[完結]わすれじの 1203年   作:高鹿

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05/30 第二回特殊課外活動1

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1203/05/30(土) 放課後

 

結局、チケットはこちらで手配しつつ請求は学院の方へ、という取り決めをして鉄道の駅へと向かった土曜日。サラ教官は本当に事務作業向いていないのだから、こういうことの取りまとめは別の人がやったほうがいいのではなかろうか、なんて考えてしまう。

 

もちろん、サラ教官が無能ということはない。実技訓練においては大変勉強をさせてもらっている。この間なんてナイトハルト教官に斥候技術について更に指導を乞うたら、「自分は軍人であり複数人で行動する者であるから、教わるのであればバレスタイン教官の方がいいだろう」という水と油のような二人ではあるけれど実力を認めているような発言がされた。

 

そして実際に個別指導を頼んだら妙に乗り気になった教官に街道に出てコテンパンにされたのも記憶に新しい。クロウにしてやられた記憶もあってすこし落ち込んでしまったけれど、そんな暇はないのだとも思った。教官が強いなんて当たり前で、私たち士官学院生はいかにその技術を盗むかだ。でもやっぱりクロウのチームに負けたのは悔しい。非常に。

 

そんな他愛のないことを思い出しながら、私たちは鉄道員のマチルダさんに見送られ二番線のホームから帝都行きの列車に乗り込んだ。

 

 

 

 

グレンヴィル市──帝都のほぼ真西にあるラマール州の都市だ。

"市"とつくだけあり、前に行ったラントより規模が数倍で学校なども独自に設立されている。トリシュ川が南にあり、そこを水源とした田畑も広大でかなりの自給自足がなされている、第一次産業と第三次産業のバランスが良い都市らしい。

鉄道で更に二~三十分ほど西に向かうと湖の宿場町ミルサンテもある。その名の通り、目の前には美しいガラ湖や大滝、天気が良ければグレイボーン連峰を臨むことが出来る観光地として賑わっている町だ。出入りのしやすさや宿の多さから、ミルサンテではなくグレンヴィルで宿を取る人も多いのだとか。

ちなみに政治的軋轢はないように思われるが、周辺情報に明るいらしい質屋のミヒュトさんが妙な反応を見せていたので、警戒するにこしたことはない。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 

 

「市長さんがお話があるってことだから、到着したらまず市庁舎へ向かうね」

 

ボックス席でトワが広げた街の地図を見る限り、駅からまっすぐの大通りを行けば市庁舎が見えてくるような位置関係なので迷うことはないだろう。

 

「にしても鉄道のおかげで前回のラントと似たような時刻に着けるけど、今回はすこし遠くなったね」

 

帝国国土省が出している地図上の距離にしてみると4~5倍はあるのではなかろうか。もしかしたら日曜日だけでなく前日の土曜日まで公欠にさせられる課題などが出てくるのでは、とすこし背筋がうすら寒くなる。まぁ大変になるというのはもちろん覚悟の上ではあったけど。

 

「ああ、鉄道沿線なだけマシという考え方もあるんじゃないか?」

「それは本当にそう思うよ」

 

アンやジョルジュが口々にこの課外活動についていろいろ喋っているところで、ちょうど対面に座っているクロウが妙に考え込んでいるのが見えた。

 

「どうしたの?」

「ん、ああ、ミヒュトのおっさんが驚いてたってのが気になってよ」

 

うん。それは本当に気になる。きっと確証のない情報であんな反応はしない人だ。ただ惑わせるようなことをするとも思えない。食えない人ではあるけれど、虚偽を掴ませるというのはいろいろリスクもあるからだ。

 

「頭の片隅に入れておくべきことだけど、それに囚われるのも良くないよ」

 

トワがそうまとめ、確かに、と頷いたところでクロウが「じゃあブレードでもやっか」とカードを唐突に取り出してきた。本当に布教に余念がないなぁとすこし笑ってしまうのも仕方ないことだろう。どれだけ好きなのか。

 

 

 

 

18時過ぎ。グレンヴィル駅を出ると、目の前に夕焼けに照らされた大通りがすきっと入った街構造が目の前に現れ、なんだかすこしだけ帝都に似ているな、というのが第一印象となった。太陽が沈んで行くところから、大通りの方角が東西だというのがわかりやすい。ラマール本線も西に抜けていくので、鉄橋の上から街を眺めるのもなかなかに壮観そうだ。

