会ったばかりの自分の能力を、信頼してくれる人がいる。これはもしかして幸福なんじゃないだろうか、なんて。
「……」
「遠距離続いて戦闘に参加できないからって微妙な顔すんなよ」
「二人の綺麗な顔に傷がつかないのは私にとっては歓迎したいことだけどね」
「機器バックアップなら僕の範疇だけどそういうわけにもいかないしなぁ」
「このままみんなで力合わせて行こっ」
「コインビートルの羽音って、結構きれいな音だと思うんですよね」
「そーかぁ? 結構耳障りだろあれ」
「ふむ、あまり羽音を意識したことはなかったな。今度きちんと聞いてみよう」
「戦闘記録としては録音しておく方がいいのかもね」
「そうそう、みんな戦闘記録ちゃんとつけておかないとたぶん泣くことになるよ」
「……っ」
そうして、呆気なく、とまではいかないけれど、自分の偵察を信じてくれる人がいるというのはこんなにも勇気がもらえるものなのか、と考えたりしてしまったのは確かで(勿論このテストに使われている旧校舎は既に教官のチェックが入っているだろうというのは自明の理ではあるのだが)。
だから。
「アンゼリカ!」
「ARCUS駆動……!」
「ディフェクター!」
まさか安全だと判断した最後の広場に、こんな暗黒時代の魔導による産物──ガーゴイルが立ちはだかるだなんて思ってもいなかった。確かな自分の判断ミス。だれど、ここで自分だけが突貫しても決定打は与えられないだろう。石は斬撃よりも剛撃に弱い。つまり自分がすることは一つだ。
挑発戦技を使って敵の気を引き、その時まで耐える。回避も防御もし損なうとかなり一発一発が重いけれど、すかさずハーシェルさんの回復魔法が胴体に入ってくる。
吹っ飛ばされて一瞬戦線離脱をしていたログナー嬢も復帰し、私の意図を読み取ってくれたのかこちらに攻撃を集めた、そうして。
「スクリュー・ドライブ!」
ノームさんの重槌による渾身の一撃が魔導器物の背中へ穿たれる。
よし、と気分が高揚した。刹那、全員の一挙手一投足が見えるようにすべてがクリアになっていく。何が起きるのか。何をしなければならないのか。全員が自分の得物を握り、フレンドリーファイアーにならないところを見極め踏み込み、総攻撃を果たしたところで石の守護者は物言わぬ塵となり消え去った。
「……っあ」
その光景にがくりと力が抜け、地面に手をついて首を垂れる。いや、まだ安全確認が終っちゃいないので膝をつくなという話なのだけれど。それでも全員疲労困憊なのか、各々自由に地面へ腰を落ち着けている。
「ティア」
ふわり、回復魔法が入ってきて何だと思って見てみると、疲れた表情のアームブラストさんがこちらに腕を伸ばしてきていた。ハーシェルさんはログナー嬢へ。
「気がついてねえかもだけどよ、酷い状態だぜ」
「あは、それは、どうも。アームブラストさん」
まぁでもそんなん全員なのだろうけれど、失敗したということを重く背に乗せてしまっていたのかもしれない。気を張りすぎたともいう。
そんな戦闘後処置をしていたところで階段の上から、キィ、と扉が開く音がして弾かれたように得物を握り込んで視線を上げると、現れたのはサラ教官とマカロフ教官だった。ドッ、とその瞬間疲れが肩にのしかかってきたのを自覚する。
「はーい、全員揃ってるわね! うんうん、重畳重畳」
「本当に落とすとは思いませんでしたよ、サラ教官」
そんなことを言いながら階段を降りてきた教官たちはぼろぼろの私たちの前に立っていろんな説明をし始めた。ARCUSのこと、中心結晶回路のこと、ARCUSの最大の特徴である戦術リンクと呼ばれる画期的機能のこと、試験運用メンバーになるならある程度外部への特殊課外活動が発生することなど。そしてその担当が新任のサラ教官になる、ということなど。
ちなみにARCUSについてはbeta版にあたるので、まだまだ解放されていない機能もあるのだとか。
「さて、今回の初期運用を受けて辞退するなら辞退するで構わないわ。残りの面子が困るとかも考えなくていいわよ。その辺りのことはちゃんとこちらで巻き取るから」
つまり、このまま続けるか否か。
この数日授業を受けた印象としては、サラ教官が本当にそういう補充人員や対応策を考えているのか怪しいものだとは思ってしまう。とはいえ、私の答えは決まっているようなもので。
「はい。一年VI組、セリ・ローランドは参加を希望します」
「ジョルジュを除けば一番乗りね」
「楽しくなりそうだなと思ったので」
私は、正直軍属になる予定はないけれど自立手段への道がいろいろありそうだと思ってここへ来た。学院カリキュラムに+αはきっと学生生活的にはキツいこともあるだろう。でもまぁ何とかなるんじゃないだろうか。
そして何より。見てみたいと思ってしまったのだ。この先の風景を。出来ればこの五人で。
「私も参加しようかな。正直模擬練だけでは体が鈍ってしまいそうだと思っていたしね」
「じゃあオレも参加ってことで」
口々に手が上がっていく。教官が立っているのに生徒は座っていて、士官学院としてはあるまじき規律のなさかもしれないが、それを気にする教官はいなかった。
「……」
最後の一人であるハーシェルさんはすこし悩んでいるみたいだった。賢い人だから、きっとこれから起こり得るいろんなことを考えてしまうのだろう。視野が広いというのも大変そうだなとぼんやり思った。
「まぁ、ここで判断が難しかったら来週でも構わんぞ。なんせ急な話だからな」
このままでは埒が明かないと思ったのか、マカロフ教官がそう提案を口にする。うーん、主導としてはサラ教官で、戦術オーブメントに関することなので導力学専攻のマカロフ教官がサポートに入っている形なんだろうか。
「──いえ、一年IV組、トワ・ハーシェルもARCUS試験運用に参加させて頂きます」
それはすこし悲壮感がありそうな声ではあったけれど、何かを決めたのだろうと容易に感じさせ、また踏み込むことを許可しないようなものでもあった。彼女は彼女で、何か思うところがあるのだろう。
サラ教官は満足そうに頷いて、私たちに立ち上がること促す。
「それでは、本日よりARCUS試験運用チームを発足する。詳細は後日また連絡するわ」
そうして、私たちの散々な放課後はようやく終わりを迎えた。
これがまさかずっと後まで続く縁になるとは誰も思わぬまま、歯車は回り始めたのだ。