 

余所事を考えていてもトワが地図を見ながら先導してくれるから、そのまま五人連れ立って歩いていく。学生自体はそれなりにいるのだけれど、やはり見たことのない制服集団が歩いていると注目を集めてしまうというのは仕方ないかとちょっとだけため息をついてしまった。

 

────あ。はっし、と逸れそうになるアンの襟首を掴んだ。

 

「アン、あんまりナンパしない」

「子猫ちゃんたちが私を離してくれないのは仕方ないことさ」

「はいはい、歩く歩く」

 

ジョルジュと二人でアンを道行く女性から引き剥がしながら歩いていく。いや、まぁ、白い貴族制服に光を反射すると深い紫水晶のような美しさの髪があり、加えて容姿と行動も相まって『物語の中のすこし危ない王子さま』に見えてしまうのかもしれない。中には実態を知ってもついていくと意気込んでいる人もいるみたいだけれど。わからないなぁ。本当に。

とはいえ本当にアンはあれ以降、私の容姿を褒めないし、無闇に抱きついたりしてこないし、口説いてもこないので心の平穏が保たれている。その分他に被害が行っていないかという懸念もあるけれど、まずは自分のことを大切にしたい。うん。それに他人が本当に嫌がっているかどうかは私がジャッジするべきではないのだ(嫌だと言える人ばかりではないとは思うけれど)(この辺は塩梅だ)。

 

「クロウ、どうしたの?」

「んー? いや、アンゼリカも勝手な奴だなって思ってよ」

「生活素行に関しては君も大概だと思うけど」

 

後ろでゆるゆると頭の後ろで腕を組みながら歩いているクロウに話しかけるとそんな返事がきたので、思わず突っ込んでしまった。寮や学校でギャンブルするわ私の朝ごはん横からつまんで行くわよく遅刻しているわ授業中にも寝ていることが多いらしいわ、どうかと思う行動を挙げれば枚挙にいとまがないというのはこういうことなのだなと。思う。

 

アンはジョルジュに任せて少し歩調をゆるめクロウの隣に行き、ちらりと横目に見上げた。でもそれだけ生活態度ちゃらんぽらんでも先日負けたのは塗り替えようのない事実で、少し心の暗いものが顔を覗かせてしまいそうになるので、いやいやよくない、と内心首を振った。

……帰ったら七耀教会に行った方がいいかもしれない。あまり敬虔な信徒ではないけれどたぶん話ぐらいは聞いてくださるだろう。

 

「あ、みんな、見えてきたよ!」

 

地図を持っていたトワが嬉しそうな声で示すので視線をそっちへ投げると、赤煉瓦の立派な建物が大通りの突き当たり、T字路になっている道路の向こうに存在していた。今まで歩いてきた感じかなり区画整理がされているみたいで、なるほど、"市"なだけはあると思った。

私が見てきた街だと帝都や旧都よりはもちろん小さいけれど、その次の次ぐらいには入るんじゃないだろうか。

 

帝都に近いからか案外導力車も通っているので注意深く道を渡り切って、無事に市庁舎の前へ来られた。鉄血宰相殿が進めているという噂の交通法、はやく施行されないかなぁ。施行されたら絶対にハインリッヒ教頭のテストに出てくるだろうけれど。

 

庁舎の扉をくぐると受付があり、カウンターの方に身分を明かしたところで、あぁ皆さまが、とすぐに話が通る。さほど待つこともなく応接室に通され市長殿に面会を果たした。進められた椅子は足りなかったので男性陣は立つことになってしまったけど。こういう時、すこしそわそわする。

 

 

 

 

そうして市長殿曰く、ここ数ヶ月ほど妙な集団が街の外で散見されるらしく、主にそれらの調査を頼みたいと。撃退に関しては流石に学院の生徒に頼むものではないため憲兵隊で巻き取ると仰ってくれた。良い方だ。サラ教官なら絶対にそのままぶっ飛ばせと言っている。

そしてそれとは別に細々とした依頼があるため、明日の朝には宿に届けさせるということで今日の話は終わりを迎えた。その依頼自体はやってもやらなくてもいいらしい。

 

市庁舎から出た時にはもうとっぷりと陽は沈み、大通りが目の前にすきっと真っ直ぐ通っているため夜のグレンヴィルが一望できる。そこそこ人口が多いからか、導力灯もふんだんに使われそれなりに街は明るい。

 

「で、今日の宿って"銀の鍵亭"だっけ」

「うん、ここからすぐのところみたい」

 

トワが広げた地図を覗き込み、あっちの方かな、と言いながら歩き始める。何だかんだこの五人移動も最初は人数多いなと思ったけど、なかなかに楽しいので、私は好きだなと思ったりなんだり。言わないけどね。

 

 

 

 

1203/05/31(日) 朝

 

大きい宿のおかげか男女別々の部屋に通されたので、着替えの時とかに時間のロスがなくなったのはとても助かるなぁ、なんて思いながら朝の支度をして三人で階下へ。

まだジョルジュとクロウは来ておらず、朝食先に頼んじゃおうか、と全員自分の分を頼む。夜の大皿系ならともかく朝は勝手に他人の分を頼むわけにはいかない。

 

「……昨日のお話、すこし変だったよね」

 

注文を終えたところでトワが話を切り出すので、アンと私は頷いた。

 

「たったあれだけの話を、わざわざ前日に呼びつけて市長直々に話す意味がない」

 

そうなのだ。確かに『見慣れない集団』が街の外をうろついているというのは治安的によろしくはないし、早急に対処したい話ではあるだろう。けれどたとえ人手が足りないとしても士官学院生にわざわざ市長殿が直接話す内容でもあるまい、というのが第一の心情だった。

 

「もしかして猟兵が動く事態が進行している、とか」

 

私の声を潜めた発言に、ピリ、と空気がすこし緊張する。

 

猟兵。優秀な傭兵部隊のことを特にそう呼んだりする。金銭の授受による契約で殺人を含む大抵のことは行うため、契約自体を禁止している国も多い。けれど帝国の現行法でそれは特に禁じられておらず、むしろ政府側が極秘裏に使っている、なんて噂もあったりするほどだ。貴族に限らず資産家であれば私兵として雇っているということも少なくない。

どれだけ小さな規模だとしても人数としては確実に私たちよりは多いだろうし、また武器も殺傷非殺傷問わずそれなりのものが揃えられているだろう。

 

「そうなるとさすがに私たちの手には負えないぞ」

「そう、だね。でもそのことも可能性に入れて動こう」

 

二人ともミヒュトさんの情報が脳裏に過っているのかもしれない。『用心していけよ』。まさか本当にそういう意味だったりするんだろうか。

 

「……それにしても二人ともなんか遅くない?」

「ジョルジュが起きていないとは考えづらいから、クロウに巻き込まれているんだろうさ」

「クロウ君、普段の授業でも遅刻したりしてるみたいだから心配だよ」

 

中間試験もまだなのに既に単位大丈夫なんだろうか、と他人事ながら私もちょっとだけ心配になってしまった。これクロウが赤点取ったらチームの君たちは何をしていたんだね、とかハインリッヒ教頭に言われるのかなぁ。言われそう。

 

 

 

 

私たちの朝食が来てから暫くして。のたのたと歩くクロウとすこし疲れた表情のジョルジュが現れ、嗚呼……、と朝の一仕事を感じてしまいジョルジュに三人で甘いものを奢った。おつかれさま。

 

 

 

 

「はい、というわけでこれが今回の課題、です」

 

朝食も無事に終わり、宿の人に預けられていた封筒から中身を取り出し全員で覗き込む。

 

・トリシュ川付近で目撃される謎の集団の調査

・ガラ間道に出現している飛行型手配魔獣の討伐

・故人へ捧げる花の採集

 

「……集団の調査は必須で、魔獣の討伐もわかるけど、花の採集?」

「いきなり平和なもんが出てきたな」

「依頼人は……七耀教会にいるようだから、まず話を聞きに行くべきだね」

「教会は東に、手配魔獣は西に、集団は南。見事にバラバラだ」

 

全員で依頼書と地図を眺めながら、すこし唸ってしまう。ここに入ってきている、浮いた依頼の花の採集。もしかしたら昔は大丈夫だったけど今は花の群生地が魔獣のテリトリーになってしまっているとかそういうオチな気がする。

 

「おっきな街だし、出来ればみんなで行動したいんだけどどうかな」

 

トワの提案に全員同意したので、とりあえず外に出る二つを後回しにして教会の方へ向かうことにした。現在、朝8時。

 

 

 

 

グレンヴィル市の七耀教会はそれなりに大きいらしく、街行く人に尋ねたらみな親切に教えてくれたし、そこが近くなったらなんとなくそちらの雰囲気だろう、というのが伝わってくる街区に切り替わっていった。

 

「おー……」

 

トリスタにある教会も別に粗末ではないのだけれど、それよりは倍ほどは確実に大きく、礼拝堂も広く取られていて、ステンドグラスから採光される明かりが大層綺麗に教会内を彩っていた。硝子工芸品はあまり触れてこなかったので、なんだか新鮮に見える。

 

中にいた助祭らしき方に話を聞いてみると、ああ、と依頼を出してくれたであろう方に引き合わせてくれた。依頼を出してくれたのはお年を召した上品な男性で、教会に相談をしたところ行政に話がいき、私たちが担当することになったらしい。

 

「女の子もいるというのに、こんな依頼を申し訳ないです」

「いいえ、亡くなられた伴侶の方のお墓にお花を添えたいと思うの、すごく素敵です」

 

トワは身長が小さいからか、とても年配の方のウケがいい。うっかりすると本当に孫のように可愛がられるので、それを見ているとすこし和んでしまう。

まぁつまり、要約すると亡くなった方の好きだった橙色の花──ロシタンの花を供えたいが花の群生地に魔獣が住み着いてしまい花屋が普段使っている採集グループもおいそれと近寄れない、ということで取り寄せも出来ない状態になっているとのことだ。どうやら今日がその方の命日だそうで、藁にもすがる思いだというのが伝わってくる。

 

「任せてください、私たちこう見えても士官学院生で荒事には慣れていますから」

 

にこりと笑い、胸を軽く叩く。愛する人のお墓に、相手の大好きな花を供えたい。トワも言ったけれどそれは本当に素敵なことだし、出来ることなら力になりたいと思う。

 

「あぁ、ありがとう……花屋の方が言うには、ガラ間道の方の水気のあるところを好むらしいです。どうか、くれぐれも怪我のないよう」

「はい」

 

そう心配をされながら見送られ、今日の計画を確認しながら東の方へ歩いて行った。

 

 

 

 

花を摘む前に手配魔獣をやってしまおうという話になり、ガラ間道を注意深く警戒しながら歩いていたらある高台のところにその影を見つけた。赤と青を基調とした雄々しいロックバード。鋼のような羽根を持ち、上空からそれによる雨のような攻撃を得意とする飛行魔獣だ。

 

広範囲攻撃から他者を守るという点で私は不適当なため、アンとジョルジュが前に出てクロウとトワを守り、その後ろで二人が呪文を詠唱し撃破する、という手筈になった。挑発戦技を駆使するという案もあったけれど、一切効かない可能性も考慮してそういう布陣に。クロウとアンの戦術リンクはいまだ不安定だけれど、四の五は言っていられない。

……撤退を判断しなければいけないバックアップは大事な仕事とはいえ、最近自覚したことではあるけれど前にでるのが自分は好きなんだと思う。だけど四人が戦っているのを低木に身を隠しながら見守る。大丈夫。アンはトワを守るという意志のポテンシャルがおそろしく高いし、ジョルジュはクロウの腕前を信じてハンマーを振りかぶって羽根をなぎ払う。それを信用し、的確にARCUSを起動して詠唱を開始する二人も本当にすごい。

そうしてほどなくしてロックバードは地に伏し、トワに倣うようにして私も黙祷した。

 

「なあ、アレじゃないか?」

 

高地からガラ湖方面を見渡していたアンが何か地面の方を指差すので、近寄って隣から崖を見下ろしてみると橙色の花が風に揺られているのが見える。レースのような花弁に、水辺に生えている橙色の花。それがわさっと生えており、確かに群生地の様相を呈している。

 

「あぁ、それっぽいねえ」

 

奥にはうっすらガラ湖も見えるため切り取って絵画にでも出来そうな風景で、思わず導力カメラを構えて撮影した。こうして自分がトリスタにいたままじゃ撮影出来なかった光景を、みんなと一緒になら見られる。あの日の旧校舎の高揚から続いているようなそれが、何だか嬉しかった。

 

「ここからあそこだと、ぐるりと回り込みながら降りていく感じかな」

 

地図を見ながらジョルジュがそう言う。この高さなら装備を置いていけば降りられそうだけど、魔獣の住処になったって話もあるしあんまり単独行動するべきじゃない。たかだか三十分一時間の短縮に命を差し出すのは流石に割りに合わないだろう。

 

「……うん、みんなで行こうか。どうせ結構早いペースで焦る時間じゃないし」

「まだ9時半だもんね」

「ああ、そうだな」

 

トワに微笑まれ、クロウに背中を叩かれる。

敵わないなぁ、なんて苦笑しながら、私たちは全員で花の元へ向かった。

 

 

 

 

結論として、ロシタンの花は手に入れられた。ただし魔獣の気配はなく、おそらく手配魔獣として討伐したロックバードがこの辺り近辺を縄張りにしていたのだろうという推測がたち、道中も細かい戦闘はあれど大きなことは何もなく教会へと戻っていけたのだ。

 

 

 

 

「本当に嬉しそうでよかったね」

 

我が事のように両手を合わせて相好を崩すトワを見て、本当にやさしいな、と思う。花を手に入れるときには既に安全が確保されていた、というのは結果論だからあの判断が間違っていたわけじゃないだろう。うん。

 

「しっかしえらく早く二つとも片付いちまったな」

「だが残る一つは警戒に警戒を重ねても足りないくらいだろう」

 

『謎の集団』。情報があまりにも不明すぎて、何が起きてもおかしくない、というのが非常にやっかいだし、ミヒュトさんの言葉と笑いがその不安を助長させる。徒にそういうことをする人ではないと信用できるからこそ、この案件のきな臭さが増していると言っても過言じゃない。

 

「情報集めるにしても広い街だからねえ」

「……街じゃなくて田畑の作業している農家の人ならどうかなぁ」

 

トワがそう提案をする。

 

「グレンヴィルの畑ってトリシュ川沿いにあって、農家の人たちもその付近に家を構えてる筈だよね。だから街の人より何か目撃してる可能性は高いんじゃないかなって」

「ああ、加えてグレンヴィル市からは道が通っているからその不審者たちと遭遇する率も低い、か。うん、僕はいいと思う」

 

ジョルジュの補足と同意に私含む他の三人も頷いて、行動の指針がさっくりと定まった。

やっぱりトワはすごいな。

 

 

 

 

「あ、でもちょっと休憩もいいと思うな~」

「セリがそんなことを言うなんて珍しいじゃないか」

「あそこのジェラート屋さんが美味しそうで」

「食いもんかよ」

「ふふ、知らない場所の索敵疲れるもんね」

「ジェラートいいね。僕も食べようかな」

「ジョルジュお前もかよ」

 

「あっ、おいしい! 苺がすっごい濃厚」

「お米のアイスって初めて食べたけど美味しいねえ」

「トワ、こっちのやつ一口食べる?」

「じゃあ私のも食べていいよ」

「……うわ、お米のほのかな甘さがすごい」

「セリちゃんのも自然な苺の甘さが贅沢って感じだね」

 

「……女って本当に何でもシェアすんなぁ」

「かわいい子たちがジェラートを差し出しあっている、いい光景じゃないか」

「お前そのクセ辞めたんじゃなかったのかよ」

「セリに直接言わないくらいならいいだろう」

「あぁ、やっぱり本人に釘刺されたんだ、それ」

 

 

 

 

そうして英気も養い、街を出て暫くしたところで昼になることを考え"銀の鍵亭"で追加料金を支払い弁当を拵えてもらうことにした。それを持って南に抜け田園の方へ。道は土とはいえかなり平らに舗装されていて歩きやすく、魔獣は多少居れども足場がしっかりしているなら基本は苦にならない。襲ってくるなら迎え撃つまでだ。

暫く道を進み、畑の所有者の方のだろう家々が見え始めた。

 

「すみません、どなたかいらっしゃいますか?」

 

コンコン、とトワが先頭に立って住居のドアノッカーを使う。後ろに控えるのは私だけで、他の三人にはすこし離れたところで待機してもらった。見知らぬ学生服を着た集団が来たら警戒しちゃうよねえ、ということなのだけど、腰にダガーと剣を下げている私もだいぶやばいのではなかろうか。見た目の圧の弱さとしてはトワと私が適任というのは間違いないが。

 

「はいはいどちらさま。っと、お嬢ちゃんたち見ない顔だけどどうしたんだい」

 

出てきてくれたのは人の良さそうな方で、こちらの事情を話すと、あぁ、と困り顔で頷かれた。

 

「正直ねえ、夜中に足音が聞こえたり、関係ないけど獣の唸り声とか、畑がすこし荒らされたり、あとは人によっては幽霊の声を聞いたなんて噂まで流れちまってほとほと困ってるんだ」

「そうなんですか……」

 

幽霊。ラントでも似たような噂を聞いたけれど、偶然なんだろうか。

 

「まぁこれといって人が襲われたって話とかはないけどさ、調査するなら気をつけてくれよ」

「あ、すみません。最後に一つだけ。その足音や幽霊の噂っていつ頃から流れてましたか?」

「ええっと、年越しはしてたから……三~四ヶ月くらい前かな」

「そうですか、ありがとうございました」

 

そんな風に田園に居を構える農業や畜産業を営む方々に話を聞いて回り、地図に方向や頻度を書き込んでいくとある程度の絞り込みが可能になってきた。

 

とりあえず情報をまとめようと言うことでグレンヴィルの田畑にある街道の端っこ、放っておかれた空き地に立ち止まって私たち五人は額を突き合わせる。

 

「……偶然だと思う?」

「幽霊の話?」

「うん」

 

ラントでは当時三ヶ月前、グレンヴィルでは三~四ヶ月前。時期が妙に一致している。

 

「ただ私たちが任されたのはあくまで調査だろう?」

「あんまり頼まれてねえことに首突っ込むのもなぁ」

 

アンとクロウが止めに来るのもわかるけれど、何だか妙に引っかかるのがこの案件の嫌なところだと思う。とはいえ、自分だけが固執しても仕方のないことだ。あくまでチームで動くというのを前提とすると決めているのだし、私が単独行動をするにしてもバックアップは必要不可欠だ。

 

「うん、調査なんだよね」

 

そっと地図を見ながらトワが呟く。

 

「現状だと噂の発生時期や活動場所だけで、実際どういった集団が動いてるのはわからない」

「……いや、トワまさかお前」

「私はセリちゃんにこの場所を探索してもらうのも手だと思ってる」

 

全員行動はあまりに目立ちすぎる。だから私もそれを提案したかったのだけれど、まさかトワからそれを言ってもらえるとは思っていなかった。

 

「私は反対だ。集団がベースを築いていたらそれこそ危ないだろう」

「ベースが築かれてるレベルなら市の憲兵団がとっくに調査完了してるよ」

 

アンの発言に自分が反論する。いかに統治者であるカイエン公がいらっしゃる海都オルディスから遠いとはいえ、帝都との重要中継地点たり得るグレンヴィル市を見捨てるような愚行は犯すまい。

 

「……君はどう思う」

「アン、もし多数決で決めようっていうなら、僕はノーコメントを貫かせてもらうよ。これは全員で話し合うべき問題だ」

 

賛成と反対が同数状態の中、問われたジョルジュはそう言い切った。多数決は簡単ではあるけれど、禍根が残りやすい決め方の一つでもある。確かにチーム内で行うにはリスキーだ。

 

「それもそうか」

 

アンはそれ以上その決め方を通すつもりはないようで、腕を組んですこしため息を漏らしただけに留めた。賛成派の私たちは、反対派に納得してもらわないといけない。危険がないって言うことを。

 

「賛成の私から提案させてもらうけれど、ARCUSの通信は常時ONにしてずっと持ってるし、可能ならアンかクロウに後方100アージュぐらい離れて追跡してもらい、その追跡者との通信は絶対に切らないで行く、とかでどうだろう。ラントでやったみたいにジャンクションにするには遠く離れる可能性が高そうだから無理だろうし」

「加えて私がかけられる強化はセリちゃんに全部かけるつもりだよ」

 

可能ならARCUSに手ぶらになれるアタッチメントなどがあればよかったのだけれど、現状ないのだから仕方ない。今度レポートに記載し、開発の検討を頼めないかRF社や財団の方にお伝えしたい限りだ。

 

「────いや、先行で入るならARCUS持ってんのは邪魔だろ」

「それはまぁそうなんだけど」

 

出来ることならこの間みたいに閉じない細工をして端末ポーチに入れておくぐらいに留めたいとは思っている。でもそれだと瞬時の撤退命令が聴けないのが困りどころ。

 

「……ARCUSは接続切れないようにしてからポーチに入れて、50アージュ後方でオレがつくなら妥協はする」

 

と、クロウが意見を翻した。それに対して同じく反対意見を述べていたアンがすこし眉を顰めて口を開く。

 

「なぜ君なのか理由を聞いても?」

「単純に身体能力と支援距離考えたらそうなるだろ」

 

確かに、ある程度ついてくるぐらいなら二人とも出来るだろうけれど、何かあった際に50アージュのロスが確実に発生するのか、しないのか、というのはことこういう場合において命取りになりかねない。

暫く考え込むようにしていたアンは、諦めたように組んでいた腕を解いて頷いた。

 

「わかった、私もそれでいい。但し、セリ。言語化出来なくとも違和感を覚えたら直ぐに撤退することを肝に銘じてくれ」

 

何かあってからでは遅いんだ、と。

 

「大丈夫。この命を粗末にはしないよ」

 

ぽんぽん、と自分の胸を叩く。

前にみんなと女神に誓ったこともあるし、それに思い出したのだ。前にアンに戦術リンクの破綻を問い詰められた時、母さんと父さんのことを。もう最近は思い出さないようになっていたけれど、私に覆い被さってくれたあれは、間違いなく愛だったのだと思う。二人にもらった自分の名前と、命を、これからも大事にしようと私は改めて誓うのだ。

 

 

 

 

とはいえ、グレンヴィル市を南下して情報を集めていたのでそれなりに太陽は天辺を通り過ぎ、既に13時を回ろうという時間になっていた。噂や目撃情報が多い場所を調査するにしても腹ごしらえはすべきだろう、という話になり、調査場所に近付きつつ適当なところを探して腰を下ろし昼食を取ることに。

 

「この甘辛なタレの鶏サンドイッチ美味しい」

「ラントでもそうだったけど、ご飯の美味しい場所ばっかりだね」

「サラ教官のことだから酒のツマミが美味い宿を指定しているんじゃないか?」

「あー、そりゃありそうだな」

「林檎の紙包み焼き、これなら僕でも出来そうだなぁ」

 

もう少ししたら体を動かすから、あんまり物を入れるわけにいかないのが実に惜しい。でもこの陽気だと残していても行って帰ってきたら駄目になっている可能性が高いので、誰かの腹に入れてもらうのが一番だ。

 

「ごちそうさまでした」

 

2/3ほど食べて手を合わせ、作った方や空の女神に感謝を捧げる。

 

「あれ、セリちゃんそれだけでいいの?」

「森に入るから少なめにね。誰か食べられそうなら食べてくれると嬉しいな。口つける前に分けてはいたから」

「じゃあオレが」

「クロウ以外で」

「除外かよ!」

 

当たり前だと思う。私が食べられないものを君が食べられる道理がないだろうというか全部食べた上で食べようとしているのかこの男。

 

「ったく、しゃーねーなぁ」

「自分が言い出したことじゃないか」

 

嘆きながらごろりと腕頭の後ろで組んで寝転がるクロウ。そんな風に言うなら自分がついていくなんて条件出して妥協せず、そのまま反対し続けていればよかったのに。あれで風向きが変わったと言っても過言じゃない。

 

「仕方ねえだろ、お前が探索すんのが一番いい手だとは思ってたんだからよ。妥協点見つかればそりゃ賛成もするっつーの」

 

その言葉に、少し面食らってしまった。そんな私が何か言う前に、ちょいと寝るぜ、なんて言ってクロウは額のバンダナを目元まで下ろし、すぐに寝息が聞こえ始める。

空を見上げると鳥が飛び、雲もちょうど良く、風は気持ちよくて、みんなの会話が聞こえてくるピクニック日和のような春の暖かさに、すこしだけ課外活動できていると言うことを忘れてしまいそうになった。いけないいけない。

 

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